お呪い
「ああ、桜。探したよ」
「宙…?」
どこか硬い表情をした宙。
…嫌な予感がする。
「ねえ桜。君のお母さんのことだけど__僕がなんとかするから、桜は下がっててほしいんだ」
「…なんで?」
宙は言いにくそうに口を開いた。
「だって、君のお母さんは指名手配犯だろ?あそこまでの重度なら数年ぶりの死刑となるはずだ。取り押さえなんて生ぬるいことじゃ__」
「…わけない」
宙は顔をしかめる。
「桜」
「そんなわけないって言ったの!対話すればわかることだってきっとある!だから、だからお母さんは…」
「わかった」
ダンっと音が響いた。わたしの真横に剣が突き刺さる。
「次は…分かってるよね?」
「っ…!」
わたしは死に物狂いでその場を去った。
はやく、早くお母さんのとこにいかなくちゃ。
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「貴方の実母は三毛1家の猟奇殺人容疑をかけられています。ですが、10割の確率で実母が犯人でしょう。なんてったって三毛1家は貴方の父親を殺害した__」
今最も魔法界で忌み嫌われていること。それは精神への攻撃。
肉体的な損傷はわたしがいるからいくらでも直せるが、精神は傷ついたまま戻らない。
だから、お母さんのした事は重度も重度な犯罪。そんな犯罪を犯したお母さんは、きっと_。
三毛一家はわたしの治療を拒んだ。故に彼らは、死んだ。そこも大きすぎる損失だったのだろう。数年ぶりの死刑、というのも納得…である。
走った。血が出ているけれどそんなの関係ない。今は治療なんてどうだっていい。早く、早くお母さんを。
お母さん。赤子の頃はよくお守りをしてくれて、わたしを誰より可愛がってくれて。
そんな天国のような生活は、いつの間にか終わってしまった。
お父さんが死んでからだっけ。それとも宙と出会ってからだっけ。
お母さんは思う存分わたしを痛めつけた。いつからか、それはだんだん悪化して行った。
でも、どれだけ体が辛くたって治癒してしまえば関係ない。そうやって傷つく意味も痛みも忘れてしまったわたしは、正に化け物のようなもので。
視界に綺麗な赫が映る。
ああ、ああ、ああ、お母さんだ。
どうしよう、どうしようどうしようどうしよう!
こんな時、お母さんならどんな顔をするの。わたし、わたしなにもわからないよ…。
「あら、桜」
いつもの不気味な笑みだった。
お母さんの手を掴む。そのまま思い切り壁に叩きつけた。
「投降してください。投降さえしてくだされば、私は貴方を打ちません」
お母さんに覆いかぶさり、そう言葉を発する。
そう、わたしが望むのは投降。お母さんだって、わたしが助けてきた沢山の人間のように更生できる。きっと。だから、わたしは___。
気付けばわたしは泣いていた。醜く顔を歪めて。苦しそうに、悲しそうに。
「桜」
あいしてる。
思わず目を見開いた。
わたしだって。わたしだって愛してるよお母さん。大好きだよお母さん。ねえ、なんで猟奇殺人なんてしたの。そんなことしなければお母さんは、罰を受けずに済んだのに。なのに…。
ぐす、ぐす、とすすり泣く声が聞こえる。誰かと思えば自分だった。
「おかあ…さん…」
その時だった。
ヒュンと音がした。その後、グチョァ…とグロテスクな音が鳴る。
「……………は?」
「大丈夫、桜。君は何も見なくていい。ただ目を閉じて、じっとしていて」
目の前には、お母さんの…、肉塊?
どういうこと?どうしてどうしてどうしてどうしてどうし、て、
まさか、宙が…?
あ、そんなの、
違う。絶対にそうじゃない。
そうだよね?ねえ、そうって言って!
「大丈夫、殺したのは僕だ。桜じゃない」
「────あ、あああ、あ、ああ」
効かない。治癒が何も効かない!
宙の手が邪魔で、上手く、できない…!
宙が権能を使って権能を無効化させているんだ。その証拠に今だって自傷しようとしてる、どうして!
赫い眼の彼女を思い出す。それもかつて、わたしが救えなかった、
大丈夫。桜は悪くない。
呪いのようにわたしに響いていた。




