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俺は確かにこの世界にいるのだ。

すいません。嘔吐、グロい表現が後半あります。少しなんですが苦手な方はごめんなさい注意してください。大丈夫な方はよろしくお願いします。

『憎い……どうして……何で……』



頭に響く声に目を開けると真っ暗な部屋……空間?に女の人がいた。

真っ暗なのにどうして分かるのか不思議なんだけど、浮かび上がるっていうのかな。とにかく、女の人だけがハッキリと見えた。

ここにいるのは俺とその人だけで、俺は近付こうとするんだけど出来ない。女の人は俺にはまったく気付いてくれなくて。ただ一点、自分の両手を見つめていた。その呪われたような言葉を繰り返すのと一緒に。……こ、怖ぇけど他に誰もいねぇし……。



「……あの……」


『バカ、やめろ!』



このままでも仕方ない。そんでこっちから行けないのならせめて向こうが気付いてくれないかと声をかけようとした瞬間、俺とも女の人とも違う声の人物に俺の身体は後ろに引っ張られた。その力は強く俺はそのまま後ろへ倒れそうになって悲鳴を上げながら目を瞑ってしまった。



『おい、もういいぞ』


「へぁ!?」



衝撃がこないことに驚きながらもかけられた声にバッと目を開けると今度は真っ白な空間だった。俺は仰向けに寝かされてて慌てて起き上がる。

周りを見るが女の人はどこにもいない。それどころか人じゃない……俺には懐かしいそれが目の前にあった。いや、いた。



『ったく……何でもかんでも声かけんじゃねぇよ。知らない人には近付くなって言われてるだろうが……』



黄色い雲。

懐かしい、憧れのきんとうんが目の前にいたのだ。

………………え?



「きんとうんがいるしゃべってるぅぅぅ!!あぁ!夢ね!うん!理解した!撤収!」


『するかよ!現実見ろよ!』


「きんとうんが現実とか!?むしろそっちが現実見ろよ!何だよ知らない人に近付くなって俺の母ちゃんか!俺はきんとうんに産んでもらった覚えはねぇ!」


『俺もねぇよ!……っておい!やめろ!現実とか言いながら乗ろうとすんな!横にすんな!』


「目の前にきんとうんがあったらやることは一つだろ!大丈夫!俺まだ童貞!心綺麗!」


『心の綺麗さと童貞は関係ねぇよ!』


「きんとうんが俺の心を抉る!やっぱ夢だな!きんとうんが俺を傷つけるわけがない!」


『テメェどんだけコレに夢みてんだよ!……ってだから乗ろうとすんなって言ってんだろぉがぁぁぁぁぁ!』



ゼェゼェ、ハァハァ。


地にひれ伏す俺ときんとうん。いや、正確にはきんとうんは浮いてるけど何かそう見えた。たぶんあってる。

きんとうんは普通……いや普通ってこの場合何なんだろうと思ったけどまぁあれだ。俺の知ってるきんとうんは進む方向……俺から見て左に進むなら右側にひょろんってこうシッポっていうかさ、風でなびいてるっていうかさ、あるじゃん。あ、想像してくれた?それのさ、上に向かうバージョンで目の前にいます。上がモコモコで下がひょろんって感じ?だから横にして乗ろうとしたんだけど却下された。何だよ、俺の夢の中なら乗せろよ。グルンと回るんだ、俺は。



『俺がコレなのはテメェの心の中に実体が入れねぇからだよ!テメェが心底憧れて焦がれてるモノならすんなり入れるからで……』


「やめてぇぇぇ!心底とか焦がれてるとか分かってても言っちゃいけないやつだからそれ!」



うわぁぁぁ!と叫んでドンドンと床?うん、床を叩く。確かに混乱してる割にはしっかりと乗ろうとしてるだけあって憧れてるよ!焦がれてるよ!でもそれ他人?に言われちゃうとガラスのハートが割れちゃうんだよ!……ん?



「俺の心の中って言った?」


『やっと聞く気になったかよ……』



あ、すごい。きんとうんっていうか雲がため息ついたの分かる。新鮮。

え?正座?あ、はい。

あれ?俺の心の中なのに俺がきんとうんに正座させられんの?あ、はい。モコモコ具合で怒ってるの理解しました。座ります。



『俺は導きの妖精だ』


「導き……ぐふん」


『おい、堪えられてねぇぞ。つーかぶっ飛ばすぞテメェ』


「飛ぶ!?」


『乗せねぇよ!?……何でこれが異世界の神子なんだよ!……いや、いい。話しを進めさせろ。……おい、目をキラキラさせんな!あぁん!?分かった!俺が諦める!何か他の姿探す!』


「えぇ……せめて乗っ」


『させねぇよ!?』



ーーーーー

『……テメェはどんだけコレが好きなんだよ』


「……いや、なんと言いますか……ここまでくると俺もすいませんとしか言えないんですけれども……」



現在も正座中の俺。

あれからしばらくして俺の前に元きんとうんが戻ってきた。

綿菓子姿で。

あ、うん。黄色だった雲は弾力あったけど今は薄いピンクでほわほわの甘そうな感じになってて。……ついでに下っていうか下半身って言っていいのか分かんねぇんだけども……うん、割り箸が刺さってる。



「お祭りで売ってる感じで楽しいですね!」


『おい、俺様の方見て言えや』



すいませんと謝る俺に元きんとうん……もう綿菓子でいいよな。綿菓子さんは語った。すげぇヤケクソな感じだった。

でもそのお陰で食いたい雰囲気にはならなかったのでよしとする。いやさ、心の中って本能に忠実っていうかさ。隠せないんだよ。


あ、うん聞いてる聞いてる。綿菓子さんの言うことにゃ綿菓子さんは導きの妖精で異世界の神子の心を守るために頑張っているらしい。核っていうのが現れて俺にっていうか俺の心に攻撃してきたから俺の頭の中で警報が鳴って綿菓子さんが助けに来てくれた。以上。



「手抜きすぎじゃね?」


『ほぉ……テメェが言うのか?』


「守ってくださってありがとうございました!」



ため息をつく綿菓子さんにちょっと感動しながらも素直に反省する。いや、何か色々頭が散らかってるけど俺を守ってくれたわけで。

ピコピコと綿菓子さんの感情で前後してんのかしてないのか分からん割り箸に誘われ……癒さ……感謝を伝える為に手をのばす。



「本当にありがとう、綿菓子さん」


『ばっ……俺はそれが使命だからで……つーか綿菓子って呼ぶな!棒を掴むな!』


「じゃあ名前教えて」


『……っテメェちゃんと妖精について勉強してから言いやがれ!』


「うぇぇぇぇ!?」



感謝したのに怒られさらに割り箸が勢いよく振られ俺はそのまま吹っ飛ばされた。

あれぇ!?俺の心の中なのに俺の扱い酷くなぁぁい!?

とか叫ぶ俺にこっちは守るから行って来いって声が聞こえた。



ーーーーー



「それって逝って来いって意味じゃねぇよな!?」


「「クー!?」」

「クー様!?」


「おぉ、ぐふっ!……ちょ、まっ……ひぃぃ!」



目を開けたら今度は知ってる俺の部屋で。

っていうかそれに安心する前に三人に色々確認された。やめてぇ!パンツだけは堪忍ぇ!


何とかパンツだけは死守し大丈夫なことを分かってもらって服を着る。どちらかっていうとお前等の所為で俺の男心が傷ついたよ。おい、綿菓子さん今こそ俺の心を守ってくれ。

ってことで心の中でのことを報告する。



「導きの妖精……。聞いたことがないけれど核がこの近くに出現したのは本当だよ。……心を攻撃するというのは知らなかったけれど……」



何でもアルフさんの言うことにゃ、この世界には魔物を生み出す核と呼ばれているものがあるらしい。これを浄化すると魔物は生まれなくなるので実質今いる魔物を浄化すれば魔物はいなくなるということなんだけども。まぁ実際は核は一つではないし、魔物がいなくなったことはないとのこと。


核が発生する原因は分かっていない。分かっているのは核の周辺の魔物はとてつもなく強いことと、神子が魔物と同様に浄化が出来るということだけ。浄化は魔物よりもずっと時間がかかる。ついでにこの核の浄化に参加した神子で浄化が出来なくなった神子がいる。綿菓子さんの話しと一緒に考えると核は唯一自分を消せる神子に対して心を攻撃してその力を失わせるのではないか、ということだった。核一つ浄化してくれただけで名誉とされ浄化の力をなくしても神子は丁重に扱われている。死ぬこともないし、本人も何故浄化が出来なくなったか分からなかった為問題にはされても原因は探れなかったとのこと。原因自体が核だと分かっててもそれを調べている余裕がないからだ。

今回のことで少し原因は分かったがそれに対する対策はとれない。そもそも守る対象が心ってどうにも出来ないしな。

うん、俺以外は。

俺は綿菓子さんに守られている為問題にはならない。そして今現在王都の東にある迷いの森に核が出現している。城の警報はそれを知らせるものだったらしい。

ならやることは一つなわけだ。


つらそうに俺を見てくるアルフに俺は頷き光の剣を作って掲げた。

うん、出せても使えないからすぐ消したけどな!



ーーーーー



「すまない。初めての実践の後でもう核の浄化だなんて……」


「俺に出来るならやるよ。力があるのに使えないのはもうやだから」



現在デュラの馬に乗って迷いの森に移動中です。迷いの森とか定番な名前だけどいざ聞くと嫌だよな。行くけど!


回復魔法は使えないけれど浄化なら使える。そして核の対策もとれてる。問題ない。



「もちろん死ぬ気もなければそもそも怪我する気もねぇからしっかり守ってくれな」


「当然です」



俺の前でそう答え手綱をとっているデュラたんかっこいい。顔は見えないけど。

怪我は冗談のつもりだったんだけどこれ本気だね。無理しないでお願い。

あと並走してるアルフも抜いた剣に炎纏わせてる。やだイケメンしかいない。別に巫山戯るつもりもないけど俺も戦闘準備した方がいいのかな。



「クー様。離れないで。僕にしっかり捕まっててください」


「はい」



ソワソワしてたらイケメンにイケメンなことを言われ撃沈しました。



「……しかし王都の近くに核とは……」


「可笑しいのか?」



しっかりと抱き付かせていただいてるのでデュラの耳元で話すことになる。デュラはまったく気にしてないみたいだけど。女の子じゃなくて俺ですまん。そしてこの状況でそんなことを気にしてすまん。

そんな俺に気付くことなくデュラは錫杖を構え直す。シャラン、と状況に似合わず綺麗な音がした。


町や村には結界があってそれぞれの長が結界を張る水晶に魔力を注いで守っている。その水晶は神子の浄化とは違うが魔物が嫌う魔力が込められているらしくだから中に魔物は入ってこれないそうだ。

王様は二つ結界を張っている。一つは王都全体に魔物が入ってこないようの結界で、もう一つは自分の国全体。これはさすがに入ってこないようには出来ないのでうすい膜のようなものらしい。魔物の動きを阻害というか弱らせるというか……力の中心は当然王様のいる王都だから王都周辺の魔物は弱く、王都から離れれば離れるほど魔物が強くなる。でもこっちの結界は万能じゃなくて王都から離れれば離れるほど不安定だからいきなり弱くなってるところもあって、本来そういう所に核が現れることが多い。

それを補助する為にあの警報は近くに核が出現すると鳴るシステムというか魔法になっているらしい。……一番近くの町や村に。

つまり今まで王都で警報が鳴ったことはない。王都が一番強い結界だから当然だよな。

まぁ今はその普通はありえないってことの議論はしてもしょうがないっていうか俺に理解出来るはずもなく。エイトが先行して魔物を倒してくれた道をひたすら進むのみだ。


エイト君……馬よりも速く走れちゃうんだね……。



「……悪ぃな、ウサ様」



そして森の入口にてテントが見えてきた。先に着いていたエイトに馬から降ろされる。

ギルが苦笑して俺を出迎えてくれた。返り血だろう。顔は脱ぐった後があるけど防具は赤黒い。俺の前では瞬殺されてたから血は見たことなかったけど、死なない限りは邪気にもならないから当然魔物も血が出る。そしてギル以外の騎士様達は自分の怪我の血でも染まってた。

むせ返るほどの血の匂い。あの時の比じゃない。その中には腕の無い騎士さんもいた。



「うげぇぇぇっ」



俺はそれを見て吐いた。


やっと、自分のテンションが可笑しかったことに気付いた。


遠足じゃないんだよ。これから本当に誰かが死ぬかもしれなくて、俺はそれでも生きなきゃいけなくて。きっと、いや、絶対三人も、ギルも騎士さんも、皆、みんな俺を守る。


命にかえても。


足から力が抜けて地面にべしゃりと落ちる。俺の吐いたもので汚れたけどそんなの気にしてなんていられない。


俺は、俺は覚悟が出来たと思っていただけだった。

また吐く。口の中が酸っぱい。気持ち悪い。

ごめん、ごめんなさい。



「ごめん、おぇっ……ごめっ……かくご……なく、て……でも、……ぅげ……そげ、でも……それ、っでも……」



ぐちゃりとゲロと混ざった土を握りしめた。



「みんなを、まもりたいから……」



たぶん、俺は一生覚悟なんて決められない。この光景に、血に慣れることなんてない。今までこんな環境にいなかったから、なんて言い訳にしかならないけど。



「こんなに……ぅっぐ……情け、ねぇけど……何度も、こ……やって……吐い、て……震えっけど……」



どうかみんなを守りたい俺を助けてください。



ぐいっと腕を引っ張られたと思ったら抱えられてた。



「えいと」


「当たり前だ。俺は、俺達護り人はお前のために存在してる。お前が怖くて、恐怖で動けないなら俺が運ぶ。守る。吐いたら何度でも拭いてやる」


「……最後はいらねぇ」



キメ顔だったのが一瞬でショックを受けている顔になって笑う。そんな俺の顔をアルフがハンカチで拭いてくれた。あぁ……高価なハンカチが……。

デュラは水魔法が使えずすいませんと言い風魔法で血の匂いを飛ばしてくれている。



「ウサ様」


「は、はい」



そして一人の騎士さんが近付いてきて失礼しますと言って手をかざす。片方の腕がない人だった。

その人は水魔法で俺の汚れをとってくれた。俺ので汚れたエイトも綺麗にしてくれる。



「あ、ありがとうございます」


「いえ、私達こそありがとうございます」


「はい?」


「貴方様を守れることを誇りに思います」



騎士さんはにっこり笑って、俺に礼をとるとギルを振り返った。



「そんな訳で俺達誰も引く気ありませんから」



騎士さんの言葉にギルは勝手にしろって言ってそのまま俺達を別のテントに呼んだ。

え?何?喧嘩?

焦る俺に対しアルフは作戦会議始めるよって笑って言いやがったのでエイト君に指示して近付くとアルフの頬を横にのばしてやった。


エイト君、エイト君。これは嫌がらせでやってるんだよ。俺を抱えている状態で俺の頬に顔をグリグリするんじゃありません。痛い、痛いから!

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