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時間を止められるようになった(中編)

まさかの三本立て。

「――で? 相談ってなんだよ」


 白石に続いて部室に入り、備えつけのパイプ椅子に腰を下ろす。

 多少、乱暴な挙動になってしまったことは勘弁してほしい。俺に責任がないとは言わないにせよ、結果的には騙された形なのだから。


「そう怒らないでくださいよ。……恥ずかしかったのは、本当なんですからね?」

「嘘つけよ……」


 と言いつつも、強くは出られない俺である。弱い。

 白石はちょっと唇を尖らせてみせる。俺の対応が不満らしい。普段からこうなら可愛げもあるのに。

 ……いや。別に可愛くないとは言わないけれど。少なくとも見た目としては。

 白石自身は、言ってしまえば割と地味めの女子だ。文芸部なんて文化系筆頭の部活に所属していることからもわかる通り――などと言っては全国の文芸部員諸氏から反発を受けそうだが、同じく所属している俺が言うのだから諒とされたい――そう目立つ性格ではない。普段なら。

 ただこれは本人が悪目立ちすることを避ける性格だというだけで、その一面だけを根拠に与しやすい相手だなどと判断するのは間違いだ。

 本来は物静かでも大人しくもない。我は強いし、言うときは言うタイプというか。真面目なのは事実だが、決して舐めていい相手ではない。

 向こうは俺のことを舐め腐っているけれど。


 ……。


 外見的には、特に目立つところのない黒髪の女子だ。短めに揃えられた髪はどこかふわふわと癖があり、くりくりと丸い目は一見して小動物的ながら、持ち前の意志の強さが垣間見える。それと、ときおり作業をするときだけ眼鏡をかけているのが特徴だ。

 普段はかけておらず――というほど白石の普段を知らないが――もっぱら近作業用にしているようだ。少なくとも部活での雑談時や帰宅のときは裸眼だ。俺が見る限り、読書時や部活で小説を書くときだけの装着。

 近視ではなく遠視なのかもしれない。詳しいことは聞いていないが。


 正直、その落差みたいなものが好きだったりする。本人に言ったことはないし、今後もさらさら言うつもりはないが。

 我ながら《普段はかけていないけどときおりかける眼鏡萌え》とは難儀なフェチがあったものだと思う。ちなみに体の部位なら足の裏と鎖骨が好きだ。訊かれてないけど。

 閑話休題。

 そんなわけで、普段は(本人曰く)目立たない白石だが、これで割と容姿は整っている。表立ってモテるタイプではないが、隠れファンがひとりふたりいる感じといったところだろうか(これは俺の予想)。

 そういうところが、こう、なんだ。またイラっとくるのだが。


「……先輩? どうかしたんですか?」


 と、ぼけっとしていたせいだろう。首を傾げて白石が言う。


「いや、なんでもない」

「……そうですか。ヒトのことじろじろ見てるので、てっきりイヤらしいコトでも考えてるのかと」


 わあ、ムカつく☆


「いや考えてないからね? やめてくれる?」

「男子高校生は四六時中ヒワイなこと考えてるって聞きましたけど」

「そんな生物はこの世にいない」

「そうですか。では先輩は特別なんですね」

「話を聞いてなかったのかな?」

「冗談です」


 冗談に聞こえないからイラっとくるのだが。

 本当に。どうしてこう、この女は俺に対してだけ当たりが強いのか。


「んで? 俺に何させるつもりだよ」


 話を先に進めるために、俺は訊ねた。

 狭い部室。普段使う教室の、面積にして三分の一くらいだろうか。折り畳み式の四角いテーブルがふたつと、それを囲うパイプ椅子。そして壁際を彩る書棚と本……まあ、いかにもな文芸部室だろう。

 中にいるのは俺と白石だけ。本来ならもう少し部員がいるのだが、テスト期間に入ったからだろう、生憎と今日は誰も来ていない。

 この私立慧嶺けいれい高校は、分類上は一応、進学校ということになっている。テスト期間ともなればみんな早々に帰るか、残る人間は自習室などに籠もる。いずれにせよ部活になど出てこない。

 まあ、逆に白石にとっては都合がよかったのかもしれないが。それも相談の内容によるだろう。


「……というか、先輩が来るなんて思ってませんでした」


 白石は、そのまま雑談を続けた。

 ――ともすると、言いにくいことなのかもしれない。そのくらいの空気は読める。

 だから俺も、そのまま乗った。


「俺も、白石がいるとは思ってなかったよ」

「そうなんですか? ……ならどうして来たんです?」

「いや、白石とは限らんけど、もしかしたら誰かしらいるかなー、って思って」

「そですか。てっきり――あれです」

「あれってなんだよ……」

「……あー。ストーカーされたのかと思いました」

「ぶっ飛ばすぞテメエ。なんでお前はそうやって俺を犯罪者にしようとするの?」

「出来心です」

「抜かせ。お前なんぞをストーカーするくらいなら、ノートに延々と12345……と数字を書き連ねる無為な作業を選ぶほうがマシだ」

「……うわー。そこまで言いますかー……」

「明らかなマイナスよりは徒労のほうがいいだろうが」

「まあ先輩、そういう単純作業好きそうですもんね。ドMさんなんでしょう?」

「風評被害はやめてもらえる?」

「さっきはわたしに蹴られたがったじゃないですか」

「蹴られたがってはねえよ」


 本当に失礼なことばかり言う奴だ。お前が怪我してないか、遠回しに確かめてやろうという先輩の優しさだったというのに。

 ……本当ダヨ? 蹴られることに快感なんて覚えないよ?

 いやマジで。別に被虐趣味などない。


「誰も来なきゃ、普通に帰って勉強してたよ」


 俺は普通に言った。実際その通りだ。

 誰かいるなら、残って一緒に勉強でもしていこうかと思っていたくらいだ。


「……そですか。んと、なら帰りますか」


 白石はあっさり言った。

 ……なんなんだ?


「俺はいいけど。……どうした、なんか頼みがあるんじゃないのか?」

「んーと、ですね」


 そう言うと、白石は椅子からなぜか立ち上がった。

 ちょっと考え込むような仕草を見せたあと、ふっと笑みを作り、そして大仰に両腕を広げると、


「――それが《お願い》なんですっ!」


 と、そんなことを言った。


「は……?」

「いえ、ですから」


 くねくねっとシナを作ってみせる白石。

 なんだろう。普通にキモい。

 彼女はもじもじとした妙な挙動を取り、なぜだか微妙に瞳を滲ませると、その潤んだ視線でこちらを見上げるようにして。


「――わたしと、いっしょに帰ってくれませんか……?」


 言った。何言ってんだコイツは、と俺は思った。


「どうしたの、頭打った?」

「……なんですかなんですかその反応。このわたしが先輩といっしょに帰ってあげるって言ってるのに。もう少し喜んだらどうですか」

「いや、お前、帰り道正反対だろうが」

「なんでわたしの自宅を知ってるんですかキモいです」

「自宅は知らねえよ。帰り一緒になったことねえだろうが」

「先輩は本当につまらないことしか言わないなあ……」

「ヒトの息を詰まらせることしか言わない奴に言われたくない」

「上手くないです償ってください」

「罪だったのか……」

「命で」

「しかも死罪!?」

「賠償金でもいいですよ」

「金取るのかよ。なんでだよ。つか誰に払うんだよ」

「ボランティア団体とかに寄付しますか」

「善行だった!」

「……………………」


 俺のリアクションがお気に召したのだろうか、お姫様は顔を背けてぷるぷると肩を震わせている。脳天に手刀を叩き込みたい。

 ……なんの話をしてるんだろう、俺は。

 嬉々としてからかってくる白石に、ついつい乗ってしまう俺のほうも、実は悪いのかもしれない。だから舐められてるのかね?

 ともあれ、こいつがなんの理由もなくこんなことを言うとは思っていない。そんな性格じゃないし、そんな関係でもない。


「なんのつもりだよ、マジで? 送って帰れってこと?」

「まあ、そういうことです。女の子をひとりで帰すなんて甲斐性ないですよ、先輩。送らせてあげると言っているんですから、もう少し素直に喜んでください」

「……素直じゃねえのはお前だろうが」


 まあ、もうどうでもいいが。

 それで気が済むって言うんだったら、送ってやるくらいのことはしてやろう。


「――ったく。話がそれだけなら行くぞ」


 俺は立ち上がり、部屋を出ようとする。

 と、背後で白石が「あ……」と息を飲む気配。何をしてんのかね、こいつは。

 俺は白石を振り返って言う。


「何してんだよ、早くしろ」

「え……?」

「だから。帰るんだろ、お前が座ってたら俺が立った意味ないんだけど」


 言うと白石は目を丸くして、それからふっと視線を逸らした。

 斜め下を見ながら、やけにか細い声で言う。


「帰っちゃうんじゃ、なかったんですか」

「いや、だからお前送って帰るって言ってるんだけど……」

「……ばか。わかりづらいんです、せんぱいは」

「なんで罵倒されたのか理解できないな」

「うるさいです、ばか。素直じゃないのはせんぱいのほうです」


 ――いや、お前こそうるせえよ。

 だって、なんかちょっと恥ずかしいだろうが。


「いいから行くぞ、荷物持て。ああ、悪いけど教室まで一回戻るぞ。ぶっちゃけ誰もいない可能性のほうが高いと思ってたから、鞄置いてきた」


 言うだけ言って部室の戸を開く。

 背後から、「あ、ちょっと待ってくださいよ!」と、白石の声が聞こえてきたが。

 俺は意図的に無視をした。



     ※



 教室にはほとんど人影がなかったが、代わりに意外な人物がいた。

 ひとりは知り合い、というかクラスメイトだ。これは別に意外でもなんでもない。

 一応、友人ではあったので、先にこちらに声をかけた。

 背後で意外そうに白石が息を飲むが、それはとりあえず無視しておく。


「末吉か。相変わらずお前は放課後になると出没するな」

「いや、普段から教室にいるから。妖怪にみたいに言うなよ、戸崎」

「なんか放課後の教室イメージなんだよな、お前」

「まあ、悪い気分にはならないけどね。そう言われても」


 相変わらず変わってんなあ、こいつ……。

 彼は名を末吉すえよし対太ついたという、名前から変わってるし中身も変わってる、つまり変人だ。

 なんでも《放課後の教室》という空間に偏執的な愛着――というかフェチというか――を抱いているそうで、放課後になると高確率で、こうして教室で黄昏を感じている、自称《教室至上主義者》。

 ぶっちゃけ何ひとつ理解できない。

 まあ別に悪行や、あるいは変態的な行為をしているでもないので実害はないし、俺も俺で実は変わり者という奴が嫌いではないので、それなりに仲はいいほうだった。


「……とはいえ、お前が先輩と知り合いだとは知らなかったがな」

「私は交友関係が広いのが自慢なんだよ、慶太けいた。知らなかったかな?」


 そう言って俺たちに笑いかけるのは、我らが文芸部の部長。

 三年の姉川あねかわさい先輩である。

 さっき言った、よく白石にセクハラをかましている中身おっさんの面白い先輩だ。

 ちなみに慶太は俺の名前。


「そういう君こそ、琉理とふたりきりなんて珍しいじゃないか。うん? いや、そうでもないのかな」


 くつくつと笑みを噛み殺す(噛み殺せてないが)才先輩。

 からかわれて面倒なことになるのが嫌で、俺は早々に話題を変えた。


「……こんにちは、です。才先輩」

「やあ、琉理。今日も可愛いね」


 男が言ったらそれだけでギルティな台詞を平然と吐く先輩。

 まあ、いつものことだ。少し赤みのある長髪を優雅に流す先輩は、実に様になっていた。

 気にかかったのは、だから才先輩ではなく白石のほう。なんだか表情が硬いというか、少し落ち着きをなくしているように見える。

 まあ、気のせいかもしれないが。俺は先輩に向き直って問う。


「そんで、才先輩? いったいいつの間に末吉と仲良くなったんですか」


 なぜか白石が、見えないように後ろから俺の制服を掴んだ。


「おっと? 嫉妬してくれるのかい」


 なぜか白石が、見えないように後ろから俺の脇腹を殴ったって何してくれてんだこいつ。


「いや別にそういうんじゃないですけど」

「そうだね。これ以上は琉理に悪い」

「いや別にそういうんじゃないですけど」


 と、二度目は白石が言った。

 納得いかない。いろいろなことが。


「……いや、別に俺、この先輩と知り合いじゃないけどな」


 と、そこで末吉がネタばらし。


「そうなのか?」

「今日初めて話したし。なんなら名前もさっき知った」

「……仮にも生徒会長だぞ、その人」

「ああ。道理で聞き覚えがあると思ったら」

「知ってたんじゃねえか。相変わらず適当だな、お前」


 なんでもない会話。その間も、白石は俺の服から手を離さない。


「まあ、私はちょっと事情聴取に来ただけだよ」


 才先輩が言った。俺は視線を末吉に向けたまま、


「……ついにやらかしたのか、末吉」

「ついにってなんだよ。何もやってないよ」

「仲いいな、君ら」


 くつくつと笑って才先輩。ネタばらしが続く。


「ちょっと、近隣で問題があってね。学内にもその噂が上げられている。彼はほとんど毎日、最終下校の時刻まで残っているという話だからね。何か知らないか、ちょっと話を聞きに来たんだ」

「……お仕事でしたか。なんか邪魔しちゃったみたいですね。テスト期間までお疲れ様です」

「好きでやってることだし、もう済んだから構わないよ。……結果から言えば、必要がなくなったかもしれない」

「はあ……」


 何を言っているかわからない。が、この人の言うことは普段から七割くらい意味不明なので、俺は特に気にしないことに決めた。

 白石の手から離れ、鞄だけ取って教室を後にする。


「そんじゃま、俺たちはこれで」

「さようならです、才先輩。末吉先輩も、お邪魔しました」


 頭を下げる俺と白石に、ふたりから返答。


「んー。またねー」

「また明日。……しっかり琉理を送ってやるんだぞ、戸崎」

「……了解ですよ」


 ばれてーら、と俺は思った。



     ※



「――なんだか機嫌がよさそうで何よりですね、先輩」


 昇降口を出て、白石を送る途中。

 前を歩く白石が、こちらを振り返らずに言った。刺々しい言葉だった。


「なんの話だよ……」

「別になんでもありませんけど」


 明らかになんでもある様子で白石が言う。

 普段から失礼な奴ではあるが、こういう様子は滅多にないので、俺としては不可解だ。


「そりゃ、テスト期間にわざわざ部室を訪ねてくるくらいですもんね」

「はあ……?」

「才先輩に会えてよかったですね。綺麗ですものね」

「何言ってんだ、お前」

「おっぱいも大きいですもんね」

「本当に何言ってんだお前」

「ふんだ、です」


 すっかりご機嫌が斜めのご様子だった。

 ……なんつーかなあ。才先輩じゃないけど、嫉妬されてんのかなあ。

 あくまで「からかう相手」として、それなりに気に入られてるのかもしれないとは思っていたし。

 お気に入りの玩具を取られたみたいな気分なのだろうか。

 仕方ない。少し、機嫌を取ってやるとしよう。


「なあ、ところで白石」

「なんですかエロ崎先輩」

「戸崎だ。……いや、提案があるんだけど」

「……なんですか」


 あくまでこちらを見ない白石に、俺は言った。


「――手、繋いでいい?」

「ぴえっ!?」


 なんだか絞められた鳥みたいな鳴き声を上げて、驚愕の表情で白石が振り返った。

 口をぱくぱくと、餌を乞う金魚みたいに開け閉めして、面白いなコイツなんだその顔。


「な、なっ、な……何を言ってるんですか先輩トチ狂ったんですかなんなんですかっ!?」

「いや、せっかく一緒に帰るんだし」

「理由それだけですか!?」

「仲良くしようぜ。見せつけてやろうじゃないか」

「何を!? そして誰に!?」

「ダメか?」

「いやダメとかダメじゃないとかいう以前にですね!?」

「イヤか?」

「――――…………~っ」


 顔を真っ赤にして、ものすごい葛藤を乗り越えた先で。

 そして、白石は俯いて小さく言った。


「……イヤじゃ、ないです……けど」

「ほいじゃあ」


 俺は白石に近づき、その右手を左手で握る。

 白石が「ああそんなあっさり!?」と真っ赤な顔で叫んでいた。

 シャイだなあ、コイツ。


「よし、そんじゃ行こうぜ」

「う、あ……はい」

「おいおいテンション低いぜ、琉理!」

「ぱ」


 白石が呼吸困難に陥っていた。


「どうした?」

「な、なま、名前いまなまえなななな」

「いいじゃん、俺とお前の仲だろ! もっとイチャつこうぜ」

「先輩マジでどうしたんですか何か拾って食べたんですかもうなんか逆に怖いんですけど」

「先輩なんて他人行儀な呼び方するなよ!」

「聞いてますか、ねえ、先輩!? いつもの先輩に戻ってください! わたしが悪かった(?)ですからあ……っ!!」

「先輩じゃない」

「あうあ。……え、えと、け……けい、慶、太……せんぱい?」

「違う!」

「違うですか!?」

「ダーリンと呼べい」

「うあああああああああ先輩が壊れちゃったあぁぁぁ……」


 頭を(片手で)抱える白石。なんだか、普段とは逆の立場だ。

 ……ちょっとだけ楽しくなってきた。


「いやー、琉理の家に行くのは初めてだからなあ。楽しみだよ」

「あの。家にまで招待するとは言ってないんですけど……」

「送ってやってんだから茶くらい出せや(小声)」

「あっ! よかった、いつもの先輩だ!」

「いいから歩けよ遅いんだよ」

「……。でも先輩から手を握りたいって言ったんですよ?」

「うるさいな恥ずかしいだろ早く帰りたいんだよ」

「やだなー先輩、そんなに恥ずかしがることないんですよー?(大声)」

「元の白石に戻してしまった……」

「えい」


 ぎゅっ、と腕を握り締めてくる白石ってうええぇぇい!?

 そこまでしてくるのは予想外! 想定外! どうしたコレどうしたお前!?


「ふふん」


 と勝利の笑みを浮かべる白石。どうあっても自分が優位に立たなければ気が済まないのか。

 いいだろう。そちらがその気なら、こちらにも考えがある。

 俺は繋いでいたてを一度離し、握り方を変える。指を一本一本絡ませるように。

 はっとする白石。気づいたようだがもう遅い(意味不明)。


 そう――これがいわゆる恋人繋ぎ!


「……っ!」


 と今度は、腕をさらに強く抱き寄せる白石さん。

 ……あのちょっと。あの。その。胸。


「……当たってんだけど」

「小さいからお気に召しませんか?」

「お前、俺に勝てればなんでもいいのか」

「うるさいです。お嫌いなら離しますけれど?」


 ……いや嫌いではないですよ? むしろね。もう。うん。

 とまあそんな勝負はともかく、俺は視線を辺りに巡らせた。

 すると、背後。道の先。わかりやすくも通りの角。

 何者かの気配を、というか姿を確認した。……案の定だ。


「――白石」

「はい?」

「ここで待ってろ」


 言うなり手を離し、俺は後ろへと駆け出す。

 その前から向こうも気づかれたことには気づいたのだろう、逃げ出していくのが見えていた。


「――先輩!?」


 背後で白石の声。だがそれどころじゃない。

 俺だって、何も馬鹿というわけじゃないのだから。わかっていた。

 というか察してはいたのだ。


 おそらく――白石がストーカーの被害に遭っているのだと。

「まさかの急展開」

「それな。書き直したねん」

「しかしまあ『クソが!』って叫びたくなる話だな」

「それある」

「お前の作品のヒロインがデレない理由がなんとなく見えた」

「ちなみに教室主義者の末吉くんはクロスです」

「宣伝しやがった……」

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