彼女の世界俺の現実
午前中はいつものように訓練を見ながら浄化の練習をした。そして午後は桃山さんと会うことになった。
……部屋から出てこないから話しをしてみてくれないかって。女性騎士さんと侍女さんからレオンを通じてアルフにきたそうだ。
俺は勿論頷いた。桃山さんがそれで少しでも楽になれるのならと思ったからだ。
……あれだけつらいことが続いたんだ。女の子の桃山さんにはつらすぎる。立場が同じな俺なら少しは……正直俺も何が解決するってわけじゃないけど話したかった。
あとこの前会ったときのことも謝らなきゃだしな。さすがに式の時は無理だったし……話し聞いてなくてごめんなさいとか小学生か……。
「そう思ってきたんですけども……」
……落ち込んでる?って思わず思ってしまった。ごめんね、桃山さん。でもさ……。
「アルフ様!エルトシャン様!デュラ君!来てくれたんだね!」
部屋に入ってすぐアルフの腕に抱きつくのを見たらそう思っても仕方がないと思うんだ。うん、もしその相手が俺だったのなら疑問にも思わなかっただろう。僕の心は狭いのです。……名前呼ばれなかったことなんて悲しくなんてないんだから!……すんませんハンカチ噛みしめたいくらいです。
「……姫。ごめんな、うさ様」
桃山さんの側には今日はクライブしかいない。二人はそれぞれ用事があるそうで今日はいないそうだ。クライブは申し訳なさそうに俺を見てくる。……いたたまれないってこういうこと?
即首を横に振って返しました。クライブは悪くない。すべてはイケメンなアルフが悪い。
「クー、何か理不尽な感じがするんだけど気のせいかな」
「気のせいだよ。ね、デュラ」
「えぇ!?あ、え、その……ふぁ!!」
「!……俺もっ」
アルフから目を逸らしデュラを見る。慌てるのが楽しくてそのモニモニな頬を両サイドから挟んだ。それにエイトがしゃがんでグイグイ頬を押しつけてきたので期待に答える。……な、何だこのやわらかさ!え?俺が左右にのばしたから!?それは度々お前がイタズラをするからで……く、繰り返せばもっとなるのか?……くそぉ。ドラゴンめぇ。
「ねぇ、僕は?」
「これにまざりたいの!?お前王子だろ!?」
「王子関係あるの?」
「……いや、そう真顔で返されますと何も言えないんでございますが……じゃあ……後で」
よしって言われた。え、マジで後でアルフの頬をモニモニするの?のばすの決定なの?王子に変顔させるの俺?どこの関係者様に謝ればいいかあとでレオンに聞こう。
「ふふっ。アルフ様達は面白いのね」
俺達のやりとりを見て桃山さんが笑う。
うん、桃山さんが元気になったみたいでよかった。やっぱり俺は眼中にないみたいだけども泣くぞ!?……あ!!
「あの……桃山さん……各部隊の祝福の時ごめん。俺色々あってあの時皆の会話が聞こえてなくて……」
というか謝らなきゃだろ俺!!っとこの前のことを慌てて謝る。……うん、謝罪になるかもよく分からん謝罪だな。……本当にごめんなさい、桃山さん。
「え……?あぁ、大丈夫だよ。その時は私が寂しいからってアルフ様達の所に行ったのがいけないんだもの。騎士さん達との時間だったのに……。謝るのはこっちだよ。あの時は私もちょっとカッとなっちゃって……ごめんね」
よ、よかった!桃山さんいい人!天使!
桃山さん、ありがとう!と近付こうとすればさっと俺から視線は外されアルフへと戻る。
「それよりも今日は心配して来てくださってありがとうございます。アルフ様、エルトシャン様、デュラ君。あ、もちろん井上君も!」
そうだね……それよりも……だよね……。
でも俺めげない!だって女の子だぜ!桃山さんだせ!同じ神子だぜ!
「あ、うん……少しでも桃山さんの役に立てたのならよかった。……ええと今日は初討伐とか初代のこととか話しに来たんだ……つらかったよね」
同じ立場な俺にしか出来ないことでアピールする。遠回しに気遣うなんてこと俺には出来ないし。っていうか俺も聞いて欲しかったってのもあり直球で言う。あれ?これ慰めてる?俺ダメな子?誰かモテる男の本とか持ってませんか?
気付いてももう遅いがそもそもこの話しは桃山さんもしたいだろうと思いなおす。桃山さんは一度俺を見るもその後はアルフの方を見ながら……うん。と切ない声を出した。
……こんな時にどっかにイケメンのお面とかないかなって思ってすいませ……え?
ちらっと窓の外にレオンの姿が見えた気がした。ここ何階かな?ううん、いい。聞かない。しかも右手にお面持ってなかった?俺の心読めるの?
でもね、俺にとって鬼はイケメンじゃないよ。ホラーだよ。だから持ってこなくていいよ。
鬼を……じゃないレオンを見……てない……思い出してじんわりきていた涙は引っ込んだ。
なのできりっと顔を整えて桃山さんを見る。アルフは桃山さんに抱きつかれていた腕を何事もなかったように戻して距離をとった。
さすが王子。俺ならにやけてそのままにしてたぜ……じゃねぇよ!忘れる前に本題だ!
「あんなに……皆怪我してさ……あ、桃山さん回復魔法はその時使ったの!?」
そして重大な事に気付く。アルフに聞いたら本来初討伐時点で回復魔法を使える異世界の神子は今までいなかったらしい。というか歴代の異世界の神子はほとんど使えなかったそうだ。初代も初討伐で使えるのは浄化だけだったからあの手紙を実践の後に読むようにさせたんだと思う。……確かにあれは実践を経験する前に読むものじゃねぇしな。
よく考えてみたら俺も回復魔法を使える光属性だったから勝手に回復魔法で皆を補助するのかと思ってたのもあったけど誰も補助とは言っても異世界の神子が回復魔法を使えたから光、水、風属性が多いんだろうとは言わなかったんだよな。
朝の訓練見てて思ったんだけど火と闇って攻撃特化なんだよ。エイトは魔法よりも物理だからまだよく分かんねぇけど……デュラはよく俺に魔法使ってくれるし。……戦ってなかった人間が一番死んではいけないわけで……自分だけが逃げる的な意味の補助だとは考えてなかったしなぁ。思い込み、いけない。
そんな色々ごちゃごちゃな俺と違い桃山さんは離れたアルフを残念そうに見ながら仕方なさそうに俺の方を見る。
それにやっぱり悲しさを覚えながらそういや使ってたら今こんなに冷静じゃねぇわなと一人で納得していたら答えはあってたが予想していない返しもきた。
「ううん、使ってないよ。だって皆怪我してなかったから」
「……え?」
一瞬真っ白になる。
だって、あんなに、怪我してたのに?
思い出すのは真っ赤な血の色。むせ返るような匂い。
確かに俺が回復魔法を使えたとしても治すのは止められただろう。あれは新人騎士さん達だけでやらなきゃいけないことだから。だけど、誰も怪我をしてないって……?
「シザーも、リンも、クライブもジュニさんも怪我しなかったの。さすがだね!」
綺麗に笑う桃山さんに鳥肌がたった。桃山さんの皆の中には……首を振る。そうだよ、絶対、止められたんだよ。優しい桃山さんだ。治したかっただろう。そう考えるとよかったじゃん。使ってたらもっと危なかったかもしれないんだから。
言い聞かせて、そっか……よかったねと何とか声に出した。
「あ、ねぇ井上君」
ん?と何とか笑顔を保ちながら桃山さんを見る。
けれど、その笑顔は続かなかった。そして、一生懸命にそらそうとしていた何かも、意味はなかった。
「護り人を交換してみない?」
「………は?」
真顔でそう返した俺は悪くないだろう。その証拠にアルフも、エイトもデュラも桃山さんを見てる。その目は、笑ってない。
「姫!?それはだめだ!」
クライブが間に入る。俺達に背を向けて、桃山さんに言い聞かせるように話す。
「どうして?だって初めての討伐も終わったじゃない。アルフ様達のことを知るのにも良いと思うんだけど」
本当に不思議そうに話す。俺も交換発言についカッとなったが桃山さんの言葉に違和感を覚え深呼吸するとクライブの肩に手を置いて左へと顔を動かした。
クライブは焦ったように俺を見るが錫杖を構えるデュラを確認すると下を向いて黙って左へとズレてくれた。
「桃山さん、どうして初討伐が終わるとアルフ達を知るのにいいの?」
「え?だってしばらくは何もないでしょ?」
「何で分かるの?」
確かにここ周辺は浄化したけど終わりじゃない。むしろ俺達にとっては始まりだ。なのに何で一段落したみたいに話すんだろう。
「え、だってイベントこなしたらしばらくはのんびりするよね」
「………っ」
イベント。
つまり桃山さんはここをゲームのように思ってるってことだ。どうしてそう思ったのか俺には分からないけど。
でもだからこそアルフ達を取り替えようなんて言ったんだろう。ゲームシステムで仲間を取り替えるみたいに。
桃山さんにとってパーティーメンバー以外は登場人物でもないのだろう。だから回復もしなかった。これは不幸中の幸いか。
「ごめん、桃山さん。それは出来ないよ。アルフもエイトもデュラも俺の大切な護り人だから」
俺の返しが気に食わないのだろう。むっとした顔で見てくる桃山さんにそれでも首を横に振る。
譲れるわけがない。
「ここはゲームじゃないんだよ、桃山さん。アルフ達も玩具じゃない。だから交換だなんてそんなこと出来ない」
「井上君酷いよ!私アルフ様達を玩具だなんて思ってない!!」
「ゲームは否定しないの?イベントって言ったもんね」
「それはっ……ごめん、言い方が悪かったよね。ほら、魔物たくさん倒したからしばらくは大丈夫かなって……」
「……そっか。でもやっぱり護り人の交換は出来ないよ」
睨んでくる桃山さん。けど俺も謝る気も譲る気もない。当然だ。
……てか何か悲しくなってきた。
「……これ以上は無理だね。戻るよ」
後ろでは桃山さんが叫ぶけどクライブが抑えてるんだろう。俺は振り返ることもせず部屋を出た。
ーーーーー
「……はぁ」
自分の部屋に戻ってそのままソファに座る。落ち込んでいるのが分かったのかエイトが隣に来て手を開く。あ、何か嫌な予感がする。……ので俺はその開いた手を即行で閉じさせた。
エイトはとても驚いたみたいで、瞬きを何回もして俺を見て自分の手を見てを繰り返した後閉じさせた俺の手を嬉しそうにもう一つの手で包んだ。いや誰も温めろとは言ってない。むしろエイトの手のが冷たい。俺に温めろってか!
「僕の約束は?」
「このタイミングで!?」
しかもアルフなんて俺の前で跪いて顔を差し出す。
おい、目を瞑る意味はあんのか。
「……仕方ねぇな」
片方の手はエイトに取られてるので片手で顎を掴む。うん。顎を、掴んだよ。ぐにゅっと。イケメンが目をつむってタコの口は笑った。
「……ぼきゅだけしぎゃう」
「そのまましゃべんなよ!?」
拗ねたので頭を撫でる。満足かそうか。エイト君、エイト君。僕の腕君の頭でそのうち抉れると思う。
あ、デュラ君ですか?こちらに微笑みながら護衛してくれてます。うん、気付いた瞬間真っ赤になりました。俺慰められすぎ。
そんなこんなで俺の精神を癒やしていると突然部屋中に警報が鳴り響いた。
それと同時に俺の頭にも割れんばかりの警報が鳴り響く。
『ーーーー憎い』
「……え?」
俺の意識はそこまでだった。




