4:影N沈みて:後
見極めよ
異常を常とする者にとって
常識こそが異質に感じる事がある
だからこそ見極めよ
掛けるべきは愛情か非情か
護るべきは正義か信念か あるいは
これまで話したとおり 彼の人生は陰惨なものだった
私は他人ではないので判らないが 普通こうなったらグレるか悲観的になるか自殺するものではなかろうか?
だが斗守はそうならなかった
それこそが彼の伯母が原因である
彼女は斗守に対して教え続けた
傷付けられてもやり返さない事
怒りに身を任せない事
他者を慈しむ事
しかし 彼の周囲の環境は日を追うごとに悪化していた
このままでは取り返しのつかないことになる
そう考えた彼女は 自分の能力を使用した
その人物がある行動を起こした最に発動する激痛
“厳罰”の能力だった
ここで彼女はあるミスを冒した
彼女は能力の対象を斗守の怒りそのものに設定したのだ
「怒り」による行動ではなく「怒りを抱く」という行為によって発動する痛み
当時幼かった彼にとって それは 日常的な感情を封じられることに等しかった
痛みから逃れるために怒りを感じないようにしていた彼の心は徐々に変化していった
怒りを抱かぬようにしていた彼は遂に
怒りを忘れ
そして連鎖的に
悲しみを忘れ
巻き込まれるように
笑顔を忘れ
遂には 感情の一切を 失った
現在の斗守も特に改善されてはいない
彼が戦う理由は
「目の前の笑顔を守る為」
しかしその目的は 伯母から言われた言葉を持っているだけである
彼には「行動意識」はあってもその元となる「信念」も「正義」もない
事実 彼の笑顔は『場の雰囲気になんとなく合わせて顔の筋肉を動かしているだけ』である
故に彼は
『怪異を振りかざして世の平和を破壊する「怪人」』
ではなく
『破壊された心を武器に破壊に立ち向かう「壊人」』
なのである