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人描きと銀嶺  作者: Nori
第二章 ウバの村編
9/15

第八話 呪い

OP  「火種/amazarashi」




 コーネの街を出発して二十一日目。

 俺たちは第三の村に辿り着いた。



 その村に着いて早々、俺たちはその村の悲惨さに目を覆いたくなった。



 それはもはや村と呼べるものでは無い。

 話によく聞く貧民街がそのまま現れたような風貌であった。



「酷いな、これは……」



 だだっ広い土地に所狭しと小さな家屋が敷き詰められ、もはや村と言うより街だ。

 さらにその造りも杜撰で、所々に壁のレンガが崩れている家も見受けられる。

 ゴミもそこら中に散乱しており明らかに衛生管理が崩壊している。

 村中が異臭を放ち、遂には人が歩くための道を鼠などの小動物が闊歩する始末だ。



「まさかこの国にもこんな場所がまだあるとは……」



 団長様は初めて見る光景に衝撃を受けたようだった。

 俺自身は貧しい村を見ることは初めてではないが、そのどれもが廃村と呼ばれるものに近い場所であった。



 だがここはそんな生温いものじゃない。

 貧民が一か所に押し留められ、まるで世間が見たくないものに蓋をしたような印象を受ける。

 せっかく村まで辿り着いたというのに、この有様では安心して眠れる場所は無さそうだ。



「とりあえず人は沢山居そうだし、なにか物資を補給できるかもしれない。行ってみよう」



 俺がそう声をかけると団長様は「そうだな」とだけ呟いた。





 空は曇天であった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 村の中に入ると悲惨さがより目に付く

 道の端には年老いた物乞いや、この寒さだというのにボロボロの服を纏った売女などが転がったように佇んでいた。

 目に光が無いとはよく言ったものだが、まさにそれを体現した様な人間ばかりであった。



 コーネの街や王都では彼らのような存在は傍から見れば異質だと思われるだろうが、今はこの道の真ん中を歩く俺たちの方が異質に見えることだろう。

 団長様の隣を歩く事自体が注目や羨望の眼差しを向けられるため、それ自体があまり心地の良いものでは無かったが、ここはそれとはまた違った居心地の悪さを感じる。



「一先ず商店を探そうか」



 俺がそう言うと団長様は「ああ」とだけ呟いた。



 団長様は村に着いてからずっとこの調子だ。

 どういう気持ちなのかは分からないが、ただただ村を見回してその惨状を目に焼き付けているように見える。



 少し歩いていると露店が並ぶ通りに出た。

 皆が屋台を構え、そこでは肉やら野菜やらが当たり前のように売られている。

 思ったよりは人で賑わっておりそれなりに盛況しているように見えるが、明らかににどの商品も質が良いとは思えない。

 さすがに最低限の衛星は保たれている様だが、それでもコーネで売られている物に比べれば見劣りする物ばかりだ。



 俺は気分的に果物が食べたくなった。

 前の村で食料は補給してあったため携帯食料生活からは一時的に脱したが、やはり保存が効く食べ物となるとある程度乾燥させた物がほとんどだ。

 そのような生活が続くとさすがに水分が多いものが食べたくなる頃合いであった。



「なあ団長様、果物とかどうだ?」



 果物店の前に着くと俺はそう声をかけた。

 それに団長様が反応しようとしたその時。



「おいコラ!待て!」



 前方で怒号が上がった。

 恐らく盗人でも出たのだろう。

 まぁこういう貧しい地域の露店では珍しいことじゃない。

 俺たちは警察組織ではないのでわざわざ相手する必要は無いのだが、いかんせん団長様はこの国の英雄だ。

 ここに居るほとんどの人間が団長様の顔など知らないであろうが、それでもこの鎧と背負った大剣は嫌でも目に入る。

 特徴を覚えられて後々に変な噂を流されるのもまた面倒だ。



「行きますか?」



 俺は一応団長様にどうするかを聞いた。

 体裁的には対応しておいた方が無難だが現在団長様は休暇中の身。

 無理に仕事をする必要は無いし、そもそもこれは団長様の仕事の範疇ですら無い。



 さて団長様はなんて言うのだろうか。

 個人的には「聞かなかったことにしよう」とか言って貰いたいものだが……。



「無論だ、行くぞ。」



 そりゃそうですよね。



 団長様は声の聞こえた方へと勢いよく駆け出した。

 俺も置いて行かれないようにそれに続いた。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「おい待て!」



 人込みではっきりとは視認できないが、声の主が明らかに近くなっているのが分かる。



(もうそろそろだと思うが……)



「キャー!」



 俺と団長様はすぐさま立ち止まった。

 叫び声の響いた方を見ると狭い路地があるのが分かった。



 俺たちはその路地にゆっくりと足を踏み入れた。




「こっち来ないで!」

「……」




 驚いた。

 そこにはまだ年端もいかない少年少女二人が抱き合って小さく縮こまっているではないか。

 正確には少女がまだ体の小さい少年に被さって護っているように見えるが。


「やっと追いついたぞ、ガキどもが…!」



 品物を盗まれたであろう店主は息を切らしながら怒りを露わにしている。



 いくら子供とは言え品物を盗んだ方が悪いのは言い訳のしようがない。

 この貧困村で食べ物が劇的に少ない中、子供という免罪符を掲げられて商品をなんでもかんでも盗まれては商売あがったりだからな。

 商売人も慈善事業をやっている訳ではないのだから怒るのも当然だ。



 しかしこちらとしても彼らを罪に問う事は出来ない。

 まず俺たちはそもそもイギルでは無いからだ。

 この国で警察の権限を持つのはイギルのみ。

 それ以外の人間や組織が警察行為を行う事は法で禁止されている。



 また恐らくだがこの子供たちは現段階の法では罪に問えない年齢だ。

 見た目だけではとてもじゃないが成人とされる十六歳に達していないように見える。

 これは現行の法だと大犯罪以外は罪に問えない年齢である。



 だとするならばここは賢く穏便に済ませるのが一番だろう。



 今にも子供二人に襲い掛かりそうな店主に俺たちは声をかけようとした。

 こういう輩はある程度の金を握らせればすぐに引いていくというものだ。

 もちろんそれはただのその場しのぎでしかなく、この子たちにはこの後たっぷりお説教をしなければならないがな。



 こうしている間にも店主はジリジリと二人に詰め寄っていく。

 俺はその店主の肩を叩いて呼び止めようとしたその時だった。



「こっち、来ないで!」



 少年に覆いかぶさるようにしていた少女がそう言い放つと彼女たちの足元から何か黒い影のようなものが一気に飛び出してきた。

 そしてそれは目にも止まらぬ速さで店主の足元まで這いよると、その顎目がけて実体を現した。




「グオオオ!」




——————————ドゴッ——————————




 その“何か”に顎を打ち抜かれた店主はそのまま宙を舞い、背中から勢いよく仰向けに倒れた。



「な、なんだ!?」



 俺は突然の出来事に動揺する事しか出来なかった。



「グルルル……!」



 俺はすぐさまその“何か”を視界に捉えた。

 唸り声をあげる“何か”の姿は異質そのものであった。



 子供たちの足元から伸びる影のような“何か”は上半身が猫科の大型猛獣の風貌、下半身は無く子供達から影のように伸びる筋だけが存在していた。



「なんだ、これは……?」



 俺は生まれて初めて見るそれに驚嘆して動けなくなっていた。



「グオオオオ!」



 咆哮を放つ“何か”は次の標的を俺に決めたようで、その鋭い爪が見える前足で俺を引き裂きにかかる。



(まずい、逃げなければ)



 そう思った時には遅く、その爪が俺の顔の目の前にまで迫ったその時。





——————————ガキン!——————————





 その攻撃は寸前のところで透明な壁に阻まれた。



「人描き殿!そこから離れろ!」



 大声で叫ぶ団長様の声が響き、俺はその指示に従って数歩後ろの団長様の横まですぐに移動した。

 どうやら団長様の防御魔法が俺と“何か”の間を隔てたらしい。



「ガウ…ガウ…」



 見えない壁に阻まれた“何か”は不思議そうにその壁を撫でることしか出来ないようだ。



「すまない助かった!ところで一体なんだあれは?」



 そう言って団長様の方を見ると、そこには出会ってから始めてみる焦りの表情が見受けられた。



「分からない。だがきっとあれは……」



 団長様がそう言い切る前に前方から「ガキン!」という破壊音が鳴り響いた。

 見るとその“何か”は団長様の強固な防御魔法を砕いてしまっていたのだ。



「な、マズい!逃げるぞ人描き殿!」



 まさかあの団長様の口からそんな言葉が出るとは微塵も思わなかった。

 つまりこれは相当な危機的状況であるということ。



 得体の知れない“何か”が強固な防御魔法を破ったのだ。

 安全圏を失くした俺らが相手にするには分が悪すぎる。



 助けに入った俺たちが逆にそれから逃避することになるとは何たる皮肉。

 俺と団長様は一目散に後ろへ駆け出した。



 あの化け物がどれだけ速いかは全く分からない。

 だが今は勝ち目の無い戦いをしている場合では無い。

 どうにか生き延びなれば。



 そこには生まれて数度しか経験したことが無い“死”が間近に迫るあの感覚が確かにあった。



 背後に”何か”が近づく音が確かに迫ってくるが振り返っている余裕はない。

 もう少しで路地裏を抜けて元の商店通りに出ようかと言うその時、一人の老人が俺たちの目の前に現れた。



「危ない!逃げろ!」



 俺は咄嗟に大声を出した。

 だが老人は俺たちをじっと見つめ動く様子が全くない。



(ひょっとして聞こえていないのか!?)



 自分的には人生で一二を争うほどの声の大きさだと感じたが、あの老人にしてみればそんなことも無いらしい。

 かくなるうえはあの化け物に立ち向かって時間を稼ぐか。



 ここで俺はあの化け物を身を挺して受け止めることを覚悟した。

 それは団長様も同じだったようで、ほんの一瞬だけ団長様の方が後ろを向くのが早いのが分かった。

 俺はすぐさま腰から鉤爪を引き抜き防御態勢を取った。



 そしてその化け物が俺たちに飛び掛かろうと宙に浮いたその時だった。



「やめんか馬鹿者!」



 後ろで老人の声が響いた。

 その威圧に俺は体が身震いするのを感じた。



 そしてそれは化け物も同じようで、老人の方をじっと見た化け物は飛び掛かろうと伸ばした爪を引っ込めてそのまま地面の中に影として消えていった。

 そしてその影はスルスルと紐を手繰り寄せるように二人の子供たちの足元へと戻って行く。



「助かった、のか?」



 一気に体の力が抜け、俺はそのまま両膝を地面に着いた。



「全く、あれだけ暴れてはならぬと言ったはずだが……」



 そう言う老人はゆっくりと歩き出し、俺たちに声をかけた。



「お二人さん、怪我は無いか?」



 俺と団長様はお互いに見合って無傷なことを互いに確認した。



「ああ、問題無い。すまない、助かった」



 それを聞いた老人は「そうか、それは良かった」と言って笑顔を見せた。

 そしてそのまま足を進め、抱き合っている子供たちの元へと近づいていく。



「おい、じいさん。あんまり近づくと危ないんじゃ……」



 俺が声をかけると老人は「大丈夫じゃ、心配なく」とだけ言い、さらに歩みを進める。



 そしてその足が二人の前で止まると何とも言えない緊張感が走った。

 正直俺は老人が子供たちをどうするつもりなのか全く分からない。



 まさか殺すつもりなのだろうか?

 確かにあの力は安易に放っておいて良いものでは決してない。

 だからと言って命を奪うのは早計では無かろうか?



 だが今のところあの”何か”への対抗策を持っていそうなのはあの老人のみだ。

 あの老人が必要だと判断するのであればそれが一番良いのかもしれない。



 俺と団長様はこの後の老人の挙動を固唾を飲んで見届けることにした。



 だがそれは俺らが想像したものとは全く違うものであった。




「馬鹿もーん!」




——————————ポカッ、ポカッ——————————




「いたーい!」

「いたっ!」



 大声を上げた老人は二人の子供にそれぞれゲンコツを食らわせた。

 子供たち二人は声を上げて殴られた頭部を両手で押さえた。



「全く、一体どうしたと言うのだ!わざわざ“ラード”まで出して!あの二人がお前らに何か悪さでもしようとしたのか!?」



 そう言うと老人は俺たちの方に目線を向けた。

 老人的には俺たち二人が子供たちに危害を加えるような輩には見えないという見解のようだ。



「いや、あの人たちは何もしてない……」



 少女がおずおずと答えた。



「では一体なぜ暴れたのだ?」



 老人が言うと少女は”何か”に飛ばされ仰向けに気絶している店主の方を指さした。



「あの人が追いかけてきて……、それで怖かったから……」



 その指先の方向を見た老人は不思議そうに再び少女に問いかけた。



「あれは……商人か?なぜ商人がお前たちを追いかけるのだ?」



 少女は老人と目を合わせようとはせず、泳いだままの目で恐る恐る答えた。



「あの…その…、これを盗んだから、だと、思う…」



 そう言うと少女は隠し持っていた果物のリムバを老人に見せた。

 真っ赤に染まり丸々としたその果物を見た瞬間、老人も同じくらい顔を真っ赤にしていくのが目に見えて分かった。




「この、馬鹿もーん!」




——————————ポカッ、ポカッ——————————





 再び老人の拳が子供たちを襲った。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「すまんな、こんな粗茶しか無くて」



 そう言うと老人はテーブルに紅茶の淹れられたカップを二つ置いた。

 そしてこのテーブルを挟んで俺たちの反対側の席に座った。



「こちらこそ、突然のもてなし感謝する」



 団長様は礼を言うとその紅茶を口に運んだ。

 俺はなんだか茶を飲む気分になれず「ありがとう」とだけ伝えた。



 口に運んだカップをテーブルに置き、一呼吸置いた団長様は老人に話しかけた。



「あの姉弟は孫か?」



 その問いを聞いた老人は静かに答えた。



「いや、違う。儂には血の繋がった家族はもう居ない」



 血の繋がった家族はもう居ない。

 その言葉の意味をどう捉えれば良いか俺は迷った。

 元々は配偶者や子供が居たが、訳あって全員亡くなってしまったのか。

 はたまた物心ついた時から天涯孤独の身だという意味なのか。

 少なくともこの言葉だけでいくつもの意味に捉えることができる。

 俺たちはじっと老人の言葉を待った。



「二年前」



 老人は椅子から立ち上がると窓の外を眺めた。

 そこには追いかけっこをして遊ぶ先ほどの二人の子供が居た。



「二年前だ、あの二人に出会ったのは。この村の近くの国境付近で倒れているのを見つけた。儂はその二人を保護しただけだ」



 老人は懐かしむような表情を浮かべながら再び椅子に座って話を続けた。



「その時は今よりもずっと瘦せ細っていてな、儂でも二人を担いでこの村まで歩くことができたぐらいだ。最初は怯えて飯もろくに食いやしなかったが、辛抱強く接していると心を開いてくれてな。今は食べ盛りで困ってしまうぐらいだ」



 老人は少し笑みを浮かべた。

 団長様も「それは、困ってしまうな」と同じように笑みを見せた。



「一つ質問だが、なぜ彼らは国境付近で倒れていたんだ?家族がいるならまだ分かるが、なんだってあの小さな子供二人がそんな所で……」

「……」


 老人は俺の質問に答えようか少し迷った様子であった。

 少し間を置いた後、意を決したように話を続けた。



「二人を保護してちょうど一年後、儂も同じ問いをあの二人に投げかけた」

「して答えは?」



 老人は少し俯き、その後はっきりとした声で言葉を発した。





「彼らは隣国の“ナスラ王国”から逃れてきた“奴隷”だ」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「じいじ疲れた!」

「疲れた」



 元気な声で戸を開けた二人はズカズカと家の中に入って来る。



「おや、もう疲れたのかい。ちょうど切ったリムバがあるから食べておいで」



 老人がそう言うと二人は「やったあ!」と声を上げ台所に駆け出した。



「あの元気な女の子が“レニ”で大人しい男の子が“グラ”だ」



 そう言って小さな背中を眺める老人は二人の名前を教えてくれた。



「先ほど奴隷と言っていたが確証はあるのか?」



 俺は二人に聞かれないように少し声を潜めて言葉を発した。

 老人もそれに合わせて声を抑えながら答えた。



「ある。よく見ると首元にナスラ王国の奴隷に刻まれる紋章の跡が見えるはずだ。儂が少しずつ皮膚を削って目立たなくしたが、それでも分かる人間が見れば一瞬で分かるはず。まぁ、この国の人間は奴隷とは程遠い生活をしているからな。パッと目では分かる者はほとんど居ないはずだ。この村で生活する分にはなんの問題も無い」



 俺は二人の首筋に目を凝らした。

 レニの方は長い髪でうまく見えなかったが、グラの方には明らかに不自然な跡が首元に見える。



「二人は奴隷商人に馬車で運ばれているところから隙を見て逃げ出したらしい。そして彷徨っている内にあの国境まで辿り着き、たまたまそれを見つけた儂が二人を保護した。それが事の顛末だ」



 なるほど、だから血が繋がっていないはずのこの老人をあの二人はここまで信頼しきっているのか。

 事情は大体分かった。

 だが俺たちにはそれ以外に聞かなければいけないことがもう一つある。

 それは。



「話は変わるが二人のあの”力”についてお聞きしても良いだろうか?」



 俺が話を切り出す前に団長様が言葉を発した。

 老人はその質問を想定していたのだろうか、落ち着いた声でそれに答えた。



「ああ、そうだな。あの力を目の当たりにしたのだ、おぬしらにはそれを知る権利がある。だが見たところ、おぬしらにはあの力に心当たりがあるのではなかろうか?」



 団長様はどうだろうか。

 少なくとも俺は老人の言う通り心当たりがある。

 あの力はきっと……。



「”呪い”、ではないか?」



 俺が考えていたものと同じものを団長様は答えた。

 老人はそれを聞いて静かに頷いた。



「ああ、そうだ。あれは紛れもなく“呪い”と呼ばれる力だ」



 やはりそうだったか。



 これほど魔法が発達した現代でも未だ解明されていない力の一つ。

 それが“呪い”である。



 加護と同じく生まれ持った才の一つであるとされるが少しだけ性質が違う部分がある。

 それは強大な力と引き換えに身体に何かしらの不具合を持つというところだ。

 原因と考えられているのは“勇者ギスクス”が滅ぼした魔族が使用していた奇跡、“呪術”によるものだとする説だ。



 呪術とは呪力を素として発動できるとされる奇跡で、現代になっても人類はその呪術の解明どころか呪力の存在すらも確かには特定できていない。

 聞いたところによると空気中を漂う汚染された魔力が呪力の正体なのでは無いか?という研究者もいるらしいが、未だその説が確固たるものになった研究結果は出ていない。



 そしてその呪いが引き起こす不具合というのがまた健常者には受け入れがたいものが多く、その呪い自体が病気とされ地域によっては差別の対象となっていることがある程だ。



 例えば、ある者は人間としては破格の腕力を手に入れる代わりに、その腕は生まれながらにして魔族と同じように醜悪な奇形となってしまった者。

 またある者は強大な魔力の器を持ちながらも内臓に不具合が見つかり、医者の手助けなしにはまともに生活も送れないほど衰弱したまま一生を終えなければならない者もいる。



 その不具合の種類や度合いも様々で、見た目に奇形部分があるならまだしも構造や身体の働きに影響を及ぼす不具合はそもそも人としてまともに生きられない場合もある。



 さらに言えば奇形が発現した者もその人生は決して楽なものではない。

 奇形を発症した者は目に見えて人々の恐怖を煽ってしまう。

 そのため彼らは異形と呼ばれ、危害を加えるつもりが無くとも忌避や差別の対象となって人々から避けられる存在になってしまうからだ。



 呪いの代償として一番マシなものは四肢のどれかを欠損したり、視力を失って生まれるなどであろう。

 あとは生まれながらにして毛の類が生えないとかだろうか。



 これらは一見すると健常者とは違う生活を余儀なくされてしまうが、それでも見た目がさほど変わらないというだけで人々の恐怖心は段違いで緩和される。



 だがこれらの不具合を発症したとしても、それに取って代わる程に人々にとって大きな利益を与える時も存在する。

 先ほど言った奇形の腕を持った男はその腕力で探鉱者として成果を上げたり、強大な魔力の器を持った者は戦時の後方支援として味方に大量のバフを与え続けたとも聞く。



 だからこそ“呪い”と一言で言っても、必ずしもそれが人生の最大の障壁になるとは限らないのだ。



 だが呪いによって人生を狂わされた者は確かに存在する。

 そのため巷では「加護は神から、呪いは悪魔からの贈り物」と揶揄される始末だ。



 そしてあの二人の小さな体のどちらかには、今まさにその呪いが確かに宿っている。

 あの年でその身に呪いを宿し、人間として生きる権利を奪われ、命からがら隣国まで辿り着いた二人のことを思うと哀れみしか感じられないのは俺が大人だからだろうか。

 だが少なくとも二人のこれまでの人生を幸せと表す人間もまたこの世には少ないだろう。



「ちなみに彼らの呪いの症状と言うのはどういうものか分かっているのか?」



 団長様は老人に向かって問いかけた。

 老人は少し考えた様子だったがゆっくりと口を開いた。



「正直その全貌は儂にも分かっておらん。確かな事は、あの二人のうちどちらかの影に“猛獣”を飼っているということだけだ。二人は“ラード”と名前を付けて呼んでいる。ラードが現れるのは二人の影が重なっている時だけ。そして今のところ二人の体に明確な欠損は確認できていない。だから代償がなんのか儂も把握はしておらん」



 それを聞いた団長様は「そうか、分かった」とだけ返した。



 個人的にはこの状態はかなり危ういと見る。

 ラードにどんな性質があるかは全く分からないが、少なくとも団長様の防御魔法を破るほど攻撃力を持っていることは事実である。

 そして居合わせただけの俺たちを視界に捉えたラードが襲ってきたということは、二人自身も完全にはラードを制御しきれていない様子だ。

 また身体の目に見える所に欠損が見つかっていないということは、目に見えない重要な器官に何かしらの不具合を抱えている場合も考えられる。

 今はまだそれが影を潜めていても、成長するにつれ身体を徐々に蝕む可能性は十分にありえる。



 とにかく今はラードが暴走しないように見守る必要があるな。

 それは力がある者ではなく、この老人のように精神的支柱になれる人間が適任のはずだ。

 どうせ力があっても押さえつけることしか出来ないからな。

 大事なのはこの力を操作することが出来るかどうかだ。



 そうこうしている内にリムバを食べ終えた二人が老人元に駆け寄ってきた。



「ねえねえじいじ!これ見て!お花採ってきたの!綺麗でしょ!」



 そう言うレニは小さな白い花を老人に見せた。



「見て」



 小声で言うグラも同じ花を老人の目の前に差し出した。

 この花は“迎花”と呼ばれ、冬の始まる時期になると花を咲かす珍しい花だ。

 冬を迎え入れる花で迎花、それが名前の由来だ。

 老人は「ああ綺麗だよ」とだけ言ってその花を受け取った。



「じいじ、私達眠くなってきちゃった。お昼寝したーい」

「眠い」

「そしたらひと眠りしておいで。夕方になったら起こすから」



 それを聞いたレニは「分かった!」とだけ言い隣の部屋にグラの手を引いて消えていった。

 傍からみるとなんて事の無いただの幼い姉弟の日常だ。

 だがその身に余る力を持ってしまったがために本人たちも予想だにしないような葛藤と戦うこともあるのだろう。

 もしも本当に神がいるのだとしたら、俺は少しでもあの二人の未来が明るいものであるよう祈ろうと思う。



 二人が昼寝に消えてすぐ、老人は団長様に声をかけた。



「そういえばあんた、もしや白羅の騎士団の団長だったりしないか?」



 驚いた。

 まさかこの老人、団長様の事を知っているのか。

 だとすれば、あそこで見過ごすよりも追いかけたのは賢明な判断と言える。

 団長様の存在を知っている者であれば団長様がどれほどの権威を持っているかも理解しているはず。

 それが盗人を見逃したとあればその権威に傷がつくという物だ。



「なんだ、知っていたのか」

「まあな。その片翼の首飾りは王家直属組織の長の証だ。これでも昔は“黒翼の騎士団”に所属していてな。その首飾りは嫌と言うほど訓練で目にしたもんだ。今は退職金で見ての通り隠居生活真っ只中だ」



 黒翼(こくよく)の騎士団。

 白羅(はくら)の騎士団と対を成す組織で、白羅の騎士団が国の防衛に特化しているとするならば、黒翼の騎士団は他国への攻撃に特化した組織だ。



 歴史書にも過去に何度も他国への侵略戦争を成功させてきたゼムレス王国の強さの一端には、この黒翼の騎士団の力が大きいとされている。

まさかこんなところでその退役者に出会うとは。



「という事はあんたが今の吟麗(ぎんれい)なのか?それともその名を賜っているのか?」



 え?

 ぎんれい、だと?

 なんだそれは、どういうことだ。



「ああ、そのまま私も“吟麗”の名を継承した。ちなみに“閃麗(せんれい)”殿もそのまま先代の名を継承しているぞ」



 なんだ、なんの話だ。

 俺自身は割とこの国の事情に詳しい方だという自負があるが、たった今目の前で繰り広げられている会話に全くついていけない。



 思わず俺は話を途中で遮って二人に質問をした。



「あの、すまないが先ほどから言っている“吟麗”だの“閃麗”だのは何の話なんだ?」



 老人は不思議そうな顔をした。

 それもそうか、本来団長様と共に行動しているという事は騎士団の内部事情について知っていると思うのが当然だ。

 そんな中なぜか団長様のよく分からん付き人が呼び名と思われることについて聞いてきたのだ。

 不思議がるのもおかしくない。



 そのことに気付いた団長様は「ああそういえば言ってなかったな」と言い、その説明を始めた。



「私たち王家直属組織の長は、その位に就任する時に王からその人物に見合った称号を賜るのだ。そしてその長が退任するまで王家や直属組織内部の人間たちからはその称号で呼ばれることになる。いわば役職と個人を同時に特定できる呼び名と考えて欲しい。私の場合は先代の“吟麗”をそのまま継承して賜った。本来はそれぞれ別の称号を賜ることになっているが、本人が望めば歴代の長と同じ称号を名乗ることも可能だ。だから私は父の称号である”吟麗”をそのまま賜ったという訳だ」



 なるほど、これは面白い話だ。

 王家はこうやって直属組織の長である彼らの威厳を保っているのか。

 確かに王から呼び名を賜ることがどれほどの名誉であるか、武人であれば誰もが分かることだ。

 だからこうやって個人個人に合った名を授けることでその威厳を確固たるものにしているという事か。



 だがそうなってくると一つ疑問が浮かぶ。



「ではどうやってその呼び名は決められるのだ?まさか受け取る本人が直接決めている訳では無いのだろう?」



 俺のその疑問には老人が答えた・



「それはだな、称号の決められ方には大きく二つあり、一つは容姿の特徴から決める方法だ。背が高いとか髭が長いとかからだな。黒翼の騎士団の歴代団長の中には髪が長いという理由だけで“髪麗(はつれい)”と呼び名を付けられた団長もいる。そしてもう一つは戦闘の特色から決める方法だ」



 そう言うと老人は団長様の方を見た。



「ここから先は儂より吟麗様の方が詳しいだろう」



 そう言うと団長様は「そうだな」と話を引き継いだ。



「私の父は白羅の騎士団の先代団長だが、その戦闘の仕方は遠方の敵は魔法を常に詠唱し続け、近くの敵はその剣術で蹴散らしていくといったものであった。それを見た人間たちはみな声をそろえて”吟遊詩人が踊り歌っているようであった”と揶揄している。まあ、元々魔力の器が大きい人だったため、魔法を歌うように使っても魔力切れを中々起こさない方であった。だからこそ成り立つ戦闘法ではあるのだが。そこから取って付けられたのが”吟麗”という称号だ。私はフォルネの加護の影響で父よりさらに多い魔力の器を持っていると言われている。そのため似たような戦闘法をとるのが得意なため、そのまま吟麗の称号を継承したというわけだ」



 吟遊詩人が踊り歌っている様であったから吟麗。

 文字だけで見ると良く分からないが、こうやって経緯を聞くと納得できる称号だ。

 そしてしれっと団長様の父上も団長を務めていたと事をここで初めて知らされた。

 団長様自身も加護の影響があるとは言っていたが、そもそも家計自体が優秀なのかもしれない。

 まぁそうだとしても団長の座に上り詰めるには相当な努力があったことは確かだろうが。



「このように長たちにはそれに見合った称号が授けられる。そしてその王家直属組織の長たちの事をまとめて“四麗(よんれい)”と呼ぶのだ」

「四麗……?俺が知る限り王家直属組織は三つのはずだが?白羅の騎士団、黒翼の騎士団、そして光導(こうどう)の魔法師団」



 俺のその問いに今度は団長様が答えた。



「ああ、表向きはな。だが王家直属組織にはあと一つ、王家とその側近、そして長のみしか名を知らぬ組織がある。そしてその組織はこの現ゼムレス王国建国から一度も歴史に名を見せたことのない、まさに影の組織と呼ばれるものだ」



 まさかこの国にそんなものがあるとは。

 これは驚きの事実だ。

 建国以来、一度も歴史に名を露わにしていない組織。

 一度でいいからお目にかかりたいものだ。



「なるほど、だがなぜそんな組織が必要なのだ?秘密組織だからと言って、そこまでして名を隠す必要はあるのだろうか?」

「それは現王国を建国した時の初代王に聞くしかないが、一番有力な説としては身内に敵の間者が潜んでいても問題無いように最後の砦として王に仕えるよう組織されたのでは無いかというものだな」



 確かに、であれば何となく合点がいくな。

 とはいえそれでも王家直属組織の長までしか名を知らぬ組織というのはやりすぎな気もする。

 だがそれと同時にそのような組織が今も人知れず王家のために活動しているとすると実に興味深い話だ。



 てかこれ俺に言って良いのか?

 いや、まあ、名前までは出していないから問題無いか。

 存在自体は組織に所属していれば皆が知っていそうな口ぶりだし。



「そうだ、一つ頼みがあるのだが」



 団長様は思い出したように話を切り出した。



「なんだ、儂に出来ることなら引き受けよう」

「今晩この村で泊まる場所を探しているのだが、一晩ここに泊めてくれはしないだろうか?」



 そういえばまだ宿を決めていなかったな。

 確かにここまで話し込んだのだ、少し図々しい気もするがお互いに素性を知っている者同士、ここは一つ頼まれて欲しいところだ。



 老人は団長様の言葉を聞くと「おお、そんな事か。全く問題無いぞ」と快諾してくれた。



 これは助かる。

 この村はとてもじゃないが治安が良いとは言えない様子だ。

 身内みたいな存在の家に宿泊できるのであればそれが一番良い。



「そうか、助かる。それじゃあ私たちは少し旅のための買い出しに出かけるとしようか。夕方頃には戻って来る」



 そう言うと団長様は席から立ち上がった。

 俺もそれに続いて立ち上がる。



「分かった。見て分かるようにこの村は少しばかり危なっかしいところがある。気を付けて行くと良い」



 俺たちはその老人の忠告をしかと受け止め家の戸を開けた。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 空が暗くなり始めた頃、俺たち五人は夕飯を食べ始めた。



「なにこれ美味しい!」

「……!」



 レニは初めて食べるシチューの味に声を上げて感動していた。

 グラは静かにそのシチューを頬張っているが、その顔はレニと同じく感動の表情が伺える。



「そうか、それは良かった。まだまだあるから沢山お食べ」



 団長様がそう言ってやるとレニは「やったー!」とさらに口に運ぶスプーンの速度を上げた。



「すまないな、吟麗様。わざわざこんなご馳走まで作って貰って」

「いや、気にするな。一晩泊まらせていただくんだ。これくらいの事はさせてくれ」



 その会話を聞いたレニは残念そうに声を出した。



「えー!二人とも今日だけなの!?明日まで居てよ!お願い!明日は外で遊ぼうよ!」



 これが駄々と言うやつか。

 話に聞いていたかぎりは駄々なんてみっともないしそれを簡単に許す親や大人は甘すぎると思っていたが、実際に目の当たりにしてみるとなるほどこれは。

 この可愛さを武器にされていは自然と甘くなってしまう気持ちが分からなくもないな。



「こら!迷惑をかけるんじゃない!」



 老人が落ち着かせようとするがレニの駄々は簡単には止まらない。

 「やだやだ!」をひたすら繰り返してこちらが根負けするのを待っているようだ。



 それを隣で静かに見ていたグラはシチューを食べる手を止め、じっと団長様の方を見つめて一言。



「おねがい。あした、あそぼう?」



 それを見た老人とレニは騒ぐのを止めてお互いに目を丸くした。

 後に聞くと、どうやらグラが自分でこのような主張をするのは珍しいことらしい。

 しかも俺たちは今日初めて会った人間だ。

 奴隷として虐げられていたグラがここまで他人に心を開くというのは、やはり団長様には何かしらの力があるというようにしか思えないな。



 グラのその視線を浴びた団長様は俺の方を見て「問題ないか?」と聞いてきた。

 ここまで言われちゃ俺だって拒むことはできない。

 俺は「ああ、大丈夫だ」とだけ答えた。



 団長様はグラの両肩に手を置き、笑顔を見せながら優しい声で言葉を発した。



「ああ、分かった。明日は一緒に遊ぼうか」



 その言葉を聞いたグラは顔をパアっと明るくさせて「うん!」と力強く答えた。



「そういえばこの家はどうやって用意したんだ?えっと……」



 団長様がそう言うと老人は「ブールで良い」と答えた。

 そういえば名前をまだ聞いていなかったな。

 ブールはそのままこの家を手に入れた経緯を話始めた。



「儂は齢十六で黒翼に在籍してから五十年間、前線で戦いながら若手育成にも力を入れながら騎士団繁栄に力を入れてきた。だがその途中であることに気付いた」

「あることとは?」



 団長様の問いかけにブールは一瞬だけ間を置いて答えた。



「それは儂らがしてきたことは所詮、ただの侵略に過ぎなかったということだ」



 俺はその言葉の重みをどう受けとれば良いのか分からなかった。

 ゼムレス王国自体は建国以来、この大陸でも最大の軍事国家であることは事実に他ならない。

 だがその中には白羅の騎士団のような防衛だけでなく、他国への侵略によってその力を誇示することになった例も多くある。

 そして黒翼の騎士団はその中でも最多の戦果を挙げていると言っても良い。



 この侵略戦争は先代の王、コキュラス=ゼムレスによって盛んに行われていた。

 恐らくブールはその黒翼の騎士団全盛期に前線で戦っていた騎士なのだろう。

 そしてそんなブールが今になってそれを振り返った時、口から出る言葉が「ただの侵略に過ぎなかった」か。

 なんとも言えぬものだな、人生と言うものは。



「結局儂らは侵略による恐怖で他国を支配して自国を護ろうとした。儂もそれが正しいと信じて疑わなかった。だが頭の片隅にいつもチラつくのだ。儂らが殺してきた数々の兵士の事を。その家族との思い出を。絶望した敵国の民たちの顔を……」



 俺と団長様はその言葉を黙って受け取ることしか出来なかった。



「現王が即位してからはゼムレス王国が自発的に行った侵略はまだ例が無いが、それでも攻撃された報復に黒翼が駆り出されるのが無くなることは無かった。数年前、年齢を理由に退役した儂はそこからこの国を巡る旅を始めた。困っている人間が居れば儂の手の尽くせる範囲で今度は救おうと思ってな。そして二年前、国境付近でこの二人と出会った」



 ブールはレニとグラの方を見つめた。

 ブールからの視線を感じたレニは「おいしい!」とにこやかに答えた。



「その時、これが儂に与えられた人生最後の役割だと感じた。この子たちを必ず育て上げる。それこそが殺戮を尽くした儂の償いなのだと……。そこからは早かった。すぐに王都に住む儂の後継に連絡を入れ、その伝手を使ってこの家を建てさせた。生憎退職金で金は余っていたからな。今はその余波で生活している」



 そこまで言うとブールも同じように笑顔の表情を二人に向けた。



 そういうことか、だからこの家はこの貧困村の中にしては複数部屋と台所まで付いているという豪華な造りになっているのか。

 このくらいの大きさであれば子供二人と老人一人が何不自由なく生活できそうではあるな。



「はい!おかわり!」

「おかわり」



 そうこうしている内にレニとグラは用意されたシチューを食べきってしまったようだ。

 「よし、いいぞ」という団長様は二人分の器を持つと台所に向かった。



「ねえ、じいじ」

「うん?どうした?」



 レニは少し照れ臭そうに俯いて言葉を発した。



「みんなでご飯食べるっておいしいね……」



 その言葉を聞いたブールは「ああ、そうだろう……そうだろう……」とレニの頭を撫でてやった。



 今まで悲惨な過去を生きてきたレニにとってこの些細な幸せでさえもが、きっと未来への大きな進歩であるのだ。

 それを間近で目の当たりにしたブールにとってはそれだけでもあの時救った意味があるというもの。



 俺は何かを言いたいと思ったが何をどう言い表せば良いのか思いつかず、結局その言葉尻を胸に仕舞った。



「そりゃ、待たせたな!」



 元々入っていた量よりもさらに多くのシチューが入った器を団長様はレニとグラの目の前に置いた。

 「わあ!」と言うレニはすぐさまスプーンを勢いよく口に運び始めた。

 グラもそれに続いておかわりのシチューを食べ始めた。



「おいおい、そんなに勢いよく食べると喉に詰まらせるぞ」



 注意するブールの言葉も聞かず二人はガツガツとシチューを口に運ぶ。

 それを見た団長様は「良い食いっぷりだ!」と声を上げて笑った。

 俺もそれにつられて笑顔を零す。

 そしてその顔を見たレニとグラも「おいしい!」と言い笑い声を上げる。



 その夜は五人であっという間に鍋いっぱいのシチューを食べ尽くすこととなった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 次の日、俺たち五人は村の近くにある丘に向かっていた。

 ブールによるとそこには迎花が沢山咲いており、この季節だというのに綺麗な花畑の景色が見渡せるらしい。



 俺たちはレニとグラを中心としてそれを挟むように横に広がって村の道を歩いていた。

 こう見ると二人とも本当に幼いな。

 奴隷として扱われていたのであれば十分な栄養を与えられず、歳相応の成長期が来なかったのだろう。

 二人が正確に何歳かは分からないが、もしかすると俺たちが思っているより実年齢は上なのかもしれない。



 そう考えると今後の教育の機会についても考えさせられる。

 他の地域でもこのような子供はいるのだろうか?

 奴隷として逃げて来ただけでなく、家庭の貧困によって教育を満足に受けられない子供たちもきっとこの国にはいると思う。

 そのような子供たちへは十分な支援を出来ているのだろか?

 いくら大陸で覇権国家に成り上がったとしても、このような所に支援が行き渡らないのであれば無駄な権威だと感じてしまう。




「いたっ!」




——————————ドサッ——————————




 そんなことを考えて歩いているとレニが路傍の小石に躓いてしまった。

 そのまま顔から地面に倒れ、その土で汚れた顔を挙げたレニは今にも泣き出しそうであった。



「あーあー、大丈夫か?」



 そう言ってブールがレニを起こそうとした時であった。







——————————バスッ——————————







「え?」




 俺たちは何が起きたか分からなかった。

 だがその目には確かにブールの足に刺さる矢を捉えた。




「人描き殿!構えろ!」




 俺はその声で我に返った。

 視界の端ではそのまま倒れ込むブールの姿が見えた。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 俺はすぐに鉤爪を装備した。

 団長様も腰の剣を抜刀して襲撃に備える。



 だがこれはまずい。

 俺自身は最低限自分の身を守れるように武器を装備しているが、レニとグラとブールに関してはそのような武器は持っていない。

 こうなってくると俺たち二人でこの三人を守らなければならなくなってくる。



 守れるだろうか、果たして俺に。



 ………………いや、やるしかない。

 落ち着いて、まずは敵の位置を特定する。

 幸いすでに村の出口付近のため他の民衆が巻き込まれる可能性は低そうだ。



 団長様は矢が放たれたと思われる方向を警戒している。

 二発目が飛んできたらすぐさま対処するためだ。

 そうなると俺は団長様の視界の外を警戒しなければ。



 俺は後ろを振り返りレニとブールの方を見た。

 レニは何が起きたか分からない様子だ。

 ブールは自分の足に刺さった矢を認識した瞬間、すぐさまレニに覆いかぶさるような体制を取った。



「グラ!おいで!」



 ブールがそう呼ぶとグラは一目散にその腕の中へと駆け込んだ。



「大丈夫だ、必ず守ってやるからな…!」



 そこには騎士として侵略戦争に加担してきた人間では無く、血は繋がっていなくとも二人の孫たちを守ろうとするただの老人の姿が確かにあった。



(一体誰がこんなことを……!)



 いや、目星はついている。

 またもや団長様が事前に攻撃を察知できなかった奇襲。

 という事は紛れもなく“果ての集い”の仕業だ。



(どう動く、また遠距離からの攻撃か…?)



 俺の能力では遠距離からの高速な狙撃に反応しきれるかは分からない。

 となると近距離戦に備えるのが一番適切な動きをとれるだろうが、それで遠距離攻撃の防御を完全に捨ててしまうとなると敵はブールを狙い撃ちし放題だ。



(どうする……、どうする……!)



 まさか守るための戦いがこんなにも難しいとは。

 この迷いが戦いの世界では命取りになるのだと改めて強く感じる。

 これはより一層、白羅の騎士団への尊敬の念が強まるばかりだ。






——————————キンッ——————————






 後方で矢を弾く音が聞こえた。

 きっと二発目が飛んできたのだ。

 しかしこれで狙撃手の居場所は分かったはず。

 後は団長様がその対処をするだけだ。



 戦況に少し光が差したところで俺は少しの安堵を覚えていた。

 もちろん完全に油断したわけでは無かった。

 だが団長様の後方を警戒するあまりに俺はその敵がそこから飛び出してくるのに気付かなかった。



 そう視界の横にあった暗い路地からの攻撃に。




——————————タッタッタッ……——————————




 辛うじて俺はその足音で気配に気づいた。

 そしてその方向を向いたその時にはもう黒ローブの剣士は剣を振り上げて俺に飛び掛かってきた。




「ぐああ!」





——————————ガキン!——————————





 俺は振り下ろされた斬撃を顔の前で交差させた鉤爪で受け止めた。



「ぐう…!」



 黒ローブの剣士は前回と同じ両手持ち。

 片手ずつに装着した鉤爪では真っ向からの力比べは負けるのが必至だ。

 どうにかしてまずはこの剣士を遠ざけなければ。



「ぐああああ!」



 俺はその声と共に力を振り絞った。

 少しずつだがそれによって剣士を押し返すことが出来ている。



 だがそこでさらにこの状況に追い打ちをかける出来事が発生した。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「ソレア!」



 二発目の矢が飛んできた方向に魔法を放つ。

 一瞬だが向こうの家の屋根から狙撃手が覗いているのが見えた。

 真っすぐ進んだ光の線はそのまま狙撃手を打ち抜き、血が飛び散ったのが分かった。



 どうやら後方では人描き殿が近接戦で襲われそれの対処をしているようだ。



 急いで加勢に行かねば



 そうして後ろを振り向いたその時、最悪の事態が起こってしまった。



「うぅ……うぅ……」



 ブール殿の腕の中でレニが泣き始めてしまった。

 これはまずい。

 もしかしたら彼女の恐怖に呼応してラードが暴れ出すかもしれないからだ。



 最初に二人と出会った時、ラードは最初レニの声に反応して店主を襲ったように見えた。

 となるとレニの中にラードが潜んでいる可能性は高い。



 私はブール殿の方に駆け出した。



「すまない!レニを借りる!」



 私の意図がブール殿にも伝わったのか、レニをすぐさま腕の中から引きずり出した。

 私はその隙間から涙を流すレニを抱きかかえ、そのまま後方へと跳躍した。



(よし、これで一旦レニは引き離した。万が一にもラードが暴れ出したとして、昨日よりも強力な防御魔法で固めれば最低限誰かに危害を加えることは無いはずだ)



 私はここで少し安心をしてしまった。

 もう一つの可能性がまだ残っているのにも関わらず。




(レニを引き離しは良いがこれでは人描き殿の加勢に向かえない……)




 しょうがない。

 レニには少し怖い思いをさせてしまうが魔法の遠距離攻撃で迎撃しよう。

 幸いにもあの剣士の動きは人描き殿がどうにか止めてくれている。



 私は人描き殿と硬直状態にある剣士に左手を向けて狙いを定めた。

 そして魔法を詠唱しようとしたその時だった。




「うらああ!」




 もう一人の剣士が反対側の路地から出てきたのだ。




「まずい……!」



 私は咄嗟にブール殿とグラの周りに防御魔法を張った。



 剣士の攻撃はその壁に阻まれ勢いよく弾かれた。



(危なかった…!まさかこのタイミングで二人目が来るとは…!)




 だがその時、さらにまずいことが起き始めていた。




 よく見るとブール殿の足から流れ出た血に紛れて蠢くものが見えた。





 まさか、あれは。






「う、うあああ!」






——————————グオオオ!——————————






 グラの叫び声に呼応して、その足元の陰からラードが姿を現したのだ。



(くそ、予想が外れた!)



 ラードの本当の主人はグラだったのだ。



 そのままラードは防御魔法の壁を突き破ろうと暴れ始めた。

 それに気づいたブール殿も「落ち着け!グラ大丈夫だ!落ち着くんだ!」と必死に声をかける。

 だが我を失っているグラにはその声は届いていない様子だ。



 一先ずあの剣士二人をどうにかしたいところだが、今はラードを抑えるために大量に魔力と集中力を使っている。



 そしてこうしている間にもラードは調子を出し始めたのか、段々と防御魔法を破ろうとする力が強くなっていく。



(な、まだ強くなるのか!?これでもかなりの魔力を張った壁だぞ!?)



 まずい、これ以上強度を出そうとすると完全にそちらへ集中しなければいけなくなる。

 そうなると残り二人の剣士を人描き殿一人で対処してもらわなければならない。

 人描き殿の実力でそれが可能なのか、正直言って分からない。

 だが少なくとも部が悪い賭けではあると思う。



 となるといっそのことラードを解放して暴れさせた方が良いか?

 いや、そうなると手が付けられなくなってからの収拾が難しくなる。

 さらに言えばブール殿や無関係の人間まで巻き込む可能性もある。

 賭けに出るには危険すぎる選択だ。



(ここは人描き殿に賭けるしかない……!)



「人描き殿!どうにかして二人を倒せ!」



 私は人描き殿の耳に確実に届くよう大きな声を上げた。



 これだけ大声を上げればもう一人剣士が居るという事とそれを一人で対処しなければならないという情報は伝わっているはず。




(頼む、どうにか。どうにかしてくれ…!)




 私は柄にもなく祈りというものを久々にした。

 本来誰か一人の力頼りになってしまう作戦や指示は嫌いなのだが、今回は無意識にそれをしていたのだと後になって認識できた。






 正直、そこから先の事はよく覚えていない。

 だが気づいた時には地面に黒ローブの剣士二人が血を流して横たわっていた。







 そしてたった一人、瞳を鮮やかな紫に染めた人描き殿が佇んでいるのが見えた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 団長様から大きな声で指示が飛んできた。

 後方を横目に確認するとブールとグラの周りに防御魔法が張られ、その中ではラードが暴れていた。

 そしてその奥には黒ローブの剣士をもう一人視界に捉えた。



(なるほど、これは俺一人でどうにかしないといけないわけか……!)



 だが今の状況は剣士一人でも膠着状態に持って行くのが精一杯。

 ここから剣士二人を相手にするのはかなり厳しい。



(さて、どうする?ここからどうやってこの盤面をひっくり返す?)



 俺は悩んだ。

 こうしている間にもラードは暴れ続け、もう一人の剣士は狙いを団長様に定め直して突撃しようとしている。

 本来の団長様であればこの至近距離なら確実に魔法で敵を始末できるはずだ。

 だがその敵を俺に任せるということは現状ラードの対処で手一杯だということだ。



 あの団長様をここまで手こずらせるとは。

 やはり呪いと呼ばれるだけの力はある。



 俺はこの状況を好転させるために思考を巡らせた。

 だがそのどれもがこの状況を大きく好転させるとは思えなかった。




 一通り思考を巡らせた結果、俺の中の結論としてはこの状況を好転させる事は今の俺では不可能であるというものだった。




 一応策が全く無いと言えば嘘になる。

 危険な賭けに出るのであれば、このままラードを防御魔法から解放して暴れさせるのが一番だ。

 そうなれば一時的には盤面はひっくり返るだろう。

 だが今度はその後に収集が着かなくなるかもしれない。

 そうなった時はさらに大きな被害が出る可能性が限りなく高いだろう。



 それにまだ年端もいかない子供に、理由があるとはいえ人を殺したという結果を植え付けたくは無かった。

 一度それをしてしまうと次もその選択を取る様になる。

 それが連鎖してしまうといつの間にか自分の正義を振りかざしただけの殺人鬼になってしまう恐れがあるからだ。



 団長様は自分の力の使い方と使いどころを熟知している。

 だがまだまだ子供のグラはどうだ?

 少なくとも身を護るために簡単に人を殺めるような人間の道を、今のこの場で選ばせる必要は無いのではないかと感じる。



 そこまで考えた時、俺の中でラードを解き放つという選択肢は消えた。

 まだあの子の手を汚して欲しくは無かったからだ。







 となると今この場で汚れるべきなのは“この手”のようだな。







 俺は久しぶりに胸の奥で出会った何かに挨拶を交わした。





「よう、久しぶりだな」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 私が視界に捉えたのはほんの数秒にも満たない出来事であった。



 人描き殿は剣を受け止めていた剣士をそのまま両手で押し返し、右の鉤爪で喉元を一掻き。

 その後反転してもう一人の剣士の足元まで飛び込み、ここでもその喉を一掻き。




 たちまち剣士二人はバタっと倒れ込み、息を引き取ったのが分かった。

 足元には吹き出した大量の血が染み込んでいた。



 そして返り血を浴びながらそれをじっと見つめる人描き殿の目は鮮やかな紫色に染まっていた。



(な、なにが起きた?)



 よく分からない。

 だが願いが届いたのか人描き殿は見事に剣士二人を一人で対処したのだ。



 となると今やるべきことは先にラードの対処だ。



「レニ!」



 私の問いかけにレニは体をビクッと跳ねさせた。

 私は構わず話を続けた。



「今グラとブール殿が危ない!あのまま放っておくとラードが暴れ出し取り返しのつかないことになる!」



 レニは涙ながらに私の顔を見つめてきた。

 一応ちゃんと話は聞けるようだ。

 であればグラを止められる可能性は大いにある。



「いいか、よく聞け。グラの所に行って声をかけるんだ。大丈夫、もう心配無いって。敵はもう居ないって。それでグラを落ち着かせてくれ。そうすればラードの暴走もきっと収まるはずだ」



 それを聞いたレニは少し不安そうな顔でグラとブールの方を見た。

 そこにはきっと苦しそうにもがくグラの姿が目に映っているはずだ。



 私は最後の一押しをここでした。



「レニ、グラを救うんだ!できるな!?」



 その言葉を聞いたレニは再び私の顔を見つめると力強く「うん…!」と答えた。



「よし、いい子だ。それじゃあ行っておいで!私も、もうそんなに長くは、もたん……!」



 レニは立ち上がり勢いよくグラたちの方へと駆け出した。



「あとは頼んだぞ……!」



 私は防御魔法を崩さないよう、ラードへと集中した。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「グラ!グラ!」



 わたしは透明な壁に囲まれたグラへと声をかけた。

 苦しそうにしているグラは正直言って見ていられなかった。

 それでも今はグラに向かって声をかけ続けるしかない。



「グラ!もう大丈夫だよ!悪い人たちはみんな居なくなったよ!」



「ぐううう…!」



 でもどれだけ必死に声をかけてもグラは一向に苦しそうなままだ。

 ラードも落ち着きを取り戻す様子は全くない。



(どうしたら良いの……、グラもラードも全然静かにならない……)



「お願いグラ……声を聞いて……」



 ついにわたしは泣きだしてしまった。

 自分の無力感に今にも押しつぶされそうだった。



 いつもわたしはグラに守られてばっかりなのに、わたしはグラに何もしてあげられない。

 あの時だって、グラの言葉が無かったら今頃わたしは死んでたと思う。

 それなのにわたしはいつも怯えてばっかりで……。



(全部取り返そう。全部、あいつらから奪い返すんだ。だから生きよう?)



 今更ながらにグラの言葉を思い出す。

 そうだ、取り返すんだ全部。

 だからグラに言わなきゃ、わたしはもう大丈夫だって。

 言わなきゃいけないんだ。




「グラ!わたし生きてる!もう大丈夫だから!もう絶対に死なないから!」



 頬を伝う涙は一向に止まらない。

 でもちゃんと喋れる。

 ちゃんとグラに言える。



「だから戻ってきて!負けないで!」



 その瞬間だった。



 壁を攻撃するラードの動きが止まった。



 今だ、今しかない。

 グラに届けるなら今しか。



「だから一緒に生きよう!?」



 わたしはその日、人生で最も大きな声を出したと思う。

 その言葉が届いたのかラードはシュルシュルと影の中に戻って行き、グラは息を切らしながらも落ち着いたようで、わたしに向かって顔を上げた。





 そして一言。





「うん、そうだね、レニ。生きよう、一緒に」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「おさ、まった……」



 ラードが影に帰って行ったのが見えた。

 ここから見る限りグラの様子も安定していそうだ。



 私はすぐにグラとブール殿を囲う防御魔法を解いた。



(すぐにブール殿の手当をしなければ……!)



 私は一目散に三人の元に駆け寄り矢が刺さったままの足の容態を見た。



「ぐあっ!」



 ブール殿は痛がる素振りを見せたが、どうやらそれほど深く突き刺さっている訳では無さそうだ。



「すまない!痛むぞ!」



 ブール殿も分かっているようで「ああ、やれ…!」と自分の服の袖を強く噛みしめた。

 私は刺さった矢を折らないように集中して、そして一直線に引き抜いた。



——————————グジュ——————————



「ぐう!」



 ブール殿の足からは血がドバッと噴き出し、すぐさま真赤な水溜まりがその場に作られた。



「よく我慢した!今楽にしてやる!」



 私はすぐさま穴の開いた足に向けて両手を翳した。



「コルメ!」



 残り少ない魔力を全速力でその傷口に流し込んだ。

 数十秒で傷口は塞ぐことはできた。

 あとは中の肉や血管の組織を修復していくだけだ。



 しばらく私が治癒魔法をブール殿にかけるだけの時間が続いた。

 その間レニとグラ、そして人描き殿はそれを静かに見つめ続けていた。



 途中耐えきれなくなったのか、レニはブール殿の手を握りしめた。

 祈る様に、願う様に。



 治癒魔法が完了すると私はそのまま両手を地面についてしまった。

 久しぶりに感じるこの感覚、完全に魔力切れだ。



「団長様!大丈夫か!?」



 すぐに人描き殿が背中を摩ってくた。



「ああ、大丈夫だ、少し魔力を使いすぎてしまったようだな……」



 私は気遣う人描き殿を制止し、ブール殿の足の様子を診た。



 傷口は確かに塞がっている。

 触るかぎり血管も問題無く繋がっていそうだ。

 ただ筋肉の損傷だけはすぐに完治しないだろう。

 生活する分には問題無いだろうが数日は痛みを抱えたまま過ごすことになるはずだ。



「すまないブール殿、数日は痛む」



 私がそう声をかけるとブール殿も自分の容態が分かっていたようで「ああ、気にするな」と言ってくれた。

 こういう時に軍人相手だとやはり会話が滞り無く進むので対処がしやすい。

 これが一般人になると痛がって暴れる相手に無理やり対処せざる負えない場面も出てくる時がある。



 そうこうしていると戦闘の音を聞きつけたのか村人たちがわらわらと集まり始めた。

 まずいな、これはすぐに後始末をしなければならない。



「人描き殿、とりあえずこの黒ローブたちを別の場所へ!」

「分かった、任せろ」



 人描き殿の顔を見るとその目はいつもの黒い瞳を取り戻していた。

 私が見たあれは気のせいだったのだろうか?

 いや、そんなことはないはずだ。

 あの時確かに人描き殿は人間離れした動きを見せていた。

 恐らくあの目はその元凶となる何かであるはず。



(もしや……!)



 その時私は一つの可能性に行きついた。

 もしこの考えが当たっているのであれば、世界というのは数奇な運命が絡み合っているとはっきり実感できる。

 もしかしたら本当に偶然というものは存在せず、人生の全ては必然で出来ているのかもしれないな。



 私たちは急いでその場を後にした。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 その日の夜、俺たちは重い空気のままブールの家に帰宅した。

 家に着くころにはレニとグラは俺と団長様の腕の中でスヤスヤ眠りに着いていた。

 黒ローブの男たち三人の遺体は村から少し離れた森の中に埋葬した。



 団長様は再び王都のイギル本部へと今回の事を連絡する事にしたらしい。

 後で捜査がしやすいように遺体の場所も書き留めてイリア鳥を飛ばしていた。



 帰宅するとそのまま団長様はぐったりと椅子に腰かけてしまった。

 こんな姿を見るのは初めてだ。

 それだけラードの力が強かった証だ。



 本来であれば明日はウバの村に向けてここを出発するところだが、この調子ではもう一日休んでいった方が良さそうだ。



「ブール、すまないがもう一日だけここに泊めてくれないだろうか?」



 そう言うとブールは「もちろんだ、ゆっくりしていってくれ」と快諾してくれた。



「団長様大丈夫か?」

「ああ、心配をかけたな。だがすまない、明日は少し欲しい」

「ああもちろんだ、気にするな」



 これで明日は一日この村に滞在することが決まった。



 まだ夜にしては早い時間だが今日は俺も疲れた。

 その日は泥の様に眠りについた。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 次の日の夜、俺たちは今日一日を休息に使い疲労を回復するのに務めた。

 団長様も商店で売られている新鮮な肉や果物を食べて魔力も十分に回復したようだ。



 いよいよ明日はウバの村に再出発だ。

 俺たちはそれに備えて荷物をまとめる。



「おい、お二人さん。ちょっといいかい?」



 ブールは少し神妙な顔で俺たちに話しかけてきた。

 どうやら大事な話があるようだ。



「レニ、グラ、二人もおいで」



 部屋で今にも眠りにつきそうなレニとグラはブールに呼ばれ少し不機嫌そうになりながらもこちらへ寄ってきた。



「実は二人に頼みがある」



 そう言うとブールは真剣な顔をして俺たちの方を向いた。

 どんな頼みなのだろうか。

 この三日間はブールにとても良くして貰ったからな。

 こちらとしても返せるものがあるならばなんなりと言って欲しいところだ。



「レニとグラを王都まで連れて行ってくれないか?」

「なんだって?」

「なに?」



 俺たちは思わず驚きの声を上げてしまった。

 レニとグラも「なんで!?」「え?」と声を出している。



「今日一日この子たちの未来の事を考えた。儂は………もう、長くない」



 まあ、前王の時代から黒翼の騎士団に所属していたのだ。

 年齢を考えたらいつ身体が動かなくなっても不思議ではない。



「だからせめてこの子たちを王都へ連れて行って里親を探して欲しい。少なくとも儂が死ぬまでこの村で育つよりはよっぽど明るい未来があるはずだ」



 里親、ねぇ。

 まあ確かにこの村にいてもこの二人の年齢ではそれなりの職に就くことは難しいだろう。

 そもそもこの村自体が貧困者の集まりによってできたような村だ。

 このままブールが寿命で亡くなった時にこの二人を待っているのは発給でこき使われる労働生活だろう。

 そうなれば奴隷から抜け出してきた時とそれほど生活は変わらないのではないだろうか?

 ともすれば確かに王都で里親や子供たちが入れる施設を探す方が賢明かもしれない。

 幸い今のご時世では呪いを持った人たちの活躍により前よりは偏見や差別は薄まっている。

 それに白羅の騎士団団長様であればそのようなツテや影響力がありそうな気がするのも事実。

 本当に二人の幸せを望むのであればそれが一番かもしれないな。



「せめてこの子たちが成人するまでは見届けたかったが、それも叶うかどうか分からない。だからせめてこの子たちにはもっと広い世界を見て貰いたい。自分たちを受け入れてくれる人間たちは思ったよりも沢山居ると、知ってもらいたい。だからどうか頼まれてくれないか?」



 老練の元騎士はそう言って俺たちに頭を下げた。

 その姿は昔を知っている者からしたら面影の一つも無いだろう。

 だがそこには確かに二人の子を想う老人の姿があったのだ。



「……ブール殿の言い分は分かった。だが先にレニとグラの意見を聞かせてくれ。彼らの居場所は彼ら自身が選ぶ権利を持っている。例えブール殿がそうしたいと願っても二人がそれを拒むのであれば、無理やり連れて行ってもなんの意味も無い」



 これは至極当然の意見だ。

 これは大人同士で簡単に決めて良いことじゃない。

 まだ子供とはいえ、自分の居場所ぐらいはこの子たちに決める権利はあるはずだ。

 それに今まで奴隷として生き延びてきたのだ。

 せめて親の代わりになる人間ぐらいは選ばせてあげたいと俺は思う。



 団長様は戸惑いの表情を隠せないレニとグラの方を向いた。



「レニ、グラ、お前たち二人はどうしたいのだ」



 それを聞いたレニとグラは生まれて初めて味わう重い選択に悩んでいる様子であった。

 奴隷だった自分たちを助け本当の親として育ててくれた老人の元を離れて王都で暮らすのか、それとも王都での生活を諦めこの老人と貧しい村で暮らし続けるのか。

 はっきり言って子供相手には酷な選択では無かろうか?

 例え今より高水準な生活が送れたとしても育ての親から離れる選択を簡単に子供が選べるとは思えない。



「な、なあ。これってブールも一緒に王都へ来るじゃダメなのか?」



 俺は当事者でも無いに関わらずこのような提案をしてしまった。

 いや、分かっている。

 ブールだって出来ることならそうしたいことぐらいは。

 だが恐らく何か事情があってそうしないのだろう。

 それでも俺は提案せずにはいられなかった。



「それは無理だ。退職金があるとは言ったが、王都でこの子たち二人を無理なく生活させるほどの金は残っていない。それにその金もこの二年で大きく蓄えが減った」



 蓄えが大きく減った理由は恐らくこの二人に惜しみなく使ったからであろう。

 家を用意し、服を用意し、毎日空腹に困らないぐらいの食を用意したのだ。

 老人一人の寂れた生活であれば問題無いのだろうが、成長期に入りそうな幼い子供二人を苦労せず養っていく金がもう彼の元には残っていないだ。



 今思えばこの二人もその事を分かっているから盗みなんてものを働いたのかもしれない。

 結果的にブールは彼ら二人を叱りはしたが、その理由を大きく問いただすことは無かった。

 つまりは三人とも生活が苦しくなっていることに薄々気が付いていたのだ。



 レニとグラは顔を見合わせ少し悩んでいた。

 だがなぜか互いに言葉を交わすことは無い。

 一体何を考えているのだろうか。



 時間にして数秒、二人は意を決したように団長様の方を見た。

 口を開いたのは意外にもグラだった。



「吟麗さん、僕たちを一緒に連れてってくれませんか?」



 俺はこの時初めてグラがまともに喋る所を見た気がする。

 いつもはレニの陰に隠れて目立たないようにしているが、こういう時に口を開く方だとは思わなかった。



 そしてなによりその目。

 何か目的を果たそうとしているような、覚悟が決まっているような、そんな目をしている気がする。



 その目をじっと見つめる団長様は何も聞かずに言葉を発した。



「分かった。ブール殿この二人は私が責任をもって王都まで送り届けよう。もちろんその後の生活も出来る限り支援するつもりだ。だがすまない、いま私たちはこの先にあるウバの村へ向けて旅をしている最中だ。レニ、グラ、今はそれに付き合わせてしまうことになるが良いか?」



 それを聞いたグラは少し俯き何かを考えている様子であった。

 そして少し間を置きそれに答えた。



「分かりました。ちなみにウバの村へは何をしに?あと滞在時間はどのくらいでしょうか?そしてその後の予定は何か決まっていますか?」



 グラはスラスラと自分たちに必要な情報を聞き出そうと質問を投げかけた。

 その姿はまさに取引先と交渉する商人だ。

 いかに情報が自分達の今後を左右するのかを確かに知っている。

 そしてその情報で今後どうやって立ち回るべきなのかを思考しているのだ。



 発言を聞けば聞くほど今目の前に居るのが昨日までのグラと別人な気がしてならない。

 一体何があったというのだ。



「ウバの村へは“銀嶺花”という花の情報を探しに行く。滞在時間は分からない。ただ必要な情報が無いのであればすぐにでも立ち去るつもりだ。その後は王都へ戻り私は仕事に復帰する。そこまでは人描き殿もついてくる予定だ。ちなみにここからウバの村は歩いて約三日だと思われる。そして王都までは順調に行っても歩いて約二十日間はかかるはずだ。安心してくれ。その間君たちの安全は私たちが保証しよう、吟麗の名に懸けてな」



 それを聞いたグラは静かに「分かりました」とだけ返した。

 そしてブールの方に向き直りグラは深々と頭を下げた。



「ブールおじいさん。今まで本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません」



 それを見たレニも同じくブールの方を向き、頭を下げた。



「じいじ。本当にありがとう」



 その幼い子供とは思えないような対応にブールは驚きを隠せていなかった。

 どうやらブールもこのような二人を見るのは初めてらしい。



「お、おい、一体どうしたんだ二人とも!?そんなことをするような子じゃないだろう……!」



 ブールも初めての光景でつい声を荒げてしまっていた。

 顔を上げたグラはそれでもその対応を崩さない。



「いえ、本当に心の底から思っている本心です。あなたが居なければ今頃僕とレニはあの国境で骨になっていたことでしょう。それもこれもあなたが僕たちを拾って大切に育ててくれたからこそのことです。感謝してもしきれません」



 やたら饒舌に話すグラに俺でさえ少し恐怖を感じてしまう。

 それ程にまで今のレニとグラは別人に思えてしまうのだ。



「ですが僕たちにはまだやり残したことがあるんです。それが終わった後にこの御恩は一生かけて返していくつもりです。それまでしばしの別れとなりますが、必ずまた会いに来ます」



 そこまで言ったグラの声は少し上ずり、その目も涙ぐんでいるのが分かった。

 それを見たレニもつられて涙を流す。



「だから僕たちがまた会いに来るその時まで…、どうか生きていてください……!」



 グラの目から貯めていた涙が零れ落ちた。

 二人ともブールと離れるのが辛くないわけが無いのだ。



 二人がやり残したことが何なのかは全く分からない。

 もしかしたらブールはそれまでの繋として利用されていただけのかもしれない。

 だが確かにそこにはお互い信頼し想い合う愛情が存在したのだ。

 たとえ血の繋がりが無かったとしても。



 ブールはしゃがみ込み、そのまま涙を流し続けるレニとグラをその衰えた両手で大事そうに抱き寄せた。



「ああ、もちろんだ…!儂はそう簡単には死なんぞ…!なんて言ったって黒翼の騎士団の一員だったのだからな!だからどうか、お前たちも簡単に命を落とすんじゃないぞ…!」



 その夜、王国一貧しい村に愛情の涙が流れ続けたことを俺たち以外に知る者は居なかった。

 やがてそれは新たな未来への根を育てる水となったことも。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 コーネの街を出て二十四日目の朝。

 俺たちは旅路の用意を整えて村の出口前に居た。

 レニとグラもいつもより厚手の格好をして少し緊張した様子で旅立ちの時を待っていた。



 昨夜のあの後、感動の涙に水を差すようだが俺は「一度ウバの村を出た後にどうせ同じ道を通って戻ってくるのだから王都へ送り届けるのはその帰りで良いのでは?」という指摘をした。

 これから先はどれほど道が険しくなるかは分からないし、いつまた果ての集いに襲われるか分かったものじゃない。

 わざわざその危険を冒してまでこの二人を連れていく必要は無いのではないかと。



 だがこの村で果ての集いに襲われた時、奴らは明らかにグラを狙ったような行動をとっていた。

 あれは恐らくグラになんらかの力があることを知っていてのことだと思われる。

 であればレニとグラをそのままこの村に置いておく方が危険だというのが団長様とブールの判断だ。



 という事でやはりレニとグラにはウバの村への道のりにもついて来てもらう事となった。

 子供二人には少し酷な旅になるかもしれないが、そこは最大限配慮して進もうと思う。



 さて、いよいよ出発の時間だ。

 レニとグラも小さなリュックを背負い準備万端だ。



「それじゃあブール殿、世話になったな」

「いや、こちらこそ迷惑をかける。レニとグラをよろしく頼む」



 そこまで言うとブールはしゃがみ込みレニとグラと同じ目線になった。



「良いか二人とも、吟麗様を困らしちゃいかんぞ」



 昨日あれほどレニとグラの大人びた所を目の当たりにしても、ブールは子供をあやすような声で喋りかけた。

 やはりこの二年で染みついた話し方はそう簡単に抜けないのだろう。



「うん、じいじも元気でね」

「お元気で」



 するとこちらも昨夜とはまた別人のように幼い子供に戻ってしまったようだ。

 一体どっちが本当の顔なのか皆目見当も付かない。



 だがお互いがお互いを思いやるその表情はまさしく本当の家族の様であった。

 そう、これが彼らの本来の姿なのだ。

 今だけは。



 俺もブールと挨拶を交わすと、俺たちはいよいよこの村の出口へと足を踏み出した。

 時折後ろを振り返るとそこには杖を突いた老人一人が立ち尽くしていた。

 いつまでも、いつまでも、お互いにその姿が見えなくなるまで。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 ブール殿が居た村を出てしばらく。

 私はどうしても人描き殿に聞きたいことがあった。



「なあ、人描き殿」

「ん、どうした?」



 何気ない顔でこちらを振り向く人描き殿のその手にはレニとグラの幼い手が両手に繋がれており、まるで本当の親子のように並んで歩く姿はなんだか新鮮だと感じた。



「そういえば人描き殿が黒ローブの剣士を二人まとめて倒した時のことなのだが……」



 そこまで言うと人描き殿はピタリと歩く足を止めた。

 やはりあまり聞かれたくないことなのかもしれない。

 だがこの先再び奴らに襲われることになった時のために、お互いの戦力はしっかりと把握しておく必要がある。



 最終的には人描き殿にあの二人の対処を任せはしたが、現に私は最後の最後まで人描き殿に頼るという選択肢を取るかかなり悩んだのだ。

 これはもはや私たちの信頼にも関わる話になってくる。

 この先の旅のためにも答えていただく必要があると感じた。



 人描き殿は俯いたまま少し黙った。

 だがその顔は真実を話すのを嫌っているというよりも、そこからどう思われるかを気にしているようにも思えた。



 もし私の考えが正しいのであれば、それを簡単に人に話すことなどできない気持ちも分かる。

 かく言う私も加護を授かっているとは最初に伝えることが出来なかった身だ。

 私が加護持ちだということは王家や直属組織の中では有名な話であろうが、辺境の地で絵描きをしているだけのこの男には恐らく伝わっていなかっただろう。

 現に人描き殿は私の加護の存在を知らなかったからな。



 正直言ってそれが心地良かった。

 加護の存在を知る者の中には、私が加護持ちだと知った途端にまるで神を崇めるかの様に接してくる者が少なくない。

 それほどまでに加護という力は人間離れしたものらしい。

 加護とは神の生まれ変わりの証だと評する歴史書もあるくらいだからな。



 だがこの旅ではそのように扱われることは無かった。

 もちろん騎士の私を見て不審がる者や下手に出る者は多くいたが、少なくともこの男は最初からそのような態度で私に接しては来なかった。

 それが心地よくて中々言い出せなかったのだ。



 だが私が加護持ちだと知ってからの人描き殿も、私に対する態度を少しも変えることは無かった。

 加護の存在をそもそもよく知らないのか、はたまた今更この態度を変えるのも気恥ずかしいのか。



 だがその態度に私は少なからず救われたのだ。

 だから今度は私が人描き殿を受け入れる番だ。



「安心してくれ、私はどんな答えも受け入れる。だから、話して欲しい」



 その言葉を聞いた人描き殿は意を決したように口を開いた。



「そう、だな。あそこまで見せたならもう隠せないな」



 人描き殿は小さく呟くとグラの方を少し見た。

 まだ幼い身体に身に余る力を宿してしまった彼に同情でもしているのだろうか。

 はたまた自分の境遇を重ね合わせているのだろうか。



 自分の顔を見つめられたグラは不思議そうな顔を浮かべた。

 人描き殿はそのあどけない顔を見て少し笑みを零し、私の方を向いた。



「隠していてすまなかった。だが中々言い出せなくてな……、俺自身もあまり人に知られたくないんだ、この力を」



 そこまで言うと人描き殿はすぅと小さく息を吸い、そして吐いた。



「俺は、グラと同じく、この身に”呪い”を宿している」




ED  「ラストシーンに悪魔は要らない/Eight」

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