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擬音祭

 ――擬音祭ぎおんまつり

 それは年に一度、擬音語以外を口にしてはならぬという決まりの下に開催される神聖な催しである。

 その起源は古の時代にまで遡り、一説には平安に御代に端を発するという。

 朝廷の御霊会ごりょうえ――すなわち鎮魂のため御霊みたまと交流を持つことが目的とされた擬音祭では、言葉の通じぬ世界にまします祖霊と、それでも意志を疎通しようと、擬音語のみが用いられたという。

 魂の交感に、言語など必要とはされない。

 ただ音で、感覚のみによって、お互いの意思を感じ合うのだ。


 ――そして現代。

 祇園祭は、秘密結社オノマトペによる絶対的な支配を受けていた。



     ※



「今日こそ決めてやる――」


 吉岡よしおか義男よしおのそんな決心を、後押しするものなど何もなかったにせよ、けれど邪魔するものもないはずだった。

 擬音祭のラストを飾るこの場所で、今日こそ美菜みなちゃんに告白するのだ。

 ロマンチックな夜の祭の雰囲気さえあれば、あとは流れで行けるはず。義男はそう確信している。ちょっと足りない勇気の力を、この擬音祭から借りるのだ。

 問題と言えば、擬音祭では擬音語しか喋れないということだったが――その程度、さしたる障害にはなり得ない。言葉ではなく、心で通じ合うからこそ、擬音の夜で僕たちは恋人になれるのだ。

 擬音の祭で結ばれたカップルは、未来永劫、幸せに暮らせるというジンクスもある。


「――お待たせー」


 ちょうど、待ち合わせの場所に美菜ちゃんが現れた。

 少し歩きづらそうな、控えめの速度。それもそうだろう、今日の美菜ちゃんは可愛らしい浴衣で身を包んでいたのだから。帯を見るに、きちんと着付けてもらったのだろう。

 この夜のために、美菜ちゃんも気合いを入れてくれている。のだと、思う。

 そんな思考が力になってか、義男もまた心意気を充填し直した。


「待ってないよ。僕も今来たところだから」

「そっか。えっと……それじゃ、行く?」

「うん。……浴衣、その……似合ってるよ。うん、可愛い」

「そ、そっかな……」


 照れくさいのだろう。美菜ちゃんは前髪を弄って軽く俯く。


「えへへ。ありがと、義男くん。嬉しい」

「いや……えと。それじゃ行こうか」

「……うんっ」


 美菜ちゃんの返事を待って、そして並んで歩き出す。

 この時点でもう、義男は天にも昇る気持ちだ。今死んだって後悔はない。

 いや、んなわけあるか弱気になるな。義男は首を振る。

 最初からだ。今ここから攻めていくんだ。勢い込んで声をかけた。


「――その、歩きづらい……よね?」

「んと、……少し。人も多いし。あ、でも気にしなくていいよ! ちゃんと着いてくから」

「……でも、はぐれたらまずい……よね?」

「あ、……うん」

「だからさ。――手、繋いでも……いい、かな……?」


 その提案に、美菜ちゃんは顔を真っ赤にして視線を下げてしまう。

 すわ早まったか。義男は狼狽えた。やっぱり僕みたいなのが調子に乗るべきじゃ……!


「……じゃあ、義男くん」

「うぇ?」

「しっかり、繋いでてね? はぐれないように」

「……うんっ!」


 ふたりの手が、恐る恐る触れ合って、それから固く結ばれた。

 祇園の夜は、まだ始まったばかりである――。



     ※



『――ぴかぴか』

『きらきら』

『ぬるぬるしゅばっ。いちゃいちゃ。ぴかっ』

『ぬるぬるしゅばっ。いちゃいちゃ。きらっ』

『じっくりねっとりぴかっ』

『じっくりねっとりきらっ』

『ぴかぴか』

『きらきら』



     ※



 義男と美菜は《擬音区域》に突入した。

 擬音祭の期間中、擬音の街の中心を貫く目抜き通りでは、擬音語以外の発声が禁じられている。祭の関係者だろうと地元の人間だろうと、あるいはただの観光客であろうと絶対だ。その決まりに例外はなく、誰もが擬音以外でコミュニケーションを取ることは許されない。

 この仕組みを知らずして擬音を語ることはできず、また知らなかったからといって許されることでもなかった。神聖なる掟を破ったものには、おそろしい厳罰が科せられるのだ。

 そう――秘密結社オノマトペの手によって。


「ふわふわー」


 美菜が蕩けた笑顔で言った。

 たぶん、気持ちがふわふわするほど綺麗だね、とかまあそんなような意味だろう。いや、わっかんないけど。

 実際、義男だってとてもふわふわしている。天にも昇るような心地だ。というか完全に浮き足立っているまである。


「くいくいっ」


 と、そんなことを呟きながら美菜が義男の袖を引っ張る。

 振り向いた義男に、美菜は一軒の出店を指で指し示して見せた。おそらく、寄っていこうということだろう。

 わかったよ――そう言おうとして、義男は口籠る。

 危ないところだった。普通に返事をしてはならないのだ。ここは擬音街なのだから。

 しかし、肯定の返事はどのようにすればいいのだ。それっぽい擬音が浮かんでこない。

 しばし迷った末、義男は敬礼のジェスチャーを取って言った。


「しゃきーん」


 ぶっちゃけ意味わからないし、正直言って義男の《擬音使い(ギオニスト)》としての実力がかなり低いものであると窺える下手さであったが、構わない。雰囲気さえ伝われば。

 実際、美菜は義男の下手くそな擬音使いを見て、くすり、と楽しそうに微笑んだ。


 このときの義男は、擬音使いの下手さが悲劇を招くなどと考えていなかったのである。


「ぺこぺこ」


 ふたりが近づくと、いかにも人のよさそうなおじさんがたこ焼きを作っていた。

 頭を下げる擬音で来客を歓迎する。

 じゅうじゅうと香ばしく焼ける匂いが、義男の食欲を一気にそそる。やはり屋台での買い食いは、普通の食事と違うベクトルにあると思うのだ。

 美菜もまたお腹を押さえていた。

 ここは男を見せるとき。義男はそう確信する。


「しゅばーん」


 もう言わなくてもいいようなことを言いながら、蝦蟇ガマ口を取り出す義男。

 指を立て、ジェスチャーでふたつ購入するという意志を店主のおじさんに見せる。おじさんは両手で指を六本立てて返してきた。ひとつ三百円、ふたつで六百円という意味だろう。安い。屋台にしてはとても良心的だ。

 言葉を介さないコミュニケーションの成立に、義男の心が温まる。

 いや、擬音を使えよ、という話ではあったのだが。それを突っ込む人間もいない。だって喋れないのだから。

 お金を払ってパック入りのたこ焼きを手に入れる義男。ありがとう、と口では言わず視線だけで微笑んでみせる美菜に笑みを返し、ふたりで分け合ってたこ焼きを食べた。

 ふたつ買っているのに。わざわざ。ちなみに義男のほうが多めに貰った。お金を多く払ったから、というわけではなく。美菜にひと舟は多かったということだ。


 しあわせだった。こんなにしあわせな日が人生にあり得ていいのだろうかと思った。

 いいんだ。いいに決まっている。これまで真面目に生きてきた、その集大成が今日という夜なのだ。義男はもはや有頂天にまで至っている。

 浮かれる気分が抑えられない。顔の筋肉が自然に弛緩し、気を抜くとすぐニヤけてしまいそうだった。

 ――この気持ちを擬音で表現するならなんていうんだろうか。

 うきうき? はぴはぴ? ぱらいそ?

 ああもうなんか擬音ですらなくなっている。でもそれさえどうでもいい。


 もちろん、これで全てが達成されたというわけではない。

 本日最大の――いや、あるいは義男のこれまでの人生においてさえ最も大きなイベントがまだ残っているのだから。

 たこ焼きを食べ終わり、その後もちょっとずつ分け合って屋台を冷やかしながら、手を繋いでふたりは歩く。次第にひと気のない方向へ進んでいるのは……意識してのことか、あるいは超自然的な何かが働いているのだろうか。


 ――告白しよう。

 義男は、ついに決心した。その一歩を踏み出そうと思った。


「ちょいちょい」


 と、義男は大通りから外れた方向を示す。そちらにはベンチがあり、祭の喧騒から離れて少し休息を取ることができる。地元民だけが知る穴場スポットだ。

 その意図は美菜にも伝わったらしい。彼女は少しだけ上気した表情で微笑むと、義男の手を引くように、率先してベンチのほうへと誘ってくれた。

 気持ちが、通じ合っているということだ。

 遙か太古からの霊たちが今、義男の未来を祝福しようとしてくれている。

 そんな確信があった。


 そして、ふたりはベンチに腰を下ろして休憩する。


「ごくごく」


 と義男は飲み物の擬音。喉が渇いたかな、飲み物を買ってくるよ。

 そういう意思表示だった。ベンチで美菜を待たせ、近くにある自動販売機まで向かう。

 飲み物を買って帰ったら――ついに告白だ。

 美菜は受けてくれるだろうか。勝算はあるつもりだった。けれど――いや、ここで弱気になっても仕方がない。

 あとはなるようになれ。出たとこ勝負で向かうのだ。

 冷えたお茶を購入して戻る義男。ベンチで待つ美菜が、こちらに手を振ってくれている。

 義男は、片方のペットボトルを彼女に手渡した。そして美菜の隣に座る。


 さあ、告白しよう。


 そう思って、けれど――義男の口は動かなかった。

 大事なことを忘れてしまっていたのだ。

 そう。ここは擬音の街。そしてこの日は擬音祭の夜である。

 擬音以外は喋れない。

 そのことを、忘れていたわけじゃない。というかきちんと覚えていた。覚えていた上で、擬音祭を決戦の舞台に決めたのだ。

 だが、肝心なことをすっかり決め忘れていた。

 擬音祭では、「好きです」とか「付き合ってください」とか、そんなありきたりな告白はできない。いや月並みかどうかとか関係なくて、単純に言語を口に乗せられない。

 告白もまた――擬音語で行わなければならないのだ。


 どうしよう。

 なんて言うべきか考えてないぜ。



     ※



『めらめら』

『めらめら』

『めらめらめらめら』

『めらめらめらめら』


『めらめらめらめらめらめらめらめらめらめらめらめらめらめらめらめら――』



     ※



 ――どーしよ。

 義男は盛大に迷っていた。恋のラビリンスの渦中にいた。

 いくら考えてみても、告白に適した擬音が思い浮かばなかったのだ。何が擬音祭で成立したカップルはしあわせになる、だ。そもそも成立のしようがないじゃないか。とんだトラップじゃないか。義男は祖霊に恨みをぶつける。

 だいたい擬音語と擬態語じゃ意味が違うだろ。どうなってんだよ、その辺の括りは。両方合わせて擬声語で括っちゃうのは擬音祭の起源的に不適切なんじゃないの? 畜生め。

 もはや何を恨んでいるのかわからない義男である。


「……?」


 きょとん、とした表情で美菜が見上げてくる。

 黙り続けている義男を、不自然に思ったのかもしれない。

 ――いいや、もう。

 気持ちが通じ合っていれば、きっと伝わるだろう、何かしら。

 義男はそう考えることにした。だから告げる。


「どきどき」


 胸を抑え、義男は緊張を示すようにそう言った。君といると心が締めつけられるように苦しいんだとか、なんかそんな感じの戯曲的なアレだ。戯曲とか観たことねえけど。

 美菜は瞳を細めると、どこか心配そうな表情で義男の背に触れる。


「さすさす」


 優しい手つきで、背中を撫でられた。ああんもう可愛いよう何この子抱き締めたい。

 じゃねえよ違うそうじゃない。なんだか誤って伝わっている気配。

 黙りこくっていたのがまずかったのか。どうやら美菜は、義男が物理的な意味で心臓に痛みを感じていると判断したようだ。そうじゃないんですけど。


「ふるふる」


 義男は首を横に振った。違うということを伝えるためだ。

 首を振るのに「ふるふる」言うのはだいぶ怪しいというか正直それどうなん? みたいな感じがあるが、四の五の言ってはいられない。四の五のはそもそも言えない。

 要するに、そういうことではないとさえ伝えられればいいのだ。


「ぽんぽん」


 すると美菜に頭を、軽く触れるように撫でられた。

 ――あれ。これ、また伝わってねえな?

 一瞬で義男は悟った。あれだ。たぶん強がっているのだと判断された模様。どうしよ。

 なんだか予想外の方向に話が進んでいる。このままではいけない。

 どうにか。どうにかして気持ちを伝えなくては――。


落ち着いて(すぅー)深呼吸して考えよう(はぁー)

息が苦しいの(あわあわ)?」

こっちに来て(ちょいちょい)

少し苦しいってこと(ちょいちょい)?」

いやだから違くて(ぶんぶんぶん)

頭痛までしてきたの(おろおろおろ)!?」

この胸の高鳴りが(どきどき)! 伝わらないかな(ふわふわ)!?」

誰か呼ぶ(きょろきょろ)? それともお水飲む(ごくごく)?」

君が好きなんだ(らぶらぶっ)!!」

お家が恋しいの(らぶらぶ)? そろそろ帰る(いそいそ)?」

なんでやねんなあ(すがががーん)!!」


 駄目だった。ちっとも伝わりゃしねえ。

 だいたいもう擬音かこれ? 相当ダメだろ、いろいろと。

 義男は頭を抱える。

 ああ、やはり駄目だったんだ。自分のような冴えない高校生が、歴史ある擬音祭に縋ろうだなんて、そんな考えがそもそも失敗だったんだ……。

 脳内を、胸裏を、絶望に支配されてしまう。

 短い夢だったけれど、ああ、俺はとても幸福だったさ。とか、なんかもうそんな達観すら獲得するほどだった。

 しかし。このとき。

 擬音の神は、まだ義男を見捨ててはいなかった。


「――ぎゅ……っ」


 唐突に。義男の身体が、何かとても温かくて柔らかい感覚に包まれる。

 それが頭を美菜に抱えられたからだと気づくまで、義男は実に三十秒近い時間を必要としてしまう。

 ……なんという、ことでしょう……。

 あれほど冷え切って、凍りついたかのように硬直してた義男の心が、甘い温かさによって溶かされていくではありませんか……。

 素晴らしい。

 気持ちいい。

 なんか、こう名状しがたい桃々とした(?)膨らみが顔に当たってる感あるけど、これ言及しなくていいよね別に……。ああ、それにしても、美菜ちゃんって意外と着痩せするタイプなんじゃないですかコレはぁ……。


 ――Oh,Yes……!


 義男の脳が溶け、脊髄が砕け、なんか液体みたいなものが目とか汗腺とか耳とか鼻とか、とにかく全身の穴という穴から漏れ出ていくみたいな気分だった。

 ――超、気持ちいいぃぃ……っ!!

 このとき、義男は完全に思春期ど真ん中のエロ男子高校生になり下がっていた。おそらく美菜は、苦しそうな(勘違いだが)義男をなんとか楽にしてあげるために、たとえるなら聖母の如き慈愛でもって義男を抱き締めたのであろうが。

 生憎と、義男が感じているのは聖ではなく性だった。これだから高校生は。


「よしよし」


 美菜が言う。それはもう怪しいという基準を通り越し完全に擬音でも何でもなかったが、義男的にはどうでもよかった。もう本当に心底から何もかも完璧にどうでもいい。

 俺が義男という名前で生まれ育ったのは、きっとこのとき美菜から「よしよし」と言ってもらうためだったのだ。今、生きる意味を、知った――。

 この感動は生命誕生の感動だ。宇宙が創造され、天地が開闢され、人類という種がこの母なる惑星に根を張り、水を吸い、歴史を育んできた――その再現なのだ。

 義男は、だから――このときなんの気負いもなく、ただ自然にこう告げた。


「――好きだよ。美菜ちゃん」


 秘密結社オノマトペが姿を現したのは、その瞬間であった。



     ※



「――確保がっしり――!!」


 茂みから、突如として謎の黒装束集団が現れた。


「どぅおわあっ、なんだあっ!?」


 驚きのあまり普通に言葉を作ってしまう義男。だが、そんなことはもう関係がない。

 彼らオノマトペが現れた時点で、義男に未来は残されていないのだから。


 ――秘密結社オノマトペ。

 それは擬音祭のためがだけに結成され、高度に訓練された一流の擬音使い(ギオニスト)のみで構成される戦闘集団。

 擬音の夜を秘密裏に監視し、掟を逸脱するものがあれば確保、断罪する生粋の処刑人ばかりである。

 義男は一瞬のうちに美菜から引きはがされ、その両腕をゴツい体格の黒尽くめに押さえられてしまう。

 そして、黒尽くめのうち、ひとりの男――なのかどうか、謎の狐面のせいで判断できないが――が義男の前に立ち、片手のトランシーバー越しに声を発する。


「――こちらチームP(ぴかぴか)

こちらチームK(きらきら)

うざいカップルを(いちゃいちゃ)確保がしっどうぞ(ぴかっ)

了解(きらっ)掟に則り厳罰を(でんでろでん)どうぞ(きらっ)

こんな獲物は久々だ(じっくりねっとり)リア充爆ぜろ(どかーん)どうぞ(ぴかっ)

まったくだ(こくこく)最上の罰が相応しい(くけけけけ)どうぞ(きらっ)

通信終わる(ぴかぴか)

健闘を祈る(きらきら)


「いや、なんだお前ら!?」


 義男は普通に突っ込んだ。なぜアレで会話が成立する。わけがわからない。

 しかし、彼らは最高ランクの擬音使い(ギオニスト)。この程度は造作もなかった。


「――黙れっ(しーっ)!!」


 暴れる義男を、上から押さえつけるようにトランシーバーの男が言う。

 彼こそは秘密結社オノマトペの中でも、ぴかぴか分隊を任される最上級の実力者。その名を白鳥沢はくちょうざわ鶴彦つるひこ。彼氏いない歴四十二年イコール年齢の猛者である。

 などという事情を、当然ながら義男は知らない。

 秘密結社は、秘密であるからこそ秘密結社なのだから。


擬音祭の掟に従いどぅるどぅるどぅるどぅる……貴様を処刑する(でーん)!!」

「いや何言ってるかわかんねえけど!? 何その下手くそなドラムロール!?」

うるさいッ(しーっ)! まだ罪を重ねるか(しゃばどぅびどぅ)!!」

「待て待て待て!? 今のルビは明らかに無理があるだろ!?」

一流擬音使いに(しゃらららーん)間違いはない(ぎっこんばったん)

「もう擬音でもなんでもねえじゃねえか!!」

「うっさい馬鹿!」


 白鳥沢は普通に言った。

 それから慌てたように咳払いをして、


「んん。――リア充め(ぺっ)羨ましい(いらいら)嫉妬するぜ(めらめら)

「よくわかんねけど、要するに単なる嫉妬かよ!!」


 義男の訴えは、ぶっちゃけ割と正当だった。

 だが相手は悪の秘密結社オノマトペ。そのような甘えは通じない。


「めらめら!」「めらめら!」「めらめら!」「めらめら!」「めらめら!」「めらめら!」「めらめら!」「めらめら!」「めらめら!」「めらめら!」


 モテない男たちの、嫉妬の大合唱が夜の擬音に響いていた。というか夜に擬音が響いていた。

 それは燃え盛る炎の勢い。暗黒の色合いに染まった火炎が熱するのは、いつだって祭のときだけテンション上げるムカつくリア充だけなのだ!

 こうして義男は、オノマトペに捕らえられた。

 その後、彼がどんな人生を辿ったのか――知る者はまあ普通にいたのだが、少なくとも美菜とくっつくことはなかったという。


 ――十年後。

 その年も、擬音祭の時期が訪れていた。

 遠くの山に見える、大文字焼きの輝きを眺めながら、黒尽くめの男がひとり、トランシーバーを片手に呟いた。


「めらめら」


 そう。彼こそはチームMを率いるリーダー。

 かつてオノマトペに捕らえられ、その後の人生を大きく変えた伝説の人物。

 その名を――。


「めらめら」


 めらめら。めらめら。めらめら。

 夜の擬音に、ただ、炎の輝きだけがいつまでも揺らめいていた。

 めらめらと――めらめらと――めらめらと――。

 ところで、毎回あとがきに載せている会話文は、ぼくが短編を見せたときの友人の感想というか、反応です。

 だいたいの場合、なぜか罵倒されています。解せぬ……。


 今回は書き下ろしなのでありません。

 だから感想くださいね!

 ……こんな話に、どんな感想が来るのかはわかりませんが(小声)。

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