勇者に殺されたい魔王の話
最後まで美しく、
「ライ様!!
お願いですから首吊りなどなさらないでください!」
高々な少女の声が魔王城に響き渡った。
──
彼は魔王。
アオレンス・ヒトライ。通称、ライ。
確かに彼は魔王だ。
しかし、魔王らしい威厳などを感じない縮こまり方。
伸びた髪は不健康さを表しているよう。
なのに目は青く透き通っていて不思議な感覚がする。
──
彼は【自殺】に明け暮れていた。
魔王という称号を得たのは良いものの、「魔王は悪い奴なんだ」、「魔王は討たなければならない」だとか。 それを言われ続ければ確実に精神を病む。
彼もその一人だ。
それを部下である二人が止めに入る。
一人は魔王に拾われたエルフの少女。
淡いピンク髪に華奢な体。下町でも噂の美少女、
カリーナ・ヴィオレッタ。通称、ヴィタ。
もう一人は人間として魔王を殺しに来たけど不健康すぎて父性が芽生えた男。
世間には死んだと見て報道し、飽きたのかその話題は尽きた。ちょっと悲しんでる。
ヴァレリオ・アルマンド。通称、アルド。
ちなみに黒髪黒目のちょっと暗めな印象を持たれる可哀想な人。
──
ライの自殺癖にはヴィタもアルドも参っていた。
目を離した隙にすぐ首を吊ろうとする。
そこでアルドは、一つ約束事を取り付けることにした。
「ならこうしましょう。
僕の次の勇者に殺されること。
次世代に伝わるように殺されること。
それまでは死ぬの禁止。」
アルドは魔王にそう告げた。
魔王の自殺癖を止める為にはこのくらいしかなかったのだ。
ライはその死に方が気に入ったのか、死ぬの禁止令が出されてからは「今か今か」と死のうとせずに勇者が来るのを律儀に待っている。
その間にヴィタが町に出て、
『魔王は凶悪な奴で──』
『勇者を滅ぼそうとしている。』
『街に出てくるのもあとちょっと。』
『ずっと私たちを見ている。』
なんて噂を流している。
──
そして最近、新たに勇者として冒険に出かけた勇者パーティがあることを嗅ぎつけた。
「やっとですね。」
アルドが続けた。
剣士、魔法使い、重戦士、銃使い。
四人の勇者パーティ。かなり期待できる奴らでなんとも良いバランスを保っているらしいが、ライはそんなことより、これからすぐ死ねるかもしれないと思うと気が気ではなかった。
そして、その報道から一年。
そろそろ世間が忘れかけ、ライ達も期待が薄れた頃だった。
「出てこい魔王!!!!」
一人の青年が魔王城に辿り着いたらしい。
すぐに勇者であることに気がついたライ達は倉庫的な場所で話をし合った。
「ライ様。
ここは貴方の三分の一程度の力をお出ししていただき、強かったと世間に知らせるように死んで逝ってください。」
アルドは最後の会話とでも言わんばかりに目に涙を浮かべている。
それに引き換え、ヴィタは少し誇らしそうに思っている様子だった。
「ライ様。いってらっしゃいませ。」
ヴィタを拾った当時、ライは「おはよう」「いってきます」「いってらっしゃい」「ただいま」「おかえり」「いただきます」「ごちそうさま」「おやすみ」などの挨拶を欠かさないことをヴィタと約束した。
それを最後まで守り切ったのだ。
「あぁ。いってきます。 少し死んでくる。」
彼…アオレンス・ヒトライの足取りは今までの人生で一番軽かった。
「魔王……!!
邪悪な奴め!!僕たちが相手だ!!」
情熱に満ちた赤髪の青年。
おそらくアルドの後継者だろう。
ちなみにアルドは一人で洞窟を探検していたところ亡くなったことになっているらしい。
「負ける気がしない。
私たちなら絶対に魔王を討てます!
カルラ!耐久魔法を!」
「耐久魔法なんか私に効くものか!!」
元々ライは人と戦うことに喜びを覚えた。
悪役を演じることだって、誰かと戦えるなら別に良かった。
魔王という称号だって、自分を鍛えている内に受け継いだものだ。
最後の戦い?
本気を出せなくたって、楽しければそれで良い。
誰かの記憶に残れるなら本望だ。
最終的には勇者パーティが消滅魔法をカルラというメンバーに使わせてライに勝利した。
「お前らは本当に良い!!
私の最後がお前らで良かった!!」
最後は悪役らしく、そして"ライらしく"。
──
ヴィタとアルド。
勇者パーティ全員が街へ帰ったことを確認すると、一つ奥の部屋から顔を出した。
二人は消滅魔法によって粉となり消えたライの死場所にそっと触れて静かにライとの記憶に浸った。
楽しかったこと。嬉しかったこと。悲しかったこと。
面倒くさかったこと。辛かったこと。
彼らの記憶には全てライがいた。
出会ったのは人生の半分にも満たないはずなのに。
──
一方勇者パーティは英雄として崇められ、
ライについての取材から『最も死に方のカッコいい魔王』としてこれまた伝説を生んだ。
──
彼の最後は彼のイメージ通りだった。
彼と仲間で作り上げたこのでっちあげで。
世界で一番美しい死に方を。
その後までも美しく。




