表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

勇者と魔王

 勇者って、魔法剣士の上位職だよな? もしかして、その人も俺と同じような境遇なのか?

俺のような存在は珍しいらしいし、何か関係があるのかもしれない。


「その勇者ってどんな人なんですかね?」


「勇者になったばかりやから、まだ詳しい情報は出回ってないな。若いってことくらいしかわからんけど、そのうちわかるやろ。ほな、これからのことを話そか。コージ君、おまえさんは元の世界に戻りたいんやったな?」


「はい……、帰りたいです――」


 そう言って短く息を呑むと、俺は唇をきゅっと結んだ。


「召喚魔法っちゅうのはな、世界の"理"に干渉する力を持っとって、この世界に本来おらん存在を、無理やり呼び出す――言うたら"禁忌"に近いもんや。せやから、この手の魔法はな、めちゃくちゃ秘匿性が高いんよ。ウチかて、よう分からんくらいや。


 ……けどな、魔族の魔法を専門に研究してる機関があるんよ。詳しいことは、そこに行って聞いてみてほしいんや」


「研究機関……ですか、それはどこにあるんですか?」


「ここや」


 そう言ってノアリスさんは、先ほど広げた地図の中央――ちょうどそのど真ん中を、すっと指さした。


「ここはな、"神聖ミトラス皇国"っちゅうて、大陸のど真ん中にある国や。中立国ではあるけど、政治や商業の中心でもあるんよ。――紹介状を書いておくさかい、それ持って、そこへ行って聞いてきぃな。


 ただし、召喚魔法っちゅうもんはな、軍事利用にも直結する"戦略級魔法"として、がっつり機密指定されとる。そう簡単には教えてくれんやろ。


 ……せやけどな、それでも行って、自分の目で確かめてきぃ。おまえさんの、腕の見せどころやで」


 できるのか、俺に……? 機密指定なんて厄介すぎる。これは、簡単にはいかなさそうだ……。


「せや、ちょっと席外すさかい、大陸のこと、コージ君に説明しといたってくれへんか?」


 そう言い残して、ノアリスさんはひらりと身を翻し、隣の部屋へと消えていった。


「そういえば、この世界のこと、まだちゃんと説明していなかったね。ちょうど大陸地図もあるし、今のうちにしっかり話しておこうか。このラーレス修道院は、フワの大森林の中にあるわけだが――この地図で言うと、南西の海沿いに広がってる森林地帯が、それなんだ。


 この小さな赤い点、見えるかい? これが"隠れ里"だ。地図だとちょっとした印にしか見えないけど、実際には結構な規模の集落なんだよ」


「……隠れ里って、この広大な森の中じゃ、米粒どころか"毛根"ほどの大きさしかないのかよ!」


「召喚先がフワの大森林の中だったとはいえ、隠れ里に現れたのは運が良かったね。もし場所が少しでもズレていたら……今ここにはいなかったかもしれないよ」


 ……たしかに。しかし、幸運どころじゃないな、ほとんど奇跡に近い。


「フワの大森林は、形式上は森の北西に位置する大国・セレガリア王国の領土とされている。とはいえ、強大な魔物の影響で実効支配は不可能に近く、あくまで名目だけのものだ。この森には誰も近づかないからね、そのおかげで、人類の足跡が届かぬ秘境が、今も数多くこの地に息づいているよ」


「あの、エルフって……人類なんですか?」


 思わず口にしてしまった……。自分の質問が失礼だったかもしれないと少し不安になったが、エルヴァンは穏やかに頷いて答えてくれた。


「ああ、コージの世界では、人類はひとつの種族だけだったね。でもこの世界では、"人類"と呼ばれる種族は大きく分けて4つあるんだ。ヒューマン、エルフ、ドワーフ、そして"獣人"と呼ばれる混血種。数ではヒューマンが一番多いけど、他の種族もみんな"人類"に含まれているよ」


「4種族もいるんですね。そういえば、俺のいた世界にも、昔"ネアンデルタール人"っていう人類の一種がいたらしいんですけど……今はもう絶滅してるみたいです」


「ネアンデルタール人? どうして絶滅してしまったんだい? ひょっとして魔法が関係してるとか?」


「さすがに魔法は使えなかったと思いますよ、何万年も前の話なので、詳しいことはわかってないんですが……。絶滅した理由は、たしか気候変動とか、他の人類との競争に負けたとか、そんな理由だったと思います。」


「競争に敗れた、か――。こちらの世界でも、人類と熾烈な争いを続けている種族がいるよ」


「……魔族、ですか?」


「ああ。魔族だ。」


 エルヴァンは地図に視線を落とし、一呼吸おいてから静かに口を開いた。


「この大陸には、"四天魔君シテンマクン"と呼ばれる4人の魔王がいてね。彼らはそれぞれ、大陸の4つの方角に陣取っているんだ。

……地図を見てごらん。大陸の四隅に、山脈に囲まれた場所があるだろ? そこが、それぞれ魔王国なんだ」


 地図に描かれた大陸は、完全な正方形ではないものの、それに近い輪郭をしている。たしかに、大陸の北東・南東・南西・北西──四隅すべてに、山脈に囲まれた地域が存在していた。ただし北東だけは例外で、そこは大陸と陸続きではなく、海に囲まれた島のような地形になっていた。


「伝承によれば、かつて魔王国は、神聖ミトラス皇国が築かれる以前、大陸の中央でその威を振るっていたという。だが、魔王は人類との戦争に敗れ、その配下である"大魔公アークデーモン"たちは、各地の四隅へと追いやられた。


 しかし、彼らはそれぞれの地で力を蓄え、やがて自ら魔王として君臨するようになった――というわけさ」


 その話を聞き終えたとき、俺の胸の奥には、得体の知れないざわめきが広がっていた。大陸の四隅に散った四体の大魔公。そして、それぞれが新たな魔王となって今なお君臨しているという。なぜか俺の心は妙にざらついた。


 どこかで聞いたことがある気がする──そんな奇妙な既視感が、えもいわれぬ気配が背後をかすめた。


「さて、魔王国のことはひとまず置いておこう。コージが目指すのは神聖ミトラス皇国だが、その途中、最初に訪れるのはセレガリア王国の第二の都市、"ガテンゼルブ"になるだろう。


 しかし、そこへ向かうには、この深い森を越えなければならない。我々はこの里を離れることができないため、誰かに同行してもらう必要がある。幸い、この里には行商人が出入りしている。彼女に頼んでみるとしよう。」


「ありがとうございます。やはり、神聖ミトラス皇国までは――かなり遠いのでしょうか? 到着まで、どれくらいかかるんですか?」


「うん、決して近いとは言えないからね。順調にいっても、二月は見ておいた方がいいかな」


「に、2ヶ月も……!?」


 2ヶ月ともなれば、旅費はもちろん、道中の食費や宿代だって馬鹿にならない。……どうすればいいんだ?


「あの……その……やっぱり、お金って……必要ですよね……?」


 俺がモジモジと視線を泳がせながら尋ねると、エルヴァンはふっと笑みを浮かべて答えた。


「もちろん必要さ。だが――ここはフワの大森林。心配はいらないよ」


 え? どういう意味だ……?


「隠れ里とはいえ、生活していくには何かと物入りでね。だから行商人に頼んで、定期的に外の世界から色々と仕入れてもらっているんだ。そのときの支払いに使っているのが――これさ」


 そう言って、エルヴァンは縮界しゅくかいの腕輪に手をかざし、そこから一本のボーンドラゴンの角を取り出した。


 なるほど……そういうことか。たしか、ドラゴンの素材は貴重だって言ってたな。


「この森に棲む魔物は恐ろしく強いけど、そのぶん、価値のある素材が手に入る。旅費くらいならすぐに稼げるよ。行商人が次に来るのは――何ヶ月か先になる。それまでの間、鍛錬も兼ねて魔物退治をしておけばいいさ。私も手伝うから、心配しなくていいよ」


 何ヶ月か先……か。いや、むしろちょうどいい。――今の俺は、弱すぎる。あのドラゴンとの戦いで、それを痛感した。魔物を倒せば鍛錬になるし、素材を売れば旅費も稼げる。一石二鳥じゃないか。


 目の前に道が拓けたからか、それともわずかに希望が見えてきたからか――心の奥から、ふつふつとやる気が湧いてくるのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ