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その魔法学校で暮らす終末装置は救いたい  作者: くずきり
底章 厭になる程暑い夏
16/23

ごめんね

わたしは夢を見ない。

だけど、たまに不思議な精神空間に入る。

都合がいいことにその間現実世界では時が止まっているらしい。


「ねえ、桜」


「なーにおかあさん!」


いつ終わるんだろ。


「お母さんが、桜を絶対幸せにするからね。だから桜は大丈夫」



確かにお母さんと同じ声でその人はそう囁く。

場面は暗転した。


「いい加減死になさい桜!」


「ごめ、なさ、…わたし、死ねなくて、ごめ…」


ご想像にお任せするが、それはもうすごい音が鳴っていた。

痛みは相変わらずよく分からなかったんだっけ。懐かしいなあ。


「ごめ、なさ、出来損ないで、生きてて、死ねなくて、ごめ…」






━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




談話室はまだ静かだった。

誰一人いない、静寂が通る。

ガラ、と扉が開く。


「桜。昨夜のこと聞いた。大丈夫か?」


「ん?ああ」


葵だった。隣にはせんせいがいる。そりゃ心配になるか、お母さんが死んだんだもん。

その時。


「桜、おはよ」


「あ、宙…」


わたしはよく分からない感情になったまま笑顔を向けた。

宙が口を開く。


「話したいことがあるんだ。ちょっといいかな」


「う、うん…」


せんせいと葵が表情を固くする。


「まずは、ごめん。本来なら僕一人だけがあの場面を見るつもりだった。桜まで立ち会わせるつもりはなかったんだ。でも__」


宙は目をす、と逸らした。


「あんな女、死んで当然だったんだよ」


「この…」


「おいおい宙、待て待て待て」


わたしが何かを言葉にする前にせんせーと葵がピリピリし始める。こういう空気、苦手だなあ。

なんでそんなに呑気なのか?決まってる、現実が辛すぎて考えないことに逃げてるんだ。

愚かで滑稽だなあ。母親のひとつも守れずに大好きな人を悪役にするなんて。


「だって、桜が何されてたのか見なかったわけじゃないでしょうあなた達も!桜は…桜は…!だからわざわざ俺と葉月先生でこんなでっかい寮作って名前が無い桜に桜って名前つける書類無理やり通して全部全部桜が普通に生きれるように尽力して…!」


「おい、宙」


「でも、それでもあいつのやったことは消えない!その証拠に桜はいつも大衆の前で祈る時に怒号を浴びせられる!ひそひそ噂話をされる!陰湿な虐めや掲示板の書き込みだって…!俺が全ての権力使ったところでうじゃうじゃ湧いてくる…全部全部あいつのせいなんだよ!」


「宙、そこまでだ。いい加減止まりなさい」


せんせいが宙を拘束する。

葵がぽん、とわたしの背中を叩いた。


「桜。こいつの言ってることはまあまあ正しいけど結局悪いのはこの世界。だってこの世界は、喜劇の振りをした悲劇なんだし」


「… うん、大丈夫」


桜、と心配そうな2人を横目に宙に言葉を渡す。


「大丈夫だよ、宙。わたしはね、何にも怒ったりなんかしてないよ。だから、お母さんにされたことも、宙がしたことも、全部しょうがないの」


「桜…」


「はあ…」


ため息をつく葵の方を見る。

窘めるようにわたしは言った。


「大丈夫。お母さんを殺したのはわたしだよ。全部わたしが何とかするから、宙もみんなもただ笑っててよ」


「こんのっ…」


「葵、ちょっと待とうか」


予想とは異なるみんなの反応。

空気がビリビリする。みんな各々歯を食いしばったり手を強く握りしめたりしていた。


「違う…それは、違うだろ…」


葵が心底苦しそうに言った。

どうして?みんなを安心させようと思ったのに、上手くいかない。

ぐい、と葵に胸ぐらを掴まれる。


「親友が親殺されて殺した相手が友達ですとか聞いておいて笑ってられるわけねぇでしょ呆けてんの?何も知らないでいろっての、本人の悲しみも辛さも怒りも苦しみも知っちゃったけど黙っててねって言ってるのと同義なんだけど。ふざけるのも大概にしろよ」


「葵、言い過ぎだ。桜が困ってる」


ちっ、と舌打ちをして葵は胸を掴んでいた手を離す。そしてそのままそっぽを向いた。


「桜」


言葉を紡いだのは、すごい剣幕をした宙だ。

どうしよう、怒られる。

が、予想とは裏腹に宙はわたしを優しく抱きしめた。


「ごめん桜。守れなくて、弱くて、考えが足りなくて、救えなくて…ごめん…」


「そっ、宙…!?」


わたしが照れて声を上げたところで、抱きしめる力が強まるだけだった。


「桜はお母さんを殺したのは自分だって、そう思っちゃうんだよね?」


わたしは静かにこくり、と頷いた。

その頷きに宙も応答する。


「わかった」


なんのわかったなんだろう。

わたしは頭に疑問符を浮かべる。


「桜。いまから言うことをずっと念頭に置いていて欲しい。」


宙が畏まった声をする。


「桜はね、普通の女の子だ。どこにでもいる、お花と夕焼けが好きな、ただの女の子」


「え、でも…」


ずっと、分かりたかった。

普通を知りたかった。

でもわからない。普通が分からない。そんなわたしがただの女の子だなんて、そんな都合のいいことは…


「普通の女の子なんだよ。桜」


すごく悲しくて苦しそうな声だった。

つられてわたしまで悲しくなる。


「…う、うん…わかった…」


宙がホッとしたように頷く。

ホッとしてくれてよかった…。


「桜、桜のお母さんのことは、俺…僕と桜の共犯。そういう事にしよう」


共犯。

でも、それじゃあ宙が…。


「忘れてないよね?事情がどうあれ殺したのは僕だ」


「それはそうだけど、」


「お願い」


宙の抱きしめる力がさらに強まった。ぎゅ、と手でわたしの服の裾を掴んでいる。

ふと、なんだか湿っぽいものを肩に感じた。

あ、これは…。


「…わかった。ごめんね、宙」


宙の悲しみの温度が肩に染みる。

それは暖かいけれど、次第に冷たくなっていく。


「ごめんね。もう大丈夫だよ」


やったらダメなことも、宙の気持ちも、ぜんぶ、

わからなくて、ごめん。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

評価等頂けると嬉しいです!

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