第六十四話 英雄譚の残滓 顎と牙の蟲の頂 二十四
穴の前で、伏せている二人。果ての見えないその先を見渡そうとしている。
「どうだい……? ラーク」
「……。都の外に続いている……かもしれん……」
そう、歯切れの悪い返事が返ってくる。
「じゃあ、降りる訳にはいかないね。外に繋がってるなら繋がってるで、私は行けないし、曲がりくねって、出口は都の何処かだったとしても、全長さえ分からない」
「気配は、無い……」
「それでもさ。私たちの役目は? 優先順位は?」
「もう少し慎重に…―」
「相手は策士だ。稀代の、と冠詞の付く、ね。私たちは既に振り回されている。酷い空回りをしている。加えて、積み重なる大きな事件。もう、どこまでが仕込みで、どこまでが偶然に依らない計画的なもので、何もかも、考えれば考えるほど、訳が分からなくなる」
「わたしがお前がギルド長の地位に就くことを反対した理由が分かっただろう?」
「『お前には荷が重すぎる』、たったかな?」
「そうだ。あのときは言わなかったが、この際だ。はっきり言っておく。答えの無い問いに対する根気がお前には無い」
「……そうかも、知れないね。でも、今更さ」
「そう、だな……。で、どうする? お前は、向こう」
そう、役人ラークは路の向こうを指差す。
「何が、どうする? だ。君が私の行き先を決めてるじゃあないか」
ちょっと怒った口調。
「……。私がお前についていくか、私を下に行かせるか、だよ」
役人ラークは何か言おうとしたことを飲み込んで、自分の不足した言葉の補足をした。
「……」
ギルド長ゾディアの表情が曇る。
「別行動にすべきと思っているのだな。だが、そうしろと言いたくないのだな。良いのではないか? 正しい答え何ぞ答えは無いのだ」
「……」
今にも泣き出しそうな顔になる。
「わたしが、悪かったよ。行こうか、ゾディア。あと、事が片付いたら話をする時間を取ってくれ。丸一日。絶対、だぞ?」
と、優しくその肩を叩き、立ち上がった。
「決めたのだ。急ごう。あの御仁がどれだけ札を切るかに依るが、出し惜しめば、単独では時間稼ぎが関の山」
二人は、そうして、走り出した。
敵がついてくる訳でもないから、翼竜が襲ってくるのに巻き込まれることもない。穴を飛び越えるのだって邪魔されない。今回の順路は、ここへ踏み入る資格ある二人には、頭に直接流し込まれ、伝わってくる。
ダールトン家当主の元へ向けて、急いだ。
穴の先。繋がっているのは――
ゴォォォォォォ――
無数の呻きのようにも聞こえる、風の音。
穴を吹き抜けるそれは、熱く、乾いている。
穴の奥から、穴の外へと向けて吹き続けている。あまりに長いから、その途中で、風の勢いは弱まり、風は熱を失い、穴の外へ違和感を伝えることはない。
そこは、確かに都市の外である。ただし、東西南北にではなく、下側に外へ突き抜けて存在している。強度と範囲の異なる都市の理が幾重に覆う、その最外の、更に、外。
大きく開けた空洞のような場所。
そこに、女冒険者アーミヤは立っている。腹側から、腰上、背を大きな手で握られて。
全容は見えない。赤熱した石のような肌地をしていて、接触面が、女冒険者アーミヤの腹回りを焼き続けながら、自由を奪うように拘束し続けている。
女冒険者アーミヤは、死んだ目をして、無詠唱で回復魔法を使い続けている。空間に漂う魔力を吸収しながら、最低限の魔力で。
それは、女冒険者アーミヤがこれまでに辿った生によって、身についてしまった、特定の干渉において、特定の行動を意識を落として繰り返すという、呪術的ではない、ある種の精神的呪縛。
もう一本の手? 指先が、のびてきた。その先は今、女冒険者アーミヤを拘束している方よりも強くはっきりと赤熱しており、それが、女冒険者アーミヤの首と胸の間、左肩寄りにのびてゆき、
ジャァァァァァァァ――!
離れてゆく赤熱した石のような指先。
【Ⅶ《7》. 魔王…―】
焼き印。しかし、しっかり付かなかった上、女冒険者アーミヤの無意識の回復魔法による回復でその痕跡は綺麗さっぱり消えてゆく。
再び、赤熱した石のような指先が、同じ箇所へ迫る。
ジャァァァァァァァ――!
この行為の目的も、処理が完了するかも、未だ、定かではない。
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