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告白

沈んだ心で考える。どうして私は決意ができなかったのだろう。どうしてあんな甘ったれたことを言ってしまったのだろう。


答えは明白だ。


…寄り添ってくれると思っていたのだ。憧れている遠い存在なら、姉なら、私に手を差し伸べてくれると。あまり深く話したこともないけれど、それでもそう信じていたんだ。


軽はずみな考え方に嫌気が差す。


「陽菜?」


声がする方向を向いた。

そこには綺麗な黒髪の少年__蓮がいた。


「蓮くん…」


蓮は心配そうな表情をして私の頬に手を伸ばす。


「陽菜、目が赤い。どうしたんだ?まさか誰かに…」


「触らないで」


ぱしり、と手を跳ね除ける。

が、すぐに我に返りその行動を反省した。

やってしまった、蓮くんが1ミリも関係ないのに八つ当たりを…。


「陽菜」


蓮の瞳が真っ直ぐこちらを向く。


「何かあった顔をしている。話してくれ」


「…」


私は少しそっぽを向いた。

大体、この事に蓮くんが1ミリも関係ないかと言われたらそうでは無い。蓮くんとお姉ちゃんは実の姉弟だし、私の姉と弟だ。

話してみてもいいのだろうか。


「実は…」







「自信が無い、か」


寮の玄関で全てを話したところ、蓮はいつもと変わらず無愛想な反応をした。

そうして蓮くんはペットボトルのお茶に口をつけた。

こんなに寒い時期なのに冷たいものを選んでいる蓮くんは正気なのかとこの時期が来る度に思う。


「陽菜は姉さんと比べて成績のインパクトが弱い」


「ちょっと蓮くん」


こういう所も正気なのかといつも不思議になる。いつもそうなのだ。この前喧嘩した時も、「蓮くんは私と桜さんのどっちが大事なの!?」と怒鳴ったところ「桜さんだ。正確には桜さんというより仕事だ。仕事をしなければ食っていけないからな」と答えられた。いつも無愛想に空気の読めない発言をする神経を疑ってしまう。


「運動も頑張っているけど陽菜は元々運動音痴だからな。小さい頃それでよく泣いていた。カリスマ性も後天的なもので先天的なオーラを持ち合わせている姉さんには敵わないかも知れない」


「蓮くん?」


私の堪忍袋の緒が切れそうになる。

なんなのこの男、いつもいつもそうやって…!


私は蓮くんのことすごいと思ってるのに。魔術はまあまあだけど、契約している悪魔_タナちゃんの能力値が異常なぐらい高くて、それでいて他の悪魔や精霊の召喚術だって強くて…。


考えているうちに虚しくなってきた。柚月家で一番の落ちこぼれは私なんだな。まあ、もうすぐ柚月家の子じゃなくなるけど。


「でも、陽菜は」


蓮くんが表情を変えた。

分かりにくいけれど、少し表情筋が動いている。これは笑っている顔だ。


「陽菜は、負けず嫌いだから運動音痴を克服した。今じゃ学年トップの成績になった。人と関わることが苦手なはずなのに本校舎で他の同級生や先生との付き合いも忘れずみんなの頼れるリーダーになっている。これは全部、陽菜の__」


蓮くんがにっぱりと笑った。


「陽菜の頑張りのおかげだ。陽菜は努力がすごく得意なんだ、だからそこまで登り詰められた。だから、陽菜なら大丈夫だ」


「…えっと」


私は盛大に照れていることを隠すために目を逸らした。


「ありがとう。でも私、全然そんな凄くないからお姉ちゃんに勝てないよ」


そう、どう頑張ったって、お姉ちゃんにはなれないし、勝てない。


「陽菜の目標はたかが姉さんなのか?」


「…?」


どういう事だろう。

たかが姉さん?姉さんって柚月夜のことでしょ、夜お姉ちゃんは日本一すごい武道家で__。


「陽菜なら姉さん程度軽く超えてもっと上に行けると言っているんだ。だから俺はその手助けをするためにここに居る。陽菜が迷った時、立ち止まった時、いつでも俺はここに居る」


自信に満ちた笑みをする蓮くん。

姉さん程度って…。お姉ちゃんは「程度」なんかじゃないのに…。


「将来は陽菜が決めるといい。どこに居ようと俺が隣にいる。どこに居ようと俺が幸せにする。そのために金も力も有り余るほど蓄えた。全て陽菜に費やすためだ」


「え、じゃあもしかして仕事が大事って言ってたの…」


「ああ、陽菜を幸せにするための金だ」


えっ、そうなの!?

っていうか、っていうか!

これって俗に言う…。


「こ、これってその…告白?」


蓮くんははにかむ。

こんな表情、初めて見た…。


「ああ。だが、婚約と受け取って欲しい。月下剣術戦が終わったら、二人で指輪を見に行こう」


「蓮くん…」


私はそっと口を開く。


「婚約って1人でするものじゃないんだけれど。私の許可取ってくれる?」


「ああ、忘れていた。すまない」


これまた満面の笑みで返される。

ほんとに分かっているのだろうか、この男。

全てにおいて心配しかない。


蓮くんは立ち上がり、私の目の前で膝をつく。


「陽菜が望むなら柚月家を共に継ぐ。陽菜が望むなら海外で普通の幸せを共に掴む。一緒に生きよう、陽菜」


本気…なんだ。

いつの間にやら雨は雪に変わっていた。

寮の玄関はいつもと変わらぬ光景で、風情などまるでない。


「…しょうがないなあ蓮くんは!こちらこそよろしくお願いします」


こんなにも寒いのに耳も顔も体も熱い。


「ああ。よろしくお願いしたい」

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