第2話 男は二度と帰れない
一週間後。本当に何も無く、ただ食うか寝るか移動するか。俺は焦っていた。
「俺はいつ帰れるんだ?」
「まぁまぁ、落ち着いて。王様に会ってからその話しよっか。」
道中十回はしたであろう会話を、降りてからも交わしていた。
「さぁ〜ここが城下町だよ!食べ物屋さん多いでしょう!武器屋も居酒屋も色々あるよ!あと…紹介所だね!あそこはまた王に案内されると思うから!」
俺の気を紛らわす為か、それとも周りが騒がしいからか、一層大きな声で喋り出した。今、同じ質問を繰り返しても無駄だろう。また王様に会ったあとに喋ろうと思い、俺は口を閉じた。
「で〜あそこが、見ればわかる通り!城!」
目の前にあるのは、日本でよく見る形の城であった。確かに今まで見た建物も、日本を思い出す見た目だったので納得だ。
王様(殿様じゃないのか?)に話はつけてあるらしく、するりと入れた。
「あっ!王様〜!」
「おお!ユキコじゃないか!元気にしてたか?」
その辺で騎士と立ち話をしていた王は武器屋の店主、ユキコさんのハグ…もといタックルを受け止めた。
「来たってことは…そこの人が旅人かい?」
「あ、初めまして三春です。」
と挨拶をし、できるだけ丁寧な九十度のお辞儀をした。
「おお、ミハルくんね。僕は三郎、これからよろしく!早速だけど実力を測らせてもらうよ!」
「え?」発言の意図が分からず困る。何の実力?どうして?
「あれ、何も聞いてない?君は今から化け物のボスを倒しに行くんだよ。それで、君の持っている力をまず試して、君自身に把握してもらおうってわけ。さ、こっちこっち!」
王はいつの間にか遠くで手招きをしていた。ここで拒否をすれば良かったのだが、先程まで王と話していた騎士が剣に手をかけこちらを睨んでいたので、やめておいた。ここで死んでは帰るも何も無い。
「よぉーし、じゃあこの剣でこれ切って、全力でいいからね!」
木製の剣を渡される。言われるがままに力を込めて切ってみると、天井と壁が吹き飛んだ。突然広がった美しい景色に呆けてしまう。
「…あっ!すみません!」
「あぁ〜いいのいいの、後で治すし!ん〜構え方振り方共にバツ、力はハナマル。あんま全力出せてないね、次に行こうか。」
次は魔法を使ってみろと言われたのだが、困ったことが起きた。
「あの、なんか出てます?」
「出てないね〜。」
「上手く使えてないみたい、魔力はすごくあるけど…」
魔法が使えない、使い方がわからない。
「魔法は使えないと思った方がいい。絶対に魔法使いの仲間を一人は連れて行って。絶対だよ!じゃあ次!」
次、次とテストをしていき、終わる頃には空いた穴から星明りが差し込んでいた。
「疲れただろう!これで終わりだ。紹介所や街の案内は明日僕がやるよ。ユキコ、今から宿に連れていってくれるかい?」
「あっ、あの。俺、家に帰らなきゃいけないんですけど、化け物のボス?を倒した後なら帰れますか?」
場が静まり返り、二人の表情が曇る。
「…ごめんね、君は元の世界に帰ることは出来ない。…僕たちではどうしようもないんだ。」
「あたしと王様もね、異世界から来たの。」
宿に行く途中、ユキコさんがぽつぽつと話し始めた。
「ミハルがあたしに故郷のこと聞く時さ、トウキョウのことしか聞かなかったでしょ?最初わかんなかったんだけど、日本って聞こえたから、同じところから来たのかなって。」
日本に住んでいるのに東京を知らない、なんて事があるのだろうか?いや、もしかして…
「もしかして、すごく昔にここに来たのか?」
「そうみたい。あたしは寛永の時にここに来たんだけど、王様はもう少し前なんだって。それから何百年も、ずーっと帰れないまま。何人もここに来て、帰れないことに絶望して、諦めてここで暮らしてる。」
そういうとユキコさんは、ピタッと立ち止まって、空を見上げ、こちらに顔を向けた。
「ついたよ、宿屋。話はつけてるから受付で名前言って。…ミハルもさ、どんな事情があるにしても、早いとこ諦めた方が楽だと思うよ。」
二人とも暗い表情のまま、宿屋の前で別れた。