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死んだ青春

その日、僕の青春は死んだ。


市川藍さんが亡くなったそうです。


目を伏せ一度視界を閉ざそうと耳障りの悪い音は続く。

藍ちゃんが?え、あの子…?

死んだって…最近寿命以外の死者ってそんないないのに…?

誘拐されたって噂もあるよ。


うるさい。うるさいうるさいうるさい。


脳内で蘇るのは、ただただ愛らしい君の音。

ころころ、からん、と擬音が付きそうな君の声。

瞬いたら全てが消えてしまいそうな君の笑顔。

その無邪気さも、愛らしさも、僕だけに見せる暗い一面も、なにもかも___


静かに机に伏せ、唇をかみしめる。

立てた歯と歯がぶつかり、ギシリと音を立てた。

そんな、そんなことがあってたまるか。


____そうだ。


あの場所まで行こう、君を見つけに。


思った頃にはがたりと席を立っていた。止める誰かの声など聞こえない。いや、聞こえないふりをした。


そこはちょっとした廃屋だった。

君と見つけた僕らだけの秘密基地。

話を重ねては笑いあって、いつの日かは指切りげんまんをして。

いつか君は笑って、泣いて、喜んで、怒って。

懐かしいな、と感傷に浸る。


「藍…」


ぽたり、ぽたりと涙が零れる。


その時だった。



急に聞こえたずぎっ、という音と共に視界が眩む

奇抜な服を着た少女がこちらを向いていた。


「はじめまして、美しい貴方」


にこり、と微笑むが、その笑みに暖かさはない。

美しい、と言うのだろうか。白く長い髪をした、白いワンピースの少女。


「はっ…?何…い゛っ」


ズキリと傷んだ右肩を見ると、大幅な出血をしていた。


「これ…なんだよっ…急に…っ!」


その少女はまた、にこり、と微笑んだ。


「何、とはなんでしょうか。わたしはただ、務めを果たすまでです。あの子…藍、さん、の恋人さん」


「藍…っ!?」


がたりと起き上がろうとして傷んだ腕が邪魔をする。

鉛みたいだ。重たくて重たくてどうしようもない。


「っ…!藍の名前をなぜ知ってるんだ!?」


つう、と持っていた鋏を手に添わせては微笑む。


「藍、さんは、わたしが、殺める、運命ですから」


「殺め…っ!?」


状況が飲み込めない。殺される?いや、まだ生きていたことの方が…。


「死んで、なかった…?」


少女は少し俯いた。


「わたくしにはわかりません」


少女は呟く。

何を言い出すんだ、急に。


「美しき皆様は、死を悲しむ。そうして、毎秒誰かが亡くなったことを悲しんでゆくのでしょうか。わたしが雑草を踏み潰すように、誰かの人生を踏み潰すのを、皆は毎度悲しみ、嘆き、慈しむのでしょうか。」


よく分からない世迷言をつらつら並べられて心底不快な気分になった。

死を悲しむ?当たり前だろそんなの。だれかが死んだら悲しいに決まってる。

ぎり、と睨みつけて精一杯を吐き出す。


「なんでそんな当たり前なこと聞くんだ?何でもいいから藍返せよ!」


「当たり前…」


少女は顔を伏せた。


「わたくしにはわかりません。そのような、美しいものの、科白など」


「_____は?」


視界がぐちゃぐちゃになっていきながらぐちゃぐちゃな理論を展開される。

なんだこんなの、ふざけて、


「すすす、すとーーっぷ!」


「っ、!…貴方、は」


純白と少しの桜色が映りこんだ。


「君だね。指名手配中の…鋏を使う権能者」


「…………っ!」


鋏?権能?脳がぐらついてなにもわからない。


「と、君は…ふむ、そうか…」


こと、こと、こと、とこちらに桜色を纏う少女が近づいてくる。


「ねぇ、君、生きたい?」


にこり、と向けられる笑顔は暖かくてただ眩しかった。

僕が生きたいか、なんて、そんな。


「いき…たい…いきて、藍に…」


ふふ、と彼女は笑う。


「ならば______生を歩め、少年!」


ぶわ、と視界が白くなった。

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