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涼と宴会

大きなダイニングテーブルにはご馳走がずらり。

そして、祐司くん、恵さん、要、俺、ひいなと、五人だけのご近所さんもずらり。

「さて、お酒も揃いましたし。」

恵さんがにんまりと笑う。

「涼とひいなちゃんのお引っ越しを祝って、カンパイ!」

いち早く身を乗り出して、祐司くんはグラスを傾けた。

俺は飲めるが、ひいなは要と、オレンジジュースをコップに分けた。

「食べてちょうだい!久しぶりに本気出したわー。」

恵さんに勧められるまでもなく、みんな皿に箸を伸ばす。

要は子ども椅子にすわっている。

彼のご馳走は、恵さんが別に作った味の薄いおかずだ。

彼はそれを、スプーンで自ら口に運ぼうとしていた。恵さんに止められて、結局は食べさせられているのだが。

危なっかしくはあるものの、その自立精神はたいしたものだ。

「要、すごいなお前。男らしいぞ。」

「あと一年くらい我慢してくれればいいのに。」

手間がかかって、と恵さんはぼやく。

俺と主婦の目線は違うらしい。「恵、ワインもう一杯!」

ここにももう一人。

非常に自由な男だ。

勝手をして手間のかかる子供。

「はいはい、もう、仕方ないなあ。」

恵さんは別段気にした様子もなく、ボトルを傾ける。

「ありがとー。」

彼はきっと、要と同じ台に並べられているに違いない。

ワインは引き出物にしては大きなものだった。だが三人で飲むとなると、それもあっと言う間に減っていった。

ワインの間に、スパゲッティ、ハンバーグ、カレー、ケーキ、五目おにぎり、焼き鮭、かぼちゃのサラダ…。

俺は色とりどりにならんだ料理を皿に取る。

自分の為ではない。

「ほら、ひいな。」

さっきから動けずにいる、ひいなの真っ白な皿と取り替えた。

たぶん緊張しているのだろう。

「食べな。」

俺を見上げる大きな目か一瞬泳いだ。

「ありがとう、涼。」

返事をして、箸を手にとる。

俺も適当に唐揚げやらを取って、ぺたんこの胃袋に放り込んだ。

ひいなを見ると、箸を握りはしているが、何か戸惑っているようだった。

「どうした、ひいな。」

祐司くんが様子に気づく。

「ひいな箸使えねえんじゃねえか?やっぱフォークだろ。」

彼の中では外国人=フォークらしい。

理屈がおかしいが、なるほどそうかもしれない。

今まで箸を使う機会がなかったとか。

「ひいな、箸はこうして、」

祐司くんが率先して教えにかかった。

ひいなは食い入るように見ている。

「ほら、上の箸を動かすんだぞ。」

「祐司くん持ち方変。」

「え、まじ?」

彼の持ち方は少し癖があった。

「こうだよ。」

俺は正しい持ち方を見せた。

祐司くんは俺の持ち方と見比べて自分のを直し出す。

今までよく困らなかったな。

ひいなはというと、まねをして二本の棒を指に挟もうと必死だ。もうすでに祐司くんは矯正を放棄している。

彼はひいなに目を移した。

「出来た…、あれ、難しい?」

動いたと思われた箸は小さな手からポロリと落ちる。

「ばか祐司。出来るわけないでしょ。あたしだって七つでやっと出来たのよ。」

祐司くんの頭をぺしっとたたき、恵さんは席を立った。

子供のようにはしゃぐ二人を横目に、俺は二杯目のワインをグラスにそそぐ。

恵さんはキッチンをかき回しているようだ。

フォーク探してんのかな。

俺は食器はあまり持ってなかったから、あったなら父が足してくれたものだろう。

案の定、彼女は一本のフォークを握って食卓に帰ってくる。

「要、またこぼして!」「クリストフルじゃん!」

「できたー!」

みんないっぺんに表情が変わった。

それぞれ同時に口を開く。

言葉が被った。

「え、何?」

何を言ったか分からない。

「ティッシュ、」

「何してんだ!」

「りょう、」

恵さんは乱雑にフォークを放り出す。

祐司くんは落ち掛けたフォークをすんでのところでつかむ。

ひいなは身を乗り出して目の前で箸先をならす。

再び戻ってきた恵さんに、祐司くんは怒鳴りつけた。

「お前、これが何か知らないのかよ!」

彼女はスプーンを要の手から取り上げる。

「知らないわよ。」

慣れた手つきで彼の手と口を拭いた。

「クリストフルシルバーだぞ!高いんだぞ!」珍しく祐司くんが大声でわめく。

「へえ?そうなの。」

恵さんは関心を示さない。

彼女はブランドに無頓着なようだ。

「あのなあ、」

「う…。」

要の様子があやしくなったのが目に入った。

まずい。

「祐司くん待っ、」

と、ぐずっていた要が、ついに泣き出してしまった。

「祐司!」

今度は恵さんが怒鳴る番だった。

慌てて祐司くんは要くんをあやす。

「がなってごめんな、要。泣きやんでくれよ~!」

「あああー!」

「要ー、泣かないでよお。」

恵さんも祐司くんは後回しだ。

要は力の限りに叫んでいる。

何とかというフォークが床に落ちる。

皿の魚が棒に挟まれて持ち上がった。ぎゃいぎゃいと騒がしい中、ひいなが顔を寄せる。

「りょう、はし、できたのよ。」

満面の笑みで、切り身を俺の口に押し付ける。

俺、魚きらいなんだけど。

口の周りが油っこい。

泣き喚く要を挟んで、また二人は稚拙な言い争いを始める。

ひいなの操る魚は、正確に俺の口を狙ってくる。

今度は二人してまた要をなだめては、互いに文句を言う。

こんなケンカばっかの両親なら、そりゃ早く独立したいよな、要。

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