第六十一話 英雄譚の残滓 顎と牙の蟲の頂 二十一
ギルド内の一室に彼らは集まっていた。
「さて、諸君。我々はアレの分体または本体と戦った訳だが。何か、気付いたことはあったかな?」
透き通った、綺麗な声。にも関わらずそれに合わない大仰な言い回し。
集まった者たちは、戸惑いを隠せない。
それは何の説明もなく始まった上に、目の前の光景はこんがらがっている。
知らない人物が、何故か仕切っているし、しかしなぜか、その圧というか威厳というか、オーラのようなものに呑まれている。
椅子に座ってすら、長躯な、その身長に加え、そのきわどい恰好は何なのだ、とか、膝の上に抱えている、回復魔法を掛け続けている、焼ける臭いのする、白い布でくるまれたそれは何なのか、とか。
何故か皆、聞けない。
大ききボーロも。小さきマクスも。ゴーレム偽装姿のツグも。ゴーレム偽装姿のミツも。コレクトルも。礫も。その妻も。
「ふむ。そろそろ良さそうだ」
膝の布の一部をはがす。
炭化しきった皮膚。回復させて、その有様。口だった、部分、だろうか。そこに、空間からスッと取り出した、虹色の液体の入ったアンプルを割って、その中身を注ぎ入れた。
その存在が、それを飲み切れないことが分かっていたのか、その女は、躊躇なく口づける。蓋をして、吐き出すことを許さないように。
白い布が、うねる。中のものが動いて、否、暴れて、膨れて、生えて、破れて――それは、健康的な体色をした、薄く筋肉づいた、白い肌の、男であった。残った白い布を、腰布のように巻いている。偉そうに腕を組んで仁王立ちする。不機嫌そうに。顔は未だ、再生しきっていない。完全な無毛であり、口以外、のっぺらぼうに近い。しかし、回復してゆく。色づいていく。
「ぐぬぬっ! ら、ラーク!?」
そう、驚いた様子で信じられないという顔をしながらも、そうとしか考えられないといった感じで口にしたのが礫。
「よくわかったな。では、こいつは誰かもう分かっただろう?」
と、両目の瞼が完成し、両目が開き、偉そうな役人ラークは髪の毛を生やしてゆきながら、まだ爪の映えていないその手で、指差す。椅子から立ち上がって、大概の高身長の男性よりも更に高い身長を誇り、手足がまるでモデルそのもののように長い、そして、立ち上がったことで、更にその薄い胸元の際どいその女性を指差して。
「無茶を言うなよ……。このような魔力の色も、背格好も、知らんぞ……?」
「ギルド長……でしょうか……?」
小さく手をあげながら、恐る恐る、そう言ったのはコレクトル。
「はぁ……。どうするよ、ゾディア。ギルド入口から普通に入って、この部屋に来ただろう? 数多の冒険者に見られたのではもう、姿を偽り続ける必要もあるまい?」
白い布を再生し、ローブのように纏い、そこに、自身の元のローブのように刺繍など入れ、顔を隠すフード含め全身を覆うように、バサッ、と動き易さや自身の身体の不具合が無いかを確認しながら、役人ラークは、ギルド長ゾディアに言う。
「お前ともあろう者が。しっかりしろ。都市の理が働いてるじゃあないか。別に、くべられた薪が尽きたとて、それが生み出した熱が即座に消えることはない。猶予がある。緩やかに熱は失われてゆくだろう。だが、未だ遥か先だ。過去の記録より、少なく見積もって、年単位の猶予はある」
「それなら構わんが。一先ず、貴様がギルド長であるとここにいる皆に宣言する位はしてくれ。それに、背景を知らぬものが大半であろう。込み入った理由や根拠を口にしたとて、我ら二人だけの話にしかならん」
「それもそうか。やあやあみんな。私がギルド長、ゾディアだ。もう時間が無いから一方的に話させて貰うよ。我々が各所で戦った【鬼呪蜻蜓】。コレクトル君とダールトン家の面々が最初に衝突した個体のみ本体の可能性あり、他は全て悉く、分体だったようだね」
「基本どれも魔力体。けれども、コレクトル君とミツ君が運んできてくれて、私たちで対処した、分裂途中の個体はリソースの多くがつぎ込まれていたようだ。分体数体分では届かないくらい」
「分裂途中の個体は、身体を魔力に分解し、切り捨てるという芸当をやってのけた。最初の遭遇個体のことも踏まえて、本体から分体までどれも魔力体だろうね。今のところは。だから、魔力に対する属性汚染、血肉として吸収、といった手段が特攻といえるだろう。加えて、凍結属性に結構弱いようだ。尤も、基本的に詠唱必要な練度のだときついよ。実体を持たない魔力体との戦闘だと強く意識して立ち回る方が、弱点を突くよりは有効な場合も多いだろう」
「仕方ないのだよ。時間が無い。私だって、君たちにゆっくり、事情を説明したいさ。正体隠してた理由とかも含めてさ。でも、そんなのは後回しだ」
「都市の理からのバックアップを受けての情報入手からの解析結果だから、そう大きくはズレていないだろう。確かな情報だけに絞って口にしているよ?」
「そんな本体の狙いは、まずは完全復活。その先があるかは分からなかったけれど、どうやら、この都市の王として座す狙いがあるのかもしれない。王の座が空白になるこの時に、被るように起こったアレの復活。偶然と見るにはあまりにも、ね」
「そんな本体がどこにいるかというとね、官庁街の先、宮殿の何処かに存在する、王座への長い長い一本道にね、今、いるんだよ。今ここにいない人員が食い止めている。ダールトン家の御当主様。そして、アーミヤ君。私も行かねばならぬのだよ。ラークを連れて。路へ踏み入る資格がある者しか入れない筈の場所だ。他は連れてゆけない。本体の狙いが他に存在する可能性は未だ残っている。礫君の細君が街の外を引き続き、底辺冒険者たちを使って調べてくれているが、何かあるとしたら、もう少し先になるかと私は予想している。そういうことだ。一方的であったが、私たちは征く。情報共有の必要があれば、今のうちに済ませておくべきかと思う」
「それと、コレクトル君だけはここで待機しておいてくれ。回復役として」
「は、はいっ……!」
「ラーク。標識は維持できているね?」
「……。あぁ」
と、貴様そんな一方的な物言いでは皆に伝わるものも伝わらんではないかと不機嫌そうに苛立っている役人ラークを片手で抱きかかえるように掴み、ギルド長ゾディアは消えていった。
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