表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想病  作者: 秋雨ハル
1/2

妄想病 《上》

前の席の子に片思いを続けた主人公の物語。

そしてその片思いは次第に

生きる光になっていく。

学校という小さな社会集団の中で生きる残酷で一途なストーリー。


好きだ。 

ちょっと髪がぼさぼさなところが好きだ。

マスクしている時の顔が好きだ。

渋々マスクを外している時の顔が好きだ。

授業で当てられた時に小さい声で答える時の声が好きだ。

物静かな性格なところが好きだ。

体育の男女合同授業の時に見える足の美しすぎるところが好きだ。


でもなぜだかあなたに声を掛けようとは思わなかった

いや、声を掛けられなかったのだろう。

もし声を掛けてしまったら、

もうあなたの後ろに座れなくなるから。

___________________


ずっと変な妄想をしている。

前の席に座っている吉川さんを助ける妄想。

今日は彼女が彼女の親から暴力を受けているところを助ける妄想。

昨日は彼女が重い病気にかかった時に僕が助ける妄想。

もし僕を俯瞰的な視点で見るとすると、とても気持ちの悪い人間に見えるだろう。

妄想と違い現実の僕はまだ吉川さんに一言も声を掛けれたことがない。 

声を掛けようとしたことはある。 

でもその言葉が喉につっかえて先に行かない。

僕は広く浅い交友関係を持っていた。

だから確実に信頼できる人もいなかったし、誰かに言ったとしてもどうせ言いふらされるだけだと確信している。

だから怖かった。第一声どんな言葉を発せばいいのか分からなかったからだ。

どんな話題を話したら良いのか、どんな反応をされるのか。

そもそも話しかけたら嫌われるんじゃないかとか。

そういう妄想がぐるぐる頭の中を回っている。

僕は最近こういう妄想でストレスが溜まっている。

吉川さん関連じゃなくても試合でまたベンチになるんじゃないかとか、後輩からまたいじめられるんじゃないかとか。

その嫌な妄想はいつも的中していた。

監督はやんちゃな人がお気に入りだから

僕みたいな前に出れない性格の人は気に食わないのだろう。

試合ではいつも怒られたり、自分だけ罰走させられたりする

後輩は根っからのいじめっ子気質。だから僕みたいな抵抗しない人間はいじめたい放題なのだろう

いつも格好の的になっている。

思えば僕にも悪いところはたくさんあった。

でもそのことを考えると自分までもが敵に思えてくる。

だから考えたくない。

自分だけはまだ味方につけておきたいから。

そんな事を思っていたある日、

席替えで吉川さんの後ろの席になった。

最初は何も思っていなかった。

でも1週間もすると僕は吉川さんに恋をしていた。

僕には無いものを持っていたからだ。

吉川さんはいつも一緒の人と話していた。

移動授業のときも二人組を作るときも。

その人が男だったらどれだけ妬んでいたのだろうかと思う。

いろんな人と話す姿は見たことがないが、

その人との関係は一朝一夕で作れるものじゃないと一目でわかった。

今思えば席替えした直後に話しかけてれば良かったと後悔している。  


“1週間後”


同級生の友達の家で遊んでいるとき、急に部活の後輩が来た。

なんでも友達と後輩は幼稚園からの親友なんだそう。

僕は激しく動揺した。いつもいじめてくる後輩がいま隣に来たからだ。

僕は逃げ出そうとしたが後輩に服を捕まれ、こかされ、上に乗られた。

そして携帯を奪われ検索履歴を見られた。

ここまでのことをされていても友達は何もしなかった。ただ、のしかかられる僕を見て嘲笑っていたと思う。

検索履歴を見た後輩が言った。

「“女子 喋り方”とか調べてんキモ。お前が喋りかけても気持ち悪がられるだけやで。」

吐きそうなくらい気持ち悪くなった。

抵抗できないし、耳を塞ぐこともできない。

1時間くらいしてやっと解放された。

僕は泣きながら帰った。

後輩と友達を憎むと同時に自分への怒りも沸々と沸いていた。

自分が遊びに行かなければ。

そんなことを調べていなければ。

過ぎてしまった事をずっと責めていた。

もう自分も味方じゃないと思った。

誰も味方じゃない、誰も信じれない。

僕のストレスは限界に達していた。

でも解放する事も出来なかった。


それから僕は不登校になった。学校に行くのが怖くなったからだ。

もし友達が僕のことを言いふらしていたらとか、後輩にまたいじめられるとか。

声が出せないほど苦しかった。

ずっとお腹に鋭利な棘が刺さっているみたいで。


こんなときに吉川さんが来てくれたらなとか思っている。もちろん来るはずもないのに。


僕の生きる理由はもはや吉川さんに対する恋愛感情と言っていいほどだった。

いや、それ以外僕は何も持っていなかった。

でもそのたった一つの生きる理由のために僕は学校に行こうとしている。

もう3ヶ月も休んだから席替えしているだろう。

もう僕の前の席は違う人だろうと思った。

席はくじで決まるから確率はとても低い。

でも藁にも縋る思いで席が近くあれと願っていた。


“6月7日”


学校に着いた。ヒソヒソと、なんであいつがいるんだろうという話し声が聞こえてくる。だかそんなものもう関係ない。

吉川さんさえ見れればいいのだ。

教卓の中にある席の名簿を見て自分の席と吉川さんの席を確認した。

自分の席を確認してから吉川さんの席を見ようとした。

名簿の中を一周するように視線を向ける。

指が、腕が震える感覚がした。

その名簿の中には吉川さんの文字がなかった。

何度も確認をした。何度も何度も何度も…

でもそこにはなかった吉川という文字が。

頭の中にいろんな考えが交差する。

吐き気がした。めまいがした。

でも名簿に書かれていないだけかもしれない。

そんな淡い希望を抱いて席に座っていた。


友達だった奴らがいじめようと近寄ってくるが全てを無視した。

吉川さんが教室に来るのを待っていた。

ホームルームが始まっても吉川さんは教室に来なかった。たまたま今日は休んだのかもしれないと思っていた。


「吉川は転校した」  


先生がそう言った。

原因は分からない。

聞く勇気もない。

連絡先だって知らない。

何もかもが足りていなかった。


僕は生きる意味を失った。

今僕が感じているのは

友達だった奴らが言っている罵詈雑言に対する恐怖や悲しみと、

吉川さんがいなくなったという絶望だけ。


言い返そうとした。

でも声が出なかった。

いや、出せなかった。

物理的に出なかった。


僕は巡り巡る感情に耐えきれずその場に倒れ込んでしまった。

目覚めた時には病院のベット上だった。

ちょっとすると、医師と両親が部屋に入ってくる。

「どうですか?体調は。」

医師がそう告げる。

両親に迷惑をかけたくないので、本当は良くないが大丈夫と言おうとした。

言おうとした。


声が出なかった。

不安で冷や汗が出てくる。

焦りながら医師に声が出ないことを伝えるために紙に書き、それを見せる。

医師も驚いた表情でこちらを見て、すぐに病室から出ていった。

両親は今にも泣きそうな目でこちらを見ていた。


この症状がなぜ発症したのかを調べるために精神科医が来た

一回両親にも出ていってもらい、二人で筆談をすることになった。

言いたくはなかった。が、声が出せないのは困る。

だから、なぜこうなったかの経緯を一から説明した。

筆談している途中も真剣な眼差しで精神科医の人は話を聞いてくれた。


書いている途中自分の目から涙が流れているのが分かった。

なんでこんなクソみたいな人生送ってしまったんだろう。

数ある選択肢の中からなぜ最悪のものばかり選んでしまったのだろう。


書き終えたその瞬間、肩の力がスッと抜けるような感覚がした。

今まで一人で抱え続けていたものがなくなったような気がした。

初めてこの事を人に話した。

まだ声は出なかった。でも暗い雲に覆われていた心に光が差したようなそんな感じだった。


しばらく精神科医に通い詰めてなんの病気なのかが分かった。


   “重度強迫性発声障害”


聞いたこともない病名だ。

「これはどういう病気なんですか?、僕はまだ話せるようになるんですか?」

思わず書き殴る。

「これは過去の強いトラウマによって発症する心の病気だとされています。

今までを見ても発生数はこれを含め21回と少なく、

治療法が分かっていません。」

僕は絶望したと同時に少し安堵した。

僕みたいな人が20人もいるんだって、

「とりあえず今日は家に帰ってください。これからは筆談や手話などが必要になってくるので、練習しててくださいね。」

「治療法が分かり次第連絡いたします。」

先生の言う通り、今日は家に帰った。


“一カ月後”


僕は何をしたらいいのだろうか、

何を目的として生きているのだろうか。

何も聞きたくないし何も見たくないし何も話したくない。

“ねぇ、僕は何をしたらいいの?”

全部自問自答する日々だ。

きっと死にたいと思うのにまだ生きているのは自分の弱さだ、死ぬのが怖いから、

死んだらどうなるか分からないから、

そして吉川さんに対する未練だ。

もう一回吉川さんに会えるだけでいい

会えたらそれでいいんだ。

お願いだ、合わせてくれよ。

流れ星に手を合わせながら心のなかで叫んだ。

何も起こらないならそれでいい。

やっと諦めることができる。

僕はあらかじめ吊っていたロープに首をかけた。


不思議と苦しさはないなんてことはない。

藻掻きながら急に怖さが出てきた。

なんでこんな事をしたんだろって、生きたいって、ごめんって、

イヤだよ。なんでこんなことになってるの?

あのまま生きてたらよかった、きっと挽回できるチャンスはいくらでもあった。

なんで僕は吉川さんを好きになったんだ?


“なんだよ…まだ…未練ばっかじゃないか”


「……………」



明るい日差しが僕の目に刺さる。

見たことないベット、

見たことないパジャマ、

体は動かせないけど勝手に動く、

なんだ?これ

僕は、僕は、

死んだんじゃないのか?

意志に関係なく足が鏡に動き出す。

鏡を真っ直ぐ見上げると、

僕は吉川さんになっていた。

下巻も今から描きます。

頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ