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第2部 第1話【帰還】

 独裁者オサム・クマザキ総裁率いる【ロスト・イン・ザ・ダークネス】による恐怖政治に支配される日本。そんな日本には【光と闇の聖戦伝説】というものがあった。


 


 

 今から1000年ほど前、【メシア】というニックネームのカリスマブロガーを中心とする光の勢力と、全世界の政財界を影から牛耳る闇の支配勢力による聖戦が起きたという伝説が残っているのだ。


 


 

 しかし、映像や文献が残っているわけではなく、あくまで都市伝説の域を出るものではなかった。


 


 

 しかし、軍国主義に傾き、格差も果てしなく広がり続ける荒廃した現代日本に無数の人々が絶望し、非現実的ではあるものの【救世主の出現】を日本中が渇望していたことは事実だった。


 


 

 ━━東京都足立区・竹ノ塚。ここは足立区内でも最底辺の人間たちが住むスラム街であり、道端にはあまたのホームレスが横たわり、見渡す限り薄汚い粗末な家がどこまでも続いていた。


 


 

 その竹ノ塚に4人の男たちが足を踏み入れた。そう。キョウイチたちである。


 


 

 実はここ竹ノ塚にキョウイチの実家があり、キョウイチはタクヤらを引き連れて帰還したのだ。


 


 

 時刻は夕方。真っ赤な夕焼けをかすかにまぶしく感じながらてくてくと歩き続ける。と、そのとき、キョウイチたちの目に巨大な横断幕が飛び込んできた。その横断幕にはこう記されていた。


 


 

 【足立区の救い主・キョウ様 おかえりなさい!!】


 


 

 次の瞬間、無数の花火とクラッカーのけたたましい音がキョウイチたちの耳をつんざいた。


 


 

 「うおっ、いったいなんだ!?」突然のことにぎょっとするキョウイチたち。


 


 

 そのとき、無数の人々がキョウイチたちを取り囲んだ。


 


 

 「キョウ様、徴兵から無事に戻ってきてくれたんですね?」


 


 

 「私たちはキョウ様のことが本当に心配だったんですよ!」


 


 

 「とにかく無事に帰ってきてくれてよかった!」


 


 

 キョウイチたちを取り囲む人々の顔は濃厚な安堵感と笑顔に満ちており、キョウイチの帰還を心の底から喜んでいたようだった。


 


 

 中には今の今まで道端に寝転んでいたホームレスの姿もあり、薄汚い風貌のホームレスたちは異臭を放ちながらもキョウイチの周りを笑顔で囲まざるをえない様子だった。


 


 

 そんな狂騒がひとだんらくついたとき、比較的まともな服装の男性がキョウイチを手招きした。


 


 

 「キョウ様、早くあのお方のところに行ってください。キョウ様がいに1番に会わなければならないのは私らのようなゴミではなく、あのお方なんですから」


 


 

 そしてキョウイチはやや遠くを見やった。そこには西洋のおとぎ話から飛び出してきたような、白髪の見目麗しい白人の老婦人が立っていた。


 


 

 キョウイチはタクヤらを引き連れて、その老婦人のもとにゆっくり歩み寄っていった。


 


 

 「クラウディアばあちゃん……」


 


 

 奥二重の目を感動で細めながらつぶやくキョウイチ。そんな彼にクラウディアと呼ばれた美しい老婦人は、心に響くようなあたたかい声でいった。


 


 

 「キョウイチ、3年間ご苦労様でした」


 


 

 そしてキョウイチとクラウディアはそっと抱擁をかわした。


 


 

 「……あれ?お友達かい?」


 


 

 タクヤらを見てそうつぶやくクラウディアにキョウイチはいった。


 


 

 「ん?ああ、こいつらね」


 


 

 「あ、あの、はじめてまして。タクヤといいます」タクヤはそういって右半分がブルー、左半分がグリーンの頭を深々と下げた。


 


 

 「僕はコツと申します」コツは殺人的なまでにパーフェクトなマッシュルームカットの頭をぺこりと下げた。


 


 

 最後のユーレイは口を開くタイミングがつかめずまごまごとした。キョウイチがクラウディアにいう。


 


 

 「ああ、こいつはユーレイ」


 


 

 そしてユーレイは異様に長い前髪を揺らしながらぺこっと頭を下げた。


 


 

 「ゆ、ゆうれい!?」ぎくっとするクラウディア。「ち、ちょっと変わったあだ名みたいだけど、みんな徴兵のときに知り合ったお友達かい?」


 


 

 「まあね。3年間、生死の境をふわふわと漂い続けた仲間といったところよ」キョウイチはいった。「とりあえず、この4人で【ヴァージン・ビート】を結成したのよ」


 


 

 「なんだって?」クラウディアはまた驚く。「何年も前からいい続けていた、あの【ヴァージン・ビート】を?」


 


 

 「ああ、ちょっと早すぎたかな?」


 


 

 「いやいや、そんなことはないと思うよ。過酷な環境の中でできた大切な仲間なんでしょ?まさに【ヴァージン・ビート】のメンバーにうってつけじゃないかい」


 


 

 「ただ、能力面ではあんまり当てにはなんないんだけどね……」


 


 

 「またそういう」コツがプクッと頬をふくらませていった。


 


 

 「まあまあ、とにかくおつかれだろうから、早くうちに戻りましょう」


 


 

 クラウディアがそういうと、そばのおじさん、おばさんたちが5台の錆びついたママチャリを持ってきた。キョウイチたちにそれに乗って家に行けというわけである。


 


 

 スラム街の竹ノ塚。そこに車やバイクなどあるわけがなく、錆びついたママチャリ5台をそろえるだけでもたいしたものだった。


 


 

 「そんじゃ、3年ぶりの我が家に戻るとするか」キョウイチは紫に染まる夕焼け空を見上げながらいった。

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