第8話 王都エルディオン
丘陵を越えたとき、視界いっぱいに石造りの城壁が広がった。
高くそびえる防壁の向こうには、幾重にも重なる塔や屋根。
大通りを行き交う馬車の列が、門前に長蛇の列を作っている。
「おおお……! すげぇ!でっけえ!」
ソウマが思わず声を漏らす。
「田舎の村とは比べものにならないでしょうね」
ルミナスは涼しい顔をしているが、その銀髪が風に揺れる姿はどこか誇らしげだ。
リアナは目を輝かせて両手を胸の前で組む。
「すごい……! 本当に人がたくさん……!」
俺は三人の背後から城壁を見上げた。
ここが大陸の中心、王都エルディオン。
勇者を名乗る者たちが集まり、神託を受け、本物だけが選ばれる場所――。
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門前では、行列のあちこちから聞こえてくる声に耳を澄ませる。
「俺こそが勇者だ! 魔王を討つのは俺だ!」
「ばっか言え、神託を受けるのはこの俺様だ!」
若者たちが剣を背負い、鎧を着込み、大声で自分を勇者だと名乗っている。
しかし周囲の市民たちは冷ややかな目を向けるだけだ。
子どもたちは「また勇者だってさ!」と笑いながら走り去った。
「……うわ、ほんとに“自称勇者”だらけね」ルミナスが眉をひそめる。
リアナは不安げにソウマを見上げる。
「ソウマ様、大丈夫ですか……?」
ソウマは拳を握りしめたまま黙っていた。
いつもの調子で胸を張るかと思えば、さすがに周囲の状況に圧倒されているようだ。
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少し進むと、石畳の大通りがまっすぐ城の中心へと続いていた。
両脇には露店が並び、果物や香辛料の匂いが漂ってくる。
行き交う人々の声、荷馬車の音、遠くから聞こえる鐘の音。
「わぁ……! 見てください! あれ、踊り子さんですよ!」
リアナが手を振ると、街角で踊る芸人たちが笑顔で応えた。
「賑やかすぎて耳が痛いくらいだわ」
ルミナスは人混みに疲れたようにため息をつく。
一方、ソウマはきょろきょろと辺りを見回しながら、言葉を探すように口を開いた。
「……俺は……俺は、絶対に負けねぇ。
あんな奴らと一緒にされるかよ」
その声には、震えと、しかし確かな決意が混じっていた。
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俺は歩きながら、仲間たちを横目で見た。
ついに大陸の中心へと足を踏み入れた。
けれどこの街で待ち受けるのは、栄光だけではない。
――それを知っているのは、まだ俺だけだった。
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