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黄昏の森、最初の牙

 どこからともなく射し込むやわらかな陽の光が、まぶた越しに揺れていた。まるで水面の反射のようにきらめく光が、静かに、優しく、俺を朝へと誘う。


「……ん」


 まぶたを持ち上げると、天井に淡い金色が滲んでいた。地下室にいるはずなのに、朝の光が届いている――それはこの部屋に設けられた小さな天窓のおかげだった。地上と繋がるわずかな隙間から、陽の光が斜めに射し込んで、部屋の片隅にできた古い棚や木箱に、やわらかな陰影を落としている。


 まどろみの中でしばらく瞬きを繰り返す。昨日の出来事が、じわじわと意識の奥から浮かび上がってくる。実家玄関のドアノブの感触、エルヴァンの言葉、美味しかったサン、沈むような眠気……。


「……やっぱり、夢じゃなかったんだな」


 俺は小さく呟いて身を起こす。毛布がふわりと肩から滑り落ち、涼しい空気が肌に触れた。地下室の空気は澄んでいて、少しひんやりとしている。けれど、冷たすぎはしなかった。むしろ心地よい静けさと穏やかさが、この空間にはあった。


 ベッドの縁に腰かけ、大きくひとつ伸びをする。骨が軽く鳴り、体が目覚める音がした。この世界に来て2日目の今日が始まる。どんな一日になるかはわからないが、少なくとも――昨日よりは、軽やかな気持ちで踏み出せる気がした。


 昨夜、夕食をとったあの暖かな部屋へと、俺は階段を上っていった。すると、外では小鳥のさえずりが穏やかに響き、木枠の窓から差し込む柔らかな陽光が、古びた石造りの床に淡い模様を描いていた。湯気の立つ鍋の音と、焼きたてのパンの香ばしい匂いが、眠りの余韻を優しく追い払う。


「おはよう、ちょうど起こしにいこうと思ってたんだ。身体の疲れはとれたかい?」


 振り返ったエルヴァンの声は、朝露のように静かで温かかった。彼は薄手のエプロンを腰に巻き、薪の火を整えながら、ちらとこちらに目をやった。


「おはようございます。おかげさまで、ゆっくり寝れました」


 そう答えると、エルヴァンの口元にわずかな微笑みが浮かんだ。


「そうか、それは良かった。今、朝食を作っているから、テーブルに座って待っていてくれ」


 俺は言われるがまま、椅子に腰を下ろすと、湯気の立つマグが並んでいた。


 しばらくすると『ちょうどいい頃合いだ』と、エルヴァンは釜からサンを取り出し、皿に乗せた。


「森の恵みをたっぷり使った朝ごはんだよ」


 そう言いながら彼が運んできたのは、サンと陽ざしのように明るい彩りのサラダだった。瑞々しい葉野菜の上には、朝露を含んだ露草の花びらがふわりと散らされ、薄く削がれた林檎と香ばしいクルミが添えられている。ほのかに立ちのぼるハーブの香りが、目覚めたばかりの空気にやさしく溶け込んでいた。隣には、淡い琥珀色のきのこのスープ。数種のきのこを丁寧に煮込んだそれは、濃厚ながらも優しい味わいを思わせる香りを放っていた。


 エルヴァンもそっと椅子に腰を下ろし、両手を合わせ、そっと瞼を閉じて祈り始めた。俺もエルヴァンの仕草をそっと真似るように、両手を組んで目を閉じた。小さな静寂が流れ、祈りの声だけが耳に届く。


 エルヴァンは祈りを終えると、ゆっくりと手をほどき、顔を上げた。朝の光が彼の横顔をやわらかく照らしている。


「コージ、これからのことなのだが…、今日は森の北の方へ入る予定で、狩りについていくつか注意してほしいことがあるんだ。」


 低く穏やかな声で言いながら、彼は椅子に背を預け、少しだけ間を置いた。その眼差しには、これから語ることの重みと真剣さがにじんでいた。


「ここ"フワの大森林"に棲む魔物は、大陸でも最強の部類に入る。ほんのわずかな気の緩みが、命取りとなる。結界の外は、理も情も通じぬ世界だ」


 彼は言葉を選ぶように一拍置き、深く息を吐いた。


「だから、私の言うことには必ず従ってほしい。とはいえ、今のコージに任せられることは限られている。無理はさせないから、安心してくれ」


「……わかりました。言う通りにしますよ」


 迷惑かけないように、精一杯やるつもりだが、正直に言うと……怖い。死ぬかもしれないって思うと、頭のどっかが真っ白になる……。だから、無理はさせないって言ってくれて……少し、ほっとした。


 詳しい説明は現地でするとのことで、朝食を済ませた俺とエルヴァンは、間を置かず狩り場となる森の北側へと足を運んだ。


 途中、エルヴァンはふと足を止め、小さな泉に目を向けた。


「ここの湧き水は格別なんだ」


 そう言って彼は水筒を取り出し、澄んだ水を静かに汲んだ。


「ここフワの大森林は"玻璃の森"とも呼ばれていてね。無数の湧き水が地中から染み出していて、水晶を並べたように透き通った泉が、森のあちこちにあるんだ」


 エルヴァンの言う通り、水面には一片の濁りもなく、まるで森が静かにまどろんでいるかのような穏やかさが漂っていた。


「実は、この森の魔物が異常に強いのには理由があってね、湧き水には豊富な"マナ"が含まれていて、それを吸収した魔物たちが力を増しているんだよ」


「マナってなんですか?」


「マナっていうのは、この世界に満ちている"霊的なエネルギー"のことだよ。面白いのは、マナをどう扱うか——つまり"操る回路"の違いで、人の適性や職業が決まるってことさ。


 回路には大きく分けて三つのタイプがある。ひとつは、マナを体内で循環させて自分を強化するタイプ。これはいわゆる"戦士"向きだね。もうひとつは、マナを外に放出して攻撃や術式を使うタイプ。これは典型的な"魔法使い"。


 そして三つ目が少し特殊で、外に放出したマナを相手の体内に循環させるタイプ——これが私のような"モンク"や"ヒーラー"って呼ばれる職業に向いているんだよ」


 エルヴァンの説明を聞き終えたとき、ふと自分の胸の奥がざわつくのを感じた。マナの回路――戦士、魔法使い、ヒーラー。そのどれかに人は分類されて、運命のように職業が決まっていく。


 じゃあ、俺は……?


 思わず、自分の手のひらを見つめた。力を入れれば多少の筋肉はついている。でも、戦士と呼ぶには頼りない。魔法の才能? 魔法陣なんかまともに描けないし、放出する感覚もよくわからない。ヒーラー……なんて、もっと遠い気がする。人を癒すどころか、自分の気持ちすら整理できていないのに。


「……自分が、どのタイプかって、どうすればわかるんですか?」


「それをこれから確かめに行くのさっ!」


 そうだった……、俺はレベル0の男——。でも、自分の適性を知るのは、少し怖いな。もし望んでいないものだったら。もし"何者にもなれない"と突きつけられたら……。


 それでも——この世界で生き抜くには、知らなくちゃいけない。


 それからしばらく森の中を歩いていると、エルヴァンはふと足を止め、背負っていた荷の中から赤い布を取り出した。そして、何の説明もなく近くの木の幹に丁寧にそれを巻きつけ始めた。


「この場所を覚えておいてくれ」


 そう呟いた彼は、近くに横たわる苔むした倒木に腰を下ろし、どこか遠くを見るような目をした。


「見えるかな、向こうにひときわ大きな木が立っているのが。あれを越えた先は、結界の外——つまり魔物たちの縄張りだ。今日は、境界であるあの木のあたりまで魔物を誘き寄せて狩りをするつもりなんだが、覚えておいてほしいことがある。実は、結界の中に魔物が入れないってわけじゃないんだ」


「えっ、入ってこれるんですか!?」


「少しだけどね。この一帯はエルフにとっての聖域であり、隠れ里でもある。エルフ以外の種族には、その隠れ里の存在すら知られていないんだ。もしここに壁なんか作ったら、"何かがある"ってことを逆に知らせてしまうだろ?


 だから、この里を守っている結界魔法は、見た目に分かるような防壁じゃない。侵入者に対して麻痺や混乱、幻覚といった状態異常を起こして、不快感を与えるように設計されてるんだよ。結局、人は心地悪い場所には長く居たくないからね。誰だって肥溜めの中に居座りたいとは思わないだろ?」


 なるほど、近寄らせず、不快感を与えて相手に自分から離れさせる作戦ってことか。


「それで、この結界魔法は、奥へ進むほど効果が強くなる仕組みだ。通常であれば、魔物がここまで到達することは難しい。だから、もし少しでも危ないって感じたら、迷わずこの赤い布が巻かれてる木まで戻ってきてくれ。絶対無理はしないでくれよ!」


 この結界は、内部に進むほど干渉が強くなるようだが——。


「なぜか俺には効いてないみたいですね…なんででしょう?」


「わからない……」


 エルヴァンは苦笑した。


「その件については、昨日少し話をした魔法に詳しい方に確認するとして――これからコージには、魔物との戦闘に参加してもらうわけだが、別に戦う必要はないから安心してくれ」


「じゃあ、俺は横で見てるだけでいいんですね?」


「いや、それだとダメなんだ。ただ見ているだけじゃ、経験値は入らないからね。だから、戦闘が始まったら、これを魔物に向かって投げてほしい」


 そう言って、エルヴァンは小さな布袋を手渡してきた。袋の口を開けて中をのぞくと、意外にも中身は小さな石ころのようなものばかりだった。


「これって……石、ですか? それとも、ひょっとして魔石とか、そういう特殊なやつ?」


「ただの石ころだよ」


 冗談かとも思ったが、エルヴァンの顔はいたって真剣だ。いや、むしろ当然のことを言ったような表情すらしている。石ころ投げてレベル上がるって……そんなのあり得るのか……。ザラザラとした手触り。どこにでも転がっていそうな、何の変哲もない小石たち。魔法のオーラなんて皆無。これで本当に経験値が入るのかと、常識がひっくり返されそうになる。


「ほんとに、これで何とかなるんですかね!?」


「全然ならないよ。でも、今はそれでいいんだ。大事なのは君が戦闘に"参加した"って事実さ。効果はなくても、ごくわずかだけど経験値は入る。この森の魔物は強いから、その"わずか"が意外と大きい。今の君なら、それだけでレベル上がるはずさ」


 まあ、観客席から眺めているだけじゃ経験値にはならない。たとえ活躍できなくても、フィールドに立った選手のほうがはるかに多くを得られるってことかな。


 俺は石の詰まった布袋を握りしめ、ひとつ大きく息を吐いた。


「わかりました。俺、やります。たとえ投げた石が何の役にも立たなくても……ちゃんと自分の手で投げますから。逃げたりしません。俺だって、強くなりたいんで」


「よし、一緒に頑張ろう! 私も隣で全力でサポートするからさ。でも、無理はしないでくれよ? 強くなりたいって気持ちは大事だけど、命を落としたらたら元も子もない。……大丈夫。コージなら、きっとやれるさ。そうだ、念の為、これを渡しておこう」


 そう言い終えると、エルヴァンは微笑みながら、青い液体が中で揺れる小さなガラス瓶を手渡してくれた。


「これって。もしかしてポーションですか?」


「そのとおり。もし怪我をしたら、その部分にこのポーションをふりかけてくれ。たとえ手足がちぎれても、そこにかければ一応はくっつく。あくまで応急処置だけどね」


「くっつくんですかっ!?」


「もちろんだ、再接合可能だよ。ただし、手足のような部位を失った場合は複雑な治療魔法が必要になるから、元通りになるまで、少し時間がかかるかもね」


 魔法で元に戻るのはありがたいけど……ちぎれた手足を自分でどうにかするなんて、今の俺には無理だな……。正直、怖すぎる。


 そうして俺たちは、結界の端にそびえる巨木の根元で、魔物の出現を静かに待つこととした。


 空気に変化が訪れたのは、それから間もなくのことだった。


「コージ、来るぞ。気配が濃くなっている…」


 エルヴァンの声が、張り詰めた空気を震わせる。彼は背中の弓に手をかけ、緑の瞳を鋭く細めた。俺には何が近づいているのか見当もつかなかった。……だが、やがて骨の軋むような乾いた音が、はっきりと耳に届いた。エルヴァンの長く尖った耳は、その気配が音となるずっと前から、何かを感じ取っていたのだろう。


 突如、周囲の木々が急速に凍りつき始めた。白い霜が枝葉を覆い、生命の色を奪っていった。そして、どこからともなく、漆黒の霧が湧き上がり、視界を覆い隠した。霧は冷たいだけでなく、吸い込むと肺腑が灼けるような感覚と、言いようのない倦怠感に襲われた。


「下がって、コージ! 息を吸わないで! これは風を操る魔法だ……!」


 そう叫んでエルヴァンが呪文を唱えると、俺のまわりに澄みきった空気の壁が現れた。その刹那、霧の向こう、夜闇のようなもやを割って、黒く巨大な影がゆっくりと姿を現した——。


 歪んだ肋骨、虚ろな眼窩に青白い燐光が灯り、まるで過去への怨念がそこに宿っているかのようだった。霜の結晶が全身に張りつき、骨の隙間からは、底知れぬ闇を纏った黒い霧が絶えず漏れ出している。


「……あれは、この森を蝕む災厄、ダークフロスト・ボーンドラゴンだ。――攻撃力こそ他の竜種に劣るものの、猛毒と呪詛をその身に宿すがゆえに、むしろ遥かに手強い存在といえる魔物だ」


「グォォォォォォォ!」


 ガイコツのような顎がぱっくりと開くと、その瞬間——咆哮と共に氷の嵐を吐き出してきたっ!

辺り一面が一瞬で凍りつき、木々も岩も音を立てて砕け散った。


 だが同時に、エルヴァンの風魔法が俺の体をさらい、巨木の陰へと吹き飛ばしてくれていた。吹雪の余波が木々を揺らし、粉雪が舞い上がる中、俺は荒い息を整える暇もなく辺りを見渡すと、直前まで俺がいた場所には、まるで生き写しのような氷の像ができあがっていた。


 あの一瞬、エルヴァンの風が俺を救わなければ、今ごろ俺はただの氷像になっていった……。


「コージ、私が奴の動きを止めるから、その隙に石を投げてくれ!」


 エルヴァンはそう叫びながら、矢筒から銀に輝く矢を引き抜いた。彼が弓を引き絞ると、それには聖なる力を込められているのか、その矢尻は淡い光を放っている。俺は恐怖に震えながらも、エルヴァンから渡された布袋を握りしめ、そして中から石を素早く取り出した。


「行くぞ……!」


 エルヴァンは低く唸るように言い放ち、狙いを定めた。


「今だ!」


 エルヴァンの叫びと同時に、神聖な光を帯びた矢が放たれた。空気が裂ける音と共に、矢は正確にドラゴンの前脚を貫いた。ドラゴンは苦悶の咆哮を上げ、動きを止めた。


「今しかないッ!」


 俺は全身の力を込めて、瘴気のような胴体に狙いを定めて、石を渾身の勢いで投げつけた——!


 ――ポスッ。


 石はドラゴンの足元の地面に当たり、転がった。


「くそっ、力みすぎで届いてねェ……!」


 だが、無謀と知りつつも飛び出した俺に、ドラゴンは一瞬だけ気を取られた。そのわずかな隙を、エルヴァンは見逃していなかった!


 放たれた矢は、風を切って飛び、ドラゴンの肋骨の隙間――霧が最も濃く噴き出している箇所――に突き刺さった。


「ギャァァァァス!」


 聖なる力が、闇の霧と骨の構造に亀裂を入れた。ドラゴンは苦悶の叫びを上げ、その巨体をよじらせた。だが、ダメージは致命的ではないっ!? むしろ、その怒りを増幅させたようだった。


 今度は、その口から毒々しい緑色の液体が飛沫となって降り注いだ。地面に落ちた液体は、土を溶かし、植物を瞬時に枯死させた。強烈な腐臭が鼻をつく。エルヴァンは俊敏な動きでそれを避け、俺にも身を伏せるよう指示した。


 そして……、ドラゴンの眼窩の燐光が、禍々しい赤色に変わった。骨格の内部から、まるで溶岩のような暗い炎が噴き出した。


「あれはただの炎じゃない、触れたものを焼き尽くすだけでなく、精神をも蝕む呪いの炎だっ!」


 森の一部が、不気味な黒い炎に包まれ、燃え上がった。


 氷、毒、炎、そして呪い。四つの属性が次々と襲い来るなか、俺は指示に従って身を隠すのが精一杯だったが、エルヴァンは冷静だった。


「厄介な相手だが……でも、弱点がないわけじゃないんだ」


 エルヴァンは再び弓を構える。今度は三本の矢を同時につがえた。それぞれに異なる力が込められているのか、矢尻の色がそれぞれ違った。


「コージ、もう一度だけ、たのむ!」


 言われた通り、俺は力任せに石を投げた。すると、信じがたいことに、眩い光が一瞬走った。


 ドラゴンがその閃光に怯んだ瞬間、エルヴァンの三本の矢が放たれた。一本は氷の鎧を砕き、一本は呪いの炎を相殺し、最後の一本が、先ほどと同じ、霧の噴き出す中心――おそらく力の源――へと、深く突き刺さった!


「グゥゥ…オオオオオ……ッ!」


 断末魔の咆哮が森に響き渡る。ダークフロスト・ボーンドラゴンの全身から、急速に力が失われていくのが分かった。骨格を覆っていた霜が剥がれ落ち、漆黒の霧が薄れ、眼窩の燐光が明滅する。やがて、その巨大な骨の体はバランスを失い、轟音と共に地面に崩れ落ちた。


 骨は砕け、霧は完全に消え去り、後には静寂と、破壊された森の残骸だけが残った。エルヴァンは肩で息をしながら、弓を下ろす。彼の額には汗が滲み、頬にはかすり傷があった。


「……終わったよ、コージ」


 エルヴァンの声には、安堵と疲労が滲んでいた。


「よく頑張ったね」


「はぁ……ほんとに、終わったんだな……」


 戦いの激しさに比べて、あまりにも静かな結末。森の空気は冷たく、けれどそれが逆に、確かにこの瞬間が本物であることを物語っていた。


「……コージ、さっき君が石を投げたときに閃光が走ったが、あれは狙ってやったのかい?」


「そうなんですよッ! よくわからないんですが、光ったんですよッ!」


「意図的にやったわけじゃなかったんだね。ならたぶん、戦いの中で君のマナの回路が自然に目覚めたのかもしれないな」


「回路が目覚めた……?」


 ってことは……今の、魔法だったのか!? 指先に残る妙なしびれ――これが魔力の余韻ってやつか?


「回路の鑑定は後でゆっくりするとして、結界の外に長居は禁物だ、先に戦利品を回収しておこう」


 エルヴァンは腰から小型の工具袋を外し、鞘に納めた短剣を抜いた。刃は銀色に光り、魔法加工が施されているようだ。


「ドラゴンの素材はどれも貴重だからな…」


 エルヴァンはそう呟きながら、爪、牙、そして角を手際よく取り外していった。


「これを見てくれ」


 そう言って差し出されたのは、緑色に輝く結晶だった。


「これは"マナ輝石"といってね。魔物が力尽きると、体内のマナが凝縮されて結晶になるんだ。だからこうして残るってわけさ」


 なるほど、魔物が死ぬと体内のマナが結晶になるってわけか。――にしても、その背丈ほどもある太い角、どうやって持ち帰る気なんだ?


「その角、背負って戻るんですか?」


「これくらいのものなら担いで帰ることもできるけど、この"縮界しゅくかい腕輪うでわ"を使うよ」


 そう言いながらエルヴァンは袖をめくり、輝く銀の腕輪を見せてきた。


「この腕輪は"次元折畳器ディメンション・フォルダー"といって、携帯用の亜空間を生み出す魔導器でね、ちょっとした荷物を収納して持ち運べるんだ」


 エルヴァンは戦利品を一瞥すると、左手の腕輪にそっと触れた。すると、空気がかすかに震え、腕輪の中央が淡く光を放った。次の瞬間、まるで霧に包まれるように、巨大な角は輪郭を失い、静かに消えていった。


「このように収納して、あとは帰ってから確認するだけだ」


 エルヴァンは残りの戦利品をすべて収納し終えると、すぐに周囲を見回し、長居は無用だと、結界内のあの赤い布の場所まで戻ることにした。


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