第22話 冒険者登録
冒険者の街グラナートの中心に建つ大きな建物。石造りの壁と高い屋根を持つその建物には、金色の紋章が掲げられていた。
――冒険者ギルド。
扉を押し開けると、昼間から酒の匂いと喧噪が渦を巻いて押し寄せた。
木のテーブルを囲んで笑い合う冒険者たち、武器を手入れする者、報酬を数えてにやける者……実力と荒々しさが充満する空気だった。
「おおっ! これぞ冒険者の世界って感じだな!」
ソウマが胸を張って歩み出た、その瞬間。
「おい、そこのガキ」
ごつい体格の冒険者が立ち上がり、酒瓶をテーブルに叩きつけた。
「勇者だってイキってるのはテメェか?」
「へへっ、そうだ! 俺が勇者ソウマだ!」
「ほぉん……じゃあ試してみるか?」
「ソウマ相手にするな。」
俺はそっと止めるようにソウマの前に手をおいた
男が拳を構えた。
と同時にソウマも負けじと腕を構えテーレの手をかわして振りかぶる――が、
「うおっ!?」
足を滑らせ、盛大に床へ転んだ。
(ほら、言わんこっちゃない)
「ぎゃははははっ!」
広間は爆笑に包まれる。
「こんなやつが勇者だってよ!」
「俺の婆さんの方が強えんじゃねえか!」
顔を真っ赤にして起き上がるソウマ。
「ま、待て! 今のはちょっとした……」
「……はぁ」
ルミナスはこめかみに手を当て、深いため息をついた。
⸻
「すみません」
ルミナスはソウマを放置し、カウンターに歩み寄った。
茶髪のボブに眼鏡をかけた受付嬢のミラが笑顔で迎える。
「冒険者登録ですね?」
ソウマはまだ後ろで喚いている。
「笑うなーっ! 次こそは俺が――」
後ろからリアナが心配そうに小声を添えた。
「ルミナスさん……ソウマ様、まだ笑われてます……」
「放っときなさい」
ルミナスは一蹴した。
ーーーーーー
「それでは、こちらの水晶に手をかざしてください」
ミラがそう告げると
「任せろ! 俺が勇者の力を見せてやる!」
ソウマは堂々と手を水晶に置いた。
……光が、ぽわっと弱く瞬く。
浮かび上がった数値は――「ほぼ平均」。
「……え?」
受付嬢ミラが目を瞬かせる。
「お、おかしいな!? もう一回! 勇者パワー全開で!」
ソウマがぐっと力を込める。
しかし数値はほとんど変わらない。
「えと……普通、ですね」
ミラが申し訳なさそうに言った。
「ふ、普通って……俺、勇者なんだけど!?」
ソウマは頭を抱え、背後で冒険者たちの失笑が漏れる。
「なんだよ、ただの人間じゃねえか!」
「この程度が勇者ぁ? がはは!」
俺はそっと心の中で
(まだ、勇者としての覚醒はしていないか。)
ソウマは真っ赤になり、「い、今はまだ調整中なんだよ!」と叫ぶ。
ルミナスは額を押さえ、「……恥ずかしい」と低く呟いた。
⸻
次に俺が前に出た。
(……下手に高い数値が出たら、ややこしいな)
胸の奥で“世界”としての力を抑えながら水晶に触れる。
光は淡く揺れ、数値は――平均よりやや上、程度。
「……はい、問題なく登録可能です」
ミラがさらりと記録していく。
「ふぅ……」
(よし、バレてないな)
「テーレの方が上なのかよー!」と悔しそうに言ってきたので俺は軽くフォローするように
「たまたまだよ」
「次は私ね」
続いてルミナスが水晶に手を置いた。
瞬間――
「っ!?」
水晶が眩いほどに輝き、広間全体が一瞬白く染まった。
「な、なんだこの光は!?」
「やべぇ、爆発するんじゃねえか!?」
冒険者たちがどよめき、後ずさる。
浮かび上がった数値は――魔力量、常識外れの高さ。
「……」
ミラは呆然と口を開けたまま固まった。
ルミナスはため息をひとつついて、涼しい顔を作る。
「……これで登録は終わりね?」
「は、はいっ! も、もちろんです!」
⸻
最後にリアナが恐る恐る水晶に手を置く。
優しい光が広がり、数値は高い治癒力と支援系の能力値を示していた。
「すごい……! ここまで明確に“聖属性”に傾いた数値は珍しいです」
ミラの目が輝く。
「わぁ……私、役に立てそうですか?」
「ええ、大いにね」ルミナスが珍しく優しく答える。
⸻
「これで登録は完了です!皆様はとりあえずGランクからとなります!」
ミラがカードを差し出す。
ルミナスがそれを受け取るや否や、さらりと切り出した。
「黒龍討伐の依頼を受けさせてもらえないかしら」
その一言で、空気が一変した。
「黒龍だと!?」
「新人が死にに行く気か!?」
ミラは困惑して首を振る。
「そ、それは登録したばかりの方に回せる依頼では……」
「おい待て! 俺は勇者だぞ! 黒龍なんて余裕だ!」
ソウマが机を叩き、声を張る。
背後から大柄な冒険者がまた肩を掴んで絡んできた。
「お前みたいなガキが勇者だ? 笑わせんな」
「なにぃ!? 俺が本物だって証明してやる!」
ソウマが剣を出して格好良く決めようとしたが掴んだ後スルッと手から落ち床に刺さった。
「ぶふっ!」
広間は爆笑に包まれる。
「これが勇者様かよ!」
「舞台芸人に転職したほうがいいんじゃねえか!」
ルミナスはもう耐えられないとばかりに額に手を当てて目を閉じた。
「……救いようがない」
⸻
やがて、重厚な足音が響いた。
階段を降りてきたのは、威圧感を纏った男――ギルドマスターのダグラス。
筋骨隆々だが白髪混じりの髪を後ろで束ね、傷跡の残る顔には歴戦の風格が漂う。
「なんだぁ?やけに今日は騒がしいじゃねえか...」
「ギルドマスター!」
ミラがホッとした顔で叫んだ。
「なんだ?あのおっさん。強そうだな!俺は、勇者ソウマだ!おっさん黒龍討伐行きたいんだけどなんか知ってるか?」
「バカ!ギルドマスターって聞こえなかったの?
あんた少し黙ってなさい」
ルミナスが鋭い眼光と共にソウマを叩いた。
「はい。すみません。」
ソウマはしょんぼりして謝った。
「お前、勇者と言ったか?……なるほど、先日も勇者は来たが...ふむ」
低い声が広間を震わせ、場の空気が一気に引き締まった。
「話は上で聞こう。ついて来い」
俺たちはギルドマスターの背中を追い、応接間へと向かっていった。
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