拍手小話④ 「RPGパロ・NG集」
Take1 (勇者:レオンハルト、戦士:ジークフリート、魔法使い:ギルバート、僧侶:アレン)
悪しき魔王を倒すため、元気いっぱいに城を飛び出した王子…勇者レオンハルトは地道なレベル上げの最中だった。
彼にチートな能力などはない。だって、地味だもん。
[スライムAがあらわれた!]
[スライムBがあらわれた!]
[スライムCがあらわれた!]
スライム達には勇者がチョロそうに見えたのかもしれない。
「スライムは三体だけですよ。勇者、レベル上げ頑張ってください」
「攻撃を受けたら、私が回復しましょう」
実は一緒にいた、パーティメンバーの魔法使いと僧侶が口々に勇者へエールを送る。
二人は戦わないらしい。
…傍から見ると“イジメ”に見える気がする。
「ああ!分かった!!……えいっ!…えいっ!!」
[勇者の攻撃!スライムAに5のダメージ!]
[スライムは怒っている!スライムAの攻撃!勇者は20のダメージを受けた!]
勇者の攻撃ショボっ!?
しかも、ダメージ食らい過ぎだろ。防御力はいくつだ。
「…っく!!」
「僧侶」
「はいはい」
魔法使いの要請に、僧侶は面倒臭そうに勇者に回復魔法をかけた。
どれだけ傷ついても一人だけ戦わせるって、やっぱりイジメみたいですね。
「ありがとう!……えいっ!!」
[勇者の攻撃!スライムAに7のダメージ!スライムAは混乱した!]
[スライムAは混乱している!]
[何をとち狂ったのか、スライムAは戦士に攻撃した!しかし、戦士はダメージを受けない!]
おおっ、むしろこのスライムが勇者だ。
ほんとに何をとち狂ってしまったんだ。パーティの中で一番逆らってはいけないヤツだぞ。
「チッ、雑魚が。消えろ」
[戦士はスライムAを踏みつぶした!スライムAは倒れた!]
舌打ちとかガラ悪いな、おい。
踏みつぶすとか攻撃ですらないよ。一体どれだけ攻撃力あるんだ…。
[スライムBとスライムCは混乱した!]
ええっ、関係ないはずのスライムBとCが!?
戦士への恐怖で混乱してしまったようだ。
[スライムBは僧侶に襲いかかった!しかし、僧侶はダメージを受けない!]
[スライムCは魔法使いに襲いかかった!しかし、魔法使いはダメージを受けない!]
………………。
だから、何で勇者に攻撃しないの。
勇者相手なら圧勝だったのに。
実は、自殺志願者なの?それともコマンドが“ガンガンいこうぜ”になってるの?
「邪魔です」
「不快です」
[僧侶はスライムBを杖で払った!スライムBは倒れた!]
[魔法使いはスライムCを杖で払った!スライムCは倒れた!]
ああっ、アッサリやられてしまった。
………お前ら、さっさと魔王を倒しに行けよ。お前らの相手をさせられるスライムが可哀想だ。
「……攻撃すらしてない…。私は要るのか?」
うん、パーティには必要ないんじゃないかな。
て言うか、もっとバランス考えてパーティ組めよ。明らかな人選ミスだろ。
☆☆☆
Take2 (勇者:ハルカ、戦士:ヨシュア、魔法使い:マリアンナ、僧侶:着ぐるみ、魔王:ジークフリート)
過酷な戦いの末に、勇者一行は漸く魔王のもとに辿り着いた。
「おお、よく来たな、勇者ハルカ。待ちわびたぞ。早く祝言を挙げよう」
どうやら、魔王は勇者のことを待っていたらしい。
初対面のはずなのに“祝言”とか、かなり危ない人なのかもしれない。
「はあぁ?寝言は寝てから言ってください。
さあ、皆さん!あの魔王をやっておしまいなさい!!」
勇者はまさかの人任せだった。
“やっておしまい”って、悪役のセリフなんじゃ…。
「ゆ、勇者様…。俺には無理です。……はぁ、胃が痛い」
戦士は戦意を喪失しているようだ。それって、戦士としてどうなんだ。
「かしこまりました、勇者様。必ずや魔王を仕留めてみせましょう!…僧侶様が」
魔法使いは意外と好戦的だ。
しかし、この人も人任せだった。僧侶が前衛とか新しいな。
えっ、今までどうやって戦ってきたの?
「…ちょ、ちょっと!?珍しくノリノリだと思ったら…。
ボクにアレを倒せるわけないでしょ!!倒せるとしたら、相棒…勇者くらいだよ!!!」
「ええっ!?私ですか?私はちょっと…レベル的に難しいですよ」
ビビり気味の僧侶の言葉に、勇者は困った顔をした。
ねぇ、君達。何で魔王に戦いを挑んで来たの?
ちゃんと地道にレベル上げてから来いよ。
「じゃあ、こうすれば良いよ!!」
[勇者は魔王を魅了した!しかし、すでに魔王は勇者にメロメロだ!]
…“こうすれば良いよ”って、僧侶が魅了の魔法をかけたの?
もう皆のジョブ設定が無茶苦茶だよ。
「フッ、この俺が妻からの誘いを断るわけがないだろう。
ほら、ハルカ。寝室へ行くぞ」
さっき“祝言”とか言ってたのに、いつの間にか“妻”にされている。
どこの行間で結婚したんだ。
「えっ!?ちょっと!!」
魔王にお姫様抱っこで連れて行かれる勇者。
どうやら勇者から“捕らわれの姫”にジョブチェンジしてしまったようだ。
「「「…………グッドラック!」」」
勇者の尊い犠牲によって、世界の平和は守られたのであった。
☆☆☆
Take3 (勇者:ジークフリート、魔王:ハルカ&着ぐるみ)
[魔王があらわれた!魔王はハリボテを着ている!]
勇者の前に魔王が現れたようだ。
なぜか魔王はハリボテを身に付けている。それ、どれくらい防御力上がりますか?
「おお、魔王ハルカ会いたかったぞ。
いつまで、そのハリボテを着ているつもりだ。早くウェディングドレスに着替えろ。ああ、白無垢でも良いぞ」
[勇者は不敵に笑っている!魔王はおののいた!]
怖っ!!
あまりの怖さに魔王の方がビビッています。
「それ、悪役のセリフだよ!?…あれ?何でボク、ハリボテ??」
「くっ、私はここまでです。後は任せましたよ……相棒!!」
すでに魔王は負けそうだ。
まだ何もしていないのに“ここまで”ってどう言うことだ。登場だけでHPを使い切ったのか。
[魔王の中身は逃げ出した!しかし、逃げられない!]
そりゃ、そうだろ。
ラスボスが逃げ出すとかナイわ。
「クックッ、この俺から逃げられると思っているのか。さあ、俺のもとに来い、ハルカ」
「ああ…、む、無念です………」
「ああっ!相棒ぉー!!!」
魔王の尊い犠牲によって、世界の平和は守られたのであった。………あれ?
☆☆☆
Take4 (勇者:アレクサンダー、僧侶:マーリン)
勇者と僧侶と言う異色のパーティはのんびり旅をしていた。
特に魔王とか倒す予定はない。
[騎士達×7があらわれた!何だか手抜きだ!]
そんな勇者達の前に手抜きな敵が現れた。
「おや?」
「あっれー?何か見たことある子達じゃない?
…手抜きとか、可哀想だねぇ。僕が改造してあげよっか?」
勇者は敵に同情しているらしい。
さすが勇者。心優しい人なんですね。
「それは楽しそうですね」
勇者の提案に僧侶も乗り気だ。
「「「「「「「…………失礼シマシター!!!」」」」」」」
[騎士達×7は逃げ出した!]
敵は勇者達の優しさに心を打たれたようだ。
戦わずして敵を倒すなんて、さすが勇者!やっぱり愛されキャラは違うね!
☆☆☆
Take5 (勇者:着ぐるみ、戦士:ジークフリート、魔法使い:ギルバート、僧侶:ハルカ、魔王:アレン)
[魔王があらわれた!魔王は僧侶に跪いた!]
勇者一行の前に、突然魔王が現れた。
いや、魔王城とかで大人しくしてろよ。勝手に出てくんな。
誰か、レイナルド呼んで来てー!
「ああっ!!!女神様っ!!!!」
「消え失せろ。この変態が」
魔王はどこまでも気持ち悪い。
僧侶を守るため、戦士が攻撃を仕掛けた。
[戦士の攻撃!魔王に10000のダメージ!]
[しかし、魔王は回復した!]
[戦士の攻撃!魔王に10000のダメージ!]
[しかし、魔王は回復した!]
[戦士の攻撃!魔王に10000のダメージ!]
[しかし、魔王は回復した!]
“10000のダメージ”って、一体戦士の攻撃力はどうなっているんだ。
そして、回復魔法が得意な魔王って何だ。
…現実にいたら、地味に戦いたくない。一撃必殺しか効かないとか反則だろ。何なの、バグなの?
「いつまで経っても終わらないよ!!何アレ、気持ち悪い」
「………すごい光景ですね」
二人の壮絶――むしろ、想像を絶する程気持ち悪い――な戦いに勇者と魔法使いは引いている。
「………もう、帰りましょうか」
僧侶は戦意を喪失してしまったようだ。
いやいや、戦おうよ。あんなの野放しにしないで。
「チッ、待てハルカ。
…おい、変態。お前には、この“皮”をくれてやる」
[戦士は勇者を放り投げた!魔王は華麗にキャッチした!]
戦士が戦いをやめて、僧侶を追いかける。生贄に勇者を放り投げて。
………オニか、コイツ。
「神獣様ぁぁー!!!」
「いやーっ!!ヘンタイ、怖いよぉー!!!」
勇者の尊い犠牲によって、世界の平和は守られたのであった。
…って、またこのオチかよ!!




