表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編まとめ

御神渡り

作者: 猫面人

 寒い地域の湖では、御神渡りと呼ばれる現象が起きる。

 湖に張った氷が冷えて縮んで割れ、その割れ目がさらに凍り、膨張した氷が割れた氷を押し出す。それが道のように見えることから、神が渡ったとされ、御神渡りという名がついた。

 美しいが、所詮自然現象である。実際に神が渡った訳ではない。しかし極稀に、本物の御神渡りが見られる場所があるという。


 雪が淡々と渦巻いていた。冷え切った空気が纏わりつく。息が白く凍った。風が吹く度に肌を切り裂かれるかのような錯覚に陥る。木々の葉は全て抜け落ち、雪を被っている。振り返れば足跡を消さんと画策する者共。眼下には厚く凍った湖があった。そこにまん丸眼鏡にYシャツズボン、肩には薄紅色の羽織を着て、その上からコートで全身を包んだ男がいた。

 男はとある店の店主であるが、一年のほとんどは旅をしていた。

 彼は巨大な湖をそれとなく眺めていた。熱いお茶の入ったポットを片手に。

「あー寒いなぁ、もっと着込んでくりゃよかったぜ」

 独りで居ると独り言が多くなるという。話し方を忘れない為にだろうか?

 しばらく待っても何も起きない。ふと、誰かに見られている気がして振り返った。

 そこには7歳くらいの小さな子どもがいた。

「よう!なにしてんだ、あぶねぇぞ、ここはよ」

「おめぇこそ、神様に連れていかれっぞ」

 ほほう、人攫いの神か。おそらく昔、生け贄やら人柱やらをやっていたのだろう。その上ここらで神隠しなんてのも起こった。だから地元の者にこうして伝わっていくのだ。

「大丈夫だよ、俺は神様にとことん嫌われる質でな」

 実際、人攫いの神はいる。しかし、昔から神様に人の娘を捧げる儀式がそこかしこにあり、人をわざわざ攫わなくとも人が手に入る環境にあった神は人攫いにはならない。よほど人の踏み入れぬ土地に住む神ならば、あるいは人攫いとなるのかもしれない。

「ふぅん、変な奴」

「変な奴ねぇ、そうだよなぁ、変な奴だよなぁ」

「なんだぁおめぇ?」

「お前こそ、どうしてこんな所に出てきた。攫われるぞ?」

「あっ!いっけねぇ、今日は家に居なきゃなんねぇんだ」

 子どもはそのまま何処かへと去っていった。

 それからまたしばらく経ち、夜になった。よりいっそう冷え込んだ空気が一々体を刺す。

 

ズズズ…ズズズ…


 何か這うような音が聞こえてきた。


ズズズ…ズズズ…


 目を凝らすと蛇がいた。ただの蛇ではない。人の何十倍もあるような、大きな白蛇だ。


ズズズ…ズズズ…


 赤い目がこちらを向く。一瞬身体が強張ったが、すぐに元に戻る。


ズズズ…ズズズ…


 白蛇は諦めたように、またどこかへ進む。と、白蛇が凍った湖を渡りだした。


バリバリ…ゴゴゴゴゴ…バリバリバリ…


 張った氷を割りながら、白蛇は悠然と進む。男はそれを、尻尾の先が見えなくなるまで眺めていた。

孤独の世界やリンクと同じ主人公の話。そのうち連載をする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ