結果
作品提出が終わり数日が経った。
今日はいよいよ受賞作品発表の日。朝からずっと胃がキリキリ痛み、何をしても上の空だ。
結果が分かる紙が届く13時。私はもう気が気じゃないまま桜さんたちの会話を聞いていた。
「一色さん、柚月さん」
表彰を知らせる紙が私達に届く。少なくとも2人とも受賞をしたと言うことだ。
バクバクともう壊れそうな心臓を必死に落ち着けて紙を開いた。
「特別賞 柚月陽菜」
紙は感情なく結果を突きつける。
バクバクとしていた心臓が段々《だんだん》静かになっていった。
ほんの少しの悔しさと、やり切った清々《せいせい》しさが混ざり合って静かに紙を持った手を下に降ろした。
「陽菜ちゃん…」
桜さんは申し訳なさそうにこちらを見る。恐らくだが、最優秀賞を取ったのだろう。桜さんの作品は1日で仕上げたとは思えないほどクオリティが高く、そして鮮やかで美しかったのだから最優秀賞を取るのも納得だ。
「いえ、これが私の実力ですから。おめでとうございます、桜さん」
私が取ったのは特別賞。作品のクオリティを鑑みたら勿体ないぐらいの賞だ。
本番まで何が起こるかなんて分からない。だからこれはトラブルのせいでもなんでもない。
私の実力はここまでだった。それだけだ。
切り替えよう、この後には一大行事……月下剣術戦が待っているんだから。
「あ、君かな? 柚月陽菜ちゃん」
私は不思議に思いながら、声のした方を振り向く。
20代ぐらいの男性が部屋に駆け込んでくる。 ここまで走ったのかほんのりと汗をかいていた。
「何か用ですか? 」
私は少し警戒したまま話を聞く。年上の男性は少し苦手だ。どこかで恐怖を感じてしまう。
「君を特別賞に選ばせてもらった審査員だ」
男の人はこういう者だよ、と言いながら鈴木幸太郎と書かれた名刺を差し出す。
水尾美術館館長の文字を見つけ、私は目を見開いた。この人、すごい人だ。
「君の作品に感銘を受けたんだ」
私は大いに困惑した。なぜなら私の作品は荒だらけでお得意の正確性すらどこかに行った粗品だったから。
そんな私の表情を汲み取ったのか、館長さんは話し始める。
「ああ、確かに粗雑だったね。でも……そこには魅力と色があった」
更に私は困惑した。私の色……パースの正確性の事だろうか。あの作品に正確性が出し切れたとはとても思えない。人違いだろうか。でもさっき確かに私の名前を呼んでいたような……。
「君の優しくてとても強い色がよく出てて、僕は好きだなあ。あ、でも陽菜ちゃんなら次はもっとやれるとも思うけどね」
私は口を大きく開く。そのまま目を細め、口角を緩ませた。
そっか、ちゃんと届いたんだ、私の色…!
なにより桜さんに指摘された「私に見える世界」を表現できたことに喜ぶ。そう、私は描きたいものを私の思うままに描いたのだ。蓮くんのする優しい微笑み。少し不器用で口角が左右対称に上がらなくて、下まつげがいつもより主張されていて……。
その美しさが世界に受け入れてもらえることが心から嬉しかった。あのままでいいんだ、じゃあ次はもっと正確に丁寧に描きあげよう。そして次こそは最優秀賞を……!
「君は確か月下剣術戦を受ける子だね?」
私ははい、と頷く。
この人も月下のことを知っているようだ。関係者でない人間でも大人なら既に周知のことなのだろうか。
あまりの情報伝達の速さに驚きつつ、自分の成そうとしていることの大きさに少し怯む。
「面影を感じるんだ、明るくて優しくて強かな色に。もしかしたら君は……」
そこまで口にして館長さんは口を噤む。
続きが気になった私は話し始めるのを待っていたが、いつまで経っても話は始まらない。
館長さんは少し眉を下げ苦笑した。目を左上に向けた後真っ直ぐとこちらを見る。
「要らぬことを言うのはやめておくね。月下も頑張って欲しいなあ、期待しているよ」
私は力強くはい、と頷く。
館長さんはじゃあありがとうね、と言葉を残して特別教室を出た。
皆が一斉に私に話しかける。
「陽菜、よかったな」
「今の館長結構すごい人だぞー陽菜チャン、美術で食ってくのもアリかもよ? 」
「良かった、陽菜ちゃん……良かった……」
私は眉を寄せて笑う。もう、みんなってば過保護なんだから。いつもそうだ。桜さんは導いてくれて、蓮くんはそばに居てくれて、葉月先生は……いつものようにおちゃらけていたけれど。
月下にも負けぬよう、月に手が届くよう、何があっても頑張ろうと心に決めた。




