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拍手小話① 「とある騎士団のトトカルチョ」

 ―――王立騎士団宿舎。今夜ここで、ある密談が行われていた。




「なあ、女神様って誰に落ちると思う??」


 ことの始まりは、そんなリックの一言だった。


「騎士団の一員としては、団長を推したいところですね。少々、難のある方ですが、頼りがいもありますし」


 一緒にいたカイルが、部下として尤もなことを言う。


「えぇー。団長はねーだろ」


 しかし、リックは上司に思うところがあるようだ。

 ………ジークフリートにその思いが伝わらないことを願おう。彼の生命のためにも。


「意外と、宰相閣下とか」

「俺の発言無視!?」


 クートはリックの問題発言をなかったことにしたらしい。

 賢明な判断だ。


「宰相閣下ですか…。あり得ますね」


 カイルはクートの予想に納得している。


 しかし、彼が女神(ハルカ)様に恋をすることはないだろう。

 …宰相の美人嫌いはあまり人には知られていない。


「レオンハルト殿下とか」

「ああー、殿下ねー。ありゃ絶対、女神様に惚れてるよな」


 次にクートが挙げた名前にはリックが反応した。

 

 王子の恋はダダ漏れのようだ。

 まあ、王宮の庭で“花占い”などしていれば一目瞭然なのだが。 


「…他の団員達はどう思ってるんでしょうね?」

「……おーい、もしもーし。…カイルー?」

「トトカルチョでもする?」


 その、クートの何気ない提案が騎士団全体を巻き込むことになった。



   ◇◇◇



 あの密談から一か月後の騎士達の訓練中。


「ああぁあぁー」


 リックは絶望のドン底にいた。


「ん?リック、何うめいてんだ?」


 今にも地面に埋まっていきそうな程落ち込んでいるリックを見て、アランが声を掛ける。


「例のトトカルチョで、神官長に賭けたそうです」


 リックの代わりに答えたのはカイルだ。

 その言葉には何となくバカにした雰囲気が漂っていた。無理もないが。


「…お前、バカか」

「大穴狙いだったんだよ!!!」


 アランの呆れかえったセリフに抗議するリック。

 いや、そんな番狂わせは起こらないだろ。

 ある意味、狙い通り“大穴”は開いたのかもしれないが。リックの財布に。


「「「「「「大穴にもほどがあるだろ」」」」」」


 他の騎士達から鋭いツッコミが入った。

 リック以外に神官長に賭けていた強者(バカ)はいないらしい。当たり前だ。


「うるせー」

「…皆は誰に賭けたの?」


 相変わらず、リックの発言を無視しているクート。


 ちなみに、彼らの仲は悪くない。

 リックの扱いはどこでもこんなものだ。これも一種の愛情表現だろう。…たぶん。


「私は団長です。あまり儲かりませんでしたが」


 カイルは宣言通り上司に賭けていたらしい。

 堅実な男なのだろう。


「俺、殿下。…何か、可哀想でさ……」

「俺も俺もー。応援したかったんだよなー」


 アランとジャックは王子に賭けたようだ。…完全に同情票だが。


「僕は宰相閣下です。…団長より良いかと思ったんですが」

「オレも宰相サマかなー。正直、一番マトモだよね」


 セシルとジルドの認識では宰相は“マトモ”になるらしい。

 彼の“迷”探偵っぷりはあまり知られていないのかもしれない。…まあ、人柄という意味なら、宰相が一番マトモだろう。


 …それにしても、セシル。君はジークフリートに何か含むところでもあるのか。


「おいおい。そんな言い方するなよ。殿下もマトモだろ?」


 しかし、どこまでも王子に同情してしまっているアランは何とか擁護しようと試みる。


「殿下じゃ、無理だろ」

「「「「「………」」」」」


 ジルドはアッサリと残酷な現実を口にした。

 …うん、まあ無理だよね。 


「女神様の好みが草食男子かもしれないだろー」

「草食って言うより、雑食…」

「…殿下って、あのキラキラした顔で虫食べますもんね」


 ジャックの反論もクートとセシルの発言で台無しだった。




「お前ら、訓練中に何話してんだ」


 さすがに騒ぎ過ぎたのか、小隊長のマウリシオが声を掛けて来た。


「トトカルチョの話してんですよ。…タイチョ―は誰に賭けました?」


 マウリシオは、上司が来ても構わず話を続けるジルドに呆れた目を向けながらも答えた。

 …ちょっとは注意しろよ。訓練中だろ。


「俺か?俺は団長だ。つーか、団長以外に賭ける人いないだろ」

「殿下とか?…何か可哀想じゃないですか」


 どうやら彼はマトモな選択をしたようだ。

 フツーに考えて、ジークフリート以外に賭けるべきではないだろう。


 …アランはどれだけ王子に同情してるんだ。


「…人はな、恋をして成長するんだ……」

「それ、フォローですか?」

「殿下が聞いたら、逆に落ち込みそうです」


 マウリシオのフォローにならないセリフにカイルとセシルがツッコむ。

 しかし、彼は部下達のツッコミをスルーして声を掛けた理由を告げようとした。


「って、お前ら。あんま長く話してると、団長が……」

「なかなか面白い話をしているな。で、お前達は誰に賭けたんだ?」


 マウリシオの言葉に被せるように話し出したのは、この騎士団を束ねる男だった。

 

「「「「「「「………っ!!!!」」」」」」」

「あーあ。…だから言ってやったのに」


 突然の魔王………ジークフリートの登場に言葉もない部下達。


 マウリシオの呆れかえった声がその場に空しく響いた。

 いや、言うの遅いよ。もっと早く言え。


「俺に賭けなかったヤツは、この後、鍛錬場に来い。俺の良さをたっぷりと教えてやろう」

「「「「「「こいつは神官長に賭けてました!!」」」」」」

「…おいっ!!!何で俺だけ…」


 ジークフリートのセリフに、全員が示し合わせたかのようにリックを売った。

 ………皆、仲良いね。


「その証拠に、リックの財布は空です」


 カイルがダメ押しとばかりに“証拠”である財布を開いて見せた。…何で、持ってるの?

 ちなみに、財布の中は空っぽだった。小銭もなくなったのか。

 ほんとに全財産賭けるとか、どうしようもないヤツだ。


 そんな、どうしようもないリックは完全にスケープゴートにされるらしい。

 まさに踏んだり蹴ったりである。…カワイソウに。


「ほーう。いい度胸じゃないか、リック?

 その頭、帽子置き程度にしか役に立たないようなら、落とすか…」


 ジークフリートは思案気に呟いた。

 …リックの生命は今や風前の灯だ。自業自得な気もするが。


「…良かったな、リック。名前覚えてもらえたぞ?」

「団長に名前を覚えてもらえるとは…。我が隊始まって以来の快挙だ」


 誰も哀れなリックを助けるつもりはないようだ。


「リック…」

「…クート!!助けてくれるのか!?」

「骨は拾ってあげる」


 クートの中では、もうリックの死亡(オワリ)は確定していた。

 骨を拾うって、優しさなのか…。


「骨など残らん。…で、他にはいないのか?まさか俺のカワイイ部下に嘘を言うヤツはいないだろうな?」


 ジークフリートが言うと冗談に聞こえないのが怖い。冗談ではないのかもしれないが。


「「「……………」」」


 アラン、ジャック、セシルの処刑が決定した。

 3人の顔には悲壮な覚悟が浮かんでいる。


 …アラン、王子なんかに同情したばかりに。


「頑張って逝ってきて」

「骨は残らないそうなので、墓だけでも作りましょう」

「うっわー。被害甚大だねぇー」

「ウチの隊には何で勇者(チャレンジャー)が多いんだ。

 その根性は他のことに使え。…今更、遅いかもしれんが」


 ジークフリートに賭けていた“賢い部下達”は安心感からか好き勝手なことを言っている。


 ………おい、ジルド。お前は他人事じゃないだろ。

 えっ、しらばっくれるつもりなの?

 

「そこのお前、他人事のように話すじゃないか?………俺がいつから聞いていたと思っている?」


 あっ、バレてた。

 やっぱり団長サマの方が一枚上手のようだ。


 しかし、ジークフリートはいつから聞いていたんだ。

 タイミングを見計らって出て来たのか。…なんて意地の悪い。


「…えぇー。オレはそんなこと知りませんよ?オレのお財布は潤沢ですし」


 どこまでも、しらばっくれるつもりのようだ。

 “何のこと?”と言わんばかりに首を傾げている。

 ………強過ぎるだろ、お前。何なの、心臓に毛でも生えてるの。


「「「「「「……………勇者だ…」」」」」」

「…お前、無事に帰ってきたら、給料上げてやるよ」


 ある意味、ジルドの暴挙とも言える行動は尊敬に値する。

 というか、誰も真似できない。 


 だが、ジークフリートはどこまでも酷い男だった。


「………。まあ、誰に賭けていようが、全員処罰の対象だがな。

 ああ、後で賭けの売り上げは俺のところに持って来い。結婚祝いにもらってやる」

「「「「「「……ヨロコンデー」」」」」」

「…はぁ、俺もか…?とばっちりにも程がある」


 どこぞの居酒屋定員のような言葉しか出て来ない騎士達。

 マウリシオは、とばっちりと言うよりも監督不行届きだろう。


 おい、ジルド。ほとんどお前の所為なんだから、ここは一緒に“ヨロコンデー”って言っておけよ。

 ほんとにどこまで勇者なんだ。 


「ちぇー。オレの…」

「おいっ!!もう何も言うな!!」

「自滅するなら一人のときにしろ!!」


 アランとジャックが、どこまでもめげない“勇者(ジルド)”の口を慌てたように塞ぐ。


「不満があるなら、かかって来たらどうだ?何人がかりだろうと相手をしてやろう。…くたばるまでな」

 

 ジークフリートは不満は叩き潰す主義のようだ。

 嫌な上司だ。恐怖政治か。


 しかし、何人がかりであろうと勝てる気がしないのはなぜなのか。

 …助っ人連れて来てもいいですか。


「じゃあ、リックと一緒に…」

「もう、本当に黙ってっ!!!」

「何で俺の名前出すんだよっ!!!」


 “勇者(ジルド)”はリックを助っ人に選んだが、本人に拒否されてしまった。

 少しは周りの被害も考えるべきだ。


「かかって来るのか?なら、早く鍛錬場に行くぞ。他のヤツらは、墓の準備でもしておけ、自分の」


 青空の下、騎士達の悲鳴が響き渡った。


 魔王(ジークフリート)の死刑宣告により、騎士団全体を巻き込んだ“トトカルチョ”は幕を閉じた。

 ………多大なる犠牲とともに。





*拍手小話のときの表記も書いておきます。


騎士1:リック

騎士2:カイル

騎士3:クート

騎士4:アラン

騎士5:ジャック

騎士6:セシル

騎士7:ジルド

小隊長:マウリシオ



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