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第4部 第3話【ライバル】

 ある日の昼頃だった。キョウイチは自分の部屋のテレビで午後のワイドショーを見ていたのだが、そんなキョウイチの視界にぎょっとするニュースが飛び込んできた。


 


 

 テレビ画面は六本木ヒルズ前を映し出していた。そこには漆黒の天使のコスチュームに身を包んだ人たちが、マイク片手に次のようなことをいっていたのだ。


 


 

 「偽救世主、【ヴァージン・ビート】総帥キョウイチの戯言にだまされないでください!」


 


 

 「我が【堕天使の会】の主宰者であらせられるリョウ様ことリョウゴ・カンザキ先生こそが、この時代の真の救世主なのであります!」


 


 

 そして信者たちの背後から、同じく全身漆黒の天使コスチューム姿の40歳くらいの男が姿をあらわした。


 


 

 彼こそが宗教団体【堕天使の会】主宰者リョウゴ・カンザキ。べたついた印象の髪を82にぴっちりと分け、一重のキツネ目を彼方に向けてギラつかせている。そしてマイクを受け取ってこう語った。


 


 

 「どうもみなさん、わたくしが【堕天使の会】主宰者のリョウゴ・カンザキでございます」


 


 

 その瞬間、信者たちと立ち止まって聞いている人たちの間に盛大な拍手が沸き起こった。


 


 

 「ただ、ひとつ断らせていただきます。わたくしはこの時代の救世主などではありません。わたくしはただ世界の平和を日々祈り、いかにすればよりよい社会を築けるかを日々考えているだけであります」リョウゴ・カンザキは真面目な表情でいった。「【ヴァージン・ビート】の総帥キョウイチどのはみずから世紀末の救世主を名乗っていますが、本物の救世主とはみずから救世主など名乗るものではございません」


 


 

 次の瞬間、信者や立ち止まって聞いている人たちの間から『そうだそうだ!』という同調の声があがった。


 


 

 「また、キョウイチどのはいじめをなくす救世法や貧困をなくす救世法などを発表しているようですが、たいへん残念ながらあのような欠点だらけの稚拙な方法ではいじめも貧困もなくせません。世の中、そんな単純なものではないことくらい、小学生のお子さんでも気づけることなはずです」


 


 

 リョウゴ・カンザキの言葉に哄笑が巻き起こる。


 


 

 「最後にもう1度いわせてください。わたくしは救世主などではありません。しかし、稚拙な空論で日本を混乱に陥れるキョウイチどのの悪行を、黙って見過ごすわけにはまいりません。そのため、自分がこうして立ち上がってしだいであります」


 


 

 再び万雷の拍手が沸き起こる。しばらくして画面がスタジオに切り替わった……。


 


 

 ━━翌日の朝、キョウイチの部屋のドアをノックする音が聞こえる。


 


 

 「は?誰だい?」


 


 

 「キョウ様!」どうやらタクヤたちなようだった。


 


 

 キョウイチの部屋に入るタクヤたち。開口一番コツがいった。


 


 

 「キョウ様、知ってます?今、【堕天使の会】っていう宗教団体が六本木ヒルズ前で……」


 


 

 キョウイチはコツの言葉を手で制した。


 


 

 「昨日、ワイドショーで見たよ」


 


 

 「そう。すでに知ってるのね……」と、タクヤ。


 


 


 「キョウ様、どうするんですか?あのまま奴らにいい加減なことをいわせておくつもりですか?」


 


 

 「まあ、ちょっとは驚いたかな。ライバル出現って感じで」そういってキョウイチはケケケと一笑した。


 


 

 「笑ってる場合じゃないわよ!リョウゴ・カンザキには何十万という信者がいるし、ネット上にもリョウ様派が続々とあらわれているのよ!」タクヤが興奮ぎみにいった。


 


 

 「まあまあ、そう熱くなんなって」キョウイチは微苦笑まじりにいった。「あの人たちって、ほぼ毎日あんなことやってるのかい?」


 


 

 「うん、ここのところ毎日六本木ヒルズ前でやってる」と、コツ。


 


 

 ユーレイも真剣な表情でうなずいていた。


 


 

 「そうかい……んじゃ、今から【アーバン・ジャングル】の護衛を引き連れて六本木ヒルズに行ってくることにするよ」


 


 

 「えぇっ!?」驚愕するタクヤ。「いきなりリョウゴ・カンザキと直接対決?」


 


 

 「いくらなんでも早すぎない!?」と、コツ。


 


 

 「まあまあ、ボキにもそれなりに考えはあるから」


 


 

 そしてキョウイチは身支度を整えて部屋を出た。


 


 

 「んじゃ、クラウディアばあちゃん、リョウ様って人とちょっと話してくるから」


 


 

 「リョウ様ぁ?」クラウディアが部屋の中からハープの音色のような声で返答した。「タクヤくんたちはこれから【フール・メンズ・パレード】の仕事で忙しいってのに、おまえは気楽なもんだねぇ、まったく」


 


 

 ━━六本木ヒルズ前。そこにガンジら【アーバン・ジャングル】の精鋭10人をボディガードとして引き連れて訪れたキョウイチは、その日も相変わらずマイク片手にキョウイチバッシングをおこなっている【堕天使の会】の信者たちを視野にとらえた。


 


 

 「お、今日もやってるやってる」キョウイチは【堕天使の会】の信者たちをニヤニヤ見つめながらいった。「それにしてもすごい恰好だねぇ」


 


 

 「ひとり残らず真っ黒な天使の衣装ですからねぇ」ガンジがいった。


 


 

 「あんな恰好して恥ずかしくないのかな?」


 


 

 「でもキョウ様、彼らは彼らなりに、真面目に活動をおこなっているんですよ」トオルはいった。「まあ、かなりずれちゃってることには気づけていないみたいですが……」


 


 

 キョウイチとガンジがクククと苦笑する。と、そのときだった。角砂糖にたかるアリのような群衆の中から絶叫が轟き渡った。


 


 

 「あああああ!【ヴァージン・ビート】のキョウイチだぁぁぁぁぁ!」


 


 

 ほんとだ!


 

 ほんもんだぜ!


 

 さっそく乗りこんできたか!?


 


 両雄あいまみえるってやつだ!


 


 

 ……群衆の視線を一身にまとい、キョウイチはマイク片手に演説を続けていたリョウゴ・カンザキの近くにぬっと歩み寄った。テレビカメラも一部始終を追う。


 


 

 「はじめまして、進歩主義団体【ヴァージン・ビート】の総帥にして世紀末の救世主キョウイチです」


 


 

 キョウイチの突然の登場に言葉をなくすリョウゴ・カンザキ。彼は82にぴっちり分けた髪を軽くなでながら呼吸を整え、マイク越しにあいさつをした。


 


 

 「い、いやぁ、どうもはじめまして。わたくしが【堕天使の会】主宰者リョウゴ・カンザキです」


 


 

 そしてふたりは穏やかな微笑を浮かべながら握手をかわした。その瞬間、群衆から『おおおおお!』という歓声が沸き起る。


 


 

 「リョウゴ・カンザキさん、あなたの見事な弁舌、テレビで拝見させていただきました」と、キョウイチ。


 


 

 「それはそれは恐縮です」破顔のリョウゴ・カンザキ。


 


 

 「で、どこでやります?」


 


 

 キョウイチの言葉にリョウゴ・カンザキはぽかんとした。そんなリョウゴ・カンザキの手からキョウイチはマイクをもぎとり、群衆とテレビカメラに向かっていった。


 


 

 「えーと、みなさんすでにご存じのように、このリョウ様ことリョウゴ・カンザキさんという方は、ボキの救世法の数々になにかいちゃもんがあるようなのです。そこでどちらが正しいのかを白黒つけるべく、フォーラム・ディスカッションをおこないたいと思います」


 


 

 『フォーラム・ディスカッション!?』━━すべての群衆とすべてのテレビ視聴者が目を見開いて異口同音した。


 


 

 「1週間後、場所は日本武道館。あなたたちが毎年、団体のイベントで武道館を利用しているらしいから細かいことは任す。そこで決着がつくまでフォーラム・ディスカッションをおこないましょう。断る理由はないはず。リョウゴ・カンザキさん、いかに?」


 


 

 突然の急展開に蒼白になるリョウゴ・カンザキ。しかし信者たちの手前、ひるんで退くことはできない。


 


 

 「わ、わかりました。白黒をつけましょう」


 


 

 「ハンデは?」


 


 

 キョウイチの言葉に、再びぽかんとするリョウゴ・カンザキ。


 


 

 「ボキはひとりで充分だけど、あなたはひとりじゃ勝ち目はないでしょう」キョウイチはいった。「100人でも200人でもいいから味方を連れてくるといいよ。ただし、フォーラム・ディスカッションのルールは守ってもらうよ」


 


 

 そういってキョウイチはマイクをリョウゴ・カンザキに返し、ガンジたちと風のように姿を消していった。  


 


 

 ━━その日の夜。キョウイチの部屋にタクヤたちが集結していた。


 


 

 「相変わらずやることが迅速ね」タクヤが小さなため息まじりにいった。


 


 

 「ボキはいたって普通だけどねぇ」


 


 

 「でもキョウ様、味方に100人も200人もつれてきていいよっていっていたけど、そんなとんでもないハンデ与えちゃっていいの?」


 


 

 当惑するコツにキョウイチはいった。


 


 

 「いいんだよ、1000人が相手だろうが1万人が相手だろうが変わりはない。まったくボキの相手じゃないよ」


 


 

 「そ、そうか……」


 


 

 「ボキ、【鉄拳】のカリスマブロガーじゃない?」キョウイチはいった。「人気者ゆえ、似たような経験を過去に腐るほどしてんのよ」


 


 

 「ああ、そういえば昔、そんなようなこともあったね」と、コツは思い出したようにいった。


 


 

 「人気者のボキにジェラシーを抱く凡愚ブロガーたち。そいつらを片っ端から論破したのが昨日のことのようだね」


 


 

 「まあ、そんなことがあったの?」タクヤはいった。


 


 

 「んで、どいつをとってみてもザコばっかり。今回のリョウゴ・カンザキっておっさんにしてもまったく一緒」


 


 

 「なぜ、そういえるんです?」と、コツ。ユーレイも興味深げにキョウイチを見つめる。


 


 

 「まず、ボキの救世法にケチをつけるだけで、代案らしきものをひとつもあげてないじゃない」キョウイチはいった。「あの時点でわかるのよ。ボキと互角の勝負が演じられる器じゃないってことがね」


 


 

 そういってマックスコーヒーをぐいっと飲み干すキョウイチを、タクヤたちは押し黙って見守るだけだった。

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