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時間を止められるようになった(後編)

 思えば、ぱんつが見えたこと自体がおかしかった。

 いや何を言ってんだという話だが。そうじゃなくて。

 あのとき、白石は階段側こちらではなく廊下側むこうを見ていた。でなければ俺に声をかけられて驚いたりはしない。

 にもかかわらず、白石は仰向けに倒れ込み、その過程で階段側にいる俺にスカートの中身を披露した。

 つまり、体はこちらを向いていたのに、顔は後ろを向いていた。


 何を見ていたのか。

 特筆するものは何もない。そして誰もいなかった。

 にもかかわらず、白石は常に後ろ(丶丶)を気にしていたわけだ。


 まあ、それだけなら偶然でもあるだろう。

 だがその後、白石が俺に頼んだ一緒に帰ってほしいというお願い。

 そして、ストーカーという単語が会話で出たときの反応。

 帰る途中、怒った様子を見せながら、常に俺の前を歩いて(丶丶丶丶丶丶丶)――言い換えれば、俺を後ろに(丶丶丶丶丶)歩かせていたこと。

 露骨に恋人っぽい行動をする俺を受け入れたこと。


 その全てを繋げたとき――もしかして、と思ったのだ。


 まあ、違っていたならそれでいい。そのほうがむしろよかった。

 でも現実、こうして俺はストーカーと思しき人影を発見してしまった。

 こうなっては見過ごせない。


 角を曲がろうとするストーカー(仮)。

 その瞬間、俺は――能力を発動。時間を停止させる。

 そのことに意味はあまりない。少なくとも、ストーカーを捕まえられるわけじゃない。

 止まった時間を、俺は動くことができないのだから。

 それでも――意識だけは動いている。

 つまり、角を曲がったストーカーの顔を、服装を、長い時間をかけて頭に叩き込むことくらいはできるということだ。


「……マジかよ」


 止まった時間の中で呟く。もちろん口は動かない。意識での話だ。

 そう。そのストーカーの装いに俺は覚えがあったのだ。

 顔は知らない。知らない人間だ。だが、その服装を――自分も通っている慧嶺高校の制服を見間違ったりはしない。

 その顔を頭に叩き込んで、俺は時間停止を終了する。

 そして、また奴を追いかけた。逃がすつもりなどさらさらない。


 幸いというべきか、奴の足はそう早くなかった。

 俺も運動が得意なほうではないが、短距離走ならそこそこだ。

 ぐんぐんと距離を詰める。向こうもそれはわかっている。

 観念したのか、疲れ切ったのか。奴が足を止めるのが見えていた。

 そこに駆け寄っていく俺――油断していたつもりはなかった。

 だが瞬間、奴が振り返って、こちらに拳を振るってきたのを俺は見た。


 ――その刹那、再び俺は時間を止める。


 向かってくる拳が見えた。腰の入っていないへなちょこパンチ。

 とはいえ、このまま行けば食らうだろう。俺だって運動能力には自信がないし、喧嘩だってしたことがない。

 だが――俺には時間停止の能力がある。

 必殺技が。


 時間停止を解除。


「うあ――」


 聞こえたのはストーカー野郎の声。その一瞬でまた俺は時間停止を発動した。動けない代わりに、発動に一切のラグもデメリットもないのがこの能力のいいところだ。

 能力解除。そして回避。また発動。軌道を見てまた少しだけ動く先を決めて解除。少しだけ動いて発動。視認。解除。回避。発動――。


 俺必殺――タイム連打!


 ださい! が、意味はある。

 それが物理的に回避可能ならば、ほぼ確実化させることができるというくらいには。

 ストーカーの貧弱な拳を回避する。と同時に、奴が逆の手に持っていたものを、俺は力尽くで奪い取った。


「……クソっ!」


 歯噛みして、奴はそのままカメラを置いて逃げていった。

 判断力はあったわけか。どうでもいい。いずれにせよお終いだ。俺はカメラの中を確認してみようとする――その寸前だった。

 ポケットから振動音。スマートフォンに、着信があったのだ。


『やあ。とりあえず、まずは無事かい?』


 通話に出ると、聞こえたのはそんな声。部長だった。

 質問には答えず、むしろ質問で俺は返す。


「部長……見てたんですか?」

『まさか。見に行けばよかったと後悔しているところだ。まさか本当にこうなるとは正直、考えていなかったよ』

「……ということは、何があったかはわかっていると?」

『電話で琉理から聞いた。まあ、あとのことは任せてくれればいい。君の不安にだけ答えておくが――そいつは琉理のストーカーじゃない』

「はい?」

『正確に言えば、琉理だけを追っているわけじゃないというべきかな。結論から言うと、最近、うちの学校の女子の写真が出回っていてね。まあ構内だけでのことだし、本格的にカメラを仕掛けての盗撮という段階にまでは言っていないが……杜撰でね。気づく女子は多かった』

「……さっきしてたのは、その話ですか」

『ああ。放課後、写真の売買、交換が一部の男子生徒の間で行われていたという話だよ。そう大した写真でもないし、どちらかというよりは被写体の価値ではなく、互いの度胸試しとしての側面が大きかったようだが、まあ女子からすれば不愉快だからね。手を打ちたかった』

「その辺りの話を、末吉に訊いていたと」

『伊達に教室主義者を名乗ってないね、彼は。いろいろと興味深い話が聞けたよ。なにせ男子同士が結託していたからね、なかなか尻尾を押さえられなかったわけだが……まったく、君も無茶をする』

「……白石ですか」

『何かあったら連絡をくれ、とは言ってあったんだけどね。彼女にも相談は受けていたから。――だがまさか、君が走って追いかけてしまうとは思っていなかったようだよ。悲痛な声で電話が来てね。さすがに焦った』

「すみません……白石がストーカーに付け狙われてると思ったんですよ。まさか、それより底の浅い話だとは思ってなかったんです」


 苦い顔で俺は言った。さすがにそこまでは知らないし、察しもつかないという話だ。

 才先輩が動いていたのなら、全部を任せていたというのに。


『だとしたらそれこそ警察にでも任せたまえ』

「……ですね。ちょっと頭に血が昇ってたみたいです」

『君の動体視力と記憶力のよさは知っている。もしかしたら、犯人の顔を見るかもしれないとは思っていたが……君も男子だね。追いかけるとは予想外だ。まあ、何事もなくて幸いだよ』

「えーと。まあその程度なら大事にはしない感じですか。カメラ奪い取りましたけど」

『そうだね。まあ、あとはこちらでなんとかするさ。こちらでというか、学校でね。教師陣ももう動いている。停学処分くらいはあるかもわからないが……まあ、そちらはそちらのことを済ませてくれ。言っただろう? ――琉理を頼むと』

「あー……」


 見れば道の先に、泣きそうな顔をした白石の姿を見つけた。

 ……弱ったな。なにも泣かせるつもりはなかった。

 最初のときは振りだったというのに、今度は本当に涙を浮かべている。

 いくらなんでも、それを茶化せるほど馬鹿では俺もない。


「よう。白石」


 電話を切って俺は言った。考えてもみれば、本当に大事なら白石だって俺じゃなくて普通に親や警察に話をしただろう。

 俺なんぞが頼られたという時点で、そう大事ではなかったという話だ。

 学校内で警戒していたのは、犯人が生徒だと知っていたからってわけである。

 ……どや顔の推理、ほとんど間違ってたなあ。


「せん、ぱい……その」


 近寄ってきた白石は、目に涙を浮かべて震えていた。

 俺は頭をかき、観念して、そっと彼女の頭に手を乗せた。

 これで、せめて震えくらいは止まってくれと。


「すまん。悪かったな、無駄に心配かけたみたいだ」

「……ほんとです」


 とん、と胸に当たる弱い感触。

 体重を俺に預ける白石。俺は彼女の頭をとんとんと撫でる。


「泣くことないだろ……そんな危なかったわけでもないし」

「先輩はばかです。なんで追いかけるんですか」

「聞いてないな」

「せんぱいだってわたしの言うこと聞かないじゃないですか」

「だから悪かったって。ほら、帰ろうぜ。送るから」

「…………わかりました」


 すん、と鼻を鳴らして白石が離れる。

 俺はその手をもう一度握った。今度は白石も何も言わない。

 だから俺たちは、会話もなくそのまま歩き出す。

 手を繋いで。

 ……まあ、このくらいの役得なら、俺だって望んでいいと思うのだ。



     ※



 家につくと、白石が俺をそのまま部屋に招いた。


「上がってってください。お茶くらい出します」

「いいよ別に。あんなもん冗談だ」

「上がってってください」

「……はい」


 有無を言わせぬ白石の様子に、唯々諾々と従う俺。

 どんな状況でも、俺たちの力関係は変わらないようだった。


 そのまま部屋に案内され、白石は消えた。

 俺だけが、おそらくは彼女の自室と思しき場所に残される。

 ……どうしよう緊張するんだけど。

 女の子の部屋に来るのなんて生まれて初めてだ。マジかやばい。なんかいいにおいする。こわい。俺が怖い。

 しばらく固まったまま待っていると、やがて白石が麦茶をふたつ持って戻ってきた。なんかお菓子もある。


「どうぞ」

「……あ、どうも」


 貴重な白石のお客様対応にビビりながら、ありがたく頂いた。

 そこそこ本気で走ったことだし、割と疲れてはいたのだ。

 そして。


「…………」

「…………」


 始まったのは無言タイム。本気で気まずかった。

 なんだろう。なんで俺はこんな目に遭っているのだろう。

 ストーカー(思い込み)を炙り出すために、という言い訳で調子に乗って手を繋いだり名前で呼んだりしたのが悪かったのだろうか。

 というか、ストーカーじゃなかったというのなら(いや、やってることはストーカーだったけれども)、どうして白石はあれを受け入れたのか。

 ……そりゃ調子に乗っちゃうって、俺も。

 と、そんなことをひとり考え込んでいたせいだろう。


「――すみませんでした」


 最初、白石の言葉を聞き逃してしまう。


「え――? ごめん、なんて?」

「ですから、すみませんでした……謝ります」

「なんで……?」

「だっ……だってっ!」


 白石がこちらをまっすぐ見る。お互いに、なぜか床に正座して。

 なんだかお見合いみたいだなあ、なんてことを考える俺に、白石は言った。


「わたしが勝手に転んだだけなのに、先輩にわがまま言って……しかも怪我させそうになって。もっとさっきに言ってれば……こんなことには」

「…………」

「……だから、すみませんでした」


 俺は首を振る。


「気にすんなって。明日以降もちゃんと送ってやるから」

「ど、どうして――」

「怖かったんだろ? そんくらいわかる。まあ俺じゃ頼りないだろうし、もう問題ないとは思うけど、しばらくの間くらい付き合ってやるって」

「……いいん、ですか……?」

「好きでやってんだからいいんだよ。言ったろ、後輩の世話くらい見てやるよ、先輩だしな」

「……いえ。でもやっぱり」


 白石が首を振る。


「それじゃわたしが納得できません」

「納得って」

「わたしは、先輩を利用してしまったんです。そのお詫びをします。あと、えっと、お礼も、です」


 なぜそうなるのだろう。

 勝手に勘違いして、勝手に突っ込んでいったのは俺のほうだというのに。

 もう逆に俺のほうが恥ずかしいっていうか申し訳ない。それが白石の狙いなのではないかと勘ぐってしまうレベルだ。違うことはわかるけれど。

 だって、


「――なんでもします」


 こんなこと言うんだもの、この子。

 女の子がそう簡単に言うもんじゃないぜ、その台詞。


「先輩、優しいですから。それを利用したんです。だから償わせてください」

「……わかったよ」


 震える白石。まあ、適当に無理難題を突きつければ躊躇おう。

 そして、できないならいいで話を済ませてしまえ。俺はそう考えて。

 だから言った。


「――ばんつ見せて」


 白石は答えた。


「わかりました」

「いやわかりましたじゃねえよ!?」

「そうですか……」

「そうですよ! 何あっさり受け入れてんだ断れバカか!」

「そうですよね……わたしのぱんつ程度じゃ、嬉しくないですよね」

「そういうことじゃねえ――!」

「じゃあ見たいですか?」

「うええ!? ああ、ええ? どう答えろってんだよ、それ!?」

「……そうですよね。わたしのぱんつ程度じゃ興奮しませんよね」

「されたいの!?」

「まあ、どちらかと言うなら。女のプライド的に」

「するよ! するから! 心配するな興奮する! すごいする! だからやめてね!? 逆に!」

「じゃあ見てくださいよ!」


 白石が立ち上がって叫んだ。あれえ!?

 なんか立場が入れ替わってません!?

 などと狼狽えている間にも、白石がスカートに手をかける。

 何この斬新な脅し!?


「行きますよ! 見ててください目を逸らさずに!」

「やめろ、お前が現実から目を逸らすな! というか逸るな! 早まるな! 社会的に死ぬ気か!」

「ここは密室なので平気です!」

「俺が死ぬよ!」

「死ぬときはいっしょです!」

「お前もう自分が何言ってるかわかってねえだろ!?」


 人間、追いつめられると壊れてしまうという好例だった。

 じゃねえよ。ちょっと落ち着け、俺も。白石も。


「い、いきますからね。ちゃんと見ててくださいね……っ」


 もうなんか何も映っていない瞳で白石が、ゆっくりとスカートを上げ始める。

 このまま待っていれば、俺は労せずしてその中身を目にすることできるわけだ。だが、それでいいのだろうか。

 いいわけがない。というか意味がわからない。


「――わかった! 変える! お願い変える!」

「なんです?」


 すっと真顔に戻る白石だった。

 ――あれ、これやっぱ俺またからかわれてたな?

 と気づくも今さらだ。どうせ恥をかきまくったのだし、今さらひとつふたつ増えても関係ないだろう。

 意を決して、俺は言った。


「今から格好つけたこと言うから、笑わないで聞いててくれ」

「……それがお願いですか?」

「そう」

「……わかりました。なんか納得いきませんが、お望みならば」

「よし。……じゃあ言うからな」


 息を――吸う。緊張を誤魔化すために。

 おそらく、白石は想像もしていないだろう。それで構わない。

 俺は言った。


「――俺、お前のこと好きなんだよ」


「……………………はぇ?」

「いや、だから俺、お前のこと好きなの。うん、だからさ、実は頼ってもらって嬉しかった。いいとこ見せようと思って張り切ってた。そんだけだからさ、あんま、こう、気に病むなよ」


 白石が顔を真っ赤にした。

 ……本当。こうしてれば可愛いのに、と強く思う。

 いや、まあそうでなくとも惚れているのだが。


「あぇあ、その……うぇ?」

「予想外だった?」

「え……あの、じゃあ、えっと――本当に、ですか?」

「嘘でこんなこと言えるかよ。顔見りゃわかんだろ、たぶん今俺、顔真っ赤だぞ」

「そ、それはわたしもなんですが……」

「じゃあおあいこだな」

「うぇ、あ、でも……せんぱいが、わたしを……?」


 信じられないという表情の白石だった。

 そんなに意外かなあ。これでもそこそこアプローチはしていたつもりなのだが。

 少なくとも、才先輩には一瞬でバレてたし。


「せんぱい、てっきりわたしのこと……嫌いなんだと思ってました」


 だが白石はそんなことを言う。

 コイツ、実は馬鹿なんじゃないかと俺は思った。


「なんでだよ……。嫌いな奴をわざわざ送ったりするかよ。家の方向、正反対なのに」

「でも、だって……せんっ、せんぱい、いつもわたしに意地悪するし」

「それお前が言う?」

「わ、わたしもせんぱいにヒドいコトいっぱい言ったし……」

「じゃあ俺、ドMなのかもな」

「…………本当に?」

「本当」

「――――…………ぅあ」


 白石が、顔を真っ赤にしたまま俯いてしまった。

 処理能力を超えると、すぐ俯くよなあ。そんなところも可愛いけど。

 俺は言う。


「まあ、そんだけ。悪かったな、急にこんなコト言って」

「――あ、いえ。そんな……」

「気に病むなってことが言いたかっただけだから。困らせるつもりはないんだよ」

「……いえ。その――嬉し、かった……です」

「ありがとよ」


 そう言ってもらえれば救われる。

 恥を掻いた甲斐はあった。ほっとしつつ続けた。


「お前、俺のこと好きじゃないのに。すまんな」

「――――は…………?」


 大口を開けて硬直する白石。

 予想外だったらしい。信じられないという表情(二度目)だった。

 ふむ、やはりバレていないと思っていたのか。


「そりゃ嫌われてはないと思ってたけど。でもお前、俺にいろいろ不満があるみたいだからさ」

「え。あの――え?」

「でも気にしなくていいから。キモがられてなくて助かったくらいだし」

「…………せんぱい」

「あ、うん? 何?」

「やっぱり死ねばいいと思います」


 突如、白石の頭突きが俺の鳩尾を強襲した。


「おごぉ……っ!?」

「なんなんですかもう。鋭敏なんだか鈍感なんだかどっちかにしてください。あり得ないです」

「な、何言って……つか何しやが、」

「わたしも」


 俺にもたれかかったまま、こちらを見上げて白石は言った。


「わたしも――先輩のこと好きです」

「…………えっ」

「好きです。ラブです。もうなんかぞっこんって感じです」

「いや表現古……」

「そうでも言わないと伝わらないっぽいから言ったんです、このばかせんぱい」


 押し倒される形の俺。

 上目遣いにこちらを見上げる白石。

 やばい近いやばい。


「だいたい、好きでもない相手にぱんつ見せようとするわけないじゃないですか。わかれってゆーんです」

「……俺だって、好きでもない相手のわがまま聞いたりしねーよ」

「じゃあ、両思いですね」

「そうだな」

「……えへへ」


 白石が、へにゃりと笑った。

 やばい可愛いやばい。


「そうだ。せんぱいが送ってくれるなら、わたしが朝、せんぱいを迎えに行くっていうのはどうですか?」

「……家が逆だろ、だから」

「でもわたし、せんぱいのおうち、行きたいです」


 やばい抱き締めたいやばい。


「……来たいなら、まあ、そりゃ、いいけど。別に」

「じゃあ、約束です。……へへー」


 白石が、俺の胸に額をぐりぐりと押しつけた。照れ隠しらしい。

 やばいもうすごいやばい。


「ちょ。もう無理。だめだ、離れろ白石。もう耐えられん」


 俺は言った。すると何を勘違いしたのか白石が唇を尖らせて、


「なんですかー。そんなに重くないですー」

「そういう意味じゃない」

「じゃあどういう意味ですか。くっついちゃダメですか」

「寂しそうに言うな……っ!」

「むぅ……」

「可愛い顔をするな! 我慢しきれなくなるだろ!」

「へへー……かわいい……」

「そこしか聞いてなかったの!?」

「そんなに離れろと言うんでしたら」


 俺の顔の前に、自分の顔を持ってきて。

 白石は、笑顔で言った。


「もう一回、名前で呼んでくれたら離れてあげます」

「くっそあざといなお前」

「お嫌いですか?」

「……好きだよ畜生」

「名前」

「……琉理」

「もっかい」

「琉理」

「……きゃー」


 離れるどころか、もっと体重を預けてくる琉理。

 ……ああ、もうダメだコレ。逆らえん。


「このまま時間が止まればいいのに」


 琉理が言う。


「……時間なら、進んでくれたほうが俺はいいかな」


 と、俺は答えた。

 どっちにしろ、もう止まってしまいそうだ。

「「クソが爆ぜろ!」」

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