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人描きと銀嶺  作者: Nori
第一章 コーネの街編
3/15

第二話 気高く、麗しく

OP 「虹を待つ人/BUMO OF CHICKEN」


 銀嶺花、その花の名前には聞き覚えがある。間違いない、あの時聞いた…



「銀嶺花、聞いたことのない花だ。名前以外に詳しい情報は知らないか?例えば生息地とか、花の特徴とか」



 間髪入れず女騎士が言葉を発した。薬草売りは少し戸惑いながらも話を続けた。



「俺が知っているのはその名前と、その花の蜜を水に溶かすと、魔力不足の症状を著しく改善させるって話だけだな。なんでもその効用が強すぎて飲んだ奴の魔力の器まで大きくしてしまうらしい。まぁ、今までこの仕事を長くやっているが、そんな植物は市場に出回っているのを見たことないし、もし本当にそんな代物が存在するのなら世紀の大発見だ。わざわざ回りくどい製法で、魔力回復薬なんてものを作る必要が無くなるわけだからな。それこそおとぎ話だと思っていい」



 そう、まさしくおとぎ話だと思うのが適切だ。



 その昔、魔法というのは魔力操作に秀でた一部の者のみが使える特別な力であった。そしてそれを使いこなす者を人々は”魔法使い”と呼んだ。

しかし魔法の研究が進んだ今、そこら辺にいる平民でさえ詠唱や魔法陣を操ることで、簡易的な魔法を使用し生活を行っている。



 例に挙げるとするならば、分かりやすいのは火だ。



 火は人間の生活には欠かせない。人類は火を使って肉を焼くことを発明したことで、消化吸収を高め、効率よく肉をエネルギーまたは体の組織の成長に当てることが出来るようになったと聞く。

 また火は獣を怖がらせる効果もある。夜間に集団になっているところを獣に襲われそうになっても、枝葉に宿した火を向けることで追い払ったり、単純に寒い夜間の暖や照明の確保にも使用できる。



 その重宝さは時代が進んだ現在でもさほど変わらない。料理をするのにも火を使って調理をすることがほとんどだし、夜は蝋燭やランプに火を灯し明かりを確保している。



 ただそんな火を起こす手法が魔法によって格段に簡易化されたのだ。



 だいたいの家庭にある調理場には火を起こす魔法陣が描かれている。その上に鍋を置き、魔力を込めると、すぐさま火が灯り炒め物を作り始めることが出来る。さらには火加減も自由自在に調整できる優れものだ。

 照明だってそうだ。昔は蝋燭に毎回火打石等で火を灯し、小さい明かりで夜は部屋を照らしていたが、現在では部屋の壁にある魔法陣に魔力を込めることで、部屋中のランプに明かりが灯り、夜でも昼間並みの明るさで活動することが可能だ。



 そしてこの現代の魔法陣の凄いところは、空気中にある魔力をエネルギーとして動作することだ。



 基本的には魔法というのは術者の魔力量によって使える魔法の規模が左右される。またある一定の魔法を持続的に発動させ続けるためには、術者が必要なエネルギー量の魔力を延々と送り続けるか、発動時間分の魔力を一気に送り、それを徐々に使用して魔法を起動させ続けるかの二択である。



 つまりランプに明かりを灯す魔法は、本来であれば術者が延々と魔力を供給し続けるか、最初に一定量の魔力を送っておいて、それを徐々に使用して発動させるかのどっちかであった。

 まあ魔力をずっと魔法陣に向かって送り続けるなんてことは現実的じゃない。なぜならランプに明かりを灯している間、ずっと魔法陣に触れていなければならないからだ。

 そのため多くの家庭で普及していた魔法陣は、一度に魔力を送っておいて、それを徐々に使用することで明かりを灯しておくといったものだ。明かりを消すときには再び魔法陣に触れて魔力を込めればいいし、使わなかった魔力はそのまま次に使う時のために貯めておける。いうなれば使用者の魔力を燃料の様にして使用する方法である。



 しかしそんな仕組みの家庭魔法にもとうとう革命が起きる。

 空気中の魔力をエネルギーとして動作する魔法陣が発明されたのだ。



 これによって大して魔力を持たぬ人や魔力操作が苦手な人でも、魔法を起動する際に魔法陣に触れるだけで、勝手に魔法陣がその人の体内の魔力を検知し起動することで、あとは空気中の魔力を自動でエネルギーとして使用し動作することが可能になった。

 ただしこれでは一斉に大衆がこの魔法陣を使用することで、空気中の魔力不足になるのではという意見も見られたが、家庭で使用される程度の魔力であれば大した量にならない。言うなれば大勢の人間が集まって呼吸をしても、その場所で酸素不足になり呼吸が出来なくなる訳では無いのと同じである。空気は常に循環し、足りなくなればその場所へと流れ込み、常に世界全体を一定の酸素量で満たしている。それと全く同じだ。(ただし完全に密閉され空気の入り込む余地も無いような部屋を用意できたのなら話は別だが)



 ここまで家庭への魔法の普及について話をしたが、なぜ銀嶺花なんてものが実在したら世紀の大発見に成り得るのか。



 それは戦場でとてつもない威力を発揮するからだ。



 はるか昔から戦争というものは、基本的に資源の多い方が勝利するのが定石だ。現代の戦争で主に戦力として扱われるものは三つ。



 兵士、魔法使い、そして魔法兵器だ。



 当たり前だが、兵士は武器を持ち敵陣地に切り込むことで敵兵力を削ぐのが役割の一つだ。しかし見晴らしが良い戦場では、束になった兵の集団に遠距離魔法を一気に打ち込まれでもしたら、それだけで兵士達は壊滅まで追い込まれてしまう。また見晴らしの悪いところから隠れて攻撃を行えたとしても、基本的に魔法使いには探知魔法で場所が割れていると考えて良い。そのため兵士による奇襲も特段有効な策とも言えない。

(ただし、こちらの魔法使いによる隠密魔法が敵の探知魔法よりも優れていれば隠し通せる場合もある。しかし、大量の移動する兵を隠密魔法で敵陣地近くまで隠し通すのには限界もあるし、何よりそれによって攻撃へのリソースが大きく削がれてしまっては意味が無い)



 ではどうやって兵士達は魔法使いへと対抗するのか、それが三つ目の魔法兵器である。



 魔法兵器と一括りに言っても種類は様々だ。身近なもので言うと兵士達の武器や防具がそれに当たる。

 普通に製造した鎧では、剣の攻撃や銃弾は防げても魔法攻撃は防げない場合が多い。そのため現代では鎧に魔力の特殊な加工をし、魔法耐性を付与している。

 また武器にも魔力加工をすることにより、魔法による結界や防御魔法を破ることが出来るようにしている場合が多い。

 さらには銃型や大砲型など、遠距離から敵を攻撃する兵器にも魔力加工が付与されているものあり、その種類は多岐に渡る。

 そのためそれら魔力加工がされている武器や装備をまとめて“魔法兵器”と呼ぶ。



 ただし、その魔力加工を兵器に付与するためには当然のことながら“魔力”が必要になる。



 そこで問題になるのが“どのくらい”の魔力を“どうやって”付与するかだ。

 もちろん魔力加工をしている武器は魔法による攻撃を防いだり、こちらから魔法に対して攻撃を加えることができたりするが、その勝敗に関わるのはやはり魔力量だ。



 いくら魔力加工をした武器だったとしても、膨大な魔力量で作られていたり、魔力を何層にも重ねられた結界では、そこそこの魔力量で加工された武器では歯が立たないことがほとんどだ。

 つまり加工されている魔力量によって魔法へ対する威力が大きく変わるのだ。そのためいくら魔力加工した武器を大量の兵士に装備させても、一国が勢力を上げて築き上げた結界を破ることが出来ないという話も珍しくはない。

 また一人の兵士の装備に費やす魔力量はそこまでかからないとしても、それを数万規模で組織するとなれば膨大な量の魔力量を費やすことになる。そうなってくると一人分の武器の威力や耐性を削り、足りない分は魔法使いで補うといった選択肢も考えなければならない。

 つまり魔法兵器にどのくらいの魔力を費やすのかは、戦術そのものに影響を及ぼすのだ。



 そして“どうやって”付与するかは、詰まる所“加工方法”である。



 基本的には自然界に稀に見つかる魔力の塊、「魔結晶」を特殊な液体に溶かし、その魔結晶が溶けた液体を装備に丁寧に塗り込むことで魔力加工する。

 まあ他にも加工はいろいろあるが、主に普及しているのはこの方法である。



 そしてもし銀嶺花が実在し、それを大量に栽培できた場合、この魔力加工を行う効率が格段に上がる。



 まずこの魔結晶という物体、採取できる場所が限られている。主に地中に埋まっており、洞窟などを掘ることでそれを採取するのが一般的だ。ただ掘り起こす場所はどこでもいい訳ではなく、主に川の傍や木々が生い茂っている区域に存在する確率が高い。

 なぜそこに魔結晶が集中して生成されるのかは未だによくわかっていないが、あくまで確率が高いというだけだ。必ずしもその区域で採取が出来る訳ではないし、条件を満たしていても国によっては魔結晶が全くと言って良いほど採取されない国だってあるくらいだ。

 そういう国は魔法兵器が戦争の中心の一つとなっている現代では、ただ属国に成り下がることしかできない末路を辿ることになる。

 そのため戦争を継続して行っている国は、血眼になって自国で魔結晶を採取できる土地を探したり、同盟国から魔結晶を高額で輸入したりする等、獲得に必死である。

 ちなみに先述した、家庭用の魔法陣の燃料になる魔力の塊というのも、この魔結晶を加工したものである。



 だがしかし、銀嶺花なんてものがあるのであれば、わざわざ魔結晶を探す必要は当然無い。なぜなら銀嶺花を栽培すればいいのだ。さらに魔結晶を特殊な液体に溶かすと記述したが、この製法も複雑だと言われている。まず固形状態の魔結晶は、そのままでは非常に硬く、これを柔らかくするところから加工は始まる。

 そのためにはまず熱を加えて表面を薄く削らなければならない。その後様々な液体に浸し続けることによって、徐々に形状をスライム状にしていき、最後は恵水けいすいという液体に溶かすことで、装備に塗り込むことが可能になる。

 そこからは職人の腕の見せ所だ。武器や装備に丁寧にそれを塗り込んでいく。魔結晶自体は薄い青色をしているが、恵水に溶かすまでの加工で既に色も粘度も失い、塗り込む液体はもはやただの水と区別がつかないという。

 それを満遍なく、丁寧に塗り込んでいく。どこかに塗り残しがあれば、鎧の場合その箇所から装備者が魔法攻撃の影響を受けてしまうかもしれない。剣であれば、防御魔法に弾かれた際にその箇所から綻びが出て折れてしまうかもしれない。

 まさしく生死を分ける局面で生きる技なのだ。



 ここまでの工程で、もし恵水に溶かすまでを省略できるのであれば、あとは職人がひたすら腕を振るうだけの作業だ。生産力が比にならないくらい向上するだろう。

また魔結晶を加工して生産できるものは魔法兵器だけではない。魔法使いには必須の魔力回復薬も、工程は違えど似たような手順を踏み生成される。

 そもそも魔力回復薬とはその名の通り魔力を回復するものだ。当たり前だが魔法使いが魔法を使えば、体内に貯蔵してある魔力は減少する。それを回復してくれるものだ。戦争を行っている国では戦力の残弾に相当するといっても過言ではない。これが十分に用意されていなければ、魔法使いは継続的に戦闘が行えないからだ。



 しかしこの薬草売りの話を聞けば、花弁をすり潰して水に浸すだけだと?そんな手軽に魔力回復薬を生成できるのであれば、それこそ魔力加工よりも遥かに恩恵がある。

 しかも魔力の器すらも大きくしてしまう効能、魔吸病の絶大なる治療薬に成り得る。



 この魔力の器は、魔力を体内に貯蔵できる最大値のようなものだ。これはある程度は幼少期からの身体の成長に伴って大きくなるが、成人以上になれば自然と大きくなることはまずない。少なくともその器を大きくするための訓練が必要だ。手段としては肉体を鍛えるのと同じで、魔力を限界まで使用することで、身体が次は現在の貯蔵量よりも魔力を貯めようと成長していく。ただ最大値を上げるというのは簡単なことではなく、歴戦の魔法使いも血のにじむような努力の上で、平民よりも魔力の器を大きくしていることがほとんどだ。(稀に天賦の才により器が通常より大きくなる人間もいるが)



 魔吸病はこの器が異様に小さくなることにより、身体に異常をきたす病だ。これが治療法が確立していない大きな原因ともいえる。

 なぜなら人類はこの魔力の器を大きくする方法を、未だ魔法の鍛錬によるものでしか大きくする方法鵜を見つけていないからである。



 過去には膨大な魔力を持った魔法使いを育成するために、あの手この手でどうにかこの器を人工でどうにかできないか、秘密裏に実験を繰り返した国もあったらしい。

 しかし結果はどれも失敗。終ぞその国が戦争で敗戦するまでその方法は見つからなかったらしい。

 幸いにもこの敗戦で魔法使いへの残酷な人体実験が行われていた事実が露わになり、各国共通で魔法使いへの人体実験や非人道的な扱いが無くなったという。



 だがそんな常識をも銀嶺花の存在は変えてしまうであろう。



 この器を大きくするには鍛錬を積むしかないという常識が変わってしまうのだ。今まで時間をかけて少しずつ、少しずつ鍛錬によって大きくしていたものが、銀嶺花を摂取するだけで簡単に増大させられる。

 これでは簡単に国同士の魔法使いの戦力差の均衡が崩れてしまう。これはそうゆう代物なのだ。



「なるほど、つまり手がかりはあんたの故郷の伝承だけだと…」

「生憎だがそういうことになりますな。まあ、こんな馬鹿げた話、騎士様もあんまり本気にしないでくれよ」



 女騎士は少し残念そうに俯いたが、それでも顔を上げ直し薬草売りに問いただした。



「ではあんたの故郷の場所とやらを聞いてもいいか?」



 薬草売りはその言葉を聞いて、少し表情を強張らせた。



「あんた、本気で銀嶺花を探すつもりかい?さっきも言っただろう、おとぎ話の域を出ない存在だぞ」

「そんなものは関係ない、本当にあるかどうかは探してから判断することだ。私は弟のためにあらゆる方法を試し、探し続けた。だが未だに弟は病床に伏せているんだぞ。情報があるのであれば、何もしない訳にはいかない」



 そう、きっとあんたはそう言うと思ったよ。こんなに慈悲深い人間が「確認されていない」程度じゃ可能性を諦めるわけがないってことぐらい分かっていた。



 薬草売りは少し呆れ顔をしたが、それでも朗らかに微笑み女騎士へと返答をした。

「そうかい、まあそれもそうだな。俺も幼いころに長老から話を聞いたっきりだ。もしかしたら本当にあるかもわからない。」

 そう言うと薬草売りはおもむろに紙とペンを取り出しスラスラと何かを書き始めた。



 そしてその筆が止まるとそれを四つ折りにし、女騎士に手渡した。

「ここには俺の故郷のざっくりとした場所とこの街からの行き方を書いてある。村の名前は“ウバ”、ここから東に馬車で十日程行ったところにある。村に着いたら“ギーネ”の知り合いだって言えば誰かしらが良くしてくれるはずだ。ただ村自体が結構な森の奥地にあるから、魔獣とかには気を付けてくれ。まあ、あの“白羅の騎士団”の団長様には無用な心配かもしれませんがね」



 俺は思わず「え?」と声に出してしまった。



 白羅の騎士団といえば、この“ゼムレス王国”を支える王家直属の騎士団である。

 我々が暮らすこのゼムレス王国は過去に複数の王家と名乗る家系同士が対立し、最終的に魔法使いの育成に秀でた家系のゼムレス家が、他の王家を破り正当な王家としてこの一帯の統治を始めたのが成り立ちだとされている。

 現在ゼムレス王国では複数の王家直属の戦闘組織がいくつかあるが、この白羅の騎士団は統治初期から組織されている集団で、現在では主に王国の防衛に対し大きな役割を担っている。



 この白羅の騎士団の大きな功績の一つとして語られるのはほんの五年前、ゼムレス王国の隣国であるメラード帝国による大侵攻が行われた。

 メラード帝国の侵攻はゼムレス王国にとっては完全な不意打ちであった。通常、国というものはいつ隣国との戦争になるか分からないため、常に隣国で戦争の気配はないか、逆にこちらから攻めるのであれば時期はいつか、勝機はあるのかなど、戦争に対しては敏感であり、隣国へ密偵を送ったり行商人を出入りさせたりすることで隣国の情勢を常に監視している。

 特にこのゼムレス王国は王家同士の対立により成り立った国だ。その昔から争いにおいては敏感な国だ。隣国の戦力状況や資源状況、さらに政治までを把握し、自国ではいつ何時に侵攻されても良いように様々な戦闘組織や兵器を生み出し、その時のために備えている。

 そのためこちらに攻めてくるという兆候が少しでもあれば、その状況は基本的に筒抜けだと思っていい。それほどまでにゼムレス王国にとって戦争とは常に隣り合わせの存在なのだ。



 しかしこのメラード帝国はそんなゼムレス王国の偵察力を完全に欺き、奇襲という形で大軍をゼムレス王国領のすぐそこまで進軍させたのだ。

 我が国のすぐ傍まで敵国が進軍している事実に、遅れながら気づいた王家はすぐに白羅の騎士団に防衛をするよう命を出した。その命を受けた白羅の騎士団は団長筆頭にすぐさま出撃。メラード帝国の兵に立ち向かった。

 恐らく王家としては一旦、白羅の騎士団によって大軍を押しとどめながらこちらも戦力を整え、改めて第二軍を送ることで敵兵どもを殲滅しようとしたのであろう。

しかし最終的な結果は誰もが予想だにしないものとなった。



 結果かから言おう。メラード帝国の兵士・魔法使い・その他衛生兵や補給係等諸々の戦力、約10万の大軍は、ゼムレス王国の一組織、白羅の騎士団によって完全に殲滅された。



 先ほど述べた通り、元々ゼムレス王家は魔法使いの育成に秀でた家系である。そのため魔法使いの育成は元より、それ以外の組織でも魔法による戦闘が行えるように育成が行われた。



 それは白羅の騎士団も例外ではない。



 騎士団という組織上、基本的には剣術等を学び、白兵戦による立ち回りや組織の作戦として一糸乱れぬ連携で敵兵を殲滅したりなど、近距離による対人作戦に特化した訓練がほとんどだ。

 しかしゼムレス家によって、この騎士団という組織に魔法を使った戦闘が組み込まれ始めた。その教えは長い時間をかけて蓄積され、現在では騎士団の一兵士ですら平均的な魔法使いと遜色ない魔力操作能力を身に着けていると聞く。



 つまり現在の白羅の騎士団は通常の対人戦闘と魔法戦闘を両立した、超高度な戦闘集団なのである。



 その戦力、約二万。たった二万人の騎士団が、一国の大侵攻による十万人の戦力をあっけなく殲滅してしまったのだ。



 この功績は国内に広く知れ渡り、白羅の騎士団の名は知らぬ者が居ないほどの存在となった。



「なんだ、気づいていたのか」

「これでも行商人、行く先々で白羅の騎士団の紋章はよく見かける。その鎧の胸の紋章が見慣れた紋章なもんだからすぐ気づいたよ。そしてその首から下げた片翼の首飾り。それは王国直属組織の長を示すものだ。こんな所でお会いできて光栄です、白羅の騎士団団長様」



 薬草売りは茶化したように言うと、右手を腹へ、左手を背中に回し深々とお辞儀をした。



 そうか、噂には聞いていたが彼女が白羅の騎士団団長なのか。いやはやこれは失敬、よく考えたら彼女が俺の元を訪ねてから失礼な態度ばかりとってしまっていた。

 恐らく彼女もそのようなものには慣れているのだろう。俺にしろ薬草売りにしろ、敬意のないような発言や態度を咎める様子は一切ない。その気になれば力でねじ伏せ、思った通りの態度をとらせることも出来ただろうに。しかしこれほど慈悲深い人間がそのようなことをするとも思えない。まさしく他者を思い敬意持てる人間だ。いろんな人間を見てきたが、上に立つ人間でこのような者はあまり見ない気がする。いや、ここまで慈悲深いからこそ、10万の兵を殲滅してしまう騎士団の団長が務まっているのかもしれない。



 ていうか、ギーネとかいうあの薬草売りの店主、気づいてたんならちゃんと敬語使えよ。どんな胆力してんだ。



 そうこうしている内に会話は進み、団長は薬草売りに礼の言葉を告げ、人込みの中へと消えていった。

これはどうしたものか考えていたが、やはり聞き間違えでなければ銀嶺花という言葉はあの時聞いたものに違いないはずだ。



 俺は団長の後を追って直接話をすることに決めた。


ED  「Namida[A]me/ヒトリエ」

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