第11話 大神殿への招集
ゼインとの戦いから日が経った。
王都の空気は相変わらず喧騒に包まれていたが、俺たちの前にはひとつの知らせが届いていた。
「勇者候補たちへ告ぐ。明日、大神殿に集え」
広場の掲示板に貼られた布告に、人々が群がっていた。
「大神殿だって!?」「ついに勇者の選別が始まるのか!」
候補者たちの顔には緊張と興奮が入り混じっている。
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「よっしゃああ! 俺の出番だな!」
布告を見たソウマは拳を天に突き上げた。
「大神殿……神託を受けられるなんて、すごいことですよね!」
リアナが目を輝かせる。
ルミナスは冷ややかに言った。
「浮かれるのは早いわよ。勇者を名乗る人間はあなただけじゃないの。選ばれる保証なんて、どこにもないわ」
「へっ、問題ねぇ! 俺は勇者だからな!」
ソウマは胸を張る。……根拠は、やっぱりどこにもない。
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俺たちは王都の市場を歩きながら、明日に向けての準備を始めた。
食料や道具を揃えるため、商人たちの声が飛び交う店を覗く。
「ほらよ、干し肉にチーズ、保存食ならこれだ。銅貨三枚でどうだ?」
頑固そうな商人が籠を突き出してきた。銅貨三枚といえば、庶民のご飯が二、三回は取れる額だ。
「おじさん、ちょっと値段が高いんじゃないですか?」
リアナがおずおずと交渉する。
「嬢ちゃんの頼みなら……銅貨一枚に負けとくか」
商人の顔が綻ぶと、リアナは嬉しそうに頭を下げた。
「……あの子、やるわね」
ルミナスが小声で呟き、ソウマは「え、俺もやってみようかな!」と財布を取り出すが――。
「おう勇者様、倍額払ってくれるなら大歓迎だぜ!」
商人に即座に切り返され、ソウマは顔を真っ赤にしていた。
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その後も、市場を回るたびに三人の個性が際立った。
ルミナスは魔道具屋に入り、怪しげな杖を冷静に吟味する。
「粗悪品ね。こんなのに魔力を通したら爆発するわ」
店主が冷や汗を流す横で、彼女は平然と立ち去った。
リアナは薬草屋で店主と世間話をしながら、値切り交渉を成立させていた。
「えっと……少しだけおまけしてもらえたら、私が毎日『おじさんのお店に人が来ますように!』ってお祈りします!」
店主は一瞬ぽかんとしたが、すぐに顔を赤くして「そ、そんなこと言われたら……」と安くしてしまう。
そしてソウマは――。
「お、鎧だ! 俺に似合うやつをくれ!」
「勇者様には特別価格で、通常の三倍ですぜ!」
「高ぇっ!?」
……どうやら交渉事は永遠に向いていないらしい。
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夕暮れ、宿に戻った俺たちは荷物を整理しながら明日の話をした。
「よし! 明日は勇者に選ばれて、この剣の名を歴史に刻んでやる!」
ソウマは剣を磨きながら、いつもの調子で胸を張る。
「その前に、刃を磨きすぎて欠けないといいわね」
ルミナスが涼しい顔で突っ込む。
「な、なにぃ!?」
ソウマが慌てて剣を見直すが、リアナがくすりと笑った。
「でもピカピカになってますし、縁起がいいですよ!」
「だろ!? 俺はやっぱり勇者だからな!」
……そう言いながら、磨き布を自分の頬に当てて顔までピカピカにしようとしているのはどうなんだ。
「ちょ、ソウマ様! 顔は磨かなくていいんです!」
リアナが慌てて止めに入り、ルミナスは呆れ声を漏らした。
「ほんとに……明日までに勇者の泊がつけばいいけど」
俺はそのやり取りを横目に見ながら、荷袋の紐を結んだ。
笑い声に包まれた部屋は、戦いや不安を忘れさせてくれる。
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夜更け。
王都の喧騒は静まり、窓の外からは虫の声だけが聞こえていた。
ベッドに横になり、俺は深く息を吐く。
(……明日、大神殿か)
目を閉じると、仲間たちの笑い声がまだ耳に残っていた。
そのまま、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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