第26話 爪痕と足跡
山岳は険しく進めば進むほど野生の匂いが強くなり、木々の間からは風が抜ける音が不気味に聞こえ背筋を撫でる。
「おーーーい!こっちに道があるぞ!早くこいよー!」
ソウマが先頭で声を上げる。が、その道は獣道とも呼べないくらい細い道だった。
「あんた...また、迷子になるつもり?」
ルミナスの声には疲れが滲みでいた。
「いやいや、今回は本当だって!まじで勘が冴えてる!ほら、あの看板見てみろよ!」
皆が目をやるとそこには、“龍出没注意”と書かれた看板がありソウマはそれを見て自信満々にドヤ顔していた。
「相手にするだけ無駄ね...先を急ぎましょ」
ルミナスは無視して山岳を登り、俺やリアナもそれに続いたがソウマはその道に進んで行く気満々で、気づいていなかった。
「ソウマ様ー!置いてきますよー!」
リアナは心配した顔をして叫んだ。
「よし!みんないく...ぞ?あれ?置いてかないでくれええ!」ソウマは気づいて走って登ってきた。
「まだまだ、元気そうだな」
俺がソウマに声をかけると
「勇者だからな!」
と、胸を張り答えた。
――――
やがて山岳を登っていくと森を抜けた。広がっていたのは荒れ果てた地面と崩れた岩が広がっていた。
――そこには、巨大な爪痕が残されていた。
「なっ...!?」
リアナが声を詰まらせる。
地面に深く抉れた跡。幅も深さも、人間や普通の魔獣のものではありえない。
斜面の岩には焼け焦げたような跡も残り、黒い煤が風に舞っていた。
「間違いないな。やはり黒龍は存在している」
俺は膝をつき、爪痕を指でなぞる。冷たく石肌に焦げた匂いが染み付いてる。
「よっしゃあ!やっぱりいるんだな黒龍!なんだか、燃えてきた!!」
ソウマが拳を握り、顔を輝かせる。
「燃えてくるのは良いんだけど、黒龍に突っ込んで灰にならないでよ?」
ルミナスは冷たくツッコんだ。
「ほ、ほんとにいるんですね...私たち勝てるんでしょうか...」
リアナは震えた声で呟いた。
ソウマが胸を叩いた。
「あったりまえだろ!俺は勇者ソウマだからな!」
「そうですね!」
リアナは少し無理して笑っていた。
――――
その後も先を進んで行った。だが先の道も悲惨なものだった、木々は燃えて剣や鎧などが散乱していた。
ーーするとそこに足跡を見つけた。
「おい、あれ人の足跡だ」
俺がそう呟くと。
「なにぃ!?銀髪野郎か!追いついてやる!」
ソウマが意気揚々と走っていった。
「あのバカ。落ち着きなさいよ!」
ルミナスは大きい声で叫んだがソウマの耳には届かなかった。
俺らもソウマの後を追い足跡を見に行くと、ルミナスが
「この足跡の大きさから見るにユウマで間違いはなさそうね」 と分析した。
「やっぱり、あの銀髪野郎の足跡か!あいつ黒龍と戦ってるんじゃないか!許せねえ!」
ソウマはその場で地団駄を踏んだが、足を滑らせて尻もちをついた。
「だから、落ち着けって言ったでしょ」
ルミナスが冷たく言い放つ。
「ソウマ様、大丈夫ですか?焦る気持ちも分かりますがここは冷静になるべきです。」
リアナは怖がりながらも落ち着かせていた。
俺は振り返り爪痕を見た。
(やはり...黒龍はいるのは確かだ。だが、世界眼を使っても視認はできない。魔界の影響だろうか...)
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「おーーーい。銀髪野郎!出てこいよー!ずるいぞ1人抜け駆けなんてー!」
ソウマは大きい声で叫んだが、返事はない。山風だけが虚しく吹き荒れる。
「ほんと....バカ」
ルミナスが頭を抱えた。
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その後も、山岳を進んでいたが夜も更けて辺りは暗くなってきたので野営に適した場所を探していた。
「よし!今日はあそこで泊まろう!」
ソウマが岩の上を指差したがルミナスに速攻で断られた。
「かっこいいのに...」
ソウマは少し不貞腐れていた。
「ここはどうですか!」
「いいわね。」
と結局、リアナが提案した場所で決まった。
夜が更けて焚き火の前で談笑をした。ソウマが剣を握り格好を決めて振る。俺も珍しくソウマに付き合い、リアナは笑い、ルミナスは冷たくツッコむ。今は黒龍を忘れてみんなが楽しんでいた。
ーーー皆が寝静まった後、俺は1人寝れずに夜空を眺め次に仲間達の寝顔を見た。
「明日、きっと俺らは黒龍と出会う。そこで俺が何をすべきか...まだ分からない。ただこいつらに何かあった時はまた仮面は被ることになるかもな...」
その後、俺も眠りにつきーー舞台は次の朝に繋がる。




