第5話 黄昏の群れ
森を抜けかけた俺たちを、灰色の影が取り囲んだ。
低い唸り声、赤い瞳――ダスクウルフの群れだ。
「こ、こんなに……!?」リアナが息を呑む。
「下級魔獣でも、数が集まれば脅威よ」ルミナスの声は冷ややかだが、その額に汗が光っていた。
ソウマは剣を抜き、前に出た。
「ふん! 数なんて関係ない! 俺が切り開く――烈斬!」
振り抜かれた剣が、真正面の一体を両断した。
血飛沫が飛び、狼が崩れ落ちる。
……今度は空振りじゃない。ほんとに勇者らしい一撃だった。
「おおっ!」ソウマ自身が一番驚いた顔をしている。
だが群れは怯まず、牙を剥いて一斉に襲いかかってきた。
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「神よ、仲間を護りたまえ――セイクリッドシェル!」
リアナの祈りが光の膜を生み出し、飛びかかった狼たちを弾く。
小さな体で必死に祈る姿に、俺は少しだけ感心した。
「詠唱に時間を稼ぎなさい」ルミナスが短く告げる。
すでに両手に魔力を集中させている。
「任せろ!」ソウマが吠える。
俺も剣を構え、狼の牙を受け止めた。
「――斬鉄!」
鋭い軌跡を描いて一体を斬り裂き、同時に大地を微かに揺らす。
足を取られた狼が体勢を崩し、ソウマの剣に串刺しにされた。
「よっしゃあ! 俺とテーレの連携だな!」
「……まあ、結果オーライか。」
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「行くわよ!
雷鳴轟け、大地を裂け――サンダーストライク!」
ルミナスの詠唱が完成し、青白い雷光が走った。
数体の狼が一瞬で黒焦げになり、地面に倒れ伏す。
同時に威力が絶大で周りの木々も黒焦げになった。
その瞬間――胸の奥に、ドン、と鈍い響きが走った。
(……今のは、何だ?)
ほんの一瞬の違和感。だが戦いの最中、立ち止まって考える余裕などなかった。
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群れの奥から、ひときわ大きな影が現れた。
他のダスクウルフより二回りは大きく、全身に傷だらけの毛並み。
――群れを率いるボス、ダスクロードだ。
「来やがったな……!」ソウマが剣を握り直す。
「ソウマ様、無茶はしないでください!」リアナが祈るように声をかける。
「また、時間を稼いで。足止めするわ」ルミナスが短く告げた。
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ソウマは叫びと共に突撃する。
「勇気こそ力! 俺が道を切り開く――烈斬!」
鋭い一閃が走り、ダスクロードの肩口を裂いた。
だが巨体は止まらず、逆にソウマが吹き飛ばされる。
「ぐっ……まだだ!」ソウマは膝をつきながらも立ち上がった。
その姿に、俺は少しだけ驚いた。勢いだけの脳筋かと思いきや、折れない芯がある。
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「氷よ、世界を閉ざせ――フロストノヴァ!」
ルミナスの詠唱と共に、白い冷気が爆ぜた。
地面から氷の結晶が一斉に吹き上がり、ダスクロードの足と半径500メートルを瞬時に凍らせる。
巨体が軋む音を立て、動きを止めた。
その瞬間、胸の奥にぞくりと冷たい響きが走った。
(……まただ。雷の時と同じ……でも今は考えてる場合じゃない!)
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「ソウマ様!」リアナの祈りの声が響く。
「神よ、勇気を与えたまえ――ブレイブハート!」
淡い光がソウマを包み、その瞳に力を宿した。
「……よし! 行くぞ!!これが俺の全力――勇煌斬!」
剣に光が集まり、眩い弧を描いて振り抜かれる。
次の瞬間、ダスクロードの巨体が崩れ落ち、森に静寂が戻った。
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「やった……倒したんですね!」リアナが涙ぐむ。
「ふん、やっと勇者らしい働きをしたわね」ルミナスがそっぽを向く。
「ははっ! 俺が決めてやったぜ!」ソウマはドヤ顔だ。
俺は剣を収めながら、胸の奥に残る違和感に小さく息を吐いた。
(……さっきのは、いったい……?)
仲間には言えない秘密。
俺自身すら知らなかった“世界としての感覚”が、少しずつ顔を出し始めていた。
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