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第二十話 世にも奇妙なストライキ

 ここはとある地方都市。一見のどかで平穏な町だが、度々悪の影が忍び寄る。

 悪の権化を排除し、平和を地に取り戻す者。それが、我らがヒーロー。我らがご当地ヒーローなのだ!


「な、何故我はこの公園にばかり派遣されるのだ。いくら何でも、多過ぎるのでは……」

 町随一の憩いの場である公園に、実に湿っぽい愚痴がこだまする。

 声の主はクラブソルジャー。頭部と左腕は人間のものでありながら、右腕の代わりに巨大なカニのはさみを持つ、悪の組織『ダークグローリア』に属する怪人である。本来ならば漆黒のマントをなびかせながら、人々を恐怖のどん底に追いやっていたはずだったのだが。

「ここに来るのはもう、二十回目だぞ。こんなことがあっていいものなのか」

 彼が嘆くのも無理はない。普通怪人というものは、色々な地域に出没命令を下されるものであって、同じところにしつこく派遣されるというケースは滅多にない。もし同じ地域に出没するにしても、前回の場所とは異なる施設などに姿を見せるものだ。

「そのせいですっかりご近所の人間どもと顔なじみになってしまうし、無駄にこの周囲について詳しくなってしまうし……。段々、悪事を働きづらくなってきたというか……はっ! いかんいかん。このように堕落しきっては、総裁に対する忠義を全うできぬ。そもそも、総裁の采配に疑問を抱くことこそが反逆に通ずる愚考であって」

「あ、クラブソルジャーさん」

「おお、薫子殿」

 振り向いてみると、そこには笑顔を湛えた薫子の姿が。その手には、手提げ付きの小さな箱を持っている。

「どうかしたんですか。少しこわばった顔をなさっていたようですが」

「ちょっと、悩んでいることがあって……いや、そなたに愚痴をこぼしても仕方のないことなのだが」

「そんなことないですよ。私の力ではどうすることもできないかもしれないですけど、話を聞くくらいならできますから。誰かに話すことで、楽になることもありますよ」

「か、薫子殿……」

 以前から思っていたことでもあるが、彼女は何て優しいのか。あのトロワーファイブどもと同じ人間であるとは思えないほどの、女神のような心持ち。例え自分が悪の怪人と自覚していても、流石に気持ちが揺らいでしまう。

「この間、すごくお気に召していたみたいなので、またプリンを作ってきました。そこのベンチに座って食べながら、少し話しませんか?」

「う、うむ……」

 クラブソルジャーは言われるままにベンチに腰掛け、箱から取り出されたプリンとスプーンを受け取る。

 薫子はその隣にそっと座り、微笑みを浮かべながら彼の横顔を見つめた。

「どうぞ。食べながらでかまわないので」

「わ、わかった」

 カニ怪人は落ち着かない様子で彼女の手作りプリンを口に運びながら、ポツリポツリと語り始めた。

「薫子殿と出会う前から、我はこの公園に何度も出没しておってな」

「近所で噂にはなっていたので、薄々知ってはいました。でも、何回くらい?」

「……今日で通算、二十回目だ」

「えっ。怪人って、そんなに同じ場所に派遣されるものなのですか?」

「やはりそう思われるか。我もここ最近、ずっと疑問に思っているのだ。何故総裁は、我に何度もこの公園に出没するよう命じるのか。仕える主君の考えがわからず、戸惑っている。やはり、凡人が崇高な思想を持つお方のことを理解するのは叶わぬことなのか」

 生真面目なカニ怪人は、空を見上げながら一息つく。

 実は、総裁は何の考えもなしに「ここの地域のこと、一番よくわかってるのこいつだよね。なら、任せ続けてベリーオッケー☆(意訳)」みたいなノリで命令を下しているだけなのだが、そこに行く着くためには彼の忠誠心はあまりにも高過ぎた。

「そうですか。それはちょっと困ったりしますよね」

 くだらないことに苦悩する怪人相手に、薫子は真剣に聞き入りながら相槌を打つ。

「うーん……」

 しばらく黙り込んでから、彼女は再び口を開いた。

「でもそれって、もしかして結構すごいことじゃないですか」

「すごい?」

 一体、何がすごいというのだろうか。全く意図が読めない。

 クラブソルジャーが首をかしげているうちに、薫子はさらに続けた。

「だって怪人って、普通はすぐヒーローに倒されたりしてしまうものなんですよね? それなのに、クラブソルジャーさんは今までずっと生き延びてますよね。こんなのって、滅多にないんじゃないですか」

「た、確かに」

 怪人には、ザコの戦闘員から単独で地域を襲撃することを許された者までピンからキリまで存在しているが、所詮は使い捨ての存在。その寿命は一年も持てば運のいい方であると言えるが、クラブソルジャーの場合は十年も生きながらえている。しかも、かなりの頻度で、とんでもないヒーローが守っている地域に出没しているというのに。薫子の指摘の通り、すごいと言えなくもない。

「きっとその総裁さんは、クラブソルジャーさんの実力を買ってこの地域に派遣してるんですよ。あの、どんな手段でも平気でやってのけるトロワーファイブの猛攻を受けても、あなたは生きている。それだけで、充分すごいんですよ」

「そう……なのか?」

「そうですよ。絶対、間違いないですって」

「…………」

 人ならざる自分に対し、ここまで熱心に言葉をかけてくれるとは。こんなに温かい気持ちになったのは、生まれて初めてかもしれない。

 クラブソルジャーはプリンを食す手を止め、無言のままうつむく。そして。

「どうしたんですか。また、泣いてるんですか?」

「あ、ああ。今日のプリンもまた、格別に美味かったものだから」

 目からこぼれてきた涙を、左手の甲でゴシゴシと拭う。口元を軽く緩めてから、薫子の方に顔を向けた。

「本当に……その。ありがとう……。我には、これくらいしか返すことができぬ。どうしたらいいものか、いまいちわからぬのだ。人間に優しくされたことなど、この地域に来るまでなかったものだから」

「……何もしなくていいんですよ、別に」

「!」

 薫子はそっと手を伸ばし、クラブソルジャーの右腕のカニばさみに乗せる。その行動に戸惑う彼のことをじっと見据えながら、さらに言葉を継いだ。

「強いて言うなら、もっとあなたと一緒にいたいです。私は、クラブソルジャーさんに会えるだけでとても幸せですから」

「し、幸せ? 我と、あ、会えることが……?」

「……あっ! いやっ! ご、ごめんなさい! 私、私っ……」

 自分の言ったことで耳まで真っ赤になってしまった薫子は、慌てふためきながら目を泳がせる。手の平で顔を覆いながら、パッとうつむいてしまった。

 クラブソルジャーもクラブソルジャーで、顔をゆでガニ色にしながら、必死にパニックに陥った彼女を落ち着かせようとする。

「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! に、人間である私が、こ、こんな立場をわきまえないようなことっ」

「だ、大丈夫だ! そんなに取り乱さなくてもいい。嬉しかったから。我も怪人でありながら、至極嬉しいと思ったから!」

「えっ……嬉しい……?」

「え、あ、いや。いやいや。いやいやいや……」

「そこまでだ、怪人!」

「あ」

 二人が互いにパニックを引き起こし合っているところで、どこからともなく、高らかな声が飛んでくる。

 彼らが振り向くと、そこには逆光に照らされたいくつかの影が差し込んでいた。

「す、すごいタイミングでヒーローが……。プ、プリン。とりあえずプリン、どうしますか?」

「いや。た、たたたた食べるぞ。薫子殿が作ってくれたものを、そう易々と残せるものか……ゲホッ!」

「あっ! そんなに一気にかき込むからっ!」

 冷静さを完璧に失い、余っていたプリンを口に頬張り器官に引っかけてしまったクラブソルジャー。

 薫子は差し込む影の動きを気にしながら、その背中をさすった。

「私、そろそろ行かないと……。大丈夫ですか?」

「うぐっ! んっ! ぐっ……の、飲めた」

「よかった。では、私はこれで」

「何から何まで、本当にすまなかった。コホッ」

 薫子が去るのを見届けてから、再び逆光の方を向く。

「はあ……はあ……。き、貴様らも、物事にはタイミングというものが。少しはこちらの都合も考えぬか」

「そんな無茶言うなよ。あんたも若干、俗っぽくなってきたなあ……とうっ!」

 どういうわけかは一切不明であるが、謎のBGMが流れてくる。そして、それと同時に影の持ち主が正体を現した。

 腕に特殊なブレスレットを光らせ、シャレていながらも高性能であるスーツを身に着けている。仮面をつけ、素顔を隠したヒーローが、その名を地に轟かせる!

「正義の戦士、トロワーレッド!」

「博愛の戦士、トロワーピンク!」

「「三人合わせて、トロワー……あれ?」」

 普段ならビシッとポーズを決めているところであるが、異変に気づいたヒーロー達は動きを止める。

「何か、おかしくないか?」

「う~ん。あ、ブルー君! ブルー君が足りないんですよお!」

 そう。超をつけても差し支えのないレベルの毒舌を持つ、あのブルーがいないのだ。

 色こそレッドよりも目立たないが、その存在感は半端ではない。それが姿を見せないのだから、困惑して当然である。

「貴様ら近頃、メンバーが欠けて登場することが増えてきたのではないか? まあ、ブルーがいない方が我としては気が楽ではあるが」

「失礼なことをおっしゃいますね。僕ならここにいますよ」

「むっ」

 クラブソルジャーが振り向くと、そこには茂みからブルーが顔を出していた。しかしどういうわけか、草の中に身を隠すようにして、首から下は決して出そうとしない。

「おい、ブルー。さっさと出て来いよ。さっきからモソモソしやがってよお。まさか、まだ着替えが終わってないとか?」

 念のため復習しておくと、トロワーファイブ達は変身などではなく、いちいち着替えてヒーロースーツを身につけている。なので、着替えという表現で一応間違いではない。

 ……本来ならば、ヒーローが変身しないとはこれいかに? と問題視されるべき案件なのだが、ツッコんでも無駄なのは以前の戦いで既に実証済みである。

「着替えましたよ。ですが、今日は勘弁していただけませんか。どうしても、皆さんの前に出たくない事情というものがありまして」

 皆の前に出たくない事情とな?

 わけのわからぬ言い分に、クラブソルジャーは首をかしげる。それよりも不満を募らせるのは、仲間であるレッドとピンクだ。

「何だよそれ、ストライキかよ!」

「ずるいじゃないですかあ! あたしだって働きたくないのにぃ~」

「まあ、ストライキと受け取られても止む無しですね。しかし、僕の目的は日頃からヒーローをこき使うブラック体質の組織に抗議することではないですし、現場に顔を出しているだけ遥かにマシであると言えるでしょう」

「いや、ブルーよ。顔を出しておいて戦いに参加しないこともいかがなものかと思うが」

「どうせ今回も悪事の一つも働いていない怪人が何を言いますか。職務怠慢の常習犯に、つべこべ言われたくありませんね」

「うぐぐ……。痛いところをつきおって」

 とりあえず正論じみた発言を試みたクラブソルジャーであったが、ブルーの強烈な猛毒にあえなく撃沈する。

 次に舌戦を挑んだのは、彼と犬猿の仲であるレッドだ。

「おい、ブルー。ごちゃごちゃ言ってねえで、さっさと出て来いってば。てめえのせいで、こっちがどんだけ迷惑被ってると思ってんだよ」

「迷惑がどうこうなど、先輩が語れた立場ですか。いいですか、あなたは私情を職務に挟んでトロワーファイブの評価を大幅に下げ、失恋という実に女々しい理由で職務を放棄したわけですよ。それに比べ、僕は現場に来ています。戦闘こそ、事情により参加することは叶いませんが、遠くから的確に指示を出すなどのサポートに回ることは可能なのですよ? なので、あなたより迷惑になっていないことは明白です」

「誰が大幅に評価を下げた女々しい迷惑野郎だって? ああ? てか、何でてめえは戦えねえって言い張ってやがるんだよ。あ、もしかして、戦うのが恐いのか? それだったら、てめえの方がよっぽど女々しいんじゃねえの?」

「僕が女々しいですって? それは名誉棄損で訴えられてもおかしくない、暴言に等しいですね。僕だって、これでもヒーローの端くれですから。あんな悪事の一つも働けないカニ怪人相手に尻尾を巻いて逃げるほど、腐り果ててはいませんよ」

「さりげなく我を攻撃するのはやめぬか。何気に傷ついておるからな」

 メンタルが弱っている時に、飛び火が一発。哀れな怪人は苦りきった顔で彼らを睨むが、何の効果も表れない。

「大体、先輩の方がよっぽど女々しいと僕は思いますね。だって、フラれた後も女性に未練がましく言い寄ったり、終わった恋を引きずるあまり、業務に支障をきたしたりしているではないですか。この間なんてとうとう、ヒーロースーツを着て合コンに行って『俺、この町を守ってるヒーローなんだぜ!』アピールなんてして」

「そ、そ、それはっ! ど、どこがめっ女々しいっていうんだよ。ヒ、ヒーローってのは、お、お、男らしいってもんだろうよ」

「それを露骨にアピールするのが女々しいと……あ、失礼しました。あなたを女々しいなどと表現しては、全国の女性に失礼ですね。というよりも、こんなクズみたいな方を男らしいだの女らしいだの、人間基準で判定しようと試みる時点で全人類に対する冒涜に等しい行為であって」

「な、何だとてめえっ! 人がちょいとばかし下手に出てたらすぐこれだ。さっきまでは寛大な心で見逃してやっていたがなあ」

「それのどこが下手なんです? 自分で自分を寛大だと抜かす人に……あ、しまった。また先輩のことを人と言ってしまいました。かといって、動物に例えれば動物に失礼ということになりますし」

「誰が動物以下だとお! はあ? ざけんなよ? ああっ?」

「……この程度の挑発にあっさり引っかかるとは。少なくとも、アメーバ並の単細胞生物であることは間違いなさそうですね」

「誰がアメーバじゃああああーっ!」

 凄まじい毒舌漫才が繰り広げられる中、呆れ返ってその場に立ち尽くしていたクラブソルジャーがここであることに気がつく。

「何度ここに来ても、こいつらの脳内レベルに成長は見られないというわけか。……ところで、ピンクはどこへ行ったのだ」

 先程からレッドとブルーばかりが目立っていたため注意がそれていたが、よく見るとピンクがいない。もしや、こっそり抜け出して彼氏とやらとデートでもしているのだろうか。

「全く、あの女は。無断で職場を離れるなど、そこの男どもよりも性根が」

「つっかま~えた~!」

「!」

 どこからともなく、ピンクの声が聞こえる。

 顔を向けてみると、そこには驚くべき光景があった。

「は、離して下さい、ピンクさん!」

「そんなところに隠れてないで、さっさと一緒に怪人倒しましょうよ~。そんなストライキみたいなことをしたって、お給料が増えるわけじゃないんですから~」

 なんとこの女は、馬鹿二人が口喧嘩を繰り広げている隙にブルーの背後に回り込んで羽交い絞めにしていたのだ。いくら相手がぎゃあぎゃあ喚いていたにしても、ここまで気配を消せるものなのか。

 くノ一を連想させる華麗な技に対し、純粋に関心する怪人であるが、ブルーにとっては悲劇でしかない。必死に抵抗しながら、茂みの中でバタバタともがく。

「本当、お願いしますよ。今度、美味しいお店に連れて行きますから。もちろん、僕のおごりです」

「う~ん。美味しいお料理も魅力的だけどお、困ってるブルー君なんて滅多に見られないからなあ。やっぱ、今優先しなきゃいけないのはこっちでしょ。えいっ♡」

「うわあっ!」

 スーツによって強化された力で引き上げられ、とうとうブルーの全身が露わになる。

 その瞬間、彼の正面を直視したレッドとクラブソルジャーはピタッと停止した。

「いや、お前ちょっ……」

「な、何なのだ、それは……」

 本人の申告通り、ブルーは確かにヒーロースーツを身につけていた。だが、一同が着目したのはただ一点のみ。彼の胸元だった。

 そこにあったもの。それは、とてつもなくかわいらしいデザインをした大きなクマさんのアップリケ。とても愛らしいクマさんが、彼の胸でキラキラとおめめを光らせていたのだ。

「くくっ……」

 駄目だ、かわいい。あまりにも、かわいらしくて仕方がない。特に、憎まれ口を叩きまくる男の胸に、そんなものが存在していると思うだけで……。

「くっ……くくくっ。くっ!」

「ぶわっははははは!」

「ぬっ⁉」

 クラブソルジャーの我慢が限界に達する前に、レッドが公園内に響き渡るほどの声量で大笑いし始めた。

 腹を抱えて地面に転がる姿に、つい仰天してこみ上げてきていた笑いが収まる。

「せ、先輩! そこまで笑うことないじゃないですか! 僕だって、好きでこんなもの」

「ぎゃっはははは! 人に女々しいだの何だの言ってた奴が、クマちゃんつけてるだと? こ、こんなギャグ、そうそう見られたもんじゃ……ひゃっはははは!」

「ギャグでやっているのではありません! これは先日、あなたの母親にからまれてスーツを引っ張られましてね、その……破れたんです。操こそ守り切りましたが、他の大事な物を失ったと言いますか。それで、僕の母がスーツを修繕した結果こうなりまして……。つまり、先輩のお母様のせいでこうなったのですよ!」

 とても想像したくはないが、あの阿修羅にも勝るレッド母は、いつぞやの代打の後もひと暴れしていたようだ。ここまで影響を与えているだなんて、どこまでもおぞましい人物である。

「で、で、でも、クマちゃんはねえだろうよ。ひひっ。あの上品そうな母ちゃんが、クマちゃんを見繕ったってか?」

「よく覚えていらっしゃいますね。母はああ見えて、かわいいものが大好きなのですよ。ああもう、だから僕はあの人が嫌いなんだ……」

 レッドの言う通り、ブルーの母は参観日の際に一度だけ顔を出したことがある。和服を着込んだ婦人であったはずだが、それがクマちゃんを好んでいるとは。それを加味すると……余計に面白いではないか。

「ぶぶぶっ。あの母ちゃんがクマちゃんをチクチク縫って、それをお前が着てくる。こ、こんな笑える話っ……ぎゃっはははは! ざまあ! ざまあ! マジでウケるんですけど! いよっ。恥さらし! はっはははは!」

「ざまあとは何ですか! も、もう許せません。冷静沈着なのが売りの僕ですが、目には目を、歯には歯を。傷つけられた心は、物理的なダメージで返させていただきます!」

「きゃあっ。んもう、ブルー君ったらあ!」

 ブルーは強引にピンクを引きはがすと、ブレスレットからレーザーソードを取り出してレッドに切りかかる。

 だが、レッドは笑いながら地面を転げ、振り下ろされる刃を次々にかわしていく。

「ぶははっ! 最高! クマちゃん、クマちゃん……ひはははっ」

「くっ。すばしっこい方ですね。このっ! このっ! このっ!」

「ふははははーっ! ウケるーっ!」

 まるで出来の悪い喜劇のような展開に、全然ついていけないクラブソルジャー。アホらしいやりとりを目の当たりにしながら、眉をピクリと引きつらせる。

「我からすれば、貴様らのその無様な姿が一番ウケるーっ! なのだが。ああ、駄目だな。絶対戦う気などなさそうだ」

 こんなものに、いつまでも付き合ってはいられない。どうせ次回もここに派遣されるのだろうし、今日はこの程度でいいだろう。

 ふう、と一息ついてから、右腕をぶらつかせつつ彼らを睨む。

「さらばだ、ヒーロー達よ。……あーもう、馬鹿馬鹿しい。帰ったら角砂糖をつまみに一杯やろう」

 脱力の果てに肩をすくめると、怪人はブチブチと愚痴をこぼしながらいずこへと去っていった。

 それをちらりと見た三人は、しばらくポカンとすることもなくそれぞれのアクションを継続する。

「ぶわっははは! ぶはっ! ぶはっ! ぶははははっ!」

「ど、どこまでも憎たらしい人ですね。やはり、あの母親から生み出されたはあります。うおおおーっ!」

「いたあ~い。あ、何か二人ともめっちゃ面白いことやってる~。写メ撮って、呟いちゃお~っと」

 こうして今日も、地域の平和は守られた。

 ありがとう、トロワーファイブ! これからも、怪人の魔の手から人々を救い続けてくれ!

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