第20話 迷子の勇者
王城を後にした俺たちは、西へ向かう街道を進んでいた。
……といっても、道のりは順調どころか、早くも怪しい雲行きを見せている。
「よーし! ここは右だな!」
先頭を歩くソウマが、胸を張って右手の林道を指差した。
「いやいや、ソウマ様。さっき宿の人に“まっすぐ行け”って言われましたよ!?」
リアナが慌てて引き止める。
「まっすぐって言ってもだな、こういう時は“勘”が大事なんだよ!」
ソウマは自信満々。
「……勘で街道を外れる勇者ってどうなの」
ルミナスが眉をひそめる。
俺は後ろを歩きながら、目を閉じて世界の目を使いこの先を見たが頭を抱えそうになった。
(こいつ、さっきから全部間違えてるんだよな……)
1度目の迷子⸻
案の定、林の奥で行き止まりにぶつかり、来た道を戻る羽目になった。
「おかしいな……地図ではこっちに道があるはずなんだけどな!」
ソウマが紙を逆さに広げる。
「……逆さ」
ルミナスが即座に突っ込む。
「ふぁっ!? ……あ、ほんとだ!」
ソウマは慌てて地図を回転させるが、今度は上下が逆になった。
(はぁ……)
俺は足元に力を込め“世界”としての力を少し使った、林の奥の枝をぱきぱきと折り曲げる。
やがて枝は自然と“→”の形を作り、進むべき方向を示した。
「おおっ! ほら見ろ! 俺の勘は間違ってなかった!」
ソウマは矢印を見てドヤ顔を決める。
「……完全に間違ってたでしょうが」
ルミナスが冷酷に刺す。
「やっぱりソウマ様はすごいです!」
リアナがぱちぱちと手を叩いた。
(方向音痴すぎる...)
2度目の迷子⸻
昼を少し過ぎたころ。
今度は草原に出た。広い視界に全員の気分も上がったが――
ソウマが「俺について来い!」と胸を張った数分後には、ぬかるみに片足を突っ込み「うわっ!?」と盛大にひっくり返る。
「あぁぁあ、助けてくれええ!」
ソウマがずぶずぶ沈む。
またしても俺は気づかれないように少しずつぬかるみの地面を底上げして救出した。
「……泥まみれの勇者様。新しい称号ね」ルミナスが淡々と皮肉を飛ばす。
「うぅ……」リアナが慌ててハンカチで拭う。
「ちょ、やめろ! 子ども扱いすんな!」
リアナが「一旦休みましょう!」と提案し、俺たちは木陰に腰を下ろした。
⸻
干し肉とチーズを取り出しながら、ソウマがぽつりと呟く。
「疲れた……にしても、俺に兄弟がいたなんてな」
「……」
ルミナスとリアナは耳を傾ける。
「ミツルギって名も初めて聞いたし、親父はなんで教えてくれなかったんだろうな」
ソウマは苦笑いしながらパンをかじる。
リアナは首をかしげて、少し柔らかく笑った。
「でも……神様が言ったんですから、本当なんですよね」
「今度聞きに行けばいいじゃない。でも、兄弟がどうであれ関係ないわ」
ルミナスはパンを小さくちぎりながら冷たく言う。
「結局あんたはあんた。勇者になった以上、進むしかないんだから」
「……そうだな」
ソウマは一瞬だけ真面目な顔をして、また大きく笑った。
「兄弟がいようが関係ねえ! 俺は俺だ! 勇者ソウマだ!」
(こいつも成長してるんだな...)
俺は少しだけ感心した。
3度目の迷子⸻
再び歩き始めてから、三度目。
「よーし! この獣道っぽいのが近道だ!」
とソウマが突っ込んで、またもや茂みに飲み込まれ前からは3メートルはある大きい熊が追いかけてきた
「いやぁぁぁ! 戻りましょうよ!」
リアナの悲鳴と共に、俺たちは引き返す。
(前言撤回...成長なんて全くしてない)
4度目の迷子⸻
同じ道をぐるぐる回って同じ岩に戻ってきた。
「おい! この岩、さっきも見たぞ!?」
「方向音痴を治す魔法を探すべきね....」ルミナスが冷酷に刺す。
俺はまた、草原の草を風でなびかせて進行方向を作った
「おっ! やっぱ俺の勘は冴えてるな!」
「……」
(こいつ勘死んでるだろ)
⸻
日が傾き始めたころ、ようやく正しい街道に戻った。
「やったぁ……! これで安心です!」
リアナが半泣きで両手を合わせて喜ぶ。
「はぁはぁはぁ、まぁ俺に任せておけば余裕よ!」
ソウマが息を切らしながら得意げに胸を張る。
「……余裕って言葉、ほんとに知ってる?」
ルミナスの冷酷な突っ込み。
俺は小さく笑って肩をすくめた。
「とりあえず、明日にはグラナートに入れるな」
(“世界”としての力はある程度使えたか...だけど黒龍がいるのか分からないし見えない。それだけ大きな力なのになんでだろ...)
こうして迷走だらけの一日を経て、俺たちは冒険者の街グラナートへの道を進んでいった。
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