拍手小話⑥ 「とある騎士団の仁義なき戦い」
王立騎士団の鍛錬場。
今日、ここには王立騎士団の中でも選りすぐりの騎士…第1小隊の面々が集まっていた。
「あー、今日ここにお前らを集めたのには訳がある。
急遽、御前試合が行われることになった。……後は、ヨシュアに聞け」
最初に話し始めたのは、第1小隊隊長のマウリシオだった。…ソッコーでヨシュアに振ったが。
「おい、マウリシオ!」
「面倒臭いし、お前がやれよ」
ちなみに、階級はヨシュアの方が上だ。
彼は上司にも部下にも恵まれていないのかもしれない。本当に不憫…。
そんなマウリシオの対応には慣れているのか、ヨシュアは仕方なく自分で話し始めた。
「………。陛下のワガママを宰相閣下が利いてしまったため、騎士団の中からメンバーを選出して、1日だけの御前試合が開かれることになった。1週間後に」
相変わらず、宰相は国王に甘いらしい。
あんまりワガママばかり聞いて甘やかしてると、碌な大人にならないよ。……国王はもうイイ大人だけど。
「副団長。少し、早すぎませんか?この中から選ぶにしても1週間というのは…」
カイルが尤もなツッコミを入れる。
「……俺に言うな」
ヨシュアの顔には疲労が浮かんでいる。
きっと、この御前試合は彼の仕事量をまた増やしたのだろう。…団長が仕事をしないから。
「おいおい、カイル。察してやれよ、中間管理職の辛さを」
同じ中間管理職のはずのマウリシオが他人事のように言う。
…性格一つでこんなにも生き方って変わるのね。
「お前が言うな!!…でだ、この中で御前試合への出場を希望する者はいるか?」
「「「「「「「……………」」」」」」」
ヨシュアの問いかけに手を挙げる者はいなかった。
それどころか、“当てないでください”とばかりに顔を背ける者までいる。…お前らは授業中の学生か。
「見事に誰も手を挙げないな」
「お前ら…御前試合での優勝は、騎士にとって最高の栄誉だぞ」
しかし、彼らにだって出場したくない理由はある。
「優勝とか、無理」
「隊長。団長が出ること決まり切ってるのに、出たいヤツなんかいないですって」
そう、コレである。
彼らが“出たくない”と思っているのは、他でもない騎士団長ジークフリートが参加するからであった。…さすがに、騎士団のトップが参加しない訳にはいかない。
「いたら、よほどのチャレンジャーか自殺志願者だよね」
まさにセシルの言葉が騎士達の一致した意見だろう。
誰だって命は惜しい。
「オレ、出よっかなー」
だが、ここ第1小隊には“勇者”がいた。
「「「「「「…………いた…」」」」」」
「おお、ジルド!出てくれるのか!!」
その“勇者”の名前はジルド。
彼はあのトトカルチョの一件があった後も全く懲りていなかったようだ。…きっとコイツの心臓の毛は剛毛に違いない。
「いいっすよー。ダンチョーの相手とかなかなかできないし?」
相手をする=そのまま墓場へ直行、と言わんばかりの魔王となんて誰も戦いたくはない。………フツーは。
「前から思ってたが、お前かなりのチャレンジャーだよな」
マウリシオは感心したように言う。
おい、お前の部下は問題児ばかりじゃないか。それともお前が問題児なのか。
ちゃんと教育しとけよ。
「じゃあ、もうこれで決定?」
「そーじゃね?副団長、もう帰っても良いっすか?」
もうお役御免かと喜ぶ部下達に、ヨシュアは無情な一言を告げる。
「いや、第1小隊からはあと2人決めなくてはならない。…他に誰かいないか?」
………………。
……皆、ガンバレ。
「「「「「「……………………」」」」」」
無言。
いくらなんでも、2人目の“勇者”誕生とはならなかったようだ。
「出場したら、何か奢ってやるぞ。…ヨシュアが」
「俺なのか!?……まあ、別に良いが」
そこは直属の上司として、自分で奢れよ。
ヨシュアもナニ承諾してんの。そんなんだとタカられちゃうよ。
「「「「「「……………………」」」」」」
やっぱり無言。
まあ、やりたくないよね、魔王との試合なんて。
むしろ、試合の文字が“死合”に見えてくる勢いでやりたくないよ。
「…仕方ねぇな。騎士団らしい方法で決めるか」
えっ、何それ。バトルロワイアルとか?
「え、隊長!?…マジですか?」
「ああ。お前ら………ジャンケンしろ」
って、ジャンケンかよっ!
どこに騎士団らしさがあるんだ!!
「ええっ!そこでジャンケンなのか!?」
マウリシオの言葉に驚くヨシュア。
何、コレって第1小隊でしか行われてない方法なの?
………ホントに大丈夫なのか、この小隊。
「まーまー、副ダンチョー。見ててくださいって」
もう自ら出場を決めてしまっているジルドは余裕の表情だ。
まあ、コイツはどんなときでもこんな感じだが。何せ心臓に剛毛生えてるし。
「いくぞー。最初はグー、ジャーンケーン……」
そんな、マウリシオの掛け声と共に始まったジャンケン大会は………。
「あーいこで…。――ん、勝ったのはリックか。
じゃあ、リックが審判で勝ち抜きトーナメントだ。勝ったヤツは強制出場な。…手ぇ抜くなよ」
リックの勝利で終わったようだ。
…コイツの運が良いなんて信じられない。
何、天変地異の前触れ?
「よっしゃあー!!俺、審判っ!これで、出なくてすむ~」
「うるさいですよ、リック。…物理的に黙らせましょうか?」
「リック、うざい」
ここぞとばかりに喜ぶリックに、カイルとクートは辛辣だった。
…うん、イラッとしちゃったんだね。分かるよ、その気持ち。
「第1戦はカイルとジャック、第2戦はセシルとクート、アランは第1戦で勝ったヤツと戦え」
「そういうふうに決めるのなら、最初からそう言え。…ところで、何でその順なんだ?」
「この組み合わせが1番面白いから」
「…………おい」
真面目にやれよ、マウリシオ。
イイ歳して“面白いから”とか言ってんじゃねえ。
こうして、第1小隊の騎士達による“御前試合に出るのは誰だ!?勝ち抜きトーナメント”が始まった。
………全力で負けるための。
◇◇◇
白熱した戦いの勝者はアランだった。
「正直、戦わなくても良かったんじゃない?」
「どうせアランが勝つもんなー」
「久しぶりに本気でやれましたけどね」
どうやら、アランはかなりの実力者のようだ。
他の騎士達からはあからさまに“勝たなくて良かった~”という雰囲気が漂っている。
「ま、そういうことだ。アランがメンバーの1人な」
マウリシオの言葉を聞き、アランは諦めたように溜め息を吐いた。
「あと1人はどうするんだ?敗者復活か?」
「んなこと、するか」
ヨシュアの問いかけに、“面倒臭い”と言わんばかりのマウリシオ。
何だよ、試合前は“面白い”とか言ってたのにもう飽きたのかよ。
ほんとにいい加減なヤツだな。
「副ダンチョー、もう決まってるよー」
今まで試合を楽しく観戦していたジルドの言葉に、試合に参加させられた全員が同じ名前を口にする。
「「「「「「リックが出る」」」」」」
……………。
…皆、息ピッタリだね。
「…っ!?何で俺なんだよっ!?」
全員の反応に驚きながらも、リックは抗議の声を上げる。
「ジャンケンで、勝った」
ああ、そうだね。
“勝ち抜き”だったもんね。確かに、リックはジャンケンに勝ち抜いてた。
「諦めろって、リック。あのときから決まってたんだ」
アラン、それは“お前も一緒に死のう”って感じの道連れか?
ジャンケンしたときから決まってたんなら言ってやれよ。
滅茶苦茶ぬか喜びしちゃったじゃん、リックが。
「第1小隊から出るのは、ジルドとアラン、リックだな。……俺は次に行って来る」
「ちょ、副団長!!俺は嫌ですって!こいつらに何とか言ってくださいよ!」
リックはヨシュアに助けを求めたようだ。
この中では一番マトモな選択だったが…。
「………。リック、強く生きろよ」
しかし、ヨシュアにはまだまだ仕事が残っているのだ。
残念だったな、お前なんかに構っている暇はないらしいぞ?
不幸にもテキトーな扱いにも負けず、強く生きろリック。
「ちょ、ちょっとー!!!」
「諦めろ。俺ら隊長格なんか、全員参加だぞ」
ちなみに、副団長も強制参加だ。
………ヨシュア、死ぬなよ。
「ジャンケン勝っちゃったのが運のツキってことで、オレと一緒にがんばろー。打倒、ダンチョー!!」
まさか、あの魔王を倒そうと考えていたとは………さすが勇者。
パーティメンバーはリックで大丈夫?
まあ、やっぱりリックの運が良いとかありえないよね。
どうせこんなオチだろうと思ってた。
「こんなん……詐欺だー!!!!」
―――鍛錬場に不幸な騎士の叫びが響き渡った。
拍手の新しい小話はチャック的新説シリーズの桃太郎になります!
お時間のある方は、読んでください。




