第5部 第4話【仇討ち】
西暦3036年の夏。東京都足立区綾瀬のとあるゴミ収集場。そこで働く3人の少年たちがいた。
彼らは休憩中らしく、缶ジュース片手に雑談に花を咲かせていた。
「オレ、そろそろ車、変えようと思ってるんだ」1番年上と思われるリーダー格の少年がにやついた笑みを浮かべていった。
「えっ!?マジで?」
「3ヶ月前、ランボルギーニに変えたばっかりなのに?」と、子分と思われる少年たちが驚愕した。
「いやぁ、今付き合ってる女がランボルギーニ飽きたっていうもんでよ」リーダーの少年はいった。「次はポルシェかフェラーリにしようかなって思ってんのよ」
「それはすごいっすねぇ」
「オレたちまだ17だから、アニキが羨ましいっすよ」
「ま、それもこれも、みんなキョウイチ天皇の政治のおかげだからなぁ」リーダーの少年は安らいだ表情でいった。
「そうっすよね。ゴミ収集作業を1日2、3時間やるだけで、医者や弁護士以上の暮らしがおくれるし」
「以前は1日8時間以上働いても雀の涙くらいの給料しかもらえなかったのに、ほんとに夢みたいな世の中になりましたよね?」
「おうよ、貨幣経済がなくなったら、サラリーマンって職業は必要なくなる。それで元サラリーマンの人たちがひとり残らず生産的労働に従事するようになったわけだから、1日の労働時間もかなり短くなったってわけよ」リーダーの少年はいった。
「あとニート、失業者、ホームレス、ひきこもりの奴らも、全員いつでもなんらかの仕事につける世の中になりましたから、労働者の数が以前とは桁違いになりましたよね?」子分の少年がいった。「だから1日の労働時間は2、3時間で充分ってわけ。ほんとにキョウイチ天皇は天才ですよね」
「ああ、おかげでゴミ収集場の作業員のオレたちは女にモテモテで」リーダーの少年は再びにたついた笑みを浮かべていった。「ま、一夫一妻制に戻って、独身時代も恋人はひとりまでっていう法律ができて何人もの女をはべらすことはできなくなったけど、それでも充分すぎるほどおいしい思いをさせてもらってるぜ。キョウイチ天皇バンザイだ」
そして少年たちは『ククククク』と忍び笑いをもらした。
と、そのときだった。彼らの前に謎の男たちがあらわれたのは。
「君たちだね。ボキのユミリちゃんを犯そうとした上、失敗したはらいせにユミリちゃんの顔に硫酸をかけたのは」
男の顔を見て、リーダーの少年は腰を抜かしながらいった。
「あ、あんたは……キョ、キョウイチ天皇!」
「ガンジ、トオル、こいつらをしょっぴきなさい」
キョウイチの命令に【アーバン・ジャングル】の屈強な精鋭たちは『ラジャー』と唱和し、3人組の少年たちの腕に手錠をかけてトラックの荷台に放り込んだ。
そう。キョウイチたちに逮捕された少年たちこそユミリの顔に硫酸をかけたあの少年たちであり、新生日本革命後、ゴミ収集場の作業員としてのうのうと人生を謳歌していたのだ。
が、それもキョウイチが新たに考えた法律によって終焉をむかえることとなった……。
少年たちを逮捕した数日後、キョウイチはインターネット上に立ち上げたテレビ局【ヴァージン・ビートチャンネル】のスタジオで、少年法保護派の著名人や団体の代表などとフォーラム・ディスカッションをおこなった。
キョウイチは新しい法律を考えついたとき、この【ヴァージン・ビートチャンネル】を通して日本国民にその内容を説明することにしていた。
また、国民が法律に疑義をただしたい場合、秋葉原にある【ヴァージン・ビートチャンネル】のスタジオを訪れ、そこで日本国の天皇となったキョウイチとフォーラム・ディスカッションをおこなうことになっていた。
今回のテーマは少年法。この少年法は『犯罪をおかした少年にあたたかく手を差し伸べるべきだ』という保護派と、『いいや、犯罪者に年齢は関係ない。大人と同じように罰するべきだ』という厳罰派に分かれて永らく論争が続いてきた。それについてのフォーラム・ディスカッションだった。
そして、キョウイチはいった━━。
ボキはねぇ、犯罪をおかした少年に対する処罰を、ひとつに統一する必要はないと思うのよ。ある人は保護観察処分とよしとし、ある人は少年院で1年間とよしとし、またある人は懲役数十年や死刑を求めたりする。人それぞれなんだよね。
そこでよ、少年に対する罰の内容は、被害者、または被害者遺族がきめることにすればいいのよ。
もしも被害者や遺族が保護派の人たちだったなら、今までどおり保護観察処分とかでよしとする。一方、被害者や遺族が厳罰派の人たちだったなら、懲役や死刑を宣告する。それでいいと思うのよ。
キョウイチのこの発言に、保護派の著名人の女性がいった。
「でもですね、キョウイチ天皇。被害者側が真に望むことは、犯罪をおかした少年を懲らしめたり死刑にしたりすることではなく、少年が自分の罪の重さに気づき、自分の罪を悔い改めることだと思うんです」
同じく保護派の男性がいった。
「少年を死刑にしたところで、殺された家族の人は戻ってくるんですか?戻ってこないでしょ?死刑にするのではなく、少年にもう1度更生のチャンスを与えてですね……」
キョウイチは最後までいわせなかった。
「だから、人それぞれだっつってんでしょう。あなたたちのような保護派の人たちは、どうぞ少年にあたたかい手を差し伸べて更生のチャンスを与えてやって。厳罰派の人たちは厳罰を与えるから」
「そ、そんな……」言葉を失う保護派の女性。
「残酷だと思う?その感情はそれはそれでいいのよ。ただねぇ、その感情を厳罰派の人たちに押し付けるのはおかしいのよ」キョウイチはいった。「感情も価値観も考え方も人それぞれなのよ。ボキだって、犯罪をおかしたすべての少年に問答無用で厳罰に処すべきだとはいってない。あなたたち保護派の人たちの心情も理解した上で、あくまで公正な法律を考えたのよ」
キョウイチの言葉に、保護派の論客たちはうつむいて閉口した。かくしてキョウイチの考えた新たな法律がここに制定されることとなった。
この翌日、ユミリの顔に硫酸をかけた3人の少年たちに、【21時間労働50年の刑】が宣告された。
なぜ50年なのか?キョウイチいわく【人に苦しみを与えたことを一生をかけて償え】という意味が込められているという。




