祈りと救い
「桜さん、そろそろ」
蓮くんがわたしを呼んでいた。
あ、そうか。もうそんな時間。
「わかった。今支度する」
「…?桜さん、どこか行くんですか?」
わたしは少し苦い顔をしかけた。
だっていまから行くのは…。
「お祈り、かな?」
少しだけ誤魔化した。
憂鬱だが、それでも行かなきゃ行けないものはどうしようもない。
「行こっか、蓮くん」
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「あれって…」
「うん、呪われた魔女だよ」
「なにがシスターだよ、調子乗りやがって」
ぺしゃり。卵が私の頭に落ちた。
いや、投げつけられた。
わたしは何食わぬ顔でその卵を殻ごと頭から消し去った。何も無かったかのように全て元通りになる。
「あいつ…」
「呪いだ」
「強すぎる魔法は呪いだ」
「火炙りの刑にかけよう」
怒号の大喝采だ。お母さんの指名手配及び殺害容疑が知れ渡ってないのが不幸中の幸いみたい。
「桜さんに近づきすぎないようにしてください」
蓮くんはただそう言って止める気配は無い。止めてしまうと更に怒号が激しくなるからだ。
だから、「桜の付き人」役は、冷静に声掛けをするだけの蓮でないと務まらないのだ。
…わたしの付き人をしてるから陽菜ちゃんと外で一緒にいることが少ないことを聞いた時は申し訳なさで死にたくなったものだ。まあ体質上死ねないのだが。
こんなにも呪いだ、と騒がれるのにはわたしのその体質が関係している。
シャーレの中で産まれた実験道具な化け物。
身体能力、魔力共にできないことを数える方が少ない。その癖して___人の気持ちが分からない。
眠ることがないから授業中に眠そうに目を擦る理由がわからない。
お腹が空かないから美味しそうにご飯を頬張る理由がわからない。
どんな温度にも適応できる体に作られているから暑いかどうかも寒いかどうかも分からない。
ただ人間の体を模した、魔女なのだ。
だからわたしは取り繕う。
なんか眠いね。
ご飯、おいしいね。
今日ちょっと冷えるね。
せめて、わたし以外の人間みんなが幸せになれたら、わたしのこの罪は、この罰は許されるのだろうか。
「天の施しがありますように。花の笑い声がありますように」
だからわたしは今日も祈る。
だれかが幸せになってくれたら、わたしも丸ごと救われたような気持ちになるから。




