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第二章            ~拍手もない結婚式~

「カリン様。今日は結婚式の日でしょう。何していたのですか!?」

あ…そりゃ勿論、帰る方法。

とはいえず…

「皆の憧れ、エドガー様との結婚式を拒むの、貴女様くらいですよ」

いや、普通…見知らぬ人と結婚なんていわれたらビックリするでしょ。

とはいえず…

「はあ、終わりました。見てくださいな。綺麗になりましたよ、ホラ。鏡で見てください」

わー!?何コレ!?

髪の毛は頭の真上でおだんごになっていて、残りの髪がたれてる。しかも、おだんごのところには豪華そうなシュシュがついてる。

ドレスは、フリルたっぷりで純白。おまけに、真っ白とはいわないけど、白っぽいヴェールのせいで見にくいし。

アイシャドウは薄い黒で、チークもしてる。口紅はラメのついた濃いピンク。キラキラしてる…

「さぁ、行きますよ、カリン様」

はぁい。

やだなぁ…。


「これより、王太子と王太子妃の結婚式を始める」

とうとう帰れなかった。お父さん、お母さん、ごめんね。今頃心配しているよね。でも、もし帰れたとしても、この国のこと、信じないよね…。

シリウスは、私の親が罪を犯しただのなんだのいうけど、絶対違うよ‼

「王太子のご入場です」

大きな拍手が聞こえてきた…外にいる花梨にも聞こえるくらいの大きさ。

「そして新しい王太子妃のご入場です」

目の前の大きな扉が音をたてて開いた。

行けってことよね。

花梨は一歩踏みだした。そしてできるだけ綺麗に見えるように歩いてみたの。

ところが。

式場は静まり返った。エドガーの時は耳を塞ぎたくなるほど鳴っていた拍手も、今はだれも鳴らさない…?

良いのかな…。

花梨は何気なくエドガーを見る。でも、真顔のままで、無言。

よく冷静でいられるわね。

「これより、王太子と王太子妃の結婚式を執り行う。シスター、前へ」

そのシスターは歩み出てきてこう聞いたの。

「あなた方はこれから生涯、喜びを分かち合い、苦の道を共にすることを誓いますか」

いやいや、これにイエス、とはいえないでしょ。まだ顔しか合わせていないのに。

「…はい、そうですよね。皆さん、今この二人は喜びを分かち合い、苦の道を共にすることを誓いました」

…何もいってないのですが…

「黙ってください。…はい、これから烙印(しるしと読む。以下烙印と書く)を、二人の右手首につけさせて頂きます」

あのう、烙印って?

「王家代々の風習です。目には見えないけれども烙印同士は強く結ばれていて片方に異変が起こると共鳴するものです。ではつけます」

…?

あ。今、光ってる!?

「今は強い力で光っておりますがすぐに見えなくなりますよ。ではお二人に神のご加護があらんことを。アーメン…」

あ…。去っていっちゃった。

へえ、烙印か…ってエドガーと『お揃い』!?

烙印のこの模様、不思議…まるで…。

あ、消えちゃった。

「次は結婚ネックレスの交換を行う。王太子、王太子妃、一歩前へ」

え!?ネネ、ネックレス!?指輪じゃなくて?

「このネックレスについているマラカイトは魔除け、魅力向上、恋愛成就などがある。このネックレスをつけて二人とも幸せになってくれ」

はあ。

あ、でもこのネックレスの…えーと…あ、そうそう。この『マラカイト』って石は、きれいな色だな。深い緑…まるで森のような色。森の中で揺れる草を石に閉じ込めたみたい。


「では王太子と王太子妃は退場。暖かい拍手でお見送りください」

パチパチパチ…

という拍手が聞こえた。花梨はほっと息をはく。

でも、何か、変…

エドガーの周りは拍手しているけど花梨の周りは静か…嫌われたのかなあ、自分は。

あの、その…

「あんた気持ち悪いぃ。エドガー様がかわいそお。エドガー様のいとことして恥ずかしすぎるぅ‼」

えっ…なんで無理矢理させられたことなのにこっちが責められるの!?

花梨は涙を隠しながら早足で式場を後にした。


泣いていたら涙が止まらなくなっちゃった…

家に帰りたいよ…。

ごめんなさい、お母さん…お父さん…

「お前、名前は」

あ…エドガーね…。

…花梨よ。

「カリン、か。変わっている名だな」

…それ、国王様にもいわれた。

「どうして泣いている?」

えっ。泣いてなんか…

…うっ。ひっく…。

「強気な女だな。どうした」

エドガーって優しいのかな?冷たそうに見えたけど…

「理由は?」

…あの…


「はあ。そんなことで落ち込んでいたのか。…気にするなよ。これは、カリンの気にすることじゃない。カリンの親が気にすることだ。約束は守ら……」

?え?エドガー?どうしたの…

「なんでもない。忘れろ」

な…?

「俺らは行くところがあるんだ。俺は用事を早く終わらせてさっさと寝たい」

は?

「だから、用事を早く終わらせてさっさと寝たいんだ‼」

はー!?

優しいと思ったのに‼

「俺は優しい、とはいってないが?」

そうじゃないよ‼

泣いてる理由を聞いてくれたし、私がいっている間、黙って聞いてくれていたじゃない‼それはなんだったの!?

「いや、別に。異世界の住人に興味があっただけだ」

…もういいよ‼

「とっとと行くぞ」

行かない‼

「は?」

西日が花梨の背中をじりじりと照りつける。

行かないよ。

絶対。

結婚なんて、認めないもんっ。

「行かないんだから‼私は家に帰るの‼」

思ったままの言葉が、口から出た。

「は?カリン…お前、聞いてた?シリウスの話。必要以上に開かないっていっていただろ」

必要以上。

そんなことわかってる。それでも開ける‼

帰りたいの‼

「あの扉の必要っていうのは、国の危機ってことだぞ」

じゃあ、国の危機を起こすよ‼

花梨は努めて明るくそういった。

「…馬鹿かお前。この国はそういうことは起こせないようになっているんだよ。まあ例えば伝染病とか、食糧不足とか、そういうのが国の危機。…っていうか行くぞ。時間が無い」

たった今、行かないっていったばかりじゃない‼

わ、や…やめっ…

「あっはは。こうするとおとなしくなるんだ~。やっぱり抱える方が気分的に楽だ」

きれいな顔のくせに意地悪いんだから…もう。

とにかく、やめなさーい‼


用事って…

挨拶回りだったの!?

「違う。あんたはよそ者。だから国王と女王に挨拶だ」

挨拶回りみたいなものじゃん。

「ついたぞ…。あ」                        ..

「おう!久しぶりだな、エドガー‼僕のこと、忘れてないかな、エドガー王子」

エドガーに髪の色が似ているな。淡い金髪に、メタリックブルーの瞳。知り合いなのかな?

「ああ!はじめましてお嬢さん‼僕はエドガーの友人・ユージーンだよ♡」

しゃれ…さむっ…。

「♡は余分だ、ユージーン。こいつ、俺の妻になったえーと…あ、カリンっていうんだ」

仲良いのかな、この二人。

「かわいい名前だね、『カリン』。今日からこの友人を覚えてくれ★」

「別に覚える必要など無い」

えっと……

「悲しいなあ、覚えてくれよ」

あの、えーっと…

「とっとと行くぞ。あんたに会いに来たわけじゃないからな」

「違うんだ~。てっきりそうだと思ってた~」

…。

「じゃあな」


え、えと、その。

「はっきりいえよ」

エドガーがぼそっとつぶやいたのが耳に入る。

わかってるわよ。理解はしたもん。

実行できないだけよ。

私は、花梨といいますっ。こ、のたび、えっと…エドガーさんと、あ、エドガー様と、結婚しましたっ。

認めたくないけど…。

「もうよいもうよい」

国王はにこやかに頷く。

女王がエドガーの方をちらりと見て、聞いた。

「ところでそなたたちはこれからどうするのだ?」

あ…えっと?

戸惑って答えられない花梨の代わりにエドガーが思ったままの言葉を口にする。

「部屋に戻って寝ますよ、母上」

女王が驚いた、といった顔をする。

花梨は困惑したままだ。

「カリン…とは、何もしないのか?」

「何をするのですか」

あのぉ…

「せめて一緒に寝たらどうだ」

はい!?

「そなたたちは夫婦であろう。夫婦は一緒に寝るものだ」

私が昨日つかった部屋は…?

「あれは客室。仮の部屋だ。あんな窮屈な部屋で寝るのは辛かったろう?」

はあ!?

客室!?ていうかあれって窮屈なの!?

豪華なシャンデリア、広々としていてふかふかなベッド、あとは…よく覚えてないけど…凄く豪華だったじゃん!?

「とにかく、俺は寝たい。じゃ」

…。

「そなたも行きなさい。部屋は…まあ、エドガーについていってくれ」


ここかぁ。

客室より広いよ、これ。

こんな部屋に慣れちゃったんだったらあの客室が窮屈に見えてもおかしくない、か。

さすが貴族、いや、王族ってやつね。見た目は客室と似たような感じなんだけど、広さが違うね。えーっと2…いや3~4倍はあるんじゃない?

「俺は寝たいんだから邪魔するなよ」

邪魔したつもりじゃないけど。

「うるさいんだよお前。静かにしろ。寝られない」

え?声に出てた?

「まさかの無意識?」

そうね…悪かったわね‼


エドガー寝ちゃった。空、星がいっぱい。きれいだなー。

へー。ここって中庭に直接行けるようになってるんだ~。

あ、あれ、国王様じゃん。

「兄上よ、聞こえていますか」

声が漏れていますよ。

とはいわず。

だって聞きたいんだもん。

「わしは約束を果たしましたぞ。兄上の娘をエドガーの妃にする、という約束を」

兄上の娘をエドガーの妃にするってどういうこと?

エドガーの妃は、認めたくないけど…私。

で…お父さんの娘は私。

お父さんの娘の私をエドガーの妃にする、っていうこと…?

前代国王=兄上。兄上=私のお父さん?

前代国王が私のお父さん…?

「あの娘の父が国王になった日を思い出すと…どうして、としかいえなくなるのお…」

お父さん…国王だったんだ…

じゃあお母さんは?

「あいつのことを好きになったよなあ、兄上は。この国のことを第一に考えなくてはならない立場なのに勝手に結婚して…この国をあっさりと捨てたよな…」

お母さんと結婚するためにお父さんは国王をやめた、ってこと?

あ、あの…!

…ついに声が出ちゃった。

「…おお、カリンか。何の用かい?」

…何してたんですか?

できれば今の話を、詳しく聞きたいから、知らないふりしてたけど…

教えてくれますか?

「カリンには少し早いかのお。部屋に戻って早く寝たほうが良いのではないかのお?」

そうですね…

悲しそうに返事をした後、花梨は部屋に戻る。

国王も戻ってしまった。

空にどんよりとした重い雲が広がっていた。


部屋に戻るとエドガーが眠そうにいった。

「起こすな」

何よ、いきなり。

「中庭でうるさくするな」

うるさくしてないけど。

「じゃあこの音は何だ」

花梨は窓を――窓の外をちらりと見てからうわの空で答える。

雨の音よ。

「ふーん」

あのねぇ…。

…。

「………」

長い沈黙が続いた。

あっ、ねえ…

寝息が聞こえてきた。

…沈黙じゃなくて、寝てただけなのね。早いな、もう。

花梨はベッドの上にドスッとねっころがって、そのまま寝てしまった。

「さよならだ、カリン」

エドガーがボソッといったのを花梨は知らなかった。


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