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同じお題で別々の作品を書こうという企画です。その名も『同一タイトルイベント』!!

詳細はアザとーマイページの活動報告にて!

ほかの参加者の方の作品URLもそちらにあります!

 メスオオカミどもは『出来の悪い子ほど可愛い』っていうけど、俺は残念ながらオスだからな、そういうのは良くわからねえ。出来の悪いやつってのはやっぱり落ちこぼれだと思うし、可愛いというよりは見ててイライラするんだよな。

 おまけにさあ、何で出来の悪いやつに限って強情なのかねえ。素直にこっちのいうこと聞けば、少しは可愛気ってのもあるのにさあ、片意地ばっかり張ってクソ可愛くねえッたらありゃしねえ。

 え、まるでそんな奴を知ってるような言いようだって? 知ってるなんてもんじゃない、あいつは俺が育ててやったんだ。あの生意気な口きき一つ忘れられやしねえよ。

 そうだなあ……話してやろうか、俺が飼っていたヒヨコの話を。オオカミがヒヨコを飼うなんておかしい? 

 まあいいから黙って聞けよ、あの小憎たらしいヒヨコの話をよ……

 

   ◇◇◇

 ヤスケは自分のことを実にオオカミらしいオオカミだと思っている。

 体は仲間の誰よりも大きく、灰褐色の毛並みは誰よりも美しい。だから、群れのボスにふさわしいのは自分だ、とも思っていた。

 その日も、友人と並んで森をパトロールしながら愚痴などこぼしていたのだ。

「なあ、あんなじじい、そろそろ倒してさあ、俺が群れを取り仕切ってもよくね?」

 友人は、はふんと鼻息を吐いて笑った。

「お前が? 無理無理、群れを守るのに必要なのは力だけじゃないんだぞ」

「それは年寄連中からの受け売りだろ。奴ら、力が無いからやれ知恵だの、経験だの、もっともらしいことを言って自分の立場を守っているに過ぎねえよ」

「そうかなあ?」

「んじゃあお前さ、その『力じゃないもの』ってのが何なのか言ってみろよ」

「えっと……優しさとか?」

 今度はヤスケが笑う番だった。

「またずいぶんと曖昧なもんを持ち出してきやがったなあ」

 若いオスオオカミが粋がるのは、これはもう習性というやつで、別にヤスケが不良だとかいうことではない。むしろ彼は、オスオオカミの中では一番優しい心根を持っていたが、そうした性質を自分で認めるには、まだ若すぎた。

「優しさなんて戦いの邪魔になるだけだろう。自分の群れが敵に襲われた時、お前は『噛みついたら痛いかな、怪我させちゃうかな』なんて考えながら戦うのか?」

「そういうことじゃねえよ、優しさっていうのは……」

 友人君が何か、もう一言二言いおうとしたその時、足元の茂みがガサガサと鳴った。

「虫か?」

 太い前足をひゅっと振り下ろして、ヤスケはその音源をとらえた。それは小さなヒヨコだった。

「こんなちびすけ、おやつにもならねえよ」

 爪の先でちょいとつつけば、ひよこはきゅうっと身を縮めて息を詰める。それでも悲鳴をあげないようにくちばしを食いしばっているのが、ひどくヤスケの癇に障った。

「クソ生意気なやつだ」

 少し強く爪ではじく。よろよろっと転がされながらもなお、ヒヨコはくちばしを開こうとはしない。だからヤスケは、黄色い腹をぎゅっと足先で抑え込んだ。

「ぴ……!」

 吐き出しかけた悲鳴を飲み込むように、ヒヨコが息を詰める。だから友人君は見かねたのだろう。

「おいおい、そんなチビをどうするつもりだよ」

「そうさなあ……」

 野鳥のひなじゃない、れっきとした鶏のヒヨコなのは見るからに明らかだ。

ここから少し離れたところに人間の牧場があって、何日にいっぺんか、そこのトラックがこの森の道を通る。その荷台から転げ落ちたのだろうが、出所がわかっているからといって、このヒヨコを人間のところへ届けてやる義理はない。

 ここに転がしておいてもいいが、フクロウやキツネが大喜びでこいつを食らうだろうと思うと、なんだか癪だ。あいつらにおいしい思いをさせる義理も、ありはしない。

「食うしかないか」

 ヤスケにはその権利がある。ここに隠れていたヒヨコを見つけたのは彼なのだから、これは彼の獲物だ。

「まあ、あんまり腹は減ってないんだけどな」

 あんぐりと口を開けてヒヨコを飲もうとしたその時、ヤスケは素敵なことを思いついた。

「おい、お前は俺がボスになるのに、『優しさが』足りないって言ったよな」

 急に言葉をかけられた友人君は、ヤスケがヒヨコを一口にのむところを見物するつもりだったのだから、面食らった。

「ああ、言ったけど?」

「じゃあ、賭けをしねえか」

「ほう、景品はそのチビちゃんかい?」

「バカ言うな、こいつはこれから俺が育てるんだ。俺がボスになれるくらい優しいってのを、見せてやるよ」

「それで?」

「俺がこのチビを立派な鶏に育てることができたら、お前、俺がボスになれるように手伝ってくれ」

「はあ、なるほどな。だけどそれじゃあ、俺にうまみがないや」

「このチビを育てるのに失敗したら、俺がお前に協力してやる、ボスにしてやるよ」

「ふうん、悪くないね」

 健全なオスのオオカミにとっては、ボスの座というのは魅力的である。それに、二匹とも少々退屈していたのだ。でなければ、こんなばかげた賭けが成立するわけがない。

「面白い、その話、のった!」

「よし、きまりだな」

 こうしてヤスケは、ちっぽけなヒヨコを自分の住処に連れて帰ることになったのだ。


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