第七話 マンティコアとの死闘 一
人間たちの都、フリードの街を南へ抜けて。眼帯を付け、その下に、赤黄色に煌めく蛇なる瞳を嵌め、草原に踏み入っていた少女コレクトルは、水場に現れたそれを、数時間に及び、追跡し続け、結果、泥汚れを全身に纏い、背を低くするどころか、地面に伏せ、息を殺し、身を潜めている。機を、伺っているのである。
(【人の頭部に、首から下はライオンの様相の、人面の獣を討伐せよ。心せよ。それは人の言葉を操り、なおかつ、肉食獣の特徴を色濃く持つ】だなんて……。外れもいいとこよ……。出されている依頼の中から選ばれるとはいえ、こんなものが……)
コレクトルがそうしているのは観察の結果だ、十メートル程度の距離。そうやって、離れているともいえるし、かなりの距離を詰めている、と見ることもできる。
それは、鼻がそう利く訳ではないようである。それは、眼はあまりよくないようである。
その魔物が何と呼ばれるものであるかは、コレクトルは幸いにも知っていた。
マンティコア。
魔物の中でも、個体差が非常に大きな部類である。ライオンの首から下。首から上は人間のそれ。人語を手繰る素質を持つ。肉食獣。
共通の特徴はその程度。あとは、人語の習熟度、知能、五感の鋭さ、雌雄や老若といった個体差が存在する訳である。よって、総合的な強さはピンキリ。それでも、こうやって、試験の対象とされた個体であるのだから、程度は知れている……筈である、とコレクトルは見ていた。
現にこれだけ距離を詰められているのだから。
マンティコアの、ライオンの尾がぐるぐる、せわしなく、動いている。
威嚇か何かか? とコレクトルは思うが、そもそも、周囲には他の魔物も、自分以外の人間も居ない。
気づかれていないのだとしても、この状態が不意に破られるのならば、日が落ちるまでという時間制限がある中で、都合よく、同個体とは言わずともマンティコアを見つけられるかなんて分からないし、手に負えそうな強さと相性の個体であるともいえない。
守り役たちによって、上振れて強い個体は排除されてるだろうと希望的観測をするにしても、討伐依頼をあまり受けていない自身に手に負えるかなんて分かるものでもない。
まともに戦うには、不確定要素が多い。その為、コレクトルが採った戦法は、待ち、である。
それが緩むのをひたすらに待っているのだ。それは所詮獣である。なら、きっと、休むときがくるはずだ。それは別に、夜でなくとも休むタイプの獣である。
鼻もそう利かず、目もそう良くなく、こちらに未だ気づかない程度に勘は鈍い。
獣の年齢なんて、見掛けから測れはしない。顔つきだって宛てにならない。けれども、この数時間、狩りすらしておらず、歩いても、駆ける様子の無いそれが、若いとも、強力な個体とも、思えなかった。
それがとうとう、水場以外であるここで、腰を、下した。こうなると、動くには、腰を上げるという予備動作を必ず経由する必要が生まれる。
つまりこれは、隙、といえた。
このまま待っていても眠るとも分からないし、自身の集中力の削れもある。
(攻め……る!)
そろっと低く起き上がりながら、拾った石を放物線上に、強く、投げる。山なりに、マンティコアの頭を越えてゆくように。当然、囮。
その目で、捉える。その落下のタイミングを。
ガサッ!
マンティコアの首がコレクトルの居る側とは丁度反対を向いたそのとき、コレクトルは跳ね上がった。
駆け抜けるための軌跡を想定し、失敗の可能性をとってまで、そこまで眼帯を外すのを抑えていたのを、やっと解禁する。マンティコアまでの着地点部分を、その瞳で、小さく、ぽつぽつと、焼き払った。
駆け抜ける。
流石に、魔力の発露に、この瞳の光。気づかれる、けれど、それは数手遅い、となる筈だった。
マンティコアの尾が、偽りを解き、鋭き、蠍の尾が、石を、打ち付けるように砕き、地面を蹴る反動を向けるように、こちらへ、その先端が鞭のように迫ってくるのを、コレクトルの目は捉えた。
右目だけが。左目ではそれの疾さを捉えられない。右目だけが追いついている。そんなである訳だから、コレクトルの反応は間に合わない。
灼けるような毒打が、振り下ろす斬撃のように、コレクトルの胸部を、裂いた。
(マンティコア……。そうだ……。その尾は、ライオンのそれではなくて、蠍のそれ……。しかもこれ、伸びて、る……、どう見たっ……て……)
コレクトルは切りつけられた上に、その余波に、吹き飛ばされる。
そこが草原でなかったら、そこで終わっていただろう位に、激しく叩きつけられるように吹き飛んで、転がった。
意識は、落としてはいなかった。
日頃から、その程度は訓練をつけてもらっている。
けれども、これは、許容をもう越えている。
毒の針。
エルフという種族としての抵抗力を加味したとしても、それは十分に、弱体化に至る力の毒。
本来のコレクトルなら、ここで終わっていただろう。打つ手なし。
けれども、今の彼女は、魔法の使い手。なればこそ――それは、嬲り殺しではなく、死闘となる。
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