第24話 旅立ちの朝
ギルドでの話し合いを終えた俺たちは、その夜は宿に戻った。
ソウマは当然のように大騒ぎして、ルミナスに何度も殴られそうになっていた。
「よーし! 明日は黒龍退治だ! 寝る前に剣の素振りでも――」
「やめなさい。床を壊したら宿から叩き出されるわよ」
「ぐっ……お、俺は明日に備えて休むとするか!」
結局、布団に潜り込んだソウマのいびきが部屋に響き、リアナは困ったように笑い、俺は天井を見ながら静かに息をついた。
(黒龍か……魔の気配、間違いなく近づいてきているな)
――そして翌朝。
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朝の食堂。焼きたてのパンとスープが並ぶ中、ソウマはすでに爆食いしていた。
「んまい! やっぱ宿の飯って最高だな! パンのおかわり! スープも!」
「……あんた、昨日の夜も散々食べてたじゃない」
ルミナスが額に手を当てる。
「戦うためにはエネルギーが必要なんだよ! 勇者は大食い! これ基本な!」
胸を張るソウマ。だが口元にはパン屑がびっしりだ。
リアナは慌てて布渡すとソウマは必死に口の周りを拭いていた、リアナはにこやかに笑う。
「でも……ソウマ様が元気なのは、見ていて安心します」
俺はスープを啜りながら呆れ半分で口を開いた。
「安心……なのか? どっちかっていうと胃袋の心配だろ」
「お前なぁ! そんな心配よりも黒龍をどう倒すか考えろよ!」
「……まずは情報収集からだろ」
俺は即答した。
「う……まあ、それもそうだな」
ソウマは一瞬黙り込んでから、バツが悪そうにパンをかじった。
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食後、再び冒険者ギルドへ向かう。
石畳を歩く途中で、ソウマは「食い過ぎた〜!お腹痛い...」とお腹をさすりながら後ろを歩いていた。
「……調子に乗って食べすぎなのよ」
ルミナスのツッコミは今日も冴えわたっている。
ギルドに入ると、受付のミラがすぐに迎えてくれた。
「皆さん、おはようございます。ギルドマスターからお話は聞いております。黒龍についての調査資料がまとまりましたので、お渡ししますね」
差し出されたのは地図と、目撃情報が記された羊皮紙。
「西の山岳地帯、ここ数ヶ月で家畜や人が襲われる事件が頻発しています。ですが……まだ“黒龍”がやったと断定はできていません」
「ユウマからは何か情報は?」俺が尋ねると、ミラは頷いた。
「ええ。彼も同じ資料を受け取って、すでに現地へ向かっていますがまだ何も...」
ソウマの顔が一気に険しくなる。
「ちっ、あの銀髪野郎……! 先に行きやがって!」
「……あんたが勇者の勘とか言って迷子になるからよ。」
ルミナスが冷たく突っ込む。
「いいんだよ! どうせ黒龍を倒すのは俺だ! 勇者ソウマ様の見せ場なんだからな!」
リアナは不安そうに地図を見つめていた。
「でも……やっぱり危険ですよね。黒龍って、普通の龍よりも……」
「本当に黒龍なのであれば、“魔の世界”の影を帯びた存在だ」
俺が言葉を継ぐと、場の空気が少しだけ重くなった。
「ただの魔獣じゃない。放置すれば、確実に被害は広がる」
「マノセカイ?なんだそれ?」
ソウマは不思議そうな顔をして首を傾げた。
ルミナスが話し始めた。
「はぁ...村で習ったでしょ。この世界には3つの世界があるって、一つは私たちが今いる人界、次に空の更に上にあるとされる天界、最後に勇者であるあなたが倒さなきゃいけない相手がいる魔界。常識よ?」
俺がそっとソウマに
「まぁ、要は魔の世界は悪いやつがいっぱいいるってことだ。」
「それは勇者である。俺が倒さなきゃいけないな!」
鼻息を荒げながら答えた。
ミラは神妙な顔をしながら
「皆さん……どうか無理はなさらないでください。調査の報告だけでも十分なのですから」
「へっ! あんな話聞いたら報告だけじゃ俺の気が済まねぇ!」
ソウマは拳を握りしめ、意気揚々と立ち上がる。
「……あんたってほんとに学習しないのね」
ルミナスがため息をつき、俺とリアナは顔を見合わせて小さく笑った。
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ギルドを出ると、空は澄み切って青かった。
ソウマは剣を背負い直し、大声で叫ぶ。
「よーし! 黒龍討伐に出発だぁぁぁ!!」
「討伐じゃなくて調査から」
ルミナスの冷たい声が背中に突き刺さる。
「え……えへへ……じゃ、調査から!」
ソウマはすぐに言い直して笑った。
俺は肩をすくめ、仲間たちを見やった。
(ユウマはすでに動いている……だが、俺たちの旅もここから本番だな)
こうして、黒龍の影を追う旅が始まった。




