第7話 勇者の噂
街道を歩くテーレ一行。
森を抜ければ、草原がどこまでも広がり、ところどころに小さな丘が連なっている。
青空には雲がゆったりと流れ、鳥の影が舞っていた。
「ふはは! 俺ってさ!やっぱり勇者の器だよな!」
ソウマが胸を張り、陽の光を浴びながら大仰に宣言する。
「……その器、穴が開いてるんじゃない?」
ルミナスがさらりと切り捨てる。
「ぐっ……! なんだと!」
「ふふっ……二人とも、また始まっちゃいましたね」リアナが慌てて笑顔を見せる。
「まぁ……声量だけは勇者っぽいな」
俺が苦笑まじりに言うと、ソウマは振り返って親指を立てた。
「だろ! お前も分かってきたな!」
俺は「褒めてない」と言いかけたが、もう聞く耳を持っていない。
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昼下がりの道を進みながら、話題は自然と昔のことへ。
「今はこうして4人で旅してるけど……もともと3人は同じ村出身なんだよな?」
俺の問いに、リアナがうれしそうに頷いた。
「はい!ソウマ様は子どもの頃から“勇者になる!”って言ってました」
「ただの目立ちたがりよ」ルミナスが冷ややかに返す。
「おい! 俺は昔から勇者の片鱗を見せてただろ!」
「井戸に落ちた子を引き上げただけでしょ」
「それで村の皆が“勇者だ!”って盛り上がったんだぞ!」
「“勇者みたいだ”って言われただけじゃなかった?」
リアナはくすっと笑いながら言った。
「でも、助けてもらった子は本当に勇者様に見えてたと思いますよ!」
ソウマは鼻を鳴らし、得意げに空を見上げる。
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その先で、馬車を脇に寄せて直そうとする一人の男に出会った。
白髪交じりの髪に煤けた作業着、腰を押さえながら苦労している様子。
「お困りですか?」リアナが声をかけると、男は深いため息をついた。
「おう……車輪がな、すっぽり外れちまってよ。もう腰が限界でな」
俺とソウマが馬車を支え、ルミナスが木材の強度を見極める。
俺は枝を削って補強を施し、なんとか馬車は元通りになった。
「いやぁ、助かった助かった。若いのに器用なもんだな。
この歳になると、ちょっと力仕事するだけで腰にくるんだ」
「勇者の務めだからな!」ソウマが胸を張る。
「ははっ、そうか!勇者様か。そういや最近は王都でも“勇者”を名乗る若者が増えてるらしくてな。
王都じゃ“自称勇者”が笑い者になるくらいだ」
「なに!? 俺は自称じゃなく本物だ!」ソウマが声を張り上げる。
男はにやりと笑い、腰をさすりながら言った。
「本物かどうかは、大神殿で神託を受けりゃ分かるさ。王都エルディオンはそういう街だ」
ルミナスが「ほら、やっぱり自称」と冷淡に告げ、ソウマは唇を噛みしめる。
リアナは慌てて「でも、ソウマ様ならきっと証明できます!」とフォローした。
「はは、元気があって何よりだ。旅路に幸あれよ」
そう言い残して、男は干し肉を差し出し、馬車に乗ってゆっくり去っていった。
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その夜、焚き火を囲みながら俺たちは簡単な食事を済ませた。
火の粉が舞い、星空が広がる。
ソウマは黙り込んだまま、火をじっと見つめている。
あの強気な男が、珍しく口数を減らしていた。
リアナが心配そうに覗き込み、ルミナスは何も言わずに夜空を仰ぐ。
俺は剣を磨きながら、その光景を横目に見た。
そして俺らは、王都エルディオンを目指して旅を続ける。




