おかえり
「くそぉ〜また負けた〜」
僕は机に伏した。
みんながけらけらと笑う。
「ショーネン、まだ勝てないんだ」
葵さんがニヤッとこっちを見た。
「なんなんですか皆して…こうなったら__」
ピピピ、と電子音が鳴る。
なんの音だ…?と思ったら桜さんの携帯だった。
すっと携帯を見て手早くなにかを打ち出し、終わらせた後にささ、と蓮さんに耳打ちをしていた。
蓮さんは了解です、と相槌を打った。
「さて少年」
うおっびっくりした僕!?
「鋏の権能の少女が街に現れた。藍ちゃんを引き連れているらしい」
行けるかい、と、言葉とは裏腹に自信満々の表情をする桜さん。
「__もちろんです。すぐに出ます」
にこり、といつもの桜さんの笑顔に戻る。
「じゃあ頑張るんだ、少年っ!」
「廃ビルに立てこもり…!?」
僕の声を聞きながら俊敏に蓮さんが頷く。
「そうだ。相手の要求は『一色桜の封印』と『満戸悠の差し出し』。大方何をしたがっているのか分かるだろう」
「えっと…エデオの能力が揃わないように桜さんを封じた…?」
とんでもない、と蓮さんは否定する。
「天才で万能な桜さんを封じているんだ。まさかお前、この世界でどれだけ桜さんが大切か認知してないのか…!?」
え…?桜さんが天才?一体どういう…。
「桜さんの能力は単なる治癒に留まらない。それこそこの前の閃光を基軸に炎、水、樹木、天地などの権能に限りなく近い能力を割り出せる。言葉通り天から与えられた才なんだ」
前方が何か怪しく光った。
「危…っない!」
ずざ、と僕を連れて横に転ぶ蓮さん。
「権能の女がきっと中にいる。急ぐぞ」
「はいっ…!」
待っててくれ、藍…!
廃墟の中からジョキ、ジョキ、と音が聞こえる。
部屋の扉をガラリと開けた。
その瞬間。
ジョキン
「かっ…は…」
痛い。痛い。痛い。生ぬるい液体が激痛と共に流れ出る。
「っ…の…!返せ…!」
「こんにちは、白く尊き貴方」
ニコリ、と鋏の少女は笑う。歪なドライフラワーのような笑顔だった。
血みどろの視界の中で鋏の少女を睨む。
僕は…僕はこんなところで…。
自分の無力さが憎い。
もっと俺が強ければ、あるいは…。
___現れよ、タナトス
辺り一帯が闇に満ちた。
「!?…」
何が…何が起きてるんだ!
「大丈夫だ」
一帯が明るくなる。
鋏の少女はもういなく、蓮さんがこちらを見ていた。
「俺の召喚術だ。契約している悪魔、タナトスがこいつ」
「たぬのことよんだ…?まあなんでもいいわ、たぬの大勝利だから」
た、たぬ…?
たぬと自らを呼ぶ少女人間の頭サイズの少女は金髪だった。そう言えばこの前、桜さんにピンク髪の使い魔がいるって聞いていたな。
「悠」
「は、はい!」
蓮さんはじっとこちらを見つめる。
「この成功は俺の功績になる。好きな子守る瞬間ぐらい自分の功績にできる男になれよ」
「好きな子…」
藍のことか。
いやっ…好きとかそういうのじゃ…!いや、好きだな…。
「タナ」
「なあに、たぬに用?たぬも暇だから手ぇ貸してあげる」
「鋏の権能の女は」
タナトスはぷい、と横を向いた。
「たぬの知ったことじゃないわ。死の闇にぽーい」
「それは困る。毎度言っているだろ、桜さんが__」
「もーわかったってば、たぬのやることに口挟まないで」
はあ、とため息を着く蓮さん、知らんぷりのタナトス。
「最悪魂食っちゃっても桜ならたぬから取り上げるわ、きっと。あー桜のこと思い出すとムカツク」
キー!と奇声を上げるタナトス。桜さんと何があったんだ…。
「よくやったね、少年!」
こつ、こつ、と馴染みのある足音が聞こえる。
この音は…!
「桜さん…!」
「遅かったじゃないのピンク髪」
「おいこら桜さんだろ、ぶつぞ」
タナトスと桜さんは向かい合う。
「タナトスちゃん?桜だけど、中にいる鋏の少女は…」
「魂まで喰らい尽くしてやったわ!やれるもんならやってみな」
「ええ〜めっちゃ仕事増やすじゃん…」
げんなりした様子の桜さん。魂まで食うってどう戻すんだ…?
「まあひとまずさ」
桜さんがにこにことこちらを向く。
「再開のちゅーしたら?」
「はいっ…!?」
どっと顔が赤くなる。
「だっ…!今の状態じゃ不合意ですし…!」
「合意にしようか?」
「っえ!?」
どこからともなく出てきた少女。
黒髪に冷たい温度の青い瞳。
これは、この色は…!
「藍…!」
「そうだよ、あなたの藍。助けてくれてありがとう」
肩まで靡く綺麗な黒髪を耳にかけ、ちらりと上目遣いでこちらを見た後、はにかんだ。
藍だ。藍が帰ってきた…。
一気に実感が湧き、ぼろぼろと涙が零れる。
「よかった…ほんとに…」
「ふふ、わたしのためにいっぱい心配してくれたんだね。本当に嬉しい」
冷たい視線も、暖かい温度も。
全て、おかえり。
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