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初討伐式当日

ふふ、今日は初討伐式なんだぜ!緊張すんだぜ!口調が可笑しいのもしょうがないんだぜ!


……だって今チョロッと外見たけど新人さん結構いるんだよ!当たり前だけども!!

同じように下にいれば全体見れないからそう感じないかもしれないけど俺達は王様と一緒に上のバルコニーから見下ろす場所にいるから全体が見えちゃうんだぜ泣きたい!今はそのバルコニーに通じる入り口の前の部屋っつうの?そこにいます。



「ウサ様、こちらに椅子がありますよ」


「ふぐっ……はい……」



しかも王様にウサ様呼びされた上に何か椅子とテーブルまで用意してくれてる。……あ、はい。何かね、俺が前もって様子見たいって言ったら、なら自分もって王様まで来て今一緒にいます。護り人もだけど王様直属の騎士……近衛騎士の方達にも囲まれています。しかも俺が見ても分かるくらい俺優先の位置に皆いる。しかも王様は俺の隣りに立ってる。うん、立ってんの。気が遠くなるよね、レオン君飲みも……あ、もう用意してくれてるぅ。

ここで座ってんの俺だけだから落ち着く為に飲み物頼んだのにそのカップを持つ手が震えるぜ。美味さが分かるのが逆に切ない。



「ウサ様」


「ふぁっ!……え、あ、すいません!俺何かしました!?」



飲み物に夢中というかならざるをえなかった俺へ突然かかった声に慌てて顔を上げれば首を横に降る王様。

スッと周りを見渡してから手でおいでおいでとされたのでえ、これ以上近付くの?と思いながらもケツを持ち上げようとしたら近衛騎士の一人が動き出した。


やだ!俺へじゃなかった恥ずかしいぃぃ!!


不自然な咳払いをしてから最初から座り直そうとしてたんですよぉとアピール。

……だってもうオケツ少し浮かしてたんだよそこで止めた方が不自然でしょうがぁぁ!

とか葛藤してた俺を知ることなく、うん知らないで欲しい。とにかく、何事もなかったように一人の近衛騎士が俺と王様に近づき、跪くと何か頭上に掲げるようにして王様に差し出してた。



「これをウサ様に」



受け取った王様はその包みをひろげ俺に見せる。

そこには洋服とか一式が揃ってあった。


……は?



「……えぇと……」



さぁ着てみなさい。と言わんばかりに差し出される。

レオン君を見るとカーテン的な物用意してた。仕事早いな!

ってな訳で衣装チェンジですねハイハイ!



「何だこれ!?」



出てきて最初にそれってどうなのって!?でも言いたくなんだよ!

普通に長袖長ズボンは分かる。ブーツもまぁ防御力的な意味で分かる。全部色が黒なのもいいよ。でも長いパーカー的なもんは何!?背中にデカデカとウサギさんの刺繍がしてあんだけど!胸にもあるしな!どっかの誰かの胴着か!?しかも頭に長い耳がついてる意味ねぇだろぉぉぉ!



「分かりますか!ウサ様を思って職人達が作り上げた物なのです。どうか使ってやってください」



しかも俺が叫ぶ前にこれ言われちゃったからね!

確かに着心地すんごくいいけど!何だこれ!?がこれのすごさが分かりますか!的に伝わってるし!使うしか選択肢ないのかなぁぁ!?

本当どうして俺はウサ様なのかなぁ!?

え?式が始まる!?このまま行くの!?嘘ぉぉぉ!?



ーーーーー

「今日を越えて初めて諸君は騎士とは何かを知るだろう。私からはそれだけだ」



王様が話し終える。

校長と違って短いのに迫力半端ないです。っていうか激励とかはないんだな。淡々としてる感じ?あ、次は桃山さんだ。



「初めまして、皆さん。私は姫。異世界の神子です。私は皆さんを守る為にこの世界に来ました。回復魔法も、浄化も私に任せてください。一人も死なせたりしません!私と一緒に頑張ってもらえますか?」



おぉぉ!と真ん中らへんに並んでる騎士達が拳を掲げる。

桃山さんがありがとう、ありがとうと目尻に涙をためながら手を振って応えてるけど、えぇぇ!?俺この後に話すの!?いや別に桃山さんは悪くないよ!?盛り上がってるしね!それが目的だし!でも回復魔法も使えちゃうの!?俺この後に言うの!?

あ、シザーとリンがコッチ見て笑ってる。

今いる位置は王様が俺達より一段下に座ってその上に俺達二人が、護り人はそれぞれ俺達を囲むように跪いてこちらを見てるから二人が笑ってるのはよーく見える。この野郎!分かってて俺を後にしたな!確かに言うこと未だに決めてない俺が悪いんですけども!!だっていくら内容頼むって言ってもアルフ達は俺の思うままに話せって聞いてくれなかったんだ!


……俺は桃山さんみたいに誰も死なせないとか言えない。だって俺は浄化しかない。光魔法は使えるけどハッキリ言ってノーコンだ。巻き込まないようになんて出来ないし、それだったら浄化に集中した方が良い。しかも初めてでそれさえもきちんと出来るか不安なんだ。

ただじいちゃんやたくさんの名前が刻まれた壁が思い浮かぶ。



「……初めまして。俺は……ウサ様と……そう呼ばれている異世界の神子です。俺は姫のように皆さんを守るなんて言えません」



ウサ様、の部分だけ小さな声になったが演説用の魔法が張られているので普通に響く泣きたい。シザーとリンが今度は嗤ってるけど本当のことだし、ただ前を向く。



「俺は、争いのない世界から来ました。だから初めてである皆さん以上に動けない自信があります」



新人騎士さん達の笑い声も聞こえる。



「今だって怖くて、ちゃんと浄化が出来るか不安で震えてます」



心配そうに見上げてくる王様。それとは正反対でしっかり見つめてくる俺の護り人。うん、信じてくれちゃってんね。



「それでも、踏ん張って、懸命に立って、みっともなくても」






「俺に出来る精一杯を尽くして、生き抜いてみせます」





これが俺の答えだ。守られることが当たり前だなんて思わない。俺のために散る命が当然だとも思わない。でも、だから、何が何でも生き抜く。壁に刻まれた名前達に恥じないように。全力で俺の出来る異世界の神子を頑張る。


ザザザザ!っと音がして驚いて下を見れば左右に並んでいる騎士さん達が剣を構え上へ突き出す。真ん中にいる騎士さん達は俺と同じで唖然とそれを見ていることしか出来ない。



「「我等の剣は異世界の神子様の為に!!」」



たくさんの剣が太陽の光を反射して俺を包んだ。



ーーーーー

「新人さん以外にもいたぁぁぁ!?」



ただいま式が終わり目的の地点まで移動中です。ちなみに俺はアルフの馬に一緒に乗せてもらってます。リアル白馬の王子様に会う日がくるとは思わなかった。



「異世界の神子様の演説があるのに新人だけに聞かせるわけないでしょ」



全員が全員集まるわけにはいかないとのことでそれぞれの隊の代表達がいたらしい。道理で多いと思った!



「クー、格好良かった」


「あー……うん。ありがとな」



ちなみに照れて言ったのではない。いや、嬉しいけどね!エイト君お世辞言うタイプじゃないし!

でもさぁ!今の君に言われてもねぇ!?


現在エイト君、馬と並走中です。うん、エイト君は馬に乗ってないよ。ズシャズシャ言って地面にしっかり足跡がついてるよ。


普段は魔法というか能力というか、他の種族もらしいんだけど、人型を取る時は体重……質量?はそれに見合うものになってるらしい。じゃないと他の種族はともかくドラゴンじゃ城とか壊れるとのこと。

んでもってドラゴン化してる部分は強化というか強いだけあって見た目通りその分体重も増えてるとのことで……ふふふ、確かに足跡の沈み具合ですごいの分かるわぁ。

話しがそれたが、つまり馬に乗ったままだと戦えないのだそうだ。ドラゴン化すると馬が耐えられないから。いちいちお馬さん気にして戦ってらんないわ、そりゃあ。


ってな会話をしながら目的地に着いたようで俺は先に着いて待っていたデュラたんにアルフから手渡される方式で降ろされました。あ、はい。乗る時はその逆でしたけど何か?いやぁ、デュラから馬に乗ったアルフに手渡されるとは思わなかった!台とか用意してもらって俺が直接またがってもよかったと思うんですけどそこんとこどうなのかなぁ!?



「……クー様には申し訳ないのですが台を持ち歩く方が……その……得策ではないと……」



あ、はい。そうですね。

デュラに申し訳なさそうに言われた方のがダメージがでかかったです。

ちなみにデュラは先行してゴブリンを倒してくれてました。俺が馬の早さに悲鳴を上げてたのでさらにそれで魔物を倒してたら馬の揺れがもっとすごいからだ。

あ、言っとくけどさっきも速かったから!お前の体感速度だろってんじゃなくて!……あまりに酷い見た目だったんだろうね……デュラが風魔法でこう……馬と俺の間にクッション的なのを作ってくれまして。それからはまぁまぁの速度で移動出来たんです。ちなみにそんなに速くないよぉと思わせる意味でエイトが並走してくれてたんだけどほとんど見た目が人の人物と馬が同じ速さで走ってんのは別な意味で遠い目をすることになった。



「さて、巫山戯るのはここまでだよ」



俺は本気でしたけど!?と言える空気ではなかったのでただ頷いて構えました。何も武器ないからただのファイティングポーズだけどな!!


ここまでくるのにもデュラが魔法でゴブリンを倒してたけど浄化はしてない。帰りにゆっくり帰るからその時に浄化してほしいと言われたので実質今からが俺の初めての戦闘だ。

今日の護り人はエイトなので傍で守るのはエイトだ。アルフとデュラは俺より少し離れてゴブリンを狩っていく。ここらへんはゴブリンぐらいしか出ないそうなのだがだからといって絶対とは限らないので二人とも俺が見える範囲で動いている。

大きく息を吸った。



「ーーーーー♪」



俺を中心に陣が広がる。

ゴブリンが倒されて邪気になっているそれに光の陣が触れると消えた。

邪気を浄化している間は何となくモヤモヤしてるのでそれが全部なくなるまで続ける。陣の内側?内部っつうの?とにかくその部分は感覚があんだよな。つってもデュラとかが動いてんのは分からない。あくまで邪気に関してのみ感知してるみたいだ。


うん、全部終わったな。

歌をやめると浄化の陣も消える。

するとアルフとデュラが戻ってきた。速っ!?



「クー、今の陣はどうやって広げたの?」


「は?広げたってなんだよ。訓練場と同じでただ歌っただけだ」



そういやただ浄化のことだけ考えてやったの久しぶりだな。皆の訓練見るようになってからはなるべく浄化の範囲を小さくするように意識してたからなぁ。



「訓練場の時よりもずっと広い範囲の浄化でした」


「………え」


「もしかして壁で囲まれてたからそれで無意識に……」


「ありえますね。クー様の魔力は多い。あれで限界と思う方が間違いだったのかもしれません」



結果的には訓練場は囲まれてるので自然にそこまでと自分で決めてしまっていたのでは、ということだった。いや、本人である俺がよく分かってないですごめんなさい。陣が広がってる範囲一々何メートルくらいだなぁ、何て見てないから。

とにかく一回で結構浄化できたのでまた移動することになりました。


あ、ちなみにね、お馬さんだと俺は思ってたんだけどあれ妖精なんだって。馬の妖精さん。アルフとデュラは乗って戦ってたけどこの妖精さん自身も戦えるそうだ。じゃないと戦場になんて連れてけないってさ……そうだね、でも俺の妖精さんに対する理想像は粉々だぜ。


交代で昼食もとりまた浄化を始める。

特に問題もなくというか離れた所でゴブリン瞬殺だから!俺の為にも少し近くでって言ってもまぁまぁ離れた所で一撃だった。基本俺は戦闘員ではないのでこの戦闘スタイル……って言っていいのか分かんねぇけどこの感じでいくと言われた。異論なんてないですよ。素人だもの。


んで時間になり帰りながらデュラが倒してたゴブリンの邪気も浄化してく。

一回一回馬から降ろしてもらって浄化しましたけど何か!?


門が見えてきて帰ってきたんだなぁと呟いた俺にアルフがこれからだよと言った意味が最初は分からなかった。

でも、門番さんに頭を下げられて中に入ったら嫌でも分かってしまった。



ーーーーー

入り口にはテントが張ってあって、シートがひかれた上に人がたくさん横になってた。呻く声も、血の匂いもたくさんした。俺は最初何が起こったのかよく分からなくて、ただただ震えてた。



「王子、お帰りなさいませ。ウサ様にお怪我は?」


「ない。状況は?」


「昨年より怪我人が多いですね。何故か突っ込む馬鹿が多くて」


「そうか……まぁ原因は分かってるが……」


「何だよそれ!」



アルフは淡々と会話してて、俺は思わず怒鳴ってた。その分血の匂いも吸って気持ち悪さに口元を抑える。



「デュラ」


「はい」



アルフがデュラを呼び俺を馬から降ろす為に手渡す。俺はそれを振り払いたかったけど気持ち悪さにただその手に触れるだけだった。



「クー様、向こうで休みましょう」


「……」



ただ首を横に振る。

視線を倒れている人達に向けた。

洋服は所々切れてるし、破れてる。

馬から降りたアルフがすぐ後ろに来た。



「……新人にいい装備は渡せない。それこそ、能力のあるものにそれを渡らせなければならないから」



護符なんて当然ない服。そしてその身を守るのは胸当てのみ。

俺は、どれだけ守られているのだろう。



「……デュラ」


「それは出来ません。これは彼等の戦いです。ましてや、これは始まりです」



名前を呼んだだけで否定された。俺が回復魔法を使って欲しいとすぐに分かったようだ。


彼等は彼等だけ、つまり新人騎士達だけで対応しなければならない。回復魔法も使える者が行う。こちらが用意するのは傷薬のみらしい。それを使うのはやはり新人騎士達だ。


怒鳴り声が響く。痛いと叫ぶ声がそこら中から聞こえる。もう一度違う場所で休むように言われても断った。

ただ吐き気を抑えて見ていることしか出来なかったけど、見ないといけないとただ思った。


いつの間にかエイトと手を握りあってた。



ーーーーー

「……ウサ様ならそうだろうと思った」


「……ギル」



しばらくしてようやく皆が落ち着いてくるとギルのおっさんがやってきた。

苦笑して頭を撫でられて泣きそうになる。



「落ち着いたら呼びにいく手筈だったんだが……見てるだけってのは辛かっただろ」



素直に頷く。ギルは俺に笑ってから新人騎士達に向き直った。



「お前ら、今日はよく頑張った。そして何もしてくれない俺達のことが憎かっただろう」



ギョッとした顔で見る人、その言葉のままに睨み付けてくる人。色々な視線がギルのおっさんに注がれる。



「だが散々ゴブリンとの戦い方は教えたはずだ。実際に戦かってみてどうだった?……言わせて貰うならそうだな」



現実は甘くない、ってな。



ギルのおっさんに呑まれたのだろう。睨んでいた人達もぐっとつまる。



「幻影では戦い方は分かってもその場の空気は味わえない。怪我もしねぇからな。実際は相手も死に物狂いだ。放たれる圧はすごかっただろう。今は相手がゴブリンだから怪我はしてもよっぽどでなければ死ぬことはない。それでも死なない保障はねぇが……ここで今一度問う。お前達はそれでも騎士を目指すか?」



シーンと静まり返る中、下を向く人、強く見つめ返す人がいた。



「よく考えろ。今ならまだ選べる」



ギルのおっさんが振り返る。俺を見て笑って、後ろを指差した。



「ウサ様、どうか戦い抜いたこの者達に祝福を」


「………っはい」



ここでようやく昨日辛いと言われた理由が分かった。見ていることしか出来なかったのもそうだが戦いの後祝福をかけるということがどんなに大変なことか俺が分かってなかったからだ。

今回は死んだ人はいないがつまりは、そういうことだ。

俺は泣きながら祝福をかけ、長い一日を終えた。

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