「初戦」
桜陽高校野球部に監督が就任した初日の練習。
監督とともに初参加する選手が総勢15名。
彼らは、桜陽高校と提携しているアメリカの学校からの留学生になる。
とはいっても全員日本国籍の日本人である。
ゆえに日本語でのコミュニケーションも問題なくおこなえる。
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森川は緊張していた。
監督がどんな指導してくれるか以上に
残りの15名の実力が気になっていた。
正直今の15名であれば自分の実力が上位である自負があった。
甲子園に行きたいという気持ちはそこまでなかったが、
試合には出たいと思っていたし、
もしこの野球部で甲子園に行けるのであればそれはもう快挙であることは認識していた。
監督から集合の声がかかる。
「みなさん。
ここ1週間で私の方針は理解してもらえたと思います。
練習メニューは都度変えていきますが、自分で考えて取り組んでください。」
非常に簡潔にミーティングを終えるとコーチであるアレックスが練習を取り仕切る。
ただ、森川にとって意外だったのは、今回初参加の15名が別メニューだったことだ。
「まぁ、初日だからそんなもんか」
森川としてもすぐに意図は理解できたため、特段その後は気にせず練習に没頭した。
森川もまさか夏の大会まで一緒に練習することがないとはこの時は想像もしていなかった。
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時はあっという間に過ぎ、春の鳥取大会を迎える。
結局監督と来た15名と練習を一緒にすることはなく、
後から入部した一般生の15名と合わせて30名で練習をしていた。
コーチのアレックスと顧問の水原が交互に練習を見るような形で行われていた。
「監督も来てないけど大丈夫かな」
これから試合が始まると言うのに監督どころかコーチのアレックスまで来ていない。
いるのは顧問の水原だけだ。
「はい、みなさん集合してください」
水原が30名に声をかける。
「スターティングメンバーを発表します」
次々と試合に出る選手を発表していく。
「センター森川くん」
森川もしっかりメンバーに入ることができ
これからの自身の活躍を疑っていなかった。
春の鳥取大会初戦。
桜陽高校野球部最初の大会はまさかの初戦負け。
5季連続優勝した桜陽高校野球部にとって最初で最後の敗戦だった。
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