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第十三話 総裁降臨!?

 ここはとある地方都市。一見のどかで平穏な町だが、度々悪の影が忍び寄る。

 悪の権化を排除し、平和を地に取り戻す者。それが、我らがヒーロー。我らがご当地ヒーローなのだ!


「ようやく怪我は完治したが……」

 町随一の憩いの場である公園に、思い悩む声が流れる。

 声の主はクラブソルジャー。頭部と左腕は人間のものでありながら、右腕の代わりに巨大なカニのはさみを持つ、悪の組織『ダークグローリア』に属する怪人である。漆黒のマントをなびかせながら、人々を恐怖のどん底に追いやっていたはずだったのだが。

「いつもここで言っていた、例の台詞では誰も恐がらなくなってしまったな。一体どうしたものか」

 ベンチに腰掛けながら、湿っぽい溜め息をつく。

 他人には決して理解されないだろうが、これは彼にとって非常に深刻なものであった。

 クラブソルジャーはこの公園に出没するたびに「ぐわっははは! もっと恐れおののけ、人間どもよ!」という台詞を決まって吐いていた。だが、それは地域の人が慣れ過ぎてしまったために、いつしか彼が公園に現れた合図として扱われるようになってしまったのだ。それからというもの、例の台詞を口にするたびに子供は寄ってくるわ、話し相手が欲しい寂しい方々に囲まれるわ、魚屋から右腕のカニばさみを売ってくれないかと交渉されるわで、とにかく大変なことになるのである。

「やはりここは、人間どもをあっと言わせるほどの脅し文句を考えなければなるまい。悪の怪人として、日々精進せねば」

 クソがつくほど真面目すぎると同僚から度々揶揄されていることなどすっかり忘れ、クラブソルジャーは一人でブツブツ言いながら考え始めた。

「人間どもにとって、一番恐いものはおそらく死だろう。だからといって、流石にぶっ殺してやるなどと言いばらまくのも大仰な気もするし」

「じゃあ、へーい、人間達ぃ。我らと一緒に、闇のユートピアを作らなーい? てのはどう?」

「ううむ、それはいくら何でも軽過ぎるのでは。ここは悪の組織として、人間どもに威厳を見せつけておかねばのちのち面倒なことにつながりかねないしな」

「ううん、なかなかいいアイデアだと思ったんだけどなあ。脅し文句を考えるのって、簡単そうに見えて結構難しいもんなんだねえ」

「そう。この作業というのが実に苦労する。きっとヒーローどもは、このような苦労などみじんも知らずに生きているのだろうが……ん?」

 ちょっと待て。自分は今、一人でいるはずなのに、誰と会話をしていたのだ。そして、いつのまにやら隣に、強大な気配の塊が現れたような気が。

 クラブソルジャーは、おそるおそる気配がする方に顔を向ける。するとそこには、本来ここにいるはずではない人物が存在していた。

「そ、そ、そそそそ……」

 どっしりとした、貫禄のある体格。頭に生えた、黒く輝く二本の立派な角。そして、きらびやか装飾が施された重厚な鎧。何故か手にはペロペロキャンディーを持ち、しきりにそれをなめているようであるが、間違いない。怪人である彼が、その人物の識別に苦労するわけがなかった。

「総裁⁉ どうして総裁が、公園などにおられるのですか⁉」

「んー?」

 公園に派遣された一般怪人の隣に、ダークグローリアの最高指導者であるはずの総裁がどっかりと座り込んでいた。

 クラブソルジャーはあわててベンチから飛びのき、総裁に向かって立膝をする。

「あ、色々尋ねる前にあいさつをせねば。そ、総裁のご尊顔をこのようなところで拝めるとは。え、えっと。ほ、ほ、本日は非常にお日柄もよく」

「クラブちゃん、テンパり過ぎじゃない? 少しリラックスしましょうよー」

「総裁を前にして、リラックスなどできますか!」

 半ばパニック気味の部下を目にしてもなお、彼がペロペロキャンディーをなめる仕草をやめる気配は一切ない。

 そんな姿を前にしながらも、最高指導者の前では下っ端に等しい立場にあるカニ怪人は最低限の敬意を払い続けた。

「い、一戦闘員に毛が生えた程度のわたくし如きがあなた様にあれこれ問うなど恐れ多いですが、ご無礼をお許しください。ふう、今一度お聞きします。何故総裁が、この公園にいらっしゃるのですか」

「何って、視察よ、視察。僕ちんは確かに総裁という立場ではあるけれども、たまには部下達が派遣されてる地域がどんなものなのかと、自分の目で確かめるべきだと思ったの。だからこうして、総裁であるこの僕ちんが自ら赴いたってわけ」

「な、なるほど……」

 実際は、総裁はただ単に観光しに来ただけだったりする。

 数日前、彼が運動がてらアジト内をぶらついていたところ、部下達が人間の作る料理について、ダークグローリアで出される料理とは比べものにならないくらい美味であるとよだれを垂らしながら褒めちぎっていたのを偶然耳にしてしまい、それ以来人間の食べ物というのを口にしたくて仕方がなかったのだった。

 そんな事情を知らないクラブソルジャーは、総裁の咄嗟の言い訳を鵜呑みにして感銘を受ける。尊敬に値するレベルの総裁に対する忠誠心が、ここで真実を見定める能力の仇となったなどと夢にも思いもしないだろう。

「しかし総裁、一体いつからわたくしの隣に?」

「うーん。クラブちゃんが、脅し文句について悩んでる頃からかなー」

「ううむ。わたくし、総裁の気配に全く気がつきませんでした。流石は我らがリーダー。気配を消す力も一流でいらっしゃる」

「そう? そんなにすごかった? 怪人の中でもそこそこ強いクラブちゃんにだったら気づかれちゃうかなーって思ったんだけど、僕ちんもまだまだいけるねえ」

「当然ですとも。総裁は、ダークグローリア一の猛者。わたくしのような者など、足元にも及びませぬ」

「でも、僕ちんが考えた脅し文句が拒否されちゃったのは少しショックだったかなあ。僕ちん、完全に脅し文句ってものをなめてたもんなー。もうちょっと勉強して、言葉のセンス磨こうかなー」

「え……」

 ここで彼は、とうとう気づいてしまった。先程の会話相手が総裁であり、なおかつそれに対し平然とタメ口をきき、さらには総裁が出した案を当たり前のように却下してしまったことに。

 真実を悟ってしまったクラブソルジャーは、一瞬にして多量の冷や汗を額に浮かべながら、ガタガタと震え出した。

「き、気づいてなかったとはいえ、わたくし如きが総裁の案を却下したとは。ああ、これはダークグローリアの反逆に値する、つまり万死に値する行為。この場で自決してお詫び申し上げます!」

 左手で鞘に収められた剣を手にすると、漆黒のマントに隠れた安物の鎧を突き破って自らの腹を貫こうとするカニ怪人。

 総裁はそれに対し、特に慌てることもなくやんわりとした口調で諌める。

「まあまあ、クラブちゃん。そんなに興奮しないで。僕ちんがもうちょっときちっとしたことを言えばよかったって話なんだからさあ」

「いえ、とんでもない! ダークグローリアで至高の位につくあなた様の案が、きちんとしていないなどありえないのです。つまり、あなた様の思考を理解できないまま却下したわたくしに全ての責任が……」

「あのねえ、世の中には弘法にも筆の誤りって言葉があってね、すごい人が言ってることが常に正しいとは限らないのよ。僕ちん結構、クラブちゃんのこと信頼してるのよ? 今君に死なれちゃったら、困っちゃうなあ」

「わ、わたくしに死なれては困ると? ああ、何というお言葉……総裁、このクラブソルジャー、一生あなた様についていく所存でございます!」

「はいはいはい。よきにはからえ、はからえっと」

 本当は、単に忠義に厚過ぎる彼の扱いが面倒なので適当にはぐらかしているだけだったりする。

 まあ、色々と問題のある総裁にまともに忠誠を誓っているのは目の前のカニ怪人とごく少数くらいのものなので、死なれては困るというのもあながち間違いではないのだが。

「ああ、わたくしは何と幸運なのか。あなた様のような、寛大な心の持ち主に仕えていられるとは……」

「そこまでだ、怪人!」

「むむ?」

 どこからともなく、高らかな声が飛んでくる。

 クラブソルジャーが振り向くと、そこには逆光に照らされたいくつかの影が差し込んでいた。

「この声は、またあいつらか」

「あいつらって誰よ? クラブちゃん」

「ああ、この地域を守っているヒーローでございます」

「ふーん。それって、食べられるの?」

「い、いや総裁。ヒーローというのは食べ物の名称ではなくて」

「さっきから何をごちゃごちゃ言っている……とうっ!」

 どういうわけかは一切不明であるが、謎のBGMが流れてくる。そして、それと同時に影の持ち主が正体を現した。

 腕に特殊なブレスレットを光らせ、シャレていながらも高性能であるスーツを身に着けている。仮面をつけ、素顔を隠したヒーローが、その名を地に轟かせる!

「正義の戦士、トロワーレッド!」

「勇気の戦士、トロワーブルー!」

「博愛の戦士、トロワーピンク!」

「「「三人合わせて、トロワーファイブ!」」」

 ビシッとポーズを決める三人を見ながらも、キャンディーをひたすらペロペロし続ける総裁。彼にとって、急に現れたカラフルな三人組は今のところ興味の対象ではないらしい。

 なお、案の定と言うべきか、厳正なるオーディションの結果は全員落選だったようだ。

「ありゃ? 何か今日は、変な人と一緒にいるんだな」

 ベンチに座ってのほほんとしている総裁を真っ先にいじったのはレッドだった。ものめずらしそうにしながら、しげしげと眺める。

「そうですね。牛のような角を生やした、鈍そうな怪人ですね」

「ずっとキャンディーなんてペロペロして、変なの~」

「ば、馬鹿者っ!」

 ブルーとピンクに主君を罵倒するような発言をかまされ、黙っていられなくなったクラブソルジャー。マントを翻して前に躍り出ながら、顔に青筋を立てて叫ぶ。

「このお方をどなたと心得る! この方は、ダークグローリアの……はっ!」

 しかし、ここで彼は再び気づいた。もしここで正体を明かしてしまうと、非常に面倒なことになるのではないかと。

 もしヒーロー達が、目の前にいる男が総裁であると知ったらどんな行動に出るのだろうか。考えるまでもなく、奴らは総裁に集中して攻撃をしかけ、その首を討とうとするだろう。組織の最高責任者の彼が討たれることは、言うまでもなくダークグローリアの消滅に直結する。

 総裁はどの怪人をも凌駕する能力を持つ最強の存在であるが、万が一ということもある。ここは意地でも、正体を隠し通さねばなるまい。

「ダークグローリアの、何だよ」

 レッドは不機嫌そうな声を出しながら、容赦なく責める。

「い、いや……その」

 こういう場合、一体どうしたらいいのか。素直に口に出しても地獄であるし、このまま黙っていても地獄である。ここはどうにかしてごまかさなければならない。

「ぜひとも、このお方についてお聞かせ願いたいものですね。非常に興味があります」

「ねえねえ。早く教えてよ~」

「う……うう」

 何とかしなければ。ここは一部下として、何としてでも危機を回避しなければ。

 ヒーロー達に責め立てられて徐々に追い詰められていくクラブソルジャーは、必死に案を巡らせる。

「「「このお方は?」」」

「この……お方は」

「「「お方は?」」」

「お方……は」

 どうにかしなければ。どうにかしなければ。どうにかしなければ……!

「このお方はっ……こっ……こっ……」

「「「こ?」」」

「……小池さんだあっ!」

「「「………………」」」

 唐突に出てきた小池さんというワードに、三人は首をかしげる。

 クラブソルジャーはクラブソルジャーで、悔恨のあまり紅潮した顔を隠すようにして左手で覆った。

「よりによって、何故人間どものような名前が浮かんでしまったのだ。しかも、総裁の偽名に。ああ、我はすっかり、この地域に毒されてしまったというのか」

「おいおい、何一人でブツブツ言ってんだよ。てゆうかさ、何で俺達が小池さんなんて心得てなんかいけないんだよ」

「だからっ! この方は実に崇高な……小池さんだからだ」

「はあ?」

 レッドからの指摘にうまく切り返せないカニ怪人は、おそるおそるといった様子で総裁の方に目をやる。

 もしかしたら、人間のような名で呼ばれて憤慨していらっしゃるかもしれない。その時は、死をもって償わなければ。

 それほどの覚悟を決め込んでいたが、当の本人のリアクションは意外なものだった。

「ええ? 僕ちん小池さん? うおお、何かわかんないけどかっこいいね! よし、気に入った。今日から僕ちんは小池さんね。クラブちゃんってば、いいセンスしてるぅ~」

 凡人には理解しがたいことではあるが、どうやら総裁は小池さんという名をたいそうお気に召したらしい。ご機嫌になりながら、鼻歌交じりにキャンディーをなめるスピードを上げた。

「こっいけさん~こっいけさん~僕ちんは小池さん~ふっふ~♪」

「……というわけだ。だから今後は、きちんと小池さんを心得ておくように」

「だから、何で小池さんをわざわざ心得なきゃいけねえんだよ」

 わけのわからぬ言い分を繰り返す怪人に、ますます混乱するレッド。

 そんなことなど尻目にブルーが一歩前に進み、余計なことをツッコみ始めた。

「あの。そこの方は、今から自分の名は小池さんだと言いましたね? つまり、以前までは小池さんではなかったということでしょうか」

「うぐっ」

 この青い切れ者は、人を騙すだけでなく、人の話の矛盾を突くのにもずいぶんと長けているらしい。敵に回すと、迷惑なことこの上ない。

「それはその……ええとだな。ううむ」

「おや、どうかしましたか。僕はいつものように、話の気になる点をスマートに指摘させていただいただけですよ? 何か不都合でも?」

「貴様のやり口のどこがスマートだと言うのだ。毎回のように、詐欺師まがいの口振りを披露しておるくせに」

「ははは、人聞きの悪い。僕はただ、多少相手にとって不利益になりうる条件を言葉巧みに言い換えて、相手の得になるよう思い込ませたのちにこちらの利益になるよう仕向けているだけですよ」

「まさにそれを詐欺というのだ!」

 くだらない論争が勃発しかける中、総裁が「あのー」とのんきに言いながら挙手をする。

 それがさも当たり前の振る舞いのように行われたため、ついブルーは「はい、小池さん」と振りながら話の主導権を受け渡してしまった。

「いいじゃないの、僕ちんが自分は小池さんだって言ってるんだから。本人がそう言ってんだから、これ以上深くは追及しない。それ、大人として常識よ?」

「は、はあ」

 しかも、理屈でもなく屁理屈でもない、支離滅裂な言葉で相手を強引に論破するという荒業まで披露してしまった。

 このお方は滅茶苦茶な部分も多いが、人をはぐらかす能力は特に優れている。ある意味では、無駄な口の上手さを誇るブルーの最大の天敵かもしれない。

「納得いきませんが、まあ、本人がそう言ってる以上仕方がないでしょう。では、あなた方は一体どのような関係なのです? 友達がいらっしゃらないはずのあなたの連れにしては、ずいぶん仲よさげにしていらっしゃるように見えますが」

「な、仲がいいなどとんでもない! 我と小池さんはだなあっ……はっ!」

 この時彼は、またまた気がついた。二人の関係を正直に答えたら、ヒーロー達に小池さんの正体までもが芋づる式に露見してしまうということに。

「我と小池さんは……」

「小池さんは?」

「うう……」

 本日二度目のピンチに、頭がクラクラし始めるクラブソルジャー。ない知恵を絞り、ヒーロー達を納得させられそうな答えを懸命に探す。

「それはだな……」

「それは?」

「え、ええと……な、仲良しなどではない。我と小池さんは、大の仲良しなのだ!」

「はい?」

 かなりテンパりながら放たれた台詞に、ブルーは疑問を投じたそうにあごをなでる動作をする。

 ここで話をこじらせるようなことを言い出したのはピンクであった。

「ええ~? 大の仲良し? てことは、巷で噂のボーイズラブって奴?」

「何を言っておるのだ、貴様は!」

 何故大の仲良しという言葉から、いきなりボーイズラブという発想が飛んでくるのか。人間の思考回路は複雑怪奇というか、怪人にはとても把握しきれたものではない。

「だってえ、クラブソルジャーさんが仲良しって言葉を全力で否定するからあ。仲良しより上の言葉って、愛しかないでしょ?」

「どうやって我の言葉を解釈したらそうなるのか、小一時間ほど問い詰めたくなってきたぞ。とにかく、そっちの方面ではない。違うと言ったら違うのだ」

「妙にムキになるところとか、怪しいなあ~。今の世の中、たいぶ偏見とか薄まってきたよ? 安心してカミングアウトしちゃったら?」

「だから、違うと言っている! そもそも、我には好きな女が……はっ!」

 何だ、今発作的に口から飛び出した「好きな女」というのは。

 クラブソルジャーはパッと口を塞ぎ、ヒーロー達から顔を背ける。

「な、何を言っているのだ。我にはそんな、愛などという感情は……うっ」

 どうしてふと、薫子殿の笑顔が脳裏をかすめたのだろうか。彼女は怪人に偏見を持たず、弁当を作ってくれる心優しい人間というだけなのに。

「何か今、めっちゃ面白そうなこと言わなかったか?」

 仮面のせいで表情こそわからないものの、ニヤニヤしたような顔つきをしていそうな声色でレッドがおちょくる。

 それに乗るようにして、ブルーとピンクも加勢し始めた。

「おやおや。怪人であるあなたにも、愛が芽生えるということがあるのですか?」

「うっわあ、すっごく面白そう! ねえねえ、その女の人って怪人? それとも人間?」

「な、何でそういう話題の時だけ異様に食いついてくるのだ!」

 じりじりと迫ってくるトロワーファイブに気圧され、クラブソルジャーは次第に身動きがとれなくなっていく。

 そしてここから、怒涛の質問攻めが幕を開けた。

「ねえ? 相手の人っていくつ? 美人なの?」

「馬鹿。こんなカニ怪人が美人に好かれるわけねえだろ。せいぜい、相手は甲殻類だろ」

「いえ、先輩。それはわかりませんよ。クラブソルジャーさんは、少なくともあなたよりはまともな外見をしていらっしゃいますから。あ、もしかして、あなたが好きな方ってこの間お弁当がどうとか言ってた彼女では?」

「ああ、いたね! 確か、清楚できれいな眼鏡の女の子。あたしの次くらいにかわいい感じでえ」

「何言ってんだ、お前ら。こんな甲殻類に、美人の人間が寄ってくるわけがないだろ。で、どうなんだ? 相手は同じカニなのか? それとも……」

「相手の方とは、どの辺りまで進展しましたか? 互いに気持ちは伝えたのですか?」

「デートは行ったの? 夜景の見えるところとか~」

「僕ちんも気になるなあ。ねえねえ、クラブちゃん。実際のところどうなのよ?」

「そうさっ……小池さんまでちゃっかり参加しないで下さい!」

 クラブソルジャーは右手を激しく振り回し、ヒーロー達を強引に退ける。そして、左手で総裁の手を引き、何歩か後ろに下がってから半泣きで叫んだ。

「ひ、人の気持ちをおもちゃのように扱いおって。貴様らは鬼か? 悪魔か? 許さんからな。貴様らのことは、絶対に許さんからな! 覚えていろ!」

「あ、ちょっとストっぴ」

「はうっ!」

 そう言って公園から去ろうとしたクラブソルジャーであったが、総裁が急に立ち止まったため、勢い余ってその場にずっこけてしまった。

「な、何ですか。こいつらと関わっていても、害悪しかありませんぞ」

「でもー。僕ちんさあ、まだそんなにこの地域回れてないんだよねえ。このまま帰るっていうのもー」

「では、一体どこに足を運びたいと思われるのです?」

「やっぱねえ、食べ物が美味しいとこ。このペロキャンも美味なんだけど、もっと美味しいものを僕ちんは求めてるわけ。もちろん、ダークグローリアの繁栄の糧にするためにね」

「そんなこと、当然わかっておりますとも。しかし、食べ物が美味いところと言っても……あ、この近所に確か、評判のラーメンなるものを扱う店があったはず。そちらにご案内しましょう」

「ラーメン? それって美味しいの?」

「わたくしはまだ口にしておりませぬが、周囲の評判を聞く限り期待してよろしいかと」

「やっほーう! じゃ、今からそこに出発ね。えーっと、ヒーローさんとやら、まったねー。小池さんのこと、しっかり覚えとくんだよー」

「あわわわっ。で、ではトロワーファイブ達よ。さらばだ!」

 総裁にずるずると引っ張られるようにして、クラブソルジャーはいずこへと去っていってしまった。

 それを見た三人は、しばらくポカンとしてから顔を見合わせた。

「何か今日のクラブソルジャー、変だったな」

「そうですね。ですが、不戦勝できたので別に気にすることではないかと」

「でもぉ、小池さんって何者だったのかしら?」

「さあね。食いしん坊のわけわかんねえおっさんってことは確かだけどな」

「支離滅裂な言動を繰り返す変人であるということも」

「ひょっとして、あの人がダークグローリアの一番偉い人だったりして~」

「いや、そりゃあねえだろ」

「ないでしょう」

「ないかあ~」

 こうして今日も、地域の平和は守られた。

 ありがとう、トロワーファイブ! これからも、怪人の魔の手から人々を救い続けてくれ!

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