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世界に転生した俺は、勇者たちを導く  作者: 鈴木泉
第2章 勇者選別

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第10話 蠢(うごめ)く視線


剣戟の熱気が残る広場に、まだざわめきが漂っていた。

市民は口々に「すげぇ戦いだったな!」「ほんとに勇者様かもな!」と囁き、

勇者候補たちは「なぜあいつなんだ……」と悔しそうに唇を噛んでいた。


そんな中、ゼインは背を向ける前にただ一言を残す。

「……数日後、大神殿に来い」


その低い声は広場全体を震わせ、静寂を生んだ。

次の瞬間、騎士団長は人混みに紛れ、姿を消した。



「……っ! お、俺、今の……認められたってことだよな!?」

ソウマが肩で息をしながら、笑顔を弾けさせる。


「“大神殿に来い”……! きっとそうですよ!」

リアナも両手を胸に当て、瞳を輝かせた。


ルミナスは冷ややかにため息をつく。

「勘違いしないことね。まだ候補として呼ばれただけよ」


「でも十分だろ! だって俺は勇者だ!」

ソウマは胸を張り、豪快に笑った。


「ソウマ様、胸張るのはいいけど……汗だくのままですと、ちょっと格好がつきませんよ?」

リアナがハンカチを差し出すと、ソウマは「お、おう……」と受け取り、顔を真っ赤にして拭った。


俺はその光景を見ながら、胸の奥に残った違和感を振り払えずにいた。

(……あの光。剣だけじゃない。世界そのものが軋んだような感覚……)



夕暮れに染まる王都の大通りは、橙の光に包まれていた。

鐘楼が時を告げ、仕事を終えた人々が次々と家路を急ぐ。

街角では灯火がともり始め、屋台の明かりに照らされた料理から湯気が立ち上る。

旅芸人が笛を奏で、子どもたちが追いかけっこをして笑い声を響かせていた。


「うわーっ、こっちの串焼きもいい匂いするぞ!」

ソウマが人混みに突っ込んでいく。


「ちょっと、はぐれないでよ!」

ルミナスが慌てて後を追い、リアナは「わぁ、本当に美味しそう……!」と目を輝かせた。


「……財布が軽くなる音がするんだが」

俺の小さな嘆きは、誰にも届かない。



夜、宿に戻り、食堂で夕食を囲む。

肉とパン、煮込みスープにワイン。

粗野だが温かい料理に、自然と会話が弾んだ。


「やっぱ王都の飯は格別だな!」

「もう少し落ち着いて食べられないのかしら」

「ふふっ……でも、こうしてみんなで食べると楽しいですね!」


「そ、そうだろ! 俺は勇者だからな! みんなで食べる飯も特別にうまく感じるんだ!」

「勇者関係あるのかしら……」

「ソウマ様らしいです……!」


笑い声が絶えない食卓。

俺は湯気の立つスープを口にしながら、彼らを見ていた。


自称勇者と、その仲間たち。

――そして、そこに混ざる俺。


彼らと笑い合いながら、俺は心のどこかで距離を測っていた。

俺は人間として座っている。けれど、この体の奥底に広がるのは“世界”の意識だ。

もしその正体を知られたら……彼らは隣に座り続けてくれるのか?


(……考えても仕方ないな)

それでも、今はただ、このひとときを大切にしていたかった。



食後、俺はひとり、夜の街へ出た。

「ちょっと散歩してくる」


王都の夜は昼以上にざわめきに満ち、だが路地裏には冷たい気配が潜んでいた。

……そして、そこにいた。


あのフードを深く被った影。


「……お前は」

思わず声が漏れる。


影は答えない。ただ静かにこちらを見据える。

その瞳は夜の中で淡く光り、まるで俺の奥底までをも覗き込むようだった。


「勇者の光……やはり現れたか」

低い囁き。


「待て……!」

俺が一歩踏み込んだ瞬間、風が吹き抜け――影は霧のように消えた。


残されたのは、胸を締めつけるざわめきだけ。

(……あいつは何者だ。なぜ、ソウマの光を知っていた?)


王都の夜は賑わいを続ける。

だが、その闇の底では――確かに何かが蠢いていた。

読んで頂いてありがとうございます!!


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― 新着の感想 ―
「世界そのもの」に転生するという斬新な設定に最初は驚きましたが、分身テーレとして勇者一行に加わってからは、良い意味で「王道パーティもの」になっていて楽しく読めました。 勇者ソウマの脳筋と空回り、ルミ…
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