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第2部 第2話【新生活】

 キョウイチとクラウディアはふたり暮らしだった。限りなく小さな木造一軒家で、間取りは3畳間ひとつと6畳間がふたつ、トイレ、浴室、洗面室があるだけ。キョウイチとクラウディアは6畳間をそれぞれの部屋にしていた。


 


 

 キョウイチの部屋に足を踏み入れるタクヤたち。部屋にはベッド、机、本棚、20インチもない小さいテレビなど、ごくごく当たり障りのないものがコンパクトに置かれていた。そんなマイルームを見渡しながらキョウイチがいった。


 


 

 「相変わらずせまっくるしいところだけど、埃とかが全然たまっていないところを見ると、どうやらクラウディアばあちゃん、定期的にボキの部屋を掃除してくれていたみたいだね」


 


 

 「へー、見た目どおり、やさしいおばあさんなんだね」タクヤが感心していった。


 


 

 「そ、それにしてもさ」と、コツ。「キョウ様の祖母であらせられるク、クラウディアさん?メチャクチャきれいじゃない?」


 


 

 「そうね、きれいすぎる」同意するタクヤ。


 


 

 隣でコクコクとユーレイもうなずく。


 


 

 「クラウディアばあちゃん、もう70過ぎてると思うけど、ボキから見てもきれいだと思うよ」キョウイチはいった。「母親は日本人なんだけど、父親がスウェーデン人らしいんだ」


 


 

 「どうりで!」コツが小さく叫んだ。


 


 

 そのとき、麦茶の入ったコップの乗ったおぼんを持ったクラウディアが入ってきた。


 


 

 「あらあら、あたしの噂かい?」


 


 

 「あ!クラウディアさん!」急に姿勢を正すコツ。


 


 

 「麦茶くらいしかないけどどうぞ」そういってクラウディアは4つのコップをしなやかな手つきで床に置いた。


 


 

 「い、いただきます!」コツは麦茶をごくごくと一気に飲み干した。


 


 

 「キョウイチの長年の夢だった進歩主義団体【ヴァージン・ビート】の記念すべきメンバーたちね」クラウディアは湖の底のような淡いブルーの瞳でタクヤたちを見ながらいった。「あなたたちがこれからキョウイチに協力してくれると思うと嬉しくて涙が出てくるわ」


 


 

 「い、いやぁ、それほどでも」なぜか照れるコツ。


 


 

 「なに過大評価してんのよ」キョウイチがあきれていった。「こいつらはあくまで腐れ縁ってやつよ。おまけみたいなもん。能力面では当てにしてないから」


 


 

 「またそういう」タクヤが口を尖らせる。


 


 

 「ボキの部屋にいられるのも明日までだからね。それからはクラウディアばあちゃんが用意してくれる部屋で各自暮らしてくれ」


 


 

 実はクラウディアは【フール・メンズ・パレード】というアミューズメントパークを経営しており、スラム街竹ノ塚の中では比較的余裕のある暮らしをおくっていた。そのクラウディアがタクヤたちの住まいを近所に用意してくれるのだ。


 


 


 「それじゃあ、狭いところだけどゆっくりしていってね」クラウディアはそういうと、長く美しい白髪をなびかせながらキョウイチの部屋をあとにした。


 


 

 「我が家は6畳間がふたつだけのボロ家だけど、ここ竹ノ塚ではかなりセレブなほうなのよ」キョウイチはいった。


 


 

 「まあ、外にあふれ返っているホームレスの人たちを見るとうなずけるわ」と、タクヤ。


 


 

 「というか、僕の実家の部屋は3畳しかなかったけど」と、コツ。


 


 

 ユーレイは無言だった。ちなみに彼の実家の部屋は3畳もなかった。


 


 

 「ま、下流階級のうちの子供はだいたいそんなもんだろうな」キョウイチはいった。「唐突だけどボキ、【鉄拳】のカリスマブロガーじゃない?」


 


 

 「うん、そうだよ」コツが返答した。


 


 

 「ブログで【鉄拳】関連商品のアフィリエイトやってるんだけど、これがまたいやらしい話、けっこうな稼ぎになってるのよ」キョウイチはいった。「それも現在のこのセレブな暮らしを維持できる要因のひとつかな」


 


 

 テッケナー(鉄拳プレーヤー)のコツには嫌味には聞こえなかった。キョウイチは日本中の誰もが認める絶対的な鉄拳カリスマブロガーであり、莫大なアフィリエイト収入があって当然の孤高の存在だった。6畳間で慎ましく暮らしていることのほうがコツには意外だった。


 


 

 ━━翌日の午前10時、キョウイチは実家から目と鼻の先のアミューズメントパーク【フール・メンズ・パレード】を訪れていた。


 


 

 【フール・メンズ・パレード】は巨大なアミューズメントパークで、1階がUFOキャッチャー系、2階が通常のテレビゲームやカジノ系のゲームの台が置かれていた。


 


 

 そして昼間はあまり目立たないのだが、夜はネオン街とは無縁のスラム街・竹ノ塚の中で、唯一煌々と光り輝く満月のような存在感を放っていた。


 


 

 大好物のマックスコーヒー片手に1階をぷらぷらするキョウイチ。そのとき、彼の前に3人の男たちがあらわれた。


 


 

 「おはよう、キョウ様!」タクヤが笑顔でいった。横にはコツとユーレイ。彼ら全員、【フール・メンズ・パレード】のスタッフユニフォーム姿だった。


 


 

 「おーおー、タクヤ、コツ、ユーレイ、よく似合ってるじゃない」


 


 

 「そ、そうかい?」はにかむコツ。


 


 

 「住まいはクラウディアばあちゃんが用意してくれる。けど、もちろん、ただ飯食わせるわけにはいかないからな」キョウイチはいった。「君たちは今日からここ【フール・メンズ・パレード】のスタッフとして働いてもらうよ。給料は超少ないけど、そのへんは目をつぶって」


 


 

 「給料なんかどうでもいいわよ」タクヤが強い口調でいった。「住まいも仕事も与えてくれて、キョウ様とクラウディア様には感謝してもしつくせないわ」


 


 

 「そうだとも。キョウ様が起こす奇跡を目の前で見れる上、あの美しい憧れのクラウディアさんと同じ職場なんて……」


 


 


 そういうコツにキョウイチはいった。


 


 

 「まさかおまえ、クラウディアばあちゃんに惚れちゃったの?」


 


 

 「うん、僕はクラウディアさんにひとめぼれしてしまった」コツはいった。


 


 

 「ひとめぼれって……クラウディアばあちゃんは50は上だぞ」


 


 

 「年齢なんか関係ない。僕は今、完全にクラウディアさんに恋をしている」


 


 

 ユーレイは無言だったが、けっして理解できなくはないという様子だった。 


 


 

 そういうコツにキョウイチはいった。


 


 

 「そうかい。実はそれって、いい傾向なのよ。男が年上の女を好きになるってのわ」


 


 

 「え?」


 


 

 「どういうこと?キョウ様」


 


 

 「1番最悪なのが、男が遥か年下の女を恋人にしたり妻にしたりすること。あれだけはぜったいにダメ、究極のNGのひとつ」キョウイチはいった。「人間の使命は子孫繁栄だよね?そのため男は妊婦を自分の命をかけて死守しないといけないのよ。原始的なレベルの話になるけど、それが男の究極の役目のひとつ」


 


 

 無言で聞き入るタクヤたち。


 


 

 「もしも旦那が体力の衰えたジジイだったら、どうやって妊娠中の妻を危険から死守するの?男の役目は妊婦を体をはって死守することなんだけど、年老いたジジイじゃそれが期待できないのよ。だから男がすごく年下の女を妻にすることはNGってわけ」


 


 

 「な、なるほど……」つぶやくコツ。


 


 

 「現在の世界には遥か年下の女を妻にする男がうじゃうじゃいるけど、この傾向をバチッと絶ち切らないとダメなのよ。そこでコツみたいな、年上の女を好きになるような男の出現は喜ばしい現象といえるのよ」


 


 

 「は、はあ……」コツは特に言葉もなく、キョウイチの言葉に放心とするだけだった。


 


 

 そのとき、クラウディアが姿をあらわした。


 


 

 「タクヤくん、コツくん、それからユーレイくん、今日から【フール・メンズ・パレード】の新スタッフとして働いてもらうからね!」


 


 

 ギリシャ彫刻のようなクラウディア。その顔には無数の皺が刻まれていたが、その皺さえも1本1本が芸術のようだった。


 


 

 「あ?は、はい」と、タクヤ。


 


 

 「よろしくおねがいします!」コツはマッシュルームカットの頭を深々と下げていい、ユーレイは無言で頭を下げた。


 


 

 そんな彼らを見つめながら、キョウイチはペットボトルのマックスコーヒーをぐいっと飲み干した。

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