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綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~  作者: 鯣 肴
瞳の蒐集と探求篇

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第五十八話 英雄譚の残滓 顎と牙の蟲の頂 十八

 深度含め詳細箇所不明。巨大闘技場。


 一線からは本来退いている、役人ラーク。役人という書類と人が相手であるにも関わらず、腕ぷっしが立ち、冒険者と共に冒険することも度々あったという変わり者。


 半解凍なソレ。まだ二体に分裂しきっておらず、半身同士で癒着状態。明きらかな弱点になっているであろうそこへの攻撃を頑なに避けているというのもある。


 翅は全て砕けている。


 理由は簡単だ。凍結している間に全て砕いたから。


 尋問が行えないと判断を下した直後、言葉もなく、一人ずつ、各々の手段で二体のそれぞれに。


 そうして、それは暴れまわり始めている。


(火炎の魔法は悪手だったか……。飛行能力を奪うには実に最適ではあったが……)


 飛べなくなりつつも、別の手段を代用し、浮かびあがり、質量を活かした肉弾戦に移行を始めている。左右でちぐはぐで合わない動きで転んだりしつつも、すぐに起き上がって、そうして、左右での動作の齟齬はどんどん減ってゆき、凍結が解け、続いて、肉体への低温によって齎されていた硬直と鈍重の影響が薄れ始める。


 翅による物理的な風の暴威が飛んでくる様子は今のところは無いが、代わりに、軽い、かまいたちの類が飛んでくる。ちいさなつむじ風のような、竜巻のなりそこないを配置するように発生させ、その中から予兆も無く挙動も無く飛んでくる。


 魔法だそれは。本来コレが持つ魔法と比べると、数段劣る、単純で単調でしかないとはいえ。制限が外れてゆくかのように、それの威力もキレも複雑さも上昇を続けている。


(仕方があるまい……。相手は空気を扱う相手。詠唱そのものがリスクでもある……。だが、独りでは抑えきるにも限度があるぞ……)


「"遅延せよ、世界は遅るる、熱を喪う"」


 それは、敵そのものの肉体表面や内部に焦点を当てた魔法ではない。それは凍結魔法でありつつも、即効性が無い。


「【ムダムダダ】」

「【コオリナゾキカヌゾ】」


 まだカタコトな、けれども凍結状態はすっかり解除されてしまっているソレの言葉。


「ここに来て会話するつもりになったか?」


 役人ラークは険しい顔をしてそ尋ねる。


「【バカガアアア!】」

「【カイワデハナイ! コチラカラノジンモンニシテクレルワアアアア!】」


 地面から僅かに浮遊していた巨体の下に、竜巻が巻き起こり、浮かび上がる。そして、倒れ込むように、潰そうと――


 ガァアアアアンンンンンンン!


 間一髪、役人ラークは、なりふり構わずダイブするように、踵を翻しながら、地面を蹴って、受け身も取れず倒れ込んだ上に、敵の身体の表面積故の風圧を浴びて、吹き飛ばされ、更に、叩きつけられるように転がる始末。


「こちらの台詞だ……!」


 すぐさま立ち上がってみせる役人ラーク。その豪奢なローブはもうボロボロ。魔法による防護が組み込まれていて、擦れ破れたりしない筈のそれが既にボロボロ。一度たりとも直撃を喰らっていないにも関わらず。


(ここにきて、か……。どうやってあの冒険者はこ奴を凍らせたのだ……。そういうのが通せるようなヤワな相手ではないではないか……)


 役人ラークは知らない。そもそも、コレクトルもツグも知らない。あの場で、コレクトルによって凍結させられたのは、あまりにも想定外でどうしようもない不運に巻き込まれ、ほぼ確実といえる隠密に何故か失敗した上に、分裂というハイリスクハイリターンな手段の実行中に、遭遇した上に、自分に抗うことができる程の人間に類する種の上澄みに攻撃されたからだ。


 情報が集まってきて、思考が二つ、身体は一つと半分といった恐ろしく不自然でどうしようもない状態にも慣れてきていた。本来慣れようが無いそれに慣れ始めたのは、身体を長い間失っていたことが大きい。だが、そんな前例そうそうあるものでも無いので、気付きようもない。


 役人ラークに依然として状況が味方している。未だ。未だ、だ。今は未だ。


(翅が生え…―させぬ!)


 得意の火炎魔法を無詠唱で放つ。神業の如く、別方向八本、糸のような、切断の線を展開し、動作させ、翅を斬り割き、灼熱をその一瞬の接触で伝え、生え際に伝い、焼く。けれども、その体の表面は、皮膚ではなく、外骨格。つまるところ、炎の効きが悪いのはそれである。


 それを破れるだけの瞬間火力、もしくは、それの上からでも通じる大火力での長時間の燻しや煮沸のような手段が必要。


 それか、逆に効きの良い、凍結魔法。


 だが、タチの悪いことに、敵の大きさは、人間より遥かに大きい。本来の半分程度の全長しかない今の状態ですら。


 得意でも無い凍結魔法であれば、捻りが必要だと、役人ラークは思い悩む。


 牽制するように、火炎魔法を、熱線を光線のように放ち、竜巻を潰し、かまいたちの起こりまで阻害する。息が苦しくなり始めているのは、疲労のせいなのか、呼吸と競合する新鮮な空気の量という火炎魔法の制限要素に引っ掛かり始めたのか、敵の魔法が密かに方向性を変え始めて人間相手に対する効率を重視し始めたのか。


 判断するには、あまりにも、分からないことが多すぎる。


「【貴様ダケデハナイ】」

「【苛立ッタ顔ヲサレルダケデ癪ダ】」

「【ソレニシテモ、動キ辛イナ】」

「【貴様ニ迫レヌノハ、イイ加減、癪ダ】」

「【癪ダ癪ダト言イスギデハナイカ?】」

「【コノヨウナ半端ナ力ノモノノ存在ホド、癪ナモノハナイ! 我ガ輩ハソウダ!】」

「【我ガ輩モ、我ガ輩デアルガ?】」

「【デハ、ナラバコソ?】」

「【当然、】」

「「【我ラハリスクヲ取ル! コノ羽虫ヲ蹂躙スル為ニ!】」」


 ゥオンン、ピキピキパリッ! ブチィィンンンンンンン!


 ソレは、割けるように、二つに分かれた。

読んでくださり、ありがとうございます!


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他にも色々描いてます。
長編から連載中のもの1つと完結済のもの2つを
ピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【連載中】魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話

【完結済】てさぐりあるき
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