第21話 冒険者の街 グラナート
王都を発って三日。ようやく辿り着いた冒険者の街――グラナート。
木造の堅牢な門がそびえ立ち、周囲は人と荷車で賑わっていた。
「止まれ。入街にはギルドカードの提示が必要だ」
門兵が槍を突き出す。
ソウマが即座に前へ出て、ドヤ顔で胸を張った。
「へへっ、俺は勇者だぜ? 勇者にカードなんていらねぇだろ!」
兵士の眉がぴくりと動く。
「……勇者? 先日もう来たぞ。銀髪の男だったが」
「なにぃっ!? あの銀髪野郎、ユウマか! ちくしょう! 俺だって勇者だ! 俺だって神託を受けたんだ!」
ソウマは声を張り上げ、周囲の注目を一気に集めてしまう。
「……ほんと、恥ずかしい」
ルミナスが深いため息をつき、前へ出る。
「すみません、このバカは放っておいて。ちゃんと証明はあるわ」
懐から取り出したのは銀色のカード。王都の紋章が刻まれ、光を反射してきらめいていた。
「これは……勇者の証!」
門兵の目が大きく見開かれる。
「王から正式に渡されたものよ。最初から私に任せておけばよかったのに」
ルミナスは冷ややかに吐き捨てる。
ソウマは「ぐぬぬ……」と唸ったが、すぐに胸を張り直した。
「ま、まぁ! 俺が勇者だからこそカードもあるってわけだな!」
「……黙れ」
ルミナスの鋭い一言にソウマは肩をすくめた。
「はい...すみません...」
リアナは「やっぱりルミナスさんって頼りになります!」と目を輝かせていた。
門番が「ギルドカードあった方がいいから作っといた方がいいぞ」と教えてくれた。
ルミナスは頷いた。
「そうね。銀のカード出したら騒ぎになりかねないわ。冒険者ギルドに向かいましょ」
(問題を起こさないと気がすまないのかソウマは……)
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門をくぐると、そこは冒険者ばかりだった。
大通りには露店が並び、剣や防具が山積みにされている。
食堂からは肉を焼く匂い、酒場からは下品な笑い声。
「おおおっ! すっげぇ! 漢って感じだな!」
ソウマが目を輝かせ、いきなり広場の中央に飛び出した。
「聞けぇい! 俺こそ勇者ソウマだ! 黒龍退治もこの俺に任せろ!」
拳を突き上げ、盛大に宣言する。
通りすがりの冒険者が肩を揺らしながら笑った。
「また“自称勇者”かよ!」
「最近多すぎるんだよな」
「黒龍? あれに近づいた奴はほとんど誰も帰ってきちゃいねえぞ」
どっと笑いが広がる。ソウマは顔を真っ赤にして吠えた。
「なんだとおおお?自称じゃねぇ! 俺は本物なんだよ!」
「……はぁ。ほんとに子どもね」
ルミナスが額を押さえた。
リアナは「そ、ソウマ様! 落ち着いてください!」と慌てて腕を引っ張る。
(ここにも自称勇者は流れてくるんだな)
俺は肩をすくめながら見守るしかなかった。
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広場を抜けた先、酒場の前に立っていた屈強な冒険者たちの会話が耳に入る。
「……黒い龍、の話聞いたか?」
「森を焼き尽くしてたって話だ。魔獣どころじゃねえ、あれは災厄だ」
「ギルドでも調査依頼が回ってきたが……受けた奴はまだ戻ってねえ」
その言葉に、ルミナスの表情が険しくなる。
「……やっぱりただの噂じゃなさそうね」
「おい! だったら余計に燃えてきたぜ!」
ソウマが拳を握る。
「俺がぶっ倒してやる! 黒龍だろうがなんだろうが関係ねぇ!」
「……お願いだから静かにして....」
ルミナスが刺すような視線を送る。
リアナは手を胸に当て、震える声を漏らした。
「でも……もし本当に黒龍がいるなら、放ってはおけません」
俺は空を見上げた。
(黒龍....ね)
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冒険者ギルドへ
俺たちは視線を集めながら、街の中心にそびえる大きな建物へと足を運んだ。
冒険者ギルド。黒龍討伐の、次なる舞台だった。




