妄想病《下》
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(なんで…僕は吉川さんになってるんだ?
なんで…僕は、僕は…し、死んで…
体は動かせないし、喋ることも瞬きも呼吸もできない。でも苦しくもないし痛くもない。)
しばらくすると身体が勝手に動き出した。
ゲームで言う観戦画面みたいな感じだ
いろんな考えが頭をよぎる
(なんで吉川さんになってるんだ?
なんでまだ生きているんだ?
走馬灯みたいな感じのやつなのか、
僕のいつものくだらない妄想なのか?)
そんな事を考えている間にも体は勝手に動き、朝の支度をしている。
目を瞑ることができないので見るしかないのだが吉川さんの着替えを見て良いのかとかくだらない事を考えている。
嬉しい気持ち半分、申し訳ない気持ち半分
(………こんな時になんでこんな事を考えているんだろう。)
先に服を出している。見るとそれは
僕が通っていた学校の制服だ。
(なぜ?吉川さんは転校したんじゃないのか?)
考える隙もなく吉川さんは服を脱ぎ出す。
(…は、え?)
吉川さんの体は見るも痛々しい傷で溢れていた。
強く殴られたような痣に
何十個とある切り傷
肩や腕には青タンが何箇所も…
しかし、肌が見える足や顔、手なんかは
傷がなかった。
意図的に傷つけられていることは容易に察せた。
(なんで…吉川さんは…そんな事されてるなんて…
なんで…)
吉川さんがスマホを見る時に、日にちを確認すると、日にちは5月29日
(29日?今日は7月8日じゃないのか?
5月29日…それは僕が不登校になっていた時じゃないか。
僕が不登校になっている間にやられていたのか…それともずっと前からやられているのか、分からない。)
‘1時間後’
学校に着いて10分もすると1人の女が来る。
見るとそれは吉川さんといつも一緒にいた女だ。だが、不登校になる前とは様子が違っている。黒髪を金髪にし、耳にはピアスをつけていた。
「吉川ちゃーん一緒にトイレ行こ?」
女が言うと吉川さんはコクリと頷いた。
…しかし手が異常に震えている。
吉川さんがこれから暴力を振るわれるんじゃないかという、不安を感じた。
そしてその予想は当たっていた。
「吉川ちゃん、今週の友達料は?」
「え…私、昨日渡したよ?」
「あんなので足りると思ってるの?」
「で、でも前までは一万円で、許してくれてくれてたじゃん」
そう吉川さんが言うと、女がニヤニヤしながらスマホを取り出した。
「払えないんだったら…この写真ばら撒いちゃうけど、良いの?」
見るとそれはおじさんと手を繋ぎながらホテルに入って行く吉川さんの写真だった。
「ご、ごめんなさい…それだけは…」
「じゃあ早く払ってよ…」
「で、でももうお金もなくて、」
「そう?じゃあいつものでいい?」
女は吉川の返答を待たずに3人の女を呼び出した。
「じゃあサンドバック代で今日のはチャラにしてあげるから。」
そう女が言った瞬間、吉川さんは女三人に押さえつけられ、何回も殴られた。
(もうやめてくれよ!吉川さんが何したっていうんだよ!なんで…)
何回叫んだって誰にも聞こえない。
何回も殴られ吉川さんは泣き叫んでいる。
(あぁ、吉川さん…)
目を逸らしたいのに逸らせない。
‘20分後’
暴力が終わり、女共が帰っていく。
トイレに吉川さんを置いて、
吉川さんは、泣き顔を水であらい、痛みに蓋をして席に戻った。
この姿を見て、僕は過去の自分と、照らし合わせ、同情した。
でも思ってしまった。吉川さんは僕と同じだ。って
本当に友達と言える人はいないという点でだ。
こんな自分が嫌になる。
‘6月5日’
彼女はホームセンターへ行った。
僕が首を吊ったロープと一緒のものを買った。
そして、部屋にロープを吊るした。
(ごめんね、ごめんね、ごめんね、)
それ以外思えなかった。
何に対してなのか、自分自身もわかっていない。
あんな暴力を何回も見た。
吉川さんが死んだあと、自分はどうなるのか、
考えても分からない。でも、もういい。
辛い。
好きな人がこんなに辛い思いをしているのが、あまりにも、
何もできないのが歯痒い
首吊りを止めようとしたって、どうせ伝わらない。
きっとこれは俺の妄想なんだ。
走馬灯みたいなものなんだ。
そろそろ死ぬから、この妄想も吉川さんが死ぬという結末で終わらそうとしているんだ。
吉川さんが手を震わせながら首にロープをかけようとしている。
[止まって!]
その思いは今までの自分に言い聞かせる言葉じゃなくて、本心だ。
伝わっているかもわからないのに大声で言う
[止まってください、吉川さん、僕はあなたが好きなんです。
だから生きてほしい。生きることから逃げた僕を笑う立場にいてほしい
あなたがどんな気持ちでロープを持っているか分かる。僕もそうだったから。
でも、あなたは僕とは違う。吉川さんは一人じゃないんだ!
僕はあなたがどんな時でもずっと、”好き”って思ってるから、味方でいるから。だから、]
[生きてほしい]
それを言い終わったあと、急に首を吊っている僕に戻った。
死にかけで、もがいている僕に。
今までで一番最悪で、ゴミな…
とんだ妄想だった。
…でも、ちょっとは…進んだかな
5年後
「……よいしょっ、やっと見つけた〜
…あの時、なんで急に告白してきたの?
いきなり声が聞こえてきて、びっくりした。
でも、嬉しかった。私を認めてくれる人が、応援してくれる人が、好いてくれる人がいたんだって思えたんだ。
生きる希望をくれたんだ。
私はね、すぐに立ち直ることはできなかった。けどあのあと転校してね、通信制の高校に通って、大学にもいけたんだよ。
あなたがそばにいてくれたから…
なんで、死んじゃったのか分からない。
もしかしたら助けられたのかもしれない。
…今言っても遅いかもしれないけど、言わせて。」
「ありがとう」
吉川は小さく佇む墓石の前で、手を合わせた。
ここまでご愛読ありがとうございました!
妄想病は完結します!
本当にありがとうございました!




